52 -弟子-
「お姉様!」
食事に向かうと、そこには見知らぬ少女が私達を出迎えた。
「......お姉様?母上、この子は......?」
「当然、この子の言うとおり貴女の妹よ。ほら、ご挨拶なさい」
母上が少女を促すと、慌てて身なりを整えて私の正面に立った。
「ユースデクス子爵家の次女、イリス・ユースデクスですわ。私、お姉様の弟子になりたくて日々魔法を練習してきたんですの!」
少したどたどしいが、今の私に比べれば充分まともなカーテシーだった。
というか、弟子がどうとか聞こえたがどういうつもりだ?
「母上、正気で言っているのですか?私は帝国の冒険者で、貴族を捨てた身です。貴族を弟子に取るなど......」
私がもっともらしい言い訳を並べていると、母上はそれを遮ってかつて私を指導していた頃のような厳しい顔になった。
「あら、私は貴女に挨拶を無視するように教えたかしら?ルミ?」
「......ローザル帝国所属の冒険者、『静夜の狂姫』の名をいただくエクソーバーのルミです。お言葉ですが、私は貴族を捨てた身ですのでそのお誘いは......」
イリスは母上に似たのか、私の断り文句を遮って言った。
「これから私達は帝国に降伏するのでしょう?でしたら帝国の冒険者......それもエクソーバーに師事するのはおかしな事ではありませんわ」
まあ......悔しいが、その意見には一理ある。
加えて、とイリスは言葉を続ける。
「貴族を捨てたと思っているのはお姉様だけで、未だユースデクス家に名が残っていますわよ。私の口上を思い出してくださいまし」
彼女に言われて、先ほどのやりとりを思い返す。
“ユースデクス家の次女、イリス・ユースデクス”......次女?
貴族の続柄というのは、基本的に名を抹消されれば位が繰り上がる。
彼女が長女でないということは、もう1人私に妹がいるか、私の名が抹消されていないことを意味する。
「なるほど、よく分かりました。ですがイリス様はまだ洗礼式を受ける年齢では無いはずです。せめてそれが終わってからでも良いのでは?」
イリスが私が帝国に行ってすぐ産まれたのだとしても、5歳には満たないはずだ。
しかもあの頃、母上の腹が大きかった記憶もない。
一つ気がかりなのは、イリスの体格が私とさして変わらない......10歳前後の身体つきをしていることだ。
......養子でもとったのか?
などと私が少しでも面倒ごとを先延ばしにしようと思案する間、ふと横を見ると母上とイリス以外の面々は食事の準備に入っている。
アヤメやノワールですら、食事を心待ちにしているようだ。
裏切り者め。
「それがね、この子先祖返りで成長が早いのよ。だから洗礼式も済ませたし、身体の年齢はルミとあんまり変わらないわ」
先祖返り。
血脈に刻まれた、はるか昔の生物の特性や魔力を持って生まれる子の事だ。
聞いたことはあったが、直接見るのは初めてだな。
「魔力が多いですね。それで身体の成長が促されたのでしょうか」
我々人間は、未成熟な身体では魔力の制御がままならない。
生まれ持った膨大な魔力を制御するために身体が成長したというのなら、この成長もおかしな事はないのだろう。
ちなみに、私もまだ身体が未成熟だが、《魔導》スキルに助けられているので急成長せずにすんでいる。
私が扱っている魔力量は、いまや常人を遥かに凌駕しているからな。
「ふう......分かりました。帝国とのゴタゴタが解決したら、イリス様に魔法を教えると約束します」
「本当ですの!?やりましたわ〜!......早く、解決して欲しいですわね」
イリスは跳び上がって喜ぶが、彼女も貴族の端くれ。
戦争のような政は、時間がかかることを理解している。
故に、実際の年相応な反応を見せた。
......少しくらい面倒見てやるか。
「イリス様、次に教えるまでの課題を与えましょう。自分の最も得意な属性で構いませんので、学術魔法の無詠唱か無形魔法の開発をしてください」
当然、どちらも簡単なものではない。
無詠唱はその魔法を細部まで理解しなくてはならないし、無形魔法は明確なイメージがなくては成功しない。
「まずは魔力を目で追えるレベルで魔力を感じてください。どちらを目指すにしてもそこからです......そして、私の無形魔法をお見せします。《白昼夢》」
私が魔法を唱えると、僅かに私の周囲が暗くなる。
「お姉様の存在感が......希薄に?」
そう、これを使うと目の前にいるはずの私が認識しにくくなるのだ。
闇属性と夢魔法を組み合わせたものなので、効果の割にかなり高度なことをしている。
「私の昼寝を邪魔する愚か者が多かったので開発した魔法です。この中は気温以外は快適なので重宝しています......と、ここまでのものを開発しろとは言いません。私も初めはただ辺りを暗くするだけの魔法を作りましたから」
闇属性中級魔法の《暗闇》とほぼ同じだったため名前もつけなかったが、あれは《白昼夢》の基となった魔法で間違いない。
イリスにそういった魔法が出来ると良いが。
「では、私も食事に参加してよろしいですか?」
「あ、そうね。すっかり話し込んじゃったわ。私たちも食べましょう、イリス、ルミ」
こうして、私は帝国軍との邂逅までユースデクス家でのんびりと過ごしたのだった。
週3(くらい)投稿継続中です。
読んでいただき、ありがとうございます。
ブックマーク、いいね、評価、感想、レビューなどなんでも励みになりますので気が向いたときにお願いします。




