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8 -強敵-

 あぁ、面倒だ。

私が魔力を感じる先にいたのは、ミノタウロスではなかった。


「ニンゲン、コロス!ブモオォ!!」


 通常のミノタウロスより大きな体躯に、その体躯と変わらぬ大きさの殺意の籠った大斧。

あれは、ミノタウロスの上位種。

魔物は、進化をする。たくさんの命を刈り取ることで生命の格が上がるのだ。

どんな形に進化するかは、進化するまでの経験で変化するとも、環境で変化するともいわれている。

人語を理解する上位種で、本来黒毛である体毛が赤毛になっているところを見ると......ミノタウロス・ソルジャーかミノタウロス・バーサーカーか。

睡眠(スリープ)》をかける。......眠らないということは、後者のようだな。

ミノタウロス・バーサーカーは、怒りに任せ眠らずに周囲の敵を殺戮し続け、体力が尽きると眠るように死んでしまうという、嵐のような魔物だ。

他の上位種と比べ物理戦闘に長けており、しつこさが段違いと言われている。魔法耐性も高いらしい。


 面倒だが、狩らねばならないだろう。

地属性上級魔法、《泥包(マッド・ラップ)》で泥を操作し、奴の足止めを試みる。


「猪口才ナ人間ダ!死ネ!」


 泥を大斧の一撃で振り払った。上級魔法なのだが、余裕そうだな。

そして、大斧を遠くにいる私に向かって振り下ろすと、魔力の斬撃が実体を伴って飛んでくる。

私はそれを魔力の盾を生成して防ぐ。


「魔物風情が、随分優秀なスキルを持っていますね」


「黙レ、人間ガ。オ前ノヨウナ雑魚ヲ殺シテ得タスキルダ」


 なるほど。多くの冒険者を殺してきたようだな。

その経験が進化につながったのだろうか。

などと考えるのはやめ、糸に括った剣を投げる。

ミノタウロスはそれを大斧で弾こうとするが、私の操糸によってそれを回避し、顔を斬りつける。


「......ナンダコレハ?信ジラレナイ程柔イ剣ダナ」


「私の魔力では、このなまくらで貴方を切り刻むことは出来ないようですね」


 私の魔力の質がまだまだ低い証拠だ。

アリー師匠なら、木の枝でも奴を一刀両断していただろう。

こうなると困ったことになる。

あれを殺しきるのに、有効な手段がパッと思いつかん。


「行クゾ、ナマクラ使イ」


 瞬時に距離を詰めてきたミノタウロスは、大斧を振るう。

今の剣では、打ち合う事も出来ないだろう。

重いが早くはない。身を屈めて躱し、距離を取る。

岩縛(アース・バインド)》を絡めつつ、《泥包(マッド・ラップ)》で足止めを試みる。

先ほどよりは距離を取りやすくなった。

急いで魔法を構築する。


「これだけ距離が取れれば、こちらのものですよ。夢魔法・修羅の章《骸砕(ムクロクダキ)》」


 魔力に、命令を刻む。

普通出来る芸当ではないが、魂は魔力の集合体。イメージの力で無理矢理やってみせる。

刻んだ命令は、魔力を込めたものの破壊の力を上げるというものだ。

この魔法を2本の剣に込め、思い切り投擲する。


「何度ヤッテモ同ジコトダ!ブモオオオォォ!!」


 大斧を振り下ろし、私の短剣に触れる。1本目の短剣は即座に両断され、塵になって消える。

2本目の短剣は、少し遅れて大斧に触れる。


「コノ(チカラ)ハ......」


 ______キイィィン!

魔力同士、金属同士がぶつかり合う音がする。2本目はなんとか競っているようだ。

今のうちにどうにかするしかない。

力を刻め......。


刻むのだ!


魔力に!


魂に!


「夢魔法・修羅の章!《睡天(スイテン)》!!」


 魔力が塗り替わる感覚。

自分の魂を仮眠状態にして、盗賊の雑兵から奪った魂を1つ身体に取り込む。

そして、その魂に対象の破壊という命令を刻む。

魔力が変質し、身体がミシミシと悲鳴を上げる。


「おなごの拳だ。喰らって死んだりしないだろうな?......いや、やはり死ね」


 2本目の短剣も限界のようだ。

しかし、最後にミノタウロスの大斧を上に弾いた。

空いたミノタウロスの胸に私の拳を叩き込む。

ありがとう、短剣。お前に助けられた。


______バァァァァァァァァン!!!!


 胸に大きな穴が開く。

普通のミノタウロスと魔石の位置が同じなら、これで終わりだ。


「......ふう」


 一息ついて、ミノタウロス・バーサーカーの死体を見る。

私の体内の盗賊の魂が崩れていくのも感じる。

無駄にならないように再利用しようと思ったのだが、本来書くべきでないところに命令を書いてしまったようだ。

まあ、盗賊1人の魂でミノタウロスを倒せたのだから、良しとしておこう。


「あぁ、魂を抜いたわけではないから死体が残るんだったな」


 魂を抜くことしかなかったものだからな。忘れていた。

身体の痛みに悶えつつ、討伐証明の角を採取しておく。

ああ、青薬草も必要だったな。忘れていた。

先ほどここに向かう最中で見つけておいた薬草を採取して、さっさと帰るか。



△▼△▼△▼△▼△



「おかえりなさいませー、ルミ様ー」


 私が扉を開くと、初めに対応してくれた受付が声を上げる。

初めての依頼だから心配でもしてくれていたのだろうか。

これ以上大声を出されても敵わないので、さっさと受付に向かう。


「まぁ、酷い怪我じゃないですか!回復魔法を......」


「ふう......いえ、魔力が足りないだけなので魔力が戻り次第治します。それより、依頼の達成と討伐報酬を」


「は、はい......って、討伐報酬?何を討伐してきたんですか?」


 私は、ミノタウロス・バーサーカーの討伐証明を卓上に置く。


「これは、ミノタウロスの角?いやでも内包魔力が多い......まさか、ミノタウロスの上位種ですか!?」


「恐らくバーサーカーかと。人語を解し、赤い毛皮でした。どれだけ逃げようと追ってくる様子でしたし」


 私の報告に、女性は角を持って急いで裏へ向かう。

しばらく待つと、角を持って戻ってきた彼女は息を切らせていた。


「こ、これ本当にミノタウロス・バーサーカーの角じゃないですか!どうしたんですかこんなもの!?」


「討伐報酬を貰いに来たと言った筈ですが」


 私の言葉に何か感じたのか、机の下から何かを取り出した。

彼女は、水晶玉のようなそれを『真実の珠』と呼んだ。

曰く、話したことが真実かどうか分かるらしい。


「このミノタウロス・バーサーカーの角は、貴方が討伐したものですか?」


「はい、そうです」


 真珠が白く光る。

彼女は驚いたようにこちらを見た。


「驚きました。本当に貴方が討伐したもののようですね。報酬を準備しますので奥の控室でお待ちください」


 奥、というとあちらの小部屋か。

魔力も回復したし、怪我を治しながらゆっくりと待たせていただくとしよう。

少しくらい、寝ててもバレないよな。


 おやすみ。

読んでいただき、ありがとうございます。

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