58 -進化-
「......という事で、まだ全く活かしきれてはいないもののお前達の強化に繋がるかもしれない。魂を見せてくれ」
ロイド兄上のおかげで《認識》が危険でない事が判明したので、アヤメ達の魂を見る事にした。
「まずはノワールからだ。『凶星』のスキルで弄られた魂がどうなるのか、気になるところだな」
「えー、アヤメ後っすか〜?」
アヤメと違ってノワールはまだ自分の戦闘スタイルを確立させていないからな。
私もどんなスタイルがノワールに合っているのか少し気になるのだ。
「あるじ様!わたくしの身体......隅から隅までご覧になってくださいまし!」
私が見るのは魂だと言ったのだが、脳内が桃色のこの魔物には伝わっていないようだ。
アヤメの言うように、ノワールを後にするべきだっただろうか。
「......まあいい。《認識》」
これを使うのも二度目だからな、出力を最大限抑える事であの情報の奔流を少しでも軽減しておこう。
そう思っていたのだが。
______ドオオオオオオーーーー!!!!!!
音すら聞こえる気がした。
あまりの情報量に、膝をついて頭に手を当てる。
「あるじ様、大丈夫ですの!?」
「ルミさん!」
心配したノワールとアヤメが駆け寄ってくるが、当然何か出来るわけでもない。
深く息を吸い、ゆっくりと吐く。
うるさい程に響いていた心臓の鼓動が、少しずつ小さくなるのを感じる。
「......ふう。まつろわぬ者とかいう存在は、本当に格の違う存在のようだ。これを使いこなすのは本当に骨だぞ」
しかしやはり、《認識》はかなり有用だ。
まず、ノワールに取り付いていたスキル《贋者》は完全にノワールの物になっている事がわかった。
ノワール曰くもう操られていないらしいが、今でも『凶星』の魔力がつながっている可能性もあったわけだからな。
この事実を知ることが出来たのは素直にうれしい。
「ど、どうですの?わたくし、素敵なお嬢様としてあるじ様と生涯を添い遂げる事が出来ていますか?」
「まだ未来を見る事までは出来ないもんでな、そういうのは分からん。だがそれが無いことだけは分かる」
何度も言うが私はそういう事に興味はないのだ。
素敵なお嬢様になるところまでは応援してやってもいいんだがな。
そんなことより、膨大な情報を眺めていたらスキルに気になる点を見つけたぞ。
このスキル、ノワールを操る為に割いていたリソースがまだ残っている。
本来あった能力である、使用者を操るという部分が空白なのだ。
「空いてる部分には、ノワールが望む能力が開花すると思う。当然、その為に努力しなくちゃいけないがな」
まだ人に説明できるほど解釈できていないが、スキルというのはそういうものな気がする。
才能、希望、努力。
3つのどれが優先されるかまでは分からない。
「本当ですの!?嬉しいですわ~!」
「何か欲しい力があるのか?」
大抵は今の《贋者》でどうにかなる気がするが。
「まだ秘密、ですわ!」
嬉しそうに笑うノワール。
まあ、必要になったら話してくれるだろうし放っておくか。
「さて、次はアヤメだ」
「待ってたっすよ!」
自分の能力に不満があるのか、先ほども早く知りたがっていたな。
充分私の前衛として働いてくれている気もするが......まあいい。
先ほどよりも出力を落としておかないと本当に頭が爆発しかねないぞ。
「慎重にいくぞ......《認識》」
またも情報の波に飲まれることになるかと警戒したが、思っていたより出力を落とせているようだ。
ロイド兄上を滝だとするなら、ノワールが水属性上級魔法で、アヤメは蛇口を目一杯ひねった時のホースくらいに抑えられている。
ふむふむ、かなり情報が読みやすいな。
......ん?
「おい、グラフェノスって上位種がいるのか?」
流れてきた情報で、アヤメの上位種への進化が非常に近い事が分かったのだ。
組合で様々な文献を読んだが、グラフェノスの進化など見たことも聞いたことも無い。
「知らないっすよ、自分の種族の上位種の事なんて。同種なんて全部食べてきた訳っすし」
そういえばそうだったな。
こいつは同種の魔石を食い漁っていたところを見つけたんだった。
「喜べ、進化条件も分かったぞ」
アヤメに足りていないもの、それが魂には刻まれていた。
正確にこれが進化条件だと書いてあったわけではないが、情報を読むにこれが進化条件と見て間違いないだろう。
「どんな生き方をしたいか、私達に面と向かって言うんだ」
アヤメに足りていないもの、それは人間とのコミュニケーションだ。
口を開けば飯を寄越せ飯を寄越せと、そりゃあコミュニケーションが足りているはずもない。
「当然美味しいご飯を一杯......」
「そうじゃない。私達と一緒に生きる上で、アヤメがどうしたいかを聞かせてくれ」
「......」
珍しく、真面目な表情で私を見つめるアヤメ。
「もっと、皆を守れる強さが欲しいっす。ルミさんに怪我1つさせない、強い魔物に。ルミさんをあの炎から守れるくらいに......なりたいんす」
初めて聞いた、アヤメの本音。
前衛として戦うアヤメは、私を守れなかったことが悔しかったのかもしれない。
今までの敵を倒すための力ではなく、仲間を守る力を欲している。
その瞬間、アヤメの身体が眩い光に包まれる。
進化が始まったのだ。
私は咄嗟に、アヤメに向けて魔力を送り込み始める。
魂を昇華させるんだ、魔力の消費が途轍もないことくらいは容易に想像ができる。
「ああ、期待してるよ。私ももうあの馬鹿げた炎に燃やされるのはごめんだからな」
アヤメの発していた光が、少しずつ収まっていく。
そこには______
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