47 -家族会議-
「あまり変わってないな......」
「ここがあるじ様の故郷。素敵ですわ!」
ユースデクス領。
私が7歳までの時間を共に過ごした地だ。
と、感傷に浸っている暇はない。私は先を急ぐ。
私の背後の2人を見てぎょっとする者も多いが、従魔証を見て落ち着きを取り戻す。
やけに不用心だと思ったが、それだけギルドの信頼が担保されているということだろう。
「それにしてもあるじ様、どうして貴族だったことをお隠しでしたの?素敵なことですのに!」
「もう家を出た身だ、私は貴族じゃない。それに、言ったらお前がうるさいと思ってな」
それは絶対にそうっすね、という相槌を聞いて不満気に頬を膨らませるノワール。
この反応を見るに、私の判断は間違っていなかったようだ。
「着いたぞ。アレが私の両親が住む屋敷だ」
「おっきいっすね〜、ご飯も豪勢っすかね?」
「歓迎されればな」
私は唾を飲み込み、表を掃除しているメイドに声をかける。
「レイレイ、久しぶりですね。まだ中の掃除もさせて貰えていないのですか?」
「へ?何故私の名前を......ってお嬢様!?」
咄嗟に手に持っていた掃除用具を落とし、私に頭を下げる。
「いえ、私はもうユースデクス家ではありません。本日は冒険者として、ユースデクス家当主に用事があって参りました」
冒険者用の装備なので完璧にとはいかないが、王国式のカーテシーを披露しつつ用件を伝える。
あの頃ではありえない、私が頭を下げる相手となったメイドは困惑でワタワタと同じ場所を行ったり来たりしている。
こりゃ、他の相手を見つけなきゃ話にならなそうだな......。
「レイレイ、外の掃除は終わ......お嬢様、お帰りなさいませ」
どうしたものかと思っていると、屋敷から出てきたのはメイド長のロナだった。
「いえ、私はローザル帝国所属の冒険者、『静夜の狂姫』の名をいただくエクソーバーに御座います。御当主様に御目通り願います」
「......承りました、お待ちくださいませ。レイレイ、お客様の応対を」
「え、ええ!?は、ひゃい!」
私達の雰囲気に、ガチガチに固まったレイレイがロナの声で動き出す。
ひとまず門前払いは避けられたようだ。
レイレイの案内のもと、見知った屋敷に入る。
微かに焚かれた香に、懐かしさを覚える。
私の部屋には焚かないように指示していたが、応接間や執務室から漏れてくるのは確かにこの香りだった。
「わたくし達も座らせて下さるんですのね。素敵な方々ですわ」
本来、魔物に席など用意する必要は無い。
しかし、わざわざ3席あるということは座れということだろう。
「母上の計らいだろうな。父上はそういった機微に疎い」
「ご飯無いっすか?お腹空いたっす」
2人はいつも通りだ。
不機嫌でなくて結構な事だが、こちらの心労も理解して欲しいものだ。
「御当主様がいらっしゃいます」
レイレイの言葉に、私達は立ち上がる。
ガチャリと扉を開き、ロナの後に続いて3人の人物が入室した。
「私がユースデクス家当主、ラインス・ユースデクスだ。隣が妻のエリア、その隣が長男であり次期当主のライだ」
「ローザル帝国所属の冒険者、『静夜の狂姫』の名をいただくエクソーバーのルミです。こちらは私の従魔にございます」
私がおもむろにお辞儀をし、それに続いてアヤメとノワールが頭を下げる。
アヤメは当然こういった礼儀に疎いため、普通に頭を下げるだけだったがノワールは意外と様になった帝国式の礼を披露した。
あの短期間でここまで教わっているとは。
流石ファーリア侯爵といったところか。
「たった数年で随分雑なお辞儀をするようになったのね、ルミ」
「......母上。ご健勝のようで、何よりです」
母上の一言で、この空間の張り詰めた緊張感が幾分かマシになった気がする。
座るように促され、私達は席につく。
「ルミ、大きくなったな。右腕はどうしたんだい?」
戦闘時のように、四肢を糸で覆っているわけではないので唯一白い腕が気になったのだろう。
父上は久々の再開を喜ぶように世間話をしようとした。
「これですか?私の未熟の証です」
糸を解除し、虚ろな肩から下を見せる。
ちょっとした小話のつもりが、娘のトラウマかもしれない部分に触れてしまった父上は目を見開いたまま固まってしまった。
その上普段から冷静な母上すらも、驚きが隠せないようだ。
「......ごめんなさい、貴女を守ることが出来なくて」
母上は、私が禁術を知ったことで国を出なくてはいけなくなったのを悔いているのだろう。
国を出なければ腕を失う事も、辛い思いをすることも無かったろうに、と。
「いえ、遅かれ早かれ国を出るつもりでいましたのでそこは問題ありません。強いて言うならアリー師匠の師事を受けられなくなったのが少し悲しかったですが」
これは本心だ。
あれだけ魔法に精通した人物から魔法を習えるというのは、人によっては垂涎ものの経験だろう。
当然厳しかったが、彼女が居なければ夢魔法に気付くのにもう何年か必要だった。
「......世間話をしに来たわけじゃないものね、本題に移りましょう。あの手紙の内容はどういう事?」
挨拶もそこそこに、本題に入ろうとするが私は一つ気になることがある。
「お待ちください。次期当主とはいえ、この家の命運を握るかもしれない話し合いに私の知らない人間がいるのは少し不安です」
当然、ライ兄様のことだ。
私が生まれた頃には、王都に次期当主として必要な教養を学びに行っていたそうだ。
つまり、私とライ兄様は初対面だ。
「確かに、ルミとは初めてだね。僕はライ・ユースデクス、ユースデクス家の次期当主だ。今後の事を話し合うのなら、僕もいる必要があると父上が判断した」
「正直、他言されては困る内容もあるのですが......」
この家の人間だからと言って、『凶星』に通じていない保証はない。
というより、兄上がユースデクス家で最も『凶星』に通じる可能性がある。
他の者は領地から滅多に出ないが、兄上は王都にいたのだから。
そこでどんな相手と出会ったかなど、誰にもわからない。
「安心して。エリア・ユースデクスの名において何があっても他言させないわ」
ふむ。
母上がそういうのなら信用できる。
彼女はつかみどころのない女性だが、間違いなくこの領地の不利益になることはしない。
「......分かりました。では説明させていただきます」
私は、『凶星』のこと、帝国の動向、そして私がもらってきた1つの手札について話した。
私にとっては隠す必要のないことなので、帝国側からすれば話してほしくない事も気にせずに全て話した。
「それが本当なら、確かにこの国はもう長くない......か」
「ですが父上、国を裏切るというのは大きな賭けです。仮に王国が戦争に勝った場合、一族纏めて打ち首になることは間違いありません」
兄上が言っていることは正しい。
『凶星』が思った以上に国の内部まで入り込んでおり、改造煉鳥のような化け物が何万体もいるとしたら帝国に勝ち目はない。
そして、鞍替えしたユースデクス家はいの一番に取り壊されるだろう。
「ただ、今ユースデクス家に向かってきている兵はとんでもない化け物です。戦えば万に一つも勝ち目はありませんし、仮に勝ったとして『凶星』が何を考えているかわからない以上兵力の損傷は減らすべきです」
私が帝国で得た、今回ランス辺境伯に攻め込んでいる帝国軍の情報はとんでもないものだった。
仮に私が防衛に加勢したとして、勝つどころか守ることすらできるかわからない。
......ここまで言っても、父上は首を縦に振らない。
父上を動かすには、何か......何かが必要だ。
私が必死に頭を働かせる中、母上が口を開いた。
「1つ、お願いを聞いてくれない?」
週3(くらい)投稿継続中です。
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