56 -目玉-
大変お待たせいたしました。
この話より、第二章『出でる厄災、眠る姫』スタートです。
......ここは何処だ。
私は辺りを見回す。
何もないが、視界が真っ暗なわけではない。
光源が何処にあるわけでもないし、不思議な空間だ。
「お久しぶりですね。ルミさん」
真正面にいたのは、大きな目玉だ。
その周囲には、無数の触手が蠢いている。
こいつに見覚えはないが、心当たりはある。
「神......いや、まつろわぬ者と呼んだ方がいいか?」
「理解力、分析力共に流石ですね。いかにも、私は貴方を転生させた存在であり、あなた方にまつろわぬ者と呼ばれる存在です」
炎魔公、セキヨウとの戦いで最後に感じた魔力のようなもの。
それは、この空間やこの目玉からヒシヒシと感じる圧力そのものだった。
「死んだのか?私は」
「いえ、魂以外の魔力が全て焼かれて気絶しただけです。咄嗟の判断にしては、120点だったと思いますよ」
私はあの時、自分の魂を無数の魔物の魂で覆った。
目玉の言うとおり、咄嗟の判断だったが正解だったようだな。
「......で、お前達はなんなんだ?」
私を焼いたあの炎、そして今私と向かい合っている触手と目玉。
こいつらから感じるモノには、いわゆる神という感覚は断じてない。
敢えて例えるなら......自然。
「想像の通りですよ。私達は意思を持った概念です。ちなみに、名前は『@‘%**?+』......直訳すると、永き眼の愉悦です。つまりは、ずっと見てますよーってことです」
どうとも解釈できない、奇妙な言語だった。
発声も出来そうにないし、聞き取るのすらも私にはできなかった。
そういうものだと認識するしかないか。
「神を自称していたにしては、随分俗世的なんだな?」
「ルミさん、私が『まつろわぬ者です。転生してもらいます』って言ったら納得しました?」
......まあしないだろうな。
しかし、あの時と違って姿が見えていることが神という言葉との乖離に拍車をかけている。
「それに、日本では超常現象を何でも神扱いするでしょう?それなら広義で言えば私も神です」
無茶苦茶な理論だ。
しかし、コイツが神かどうかは今のところどうだっていい。
「結局、何のようだ?死んでないならさっさと戻してほしいんだが」
あわよくば溢れんばかりの睡眠を。
しかし、目玉から放たれた言葉は意外なものだった。
「私の権能は”視る“事です。つまり、面白いものを見せてくれる人にはお礼が言いたいのです」
「礼?何故今、そんなことのために?」
「ルミさんは、別の者の権能で全身を焼かれました。こちら側の力に包まれていたので、こちらの世界にとても近い状態だったのですよ。あの状態でなければ連れて来れませんでした」
つまり、あのふざけた炎に焼かれた事が結果として再び相見える理由になったと。
しかし、目玉から礼なんか言われた所で嬉しくないが。
「当然、プレゼントも用意してありますよ」
そう来なくってはな。
というか、自然に心を読まれているな。
相変わらずの便利能力だ。
「プレゼントの前に、権能について説明させて下さい。細かい説明は省きますが、私達は初めから権能を持っている訳ではありません。長い時間をかけて、自力で作っていくのです。ですので、長く生きている方が私たちの世界では力を持っている事になります......ここで、私の名前を思い出してください」
「永き眼の愉悦......あぁ、永きって生きている期間の事なのか。つまりお前は大きな力を持っていると」
私が答えた事で、嬉しそうに触手を揺らす目玉。
正直気持ちが悪い。
ちなみに、声が何処から出ているかは分からないがかなり美声だ。
余計に気持ちが悪い。
しかし目玉にとってはそんな事は些事なのだろう、反応もせずに説明を続ける。
「そういうことです。視るだけならそこまで権能を作る必要もなくてですね、正直権能が有り余っています」
なんだそれは。
意思を持った概念が権能を創り、暇すぎて権能が有り余っている......頭がこんがらがる。
「とにかく、余った権能ならルミさんにお渡しできますので。私の最も基本的な権能《認識》をお渡しします。ただ、出力を間違えると頭が爆発しますのでご注意下さい」
「頭が爆発?......お前のその姿、まさか」
「アハハ、冗談よして下さい。私達はこの程度の権能でダメージを受けませんよ」
そうかい。
しかし、こいつらもダメージを受けることがわかった。
いつかあの炎を攻略してくれる。
「その意気ですよ。頑張ってくださいね」
目玉がそう言うと、視界がどんどんぼやけ、眩しくなっていく。
起きたら、やる事が沢山ある。
......何故、睡眠は斯くも遠いのか。
△▼△▼△▼△▼△
覚えのあるベッドの肌触り。
ユースデクス家のベットか、と私は身体を起こす。
......妙に身体が重いな。
手に目をやると、ゴシック調の服を纏った白い手が私の手を包んでいた。
「あるじ様?目が覚めたんですの!?」
ノワールか。
何か違和感がある。
「......ノワーゥ」
声が出ない。
魔力は......問題なさそうだが。
「待っててくださいまし!」
ノワールは大きな声を上げながら、部屋を飛び出していった。
しばらくして、母上とアヤメがやってくる。
「ルミさん、やっと起きたっすか!死んだかと思ったっすよ!」
「私は信じてたわよ、ルミ」
どうにも要領を得ない。
皆、何を言っているんだ。
頭が働かない。
「身体も自由に動かないでしょうし、病み上がりだから簡潔に説明するわよ」
それは助かる。
今は、ゆっくり寝たい気分なんだ。
「貴方は帝国軍と戦い、ユースデクス家を守った。そこまでは良いわね?」
そうだな......守れたかまでは分かっていなかったが、記憶は確かだ。
私は上手く働かない喉を使わないよう、首肯する。
「帝国はユースデクス子爵領までを帝国領として、一旦私達に自治権をくれたわ......それが5年前の事よ」
「......は?」
5年前?
つまり、私はここで5年間も眠っていたと?
私の混乱した様子を察したか、母上は落ち着いた様子で私に言った。
「大丈夫よ。まだどちらの国にも大きな動きはないわ。でも、いつ何が起きてもおかしくない」
それはそうだろう。
5年前ですら、『凶星』がいつ動くやもしれないといった状況だったのだ。
私が寝ている間に何も起きていないというのは、ある意味奇跡だと思う。
「.....けふ、けふ。ひとまず、私はいかなくてはいけません」
喉が乾燥し、咳が出て思うように声が出ない。
しかし、身体は糸で補強すれば何とか動くはずだ。
脳も少しずつ目が覚めてきたようだ。
早く帝国に戻らなくてはいけない。
「帝国側から、『目が覚めてから完全復活するまでは迷惑だから休んでいろ』ってお達しが来てるわ。あっちの人たちも、ルミの事を分かってるのね」
母上は悪戯っぽく笑い、帝国から私への命令を伝えた。
恐らく、モズーの組合の誰かが進言したのだろう。
あそこの面々以外に、私がどう動くか予測できるほど私を知る人間は少ない筈だからな。
「......わかり、ました。では、少し寝かせていただきます」
「ええ、ゆっくりおやすみなさい」
私は母上の声を子守唄に、即座に意識を手放した。
週3(くらい)投稿継続中です。
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