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72 -宝瓶宮-

 破壊の権化、暴力の象徴。

それこそが龍種であり、他の魔物と一線を画す点だ。

そんな魔物が、こちらを倒すために命を賭して攻撃してくるのだ。

恐ろしくないはずがない。

逃げ出したくないはずがない。


 しかし、アヤメは走った。

あのまま攻撃すれば、間違いなく自分の主人にもその余波が行く。

凶星(マレフィクス)』という強大な相手と戦っている以上、それに対処する余裕があるとは思えない。

であるなら、自分がやるしかない。


 だから、アヤメは走ったのだ。


△▼△▼△▼△▼△


 「《華楯(カジュン)菖蒲(アヤメ)》」


 勝手に身体が動いたっす。

花びらが舞うように、受け流す盾を。

逸黒(いこく)を貰った時から、アヤメは戦い方の新しい形を探してたっす。

今まで剣しか使ってこなくて、盾を使った戦い方には正直慣れてないっすから。

だから、魔物らしく。

野生らしく。

やりたいことをやる為だけの盾を。


 くるりと回って、盾をブレスの軌道が変わるように添わせる。

地龍がノワールに向けて放ったブレスは、アヤメの盾で空中へと受け流したっす。

続けて腕を振るう地龍に、くるりと回って盾で受け流すっす。

魔法を受け流すように出来ているこの盾だけど、別にアヤメの技術があれば物理的な攻撃もいなせるっす。

受け流した右腕に対して、剣で数回斬りつけて魔力を削るっす。


「ノワール!」


「お母様、力を借りますわ。貫く光《聖線(ホーリー・レイ)》」


 ______ドオオオオオオオ!!!

ノワールの魔力に、ルミさんのお母さんが開発した魔法が合わさってとてつもない破壊力を生み出してるっす。

地龍の胸に大きな穴が開いて、そのまま倒れたっす。

魔力が抜けていくのが、アヤメでもわかるくらいっすね。

ルミさん、今行くっすよ。


△▼△▼△▼△▼△


 アヤメ達は順調に地龍と戦っている。

つまり、こちらに邪魔は入らないはずだ。


「なあ。お前を殺したら、どれだけこの作戦の妨げになるんだ?」


 真面目そうな面をしているが、こいつは意外とおしゃべりだ。

ならば私がやるべきことは、少しでもこいつから情報を得る事。


「万に一つもあり得ないが、仮にそんなことが起きれば数年は作戦が後退するな」


 それはいいことを聞いた。

どうしても殺さなくてはいけない理由が出来た。


「そんなワンマンチームなのか?程度が知れるな」


「私以外に、あの馬鹿どもの統率が取れないというだけだ。戦闘能力だけで言えば、私より優れた者はいる。お前の良く知る白羊宮もその1人だ」


 確かに、あの3m以上ある化け物は戦闘能力が高そうだ。

......と、のんびり話しているように見えるが、しっかりお互いの魔法を牽制しあっている。

魔法が発動する寸前に、その魔法に対抗する魔法を起動する。

そしてまたそれに対する魔法を起動し......と、一発も魔法を撃つことなくお互いを牽制しあっているのだ。


「あの改造に関する魔法がメインかと思えば、意外と魔法戦も出来るんだな」


「当然だ。我々は『凶星(マレフィクス)』である前に熟練の魔法使い。貴様程度に負けるわけがないだろう」


 それはそうだ。

私は優秀と言っても、ほんの10年ちょっと魔法の訓練を積んだだけの青二才。

人生の全てを魔法にかけたこの男に敵うとは思っていない。

しかし、この男に無いものが私に2つある。


 1つ、《認識(リヤ・エレ)》。

これは私にとって大きなアドバンテージだ。

アイツの情報を得る隙さえできれば、弱点を突ける可能性がある。


 そして2つ、全く慢心していないこと。

宝瓶宮は私を格下と見下している。

つまり、そこに付け入る隙が絶対に生まれる。


「《炎槍(フレイム・ランス)》」


「っぐ!」


 私が対抗魔法を発動するのが遅れ、《炎槍(フレイム・ランス)》が脇腹を掠める。

痛みに思わず声が出て、宝瓶宮がそこに魔法を畳みかける。

様々な中級魔法が降り注ぎ、傷が増えていく。


「隙を見逃す阿呆に見えたか?死ね」


 宝瓶宮はまつろわぬ者の力を使う素振りを見せた。

右腕を掲げ、何かを唱えている。

禍々しい雰囲気が辺りを包み、まつろわぬ者特有の威圧感をひしひしと感じる。


「《認識(リヤ・エレ)》......なるほどな。夢魔法・冥護の章《絶一門》」


 まつろわぬ者の力というのは、どの権能も同じ魔力に感じた。

それが今までのまつろわぬ者の権能を見てきて、そして宝瓶宮の攻撃を確認して分かった事。

それなら、《絶一門》で無効化できるはずだ。


 宝瓶宮の攻撃は、まつろわぬ者達が権能を使うのに使用している魔力のようなものをそのままぶつけるもののようだ。

上手く《絶一門》によって無効化出来た。


「改めて《認識(リヤ・エレ)》......ふむ。お前、魔力を乱される攻撃が苦手なようだな?」


「『“<#%=##~*』様の力を......ただの魔法で?ふざけたことを......次は殺す」


 ただの魔法なものか、夢魔法だぞ。

誰にも真似できない、私だけの魔法だ。


「ルミさん!」


「あるじ様!」


 ふむ、思ったより時間がかからなかったな。

進化したアヤメに、自力が強化されたノワールの敵ではなかったか。


「こっちの台詞だ。そろそろその化け物と会う準備をしておけ」


 お互い本気の、最後の戦いが始まる。

ここ3日、色々ありまして投稿できませんでした。

大変失礼いたしました。

毎日投稿挑戦中です。

読んでいただき、ありがとうございます。

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