53 -舌戦-
来たか。
明らかに強い反応が1つ、それに続いて強い反応が1つ。
私は立ち上がり、アヤメとノワールを起こして外へ向かった。
今日到着予定だと聞いていたので、今日は国境近くの野営だった。
家のベッドに比べると出来の悪い寝具なので、既に少しイラついているが仕方ない。
私は、お互いを目視できる位置まで移動した。
最前列の騎馬は3体。
魔力の反応を見るに、左の奴が炎魔公だろうな。
あの練り上げられた純然な魔力を見るだけで、膝が笑いそうだ。
右の奴は......エクソーバーだろう。
魔力は今のところ普通だが、身のこなしが3人の中で1番冒険者らしい。
問題は真ん中の奴だ。
魔力も並以下、乗馬も隣の2人に比べるとあまり上手とは言えないレベルだ。
どこかの下級貴族にでも率いられているのか?しかしそれにしては背丈が小さすぎる。
......まあいい、私はやるべき事をやるだけだ。
「止まってください!ユースデクス子爵は完全降伏しました!」
私の声に、いち早く反応したのは炎魔公だ。
無詠唱で小さな炎を飛ばしてきたが、アヤメが剣で打ち払う。
あの程度の火でも、一般人を殺し切る火力が込められていた。
「ッチ、何者だ?俺らはローザル帝国の正規軍だ。邪魔をすればどうなるかくらい、わかるだろ?」
馬が近くに来るにつれ、炎魔公の姿がハッキリとしていく。
魔力にあてられているのか、元々黒色であろう髪は逆立ち、少しだけ赤く発光している。
身体つきは一般的な魔法使いのようで、屈強と言うほどではない。
外套から覗く褐色の肌には、何か刺青のようなものが見えた気がする。
「ゴルドー辺境伯領のモズーの街に所属しております。エクソーバーの『静夜の狂姫』にございます」
「あ?こっち陣営じゃねえか。んで邪魔すんだよ?」
少し怒気をあらわにするだけで、殺意の混じった魔力が溢れているのを感じる。
それにこいつ、魔力量が尋常じゃない。
アリー師匠も霞むほどの、とんでもない量だ。
口の中が渇くような感覚を覚えつつ、私は話し続ける。
「私が単独でユースデクス家に赴き、完全降伏の言付けを預かってきました。こちらが正式な書状です」
私が書状を渡そうとすると、炎魔公はそれを拒否した。
「そういうのは俺の仕事じゃねえ。そっちに渡せ」
炎魔公の指差したのは、正体不明の1番小さな中央の騎馬だ。
私が書状を渡すと、甲冑を着込んだ何者かはそれを受け取った。
暫くそれを読むような動きを見せた後(ヘルムすら脱がないので読んでいるか分からないが)、炎魔公に向けて頷いた。
「へえ、今の話は嘘じゃねえみてぇだな。つまりお前は1人とそこの魔物2体でこの領地を攻略したわけだ」
「攻略......帝国に背く事の愚かさをその身に刻んでやったまでです」
嘘はついていない。
実際に戦ったしな。
「だがよ、お前は1つ勘違いしてんぜ」
炎魔公はニィっと笑い、馬から飛び降りる。
こういう雰囲気の男が言い出す事なんて1つしかない。
「この書状も、お前も消し炭にしちまえば戦争は終わらねえ。そうだろ?」
予想通り、バカな事だ。
面倒ごとにならない、という夢物語までは見ていなかったが、まさか戦争の継続を望んでいるとは。
「その通りです。ですが、帝国は傷のついていない領地の方が喜ばれると思います」
「んな事は関係ねぇ。俺ぁあの風のクソババアを燃やさなきゃ気が済まねえんだ。このまま燃やしてりゃ、いつかは出てくるだろ?」
風のクソババア?
彼に釣り合うレベルの風属性魔法を使う者など、アリー師匠以外に......ああ。
「風魔公の事でしたら、おそらく王都から出てこないでしょう。現国王はとても臆び......慎重なお方ですので、風魔公を自らの遠くに置く事は考えにくいです」
私の情報と予想が正しければ、帝国はユースデクス子爵領より先を攻めるつもりは無いはずだ。
一度に大量の領地を得ても、それを統治する事が難しいからな。
つまり、この男に戦う理由は無くなった。
「はぁ〜?めんどくせえな。じゃあ気晴らしに全部燃やすか」
こういうバカじゃなければ、な。
最終手段として考えていたが、仕方ない。
「分かりました、では私が相手になります。少なくともこの領地を燃やすよりは気分は晴れると思いますが」
「お前がそこまで強いとは思えねぇな。お前ごと燃やしゃ同じだろ」
ッチ、圧倒的な強者は弱者の格の違いなど分からないとでも言いたいのか。
当然非常に不愉快だが、私がアイツに勝てないのは事実だ。
さて、どうしたものかな。
「ぼ、僕が証人になる!この冒険者は強い!」
声を上げたのは、先ほど書状を検めた騎馬兵だ。
......どこかで聞いた声な気がするな。
誰だ?
週3(くらい)投稿継続中です。
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