63 -帝都支部-
「ここが帝都......人が多くてすぐに迷いそうだな。アヤメ、ノワール。あまり離れるなよ」
ローザル帝国帝都。
帝国の中で最も、新しい物が集まる場所だ。
街の雰囲気は良いし、情景に目新しい物は映らない。
しかしここは全てを受け入れ、純粋な実力だけが求められる地だ。
錬金術師、鍛治師で名を上げたいのならば、ここで己の力を示す事が最も近道になる。
故に、新しい技術や知識が集まるのだ。
「とりあえず冒険者組合に行かなくてはな。関所ではこの辺りだと聞いてたが......あれか」
モズーの数倍はあろう大きさの冒険者組合が目に入る。
モズーに比べて公共の建物のような身綺麗さがあるな。
扉を開き、酒臭くない事に驚く。
本当にここで合っているのだろうか。
それに、人の少なそうな時間に来たにしてはかなり並んでいる。
受付に向かう男達の列に並び、その時を待つ。
「お嬢ちゃん、冒険者に依頼か?それなら左端の窓口だぞ」
私の後ろから声が聞こえた。
面倒見の良さそうな、おっちゃんといった風貌の男性だ。
組合に来るとこういう手合いに必ず声をかけられるが、そんなに私は弱い子供に見えるのだろうか。
......ああ、円月輪をアヤメの雑嚢に入れていたか。
それのせいだと信じよう。
「モズーから来た同業者です。少しの間お世話になりますので挨拶をと思いまして」
「はっはっは!丁寧なお嬢ちゃんだ!だが、ギルドにはそんなもの必よ......」
男性が私の肩に手を置こうとした瞬間、ノワールが今までに見たこともないような形相で彼の手を振り払った。
「おっと、すまない。敵対の意思は無いぜ」
「ノワール?すみません、こちらも敵対の意思はありません。帝都に来たばかりで気が立っているみたいです......お許しを」
男性は気にした素振りも無く、手をひらひらと振った。
しかし、ノワールはどうしたんだ。
「申し訳ありません、あるじ様」
「いえ、あとで聞かせてください」
今はとりあえず、丁度前が空いた受付へ向かう。
顔立ちの整った受付嬢が、貼り付けたような笑顔で私を待っていた。
これだけの人数を相手していると、こんな対応をしたくもなるのだろう。
「冒険者組合・帝都第二支部へようこそ。どのようなご用件ですか?」
「野暮用で帝都に来ましたので、挨拶に伺いました」
私がそう言うと、先ほどの男性のように『冷やかしかよ』といったような雰囲気を感じたが、言葉と同時に見せた冒険者証を見て、目を見開いた。
何度か私と冒険者証を目線が往復し、バンと冒険者証を机に叩きつけた。
「エクソーバー!?」
彼女の叫びに、辺りの視線が集まる。
こういう馬鹿を受付に置いているというだけで、この組合の程度が知れるというものだ。
「......ッチ。ギルドマスターか、それに近い役職の方は居ますか?」
責任者を要求したのは、可能なら城の人間に取り次いでほしいのだ。
私が着の身着のまま行っても分からないだろうからな。
まあ、この馬鹿について言いたいことが無いと言えば嘘になるがな。
「は、はい!お待ちください!」
自分がどれだけ愚かな事をしたのか理解しているようで、途端に態度を変えてきた。
いや、私の舌打ちが聞こえて怯えていただけかもしれない。
「お嬢ちゃん、そういう事なら初めに言ってくれよ......そりゃもう、挨拶の1つも必要だろうよ」
先程声を掛けてきた男性が、申し訳なさそうに改めて声を掛けてきた。
彼の発言はただの世話焼きのお節介だったので、私としては大して気にも留めていない。
しかし、Cランク程度であろう彼がお節介な発言をした相手がエクソーバーだという事実は、彼にとってそれはもう心臓に悪い事実だっただろう。
「貴方の事は気にしていません。ですのでご安心ください」
私の言葉が含んでいた意味が分かったのか、あちゃーと頭に手を当てる男性。
「あの受付、笑顔ではあるんだが最近見るからに適当な態度取ることもあったからなあ......仕方ないか」
お灸をすえてやってくれ、と言わんばかりに彼女を突き放す男性。
そこまでやるつもりはないが、少しくらいは懲りてもらう事にする。
「お、お待たせしました。こちらへどうぞ」
とんでもなく恐縮していやがる先ほどの受付嬢がやってきた。
奥の部屋に通してくれるようだ。
ふむ、そうだな。
「顔色が悪いですよ。今夜は良く休んでくださいね」
彼女の横を通る際に、笑顔で心配してやった。
少なくとも今日はまともに眠れないだろう。
はは、なんて恐ろしい罰だ。
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「なるほど、分かった。では今から組合の馬車で城まで向かってくれ」
身分の証明と用件を説明したとたん、ギルドマスターがそう言った。
「随分話が早いですね?」
「モズー第一支部から連絡が入っている。皇帝がお呼びだから迅速に連れて行けとな」
なるほど、組合同士は情報を連携できるのだな。
考えてみれば、それが出来なくては1つの組合として成り立たないか。
「何か問題があれば、それにかこつけて帰ろうと思っていましたが失敗ですね」
「さっきの受付は良いのか?尋常じゃなく怯えていたぞ」
「流石にあの程度では帰れませんよ。不愉快だったのは事実ですが」
......そうだ、いいことを思いついた。
「ところでギルドマスター、馬車に乗せていきたい人がいるのですが」
「......意外とまともな奴かと思っていたが、お前もしっかりエクソーバーのようだな。勝手にしろ」
こうして私は、ガタガタと震える受付嬢と共に城へ向かったのだった。
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