7 -武器-
「いらっしゃい!」
武器屋の青年が元気な声を上げる。
どんな店員でも構わないが、個人的にはもう少し静かな方が好みだ。
店内は、ギルドの受付が言っていた通りかなり大きい。
値段もピンキリだし、私の求めるような武器もあると信じたいところだ。
「投げられる短い剣を頂きたいのですが。出来るだけ安いのをお願いします」
「あいよ!短剣はこの辺りの物がお求めやすくなってるぜ!」
彼が勧めている短剣を見ると、どう見ても一品ものだ。
私が欲しいのは、壊れない以外にとりえのないゴミ一歩手前の短剣だ。
「あぁ、すみません。私が欲しいのは、もっと取るに足らない剣です」
「......あのな、嬢ちゃん。ウチには取るに足らない剣なんてねえんだ!」
おっと、面倒な地雷を踏んだようだ。
今謝っても変わらないだろうな。これだからこういうタイプは苦手だ。
「剣の一本一本には、俺たちの魂が籠ってんだ!お嬢ちゃんは、どんな気持ちで俺たちの剣を使うつもりだ?」
ふうむ。正直、少々イラつくところだった。
私が原因なのだから、我慢我慢だ。
「申し訳ないですが、私にとっては剣は道具にすぎません。斬れて刺さって抉れれば錆びてようが欠けてようが構いません」
あー、少し言い過ぎた。
言い過ぎないように心掛けているのだが、自分が興味ない事を強要されるとつい苛立ってしまう。
だが、本心には変わりはない。どんな剣でも使えれば良い。
しかしまあ、それを仕事にしている者に言うことでもなかった。反省だ。
「お前みたいな嬢ちゃんに、売れる剣なんて......」
彼が私に出禁を食らわせる直前だった。
「待てぃ、馬鹿モンがァ」
後ろから現れた髭面で子供サイズの老人が、飛び上がって青年の頭に拳骨を落とす。
ドワーフか。初めて見たが、やはりずんぐりむっくりで髭面なんだな。
「お、親方!ですが、この嬢ちゃんが......」
「アホが!使う側が使えりゃいいってのは当然だろうが!それに、違いの分からない相手に売っても仕方がねえだろう」
意外と話の分かる親父さんかと思ったが、しっかりと毒を吐いてくる。
ムカつくが嫌いではない。
「お前さん、くず鉄みてぇな短剣でもいいんだろ?何本いるんだ?」
「10000レンで買えるだけ下さい。数が必要なので」
「さよか。なら、一本だけ質の良い短剣を混ぜておいてやる。次に来た時、一番使いやすかった剣がその短剣なら次からは少しくらい質に気を遣え。分かったか?」
なかなか面白い提案だ。
しかし、それで剣の数が減るのは困るな。
「心配すんな。こっちの提案なんだから、クズ短剣と同じ値段にしておいてやる。4本だ。ほれ」
「ありがとうございます。では、お代です。また来ますね」
負けてやったんだから、死なずに帰って来いよ!と発破をかけられた。
当然、死ぬ気はない。
永眠では、眠りを楽しめないのだよ。
△▼△▼△▼△▼△
ここは、青薬草が多く取れる森だ。
ギルドにて無料開放されている資料室の資料に記載されていたので、間違いはないだろう。
そして、この森の奥に行くと、とある魔物がいるらしいのだ。
青薬草を落としてもいけないし、先にそっちに行くとするか。
「ブンモオォォ!!」
ミノタウロスは、私に気付いたようだ。
青薬草が取れるのと、ミノタウロスの生息が被っている森で一番近いのはここだった。
青薬草だけじゃ、宿屋の値段に全く満たない。この程度の魔物の討伐の練習もしておきたいし、丁度いいのだ。
ミノタウロスに《睡眠》をかけ、魂を抜き取る。
そして、ここからが人間の魂を抜き取るのと違う部分だ。
魂を抜き取ると、魔物の身体が全て魔石になる。
魔物というのは、魔石という魔力の塊を身体に宿す生き物の事で、魂を抜き取るとまず魔石から魔力が抜けていく。
しかし人間と違い、身体の大部分が魔力で構成されている魔物という生き物は、魔石という核から魔力が抜けだすのを防ごうとする。
自動的に身体が魔石に吸い込まれていくのだ。
恐らく魔石に刻まれていたはず身体の情報を、身体自身が埋めようとして起きるのだろう。
つまり、魔石には魂と似た役割があるとみていいだろう。
残った魔石は、普通に使える。身体が消える代わりに魔石から抜かれた魂の情報を埋めたのだと思う。
その魔石に、こうやって魂を戻してやると......。
「夢魔法・転魄の章《贋》」
「ブモゥ」
こうやって、私の僕に出来るわけだ。《夢傀儡》と違うのは、魔石と魂が必要な代わりに、いちいち魂に命令を刻む必要がないことだ。
「弱点を晒せ」
この一言で、ミノタウロスは首筋をこちらに差し出す。
糸でサッと払うと、首が落ちる。しかし、気にした様子もなく頭を持って首に取り付けた。
この状態の魔物は、魔石を壊すか私が解除するまで死ぬことはない。
もちろん自分で再生できるわけではないので、動けないほどバラされてはどうしようもないが。
そして、私がしたいのはこんなことではない。
「戦う時と同じように、身体を魔力で覆ってから同じように弱点を晒せ」
ミノタウロスは同じように首筋を差し出すが、先ほどと違って濃い魔力で守られている。
糸を巻き付けて精一杯引っ張るが、切れる様子はない。やはり魔力で守られると糸では太刀打ちできないか。
そのために剣を買ったのだから、問題はないのだが。
私が糸を巻き付けた剣を投げ、糸で操作する。
剣は糸で私とつながっているため、魔力でのコーティングも容易だ。
4本操るのはまだ少し難しいので、2本でセーブしておく。
空中に持ち上げた短剣を、一気に振り下ろす。
首を切り裂いた2本の剣は、勢いで魔石まで貫いてしまい、ミノタウロスは崩れ落ちた。
さて、次は夢魔法を使わない実践といこう。
睡眠が効かない相手への練習だからこそ、物理戦闘が得意なミノタウロスを相手に選んだのだ。
魔力の反応が濃い方は......こっちか。
私は、横目で青薬草を探しつつ歩き出した。
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