55 -炎魔公-
「最大出力で行きますよ。《絶一門》」
「ほぅ、結界か?みくびられたモンだなぁ!《完全燃焼》!」
セキヨウは身体に大量の炎を纏い、腕を振るう事でそれを飛ばしている。
いちいち詠唱をするのが面倒で、たくさん燃やせるように考えた無形魔法だろう。
非常に、彼らしい魔法だ。
「お、お、おおお?俺のこの火力を、結界一つで無効化するのか!?凄えじゃねえか!」
喜んでいただけてありがたい限りだが、私の《絶一門》は限界ギリギリだ。
これ以上火力を上げられたら、アリー師匠との戦いと同じように威力を下げるだけになってしまう。
「っす!」
この隙を突いて、アヤメがセキヨウの背後をとる。
アヤメの最も得意とする距離、超至近距離での戦闘だ。
しかし、セキヨウの纏う炎の火力に攻めきれないようだ。
「《骸砕》!行け!」
刻んだ命令は、『急激な温度変化に強い』だ。
本来この程度の命令の為に使わないが、セキヨウの炎の温度は高すぎる。
あのまま剣を振るえば、アヤメの身体が危ない。
耐性を得たアヤメの剣は、セキヨウの背中を捉え......なかった。
「おっと!」
「ぶわっ!」
彼は背中から炎を噴射し、その勢いでアヤメの攻撃を避けた。
噴射された炎がアヤメのいた方向に向けられていた為、その勢いでアヤメは吹き飛ばされた。
「ふう、なかなかやるな。単純な耐性で俺の炎を無効化とは」
「ルミさ〜ん!全然無効化できてないっす〜!アヤメの鎧で焼肉でもするつもりっすか〜!?」
うるさい魔物だ。
私はアヤメの剣に向けて『急激な温度変化に強い』という命令を刻んだ。
つまり剣で炎を受けても周囲が熱ければ意味はないし、なんなら温度変化しないわけではないので炎を受け続ければ普通に熱い。
「それどころか、アヤメが焼肉になりますよ。嫌だったら黙って戦いなさい」
「分かったっすよ......」
アヤメの奇襲すら対応できるのなら、彼に対して試せる方法はもう多くない。
全員で同時に攻撃して、逃げる方向を無くす......といった方法も思いつく。
しかし、あのジェット噴射のようなモノを全方位に放たれれば、全員こんがり美味しくなってしまう。
やってみるしかないか。
「ノワール!エニエニを盾にして進め!」
「キチキチキチ!!」
蜘蛛形態で、無理に返事をしようとしなくて良い。
私が考えたのは、セキヨウの攻撃しにくい相手を前に置く作戦だ。
仮とはいえ、エニエニは同じ帝国軍の筈だ。
流石に気にせず燃やすことはないと信じたい。
それに、エニエニなら蜘蛛形態のノワールについていく速度が出せるはずだからな。
「なるほどな?悪くねえ作戦だ。来いよ」
ノワールはエニエニと共に正面から迫り、セキヨウに迫る。
彼は地面に手を置き、エニエニを除いた全員の足元に炎柱を発生させる。私は《絶一門》で無効化しているが、ノワールは一度避ける為にエニエニから離れる事を余儀なくされる。
「ほれ、燃えちまうぞ!《完全燃焼》!」
「「ッ!!」」
アヤメもノワールも、この波状攻撃にどうしても対応できずに炎を喰らってしまう。
私の《絶一門》では、流動的に動き回る攻撃を防ぐことはできない。
何か、何かないか......。
「エニエニ、行け!」
私はとにかく、時間を稼ぐためにエニエニを突撃させた。
「短慮、短慮よなあ!」
セキヨウは勢いよく炎を吹き出し、近づいたエニエニを吹き飛ばす。
あまりに勢いが良かったので、近くの森まで吹き飛んでいってエニエニは見えなくなった。
近くに敵が居なくなったその瞬間、彼はさらにアヤメやノワールに炎を放射する。
ノワールも人型に戻り、精一杯防御しているが限界は近いだろう。
くそ、有効打点が無さすぎる......。
「《睡て......」
「待て。お前その顔、特攻でもするつもりだろ?それじゃ面白くねえ」
私の起死回生の攻撃すらも、発動前に見破られた。
これで突っ込めば確かに犬死にだ。
「分かったよ、お前達は面白え。今壊すのは勿体ねえからな、本物の禁術の一端を見せて終わりにしてやる」
......認められた?
次の攻撃を耐えれば、領地は守られるのだ。
しかし、本物の禁術とはどういうことだ?
私が使っている夢魔法や魂に関するものも禁術のはずだ。
「普通に防御して、守れると思うなよ。これは何処かにいるとされる、まつろわぬ者っていう化け物共から力を借りて使う魔法だ。防ぎ損ねりゃ即死だからな、今張ってるソレも解除しとけ」
まつろわぬ者?
初めて聞いた言葉、ということは禁術に関わりの深い言葉だろう。
ひとまずセキヨウが私を害する気がないのは分かったので、言う通りに《絶一門》を解除する。
「いくぜ。赤の禁術・其ノ一......《墜》」
......なんだ?
妙な感覚だ。
セキヨウは間違いなく魔法を発動したのに、魔力が抜けるような様子はなかった。
何かを見逃している?
______上か!?
私が気づいたのは、完全に偶然だった。
しかし、気付いたところで身体を動かす事ができる程の時間は残されていなかった。
胸に手を当て、上空から降り注ぐ炎の柱をその身で受け止める。
耳に残ったのは、アヤメとノワールの叫び声だけだった。
これにて第一章『安寧を希う白い糸』終了です。
少しだけ番外編(キャラ紹介とか欲しいでしょうか?)を挟み、第二章『出でる厄災、眠る姫』開幕です。
番外編で欲しい情報、こんなお話が読みたいなどありましたら是非感想にお願いします。
ストーリーに差し支えない範囲で、色々します。
詳しくは同時投稿の活動報告に書いておりますので、お読みいただけたら幸いです。




