6 -冒険者-
重い扉を開き、中を一瞥する。
領地で一番大きい街というのは本当らしく、人でにぎわっている。
大抵が筋骨隆々で大きな武器をガシャガシャと持ち歩いているが。
受付であろう場所に向かい、一番真面目に対応してくれそうな女性のところへ向かう。
女性は、私の顔を見て笑顔で問いかけた。
「こんにちは。ご依頼ですか?」
まあ、そうか。この年齢の女児を見て冒険者希望とは思わないか。
「いえ、冒険者になりたいのですが」
私の言葉に、数秒黙り込む女性。
理解できなかったのか、頭が理解を拒否しているのだろうか。
どう見ても人間だが、種族が違うのだろうか、とでも思っているのだろう。
アリー師匠も、人間のように見えたがハイエルフらしいし、人間のような亜人もいると思うのだがな。
「......えぇと、身分証はありますか?」
「門でいただいた仮の物でしたら」
仮身分証を穴が開くほどよく読み、私が人間だという事を理解し、更に疑問が増えたように見える女性。
しかし、法的に問題も無い為手続きを始めるようだ。
「名前はルミ様ですね。戦闘スタイルはどうなさいますか?」
「戦闘スタイルというのは、どういったものがあるのでしょうか?」
曰く、どんな風に名乗っても良いらしい。
剣を使った戦い方をするなら、『剣士』や『剣術士』、『剣豪』など、どんな名乗り方でも問題はない。
ただし、『全てを斬る者』など、剣を使っていると分からないものにすると色々と不都合があるのでやめてほしいとのこと。
「糸と魔法を使うのですが、一番一般的なのでお願いしても?」
「それでしたら、『糸使い』か『魔法使い』ですね。魔法使いの前に自分な得意な魔法の属性を付ける方もいらっしゃいます」
「では、『闇魔法使い』でお願いします」
次に、冒険者についての詳細な説明を求めた。
王国とは全然違うシステムになっている可能性もあるからな。
「この冒険者組合、通称ギルドに来る依頼をこなす事で生計を立てる職業の事を冒険者と呼びます。そして、難しい依頼に新人がいきなり挑戦しないようにランクシステムが採用されています。G~Aまでが通常のランク、Aランクを遥かに上回ると判断された場合は、固有の名称が付きます。一例でいうなら、『不浄』のアシガン様などです。こういった方々を『エクソーバー』と呼びます」
ふむ。ここまでは家で習ったことと変わらない。
私がこれから目指すのはエクソーバーで問題なさそうだ。
だが、『不浄』のアシガンか。初めて聞く名前だが、覚えておいて損はないな。
「ランクを上げる為には、Gランクの場合を除いて依頼をたくさんこなし、ギルドに認められる必要があります。Gランクは冒険者になって初めに配属されるランクで、依頼を1つこなすだけでFランクに上がります。また、依頼に無い魔物を狩って素材をギルドに売ることでもランクは上がりますので、お好きな方で頑張ってくださいね」
「なるほど。魔物が強いほど難しい依頼をこなしたのと同じ判定になるわけですね」
「当然完全に同じ扱いにはありませんが、そういうことです。そして、これがあなたの冒険者プレート、つまり身分証になります」
手のひらサイズのプレートを受け取る。
『ルミ Gランク 闇魔法使い』と刻んである。
これでもう必要な物は.....ああ、忘れていた。
「武器を買える場所と、ベッドが上質な宿屋を教えてください。特に後者は妥協せず最高級の物を」
「え、えぇ。わかりました。しばらくお待ちください」
私の本気さが伝わったのか、少々引かれてしまったようだが構わん。
武器が無くとも死にはしないが、ベッドが無くては死ぬのだ。
もし良い宿屋が無ければ、街を変えるか、最悪家を買ってでも自分の満足のいく寝具を置かせてもらう。
しばらく待っていると、小さな紙を2枚持った受付が戻ってきた。
見ると、簡易的な地図のようだ。
「こちらが近くで一番大きな武器屋への地図です。初心者にも武器を見繕ってくれるはずです。次にそちらが宿屋への地図です。値は大分張りますが、最高級と呼ばれる宿屋ですので間違いはないかと」
値段......50000レンか。
平民の平均月収が100000レンくらいと考えると、間違いなく高額だ。最高級の名は伊達ではないらしい。
盗賊の討伐報酬を考えても、1週間は泊まれない。武器もいるしな。
......稼ぐ。いずれは家を買えるくらい稼いで、好きなだけベッドに潜る。
「ありがとうございます。では、依頼の受注をお願いします」
掲示板に貼られた簡単そうな依頼を手に取る。『ミノタウロスの討伐』だ。
意外と近場だし、依頼金も高い。これで良いだろう。
「あ、あのですね、これはCランク以上の冒険者しか受けられませんし、何より危険です!」
面倒だな。しかし、これ以上ランクを落とすと稼ぐことが出来ない。
それに、目を付けられることにもつながりかねん。
ならば、と他の適当な依頼を手に取る。
「確かにそうですね、失礼しました。ではこちらでお願いします」
「青薬草の納品ですね。こちらなら問題無く受けられますよ」
よし、受けられたようだ。
狙いもバレずに済んだようだし、やることやってさっさと宿屋と武器屋に向かおう。
私は礼を言い、受付を後にした。
「いらっしゃいませ。ご宿泊ですか?お食事ですか?」
気品の高い雰囲気の宿屋だ。
受付の男も随分と礼儀作法を叩き込まれているようだ。
最高級というくらいだし、貴族もここを使うんだろう。当然といえば当然なのか。
「宿泊を3日分お願いします。延長はその3日次第で考えさせていただきます」
「......正直、その服装の方を入れるのは本来であればありえないことなのですが」
ん?ああ、私は今ボロボロの布服だったな。
確かに、格式高いこの店にドレスコードが無いはずもないか。
生憎、今はこの服しか持ち合わせてない。
仕方ない。出直すか。
「貴方の雰囲気、貴族に属する何かしらを感じます。私の勘が貴方を泊めろと言っています」
この男、無駄口が過ぎるが勘が鋭いな。
こんなボロ着の私が元貴族だと一瞬で見抜いたようだ。
これは、ノってやった方が私の得になるかもしれん。
「ふふ、何のことでしょう?私はただの冒険者ですよ。しかし、店長の許可なく泊めてしまってもいいのですか?あとからダメと言われても知りませんよ?」
「問題ありません。私がこの『華ノ宮』の店長、アルノーでございますので」
ほう、この男が店長か。
ならばこの礼儀の正しさも頷ける。
お言葉に甘えて、泊まらせて貰うか。
「205号室へどうぞ」
「ありがとうございます。ふかふかのベッドを楽しみにしてますね」
扉を開き、軽いルームフレグランスの香りが広がる。
柑橘系か、少し甘酸っぱい香りがしている。寝るのにこういった香りは要らんので、後ほど除いて貰おう。
そ、し、て。
ベッドだ。私の住んでいたユースデクス家のベッドは、正直10点中6点といった程度だろう。
子供のベッドの質など、大して気にしていなかったのだろう。私は長女とはいえ、3番目の子供だし。
って、そんなことはどうでもいい。
ベッドに近づき、布団に触れる。良い手触りだ。
硬さは少し硬いな。もう少し柔らかい方が好みだ。
枕は......おぉ、最高だな!触り心地、硬さ、香りも完璧だ。この枕だけでも買い取りたいくらいだ。
点数は7点だな。この世界に来ての最高品質を間違いなく塗り替えた。
今すぐ寝転がりたいが、身を清めてもいないし、武器屋もまだだ。
私はさっさと荷物を置いて、部屋を飛び出た。
読んでいただき、ありがとうございます。
ブックマーク、いいね、評価、感想、レビューなどなんでも励みになりますので気が向いたときにお願いします。