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54 -憧憬-

「へえ?しかし、お前みたいなひよっこの“強い“じゃなぁ......」


「僕の護衛も言ってたんだ!王国の暗殺部隊を壊滅させた時も、手加減してたって!」


 暗殺部隊......ああ!思い出したぞ。

布を求めてウリアに向かってる時に、護衛任務で護った貴族の声だ。

名前を聞かれただけで顔も見ていないというのに、我ながらよく覚えていたものだ。

......ん?つまり、この騎馬兵はゴルドー辺境伯に近しい貴族?


「ほお、お前さんの護衛がね......辺境伯の盾が手放しで褒めるなら、確かに少しはやるか」


 少年の必死の説得に、炎魔公の態度が少しだけ軟化してきた。


 後少しだ。


 その時、今まで動いていなかったエクソーバーが口を開いた。


「たいちょ?エニエニが戦ってもいい?」


「......悪くねえな。おい、冒険者。うちの副隊長に勝ったら、俺と遊ぶだけで許してやる」


 炎魔公がそう言うと、エニエニと自らを呼ぶ女は馬から飛び降りた。

彼女は帝国正規軍であるという建前上付けさせられていたであろう、騎士用の防具を脱ぎだす。


 そしてヘルムを脱いだ瞬間あらわになる、長い耳。

兎型の獣人か。

あまり戦闘向きの獣人ではないと思っていたが、炎魔公がここまで信頼を寄せているのなら強いのだろう。


 本来は(・・・)


「分かりました。ですが、相手になりませんよ」


「エニエニ、強いよ!『雷脚』のエニエニ!」


 ご丁寧に、二つ名を教えてくれた。

つまりは、脚に雷を纏うか、とんでもなく早い脚技か、その両方だ。

本来なら強いのだろうが、相性が悪い。


「炎魔公、合図をお願いしても?」


「あぁ。始め」


 気の抜けた合図だったが、エニエニは即座に私の眼前まで迫った。

確かに、ヴェンの《十戒・神速》に匹敵する速さだ。

常時この速度で移動されるのなら、アヤメやノワールがいないと反応もできないな。


「《微睡み》」


 反応する必要など、どこにも無いが。

エニエニは、私の魔法に抵抗できず眠ってしまった。


「このまま殺してしまった方が?」


「いや、一時的にだが本当に帝国軍として所属してるからな。帝国の敵じゃねえならやめとけ......んな事より、面白えなそれ。俺にも効くのか?」


 幸い、炎魔公のお眼鏡に適ったようだ。

ちなみに、彼の質問の答えは当然否だ。


「魔力が余りに多いと、抵抗されてしまいます。私より魔力が多い相手には効かないと思っていただいて結構です」


「はぁ〜ん。で、それ無しでどうやって俺と戦うんだ?勝てないのはわかってるだろ?」


「はい。ですので少しでもお楽しみ頂けるようにこうします」


 私は眠ってしまったエニエニの魂に触れ、《夢傀儡》を発動する。

刻む命令は、『私の命令に従って炎魔公と戦い______』。


 命令を刻み終わると、エニエニは立ち上がる。

しっかり私の《夢傀儡》に掛かっているようだ。


「なるほどなぁ、そうやって配下を増やせんのか。便利な魔法だな?」


「加減を間違えると死んでしまいますので、危険な魔法ですよ」


「そりゃ、俺の炎も一緒だろ!ガハハハ!」


 何が面白いのか分からないが、領地から気を逸らせたのはとても良い結果だ。

あとは、少しでも長くこの男と戦うだけだ。

......それに、私の力がどこまで通じるのか。

気にならないといえば、それは嘘になる。


「全員でお相手しますが、良いですね?」


「ったりめぇだ。少しは楽しませろよ」


「アヤメ、ノワール、エニエニ!」


 3人に合図をし、ノワールは蜘蛛形態へと変化する。

正直、魔法を使った戦闘は無駄に等しい。

この中の誰も、炎魔公の足元にも及ばないだろう。

であるなら、近接戦闘が得意な者にはそうしてもらうのが1番だ。


「おお、お前ら、全員近距離戦闘型か!まあ、魔法使いの使う従魔なんだから、そりゃそうだよな!《火弾(ファイア・バレット)》ォ!」


 炎魔公は自分の足元に火属性初級魔法《火弾(ファイア・バレット)》を放つと、一帯がその炎に包まれる。

その勢いと熱気に、3人は思わず距離をとってしまう。

本来地面に残り続ける効果はない筈だが、尋常ではない量の魔力を込めることで、地面に炎が残るほどの火力を実現しているのだろう。


「相変わらず化け物ですね、魔公というのは。風魔公といい、どれだけ規格外なんですか」


「おい、お前あのババアと戦ったのか?」


 アリー師匠に、かなり興味があるようだな。

何か因縁でもあるのだろうか。

しかし、今は少しでも炎魔公の機嫌を取りたいので好都合だ。


「幼い頃に、魔法を教わったんです。《嵐の矢(テンペスト・アロー)》とかいう、正気とは思えない威力の魔法をぶつけられましたよ」


「ガッハッハ!ありゃ、ガキにぶつけるもんじゃねえな!しかし、生きてるってこたぁ、お前はそれを受け切ったわけだな?」


「......少しズルをしましたが。あれで低威力だって言うんですから魔公と戦うのは嫌だったんです」


 私の愚痴に、炎魔公は改めて手を叩いて笑っている。

悪い人間じゃないのだろう。

少しバカで、少し戦闘狂で、少し短慮で、少し傲慢なだけだ。

それならば、私は全力で彼の暇つぶしに付き合うしかあるまい。


「改めて、胸を借ります。ルミ・ユースデクスです」


「......ふゥん、なるほどな。炎魔公、セキヨウだ。いくぜ」


 私達と、炎魔公......セキヨウの戦いが始まった。

週3(くらい)投稿継続中です。

読んでいただき、ありがとうございます。

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