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26 -解呪-

26 -解呪-

 初めにソレを見た時、私は信じられなかった。

あの短時間でここまで崩壊が進むものなのか、と。

そして......。


 これが未だ、生きている(・・・・・)のだということに。

よく見ると、胸にあたる部分が少し上下しているような気もする。


「これは酷い......。呪いの部分が身体の6割以上を占めていますね。流石ヴェーロンさん、これでも生きているなんて」


「あぁ、一応まだ人の形を保ってるし、欠けて落ちた肩とかの欠片も集めてある。任せたよ」


 まず間違いなく治せるだろうと踏んでいたが、これは治るとかいう次元なのだろうか?

眩しいほどだった金髪も、鍛えられていたであろう上半身も全て褪せた灰色で生気を失っている。

私に、出来るのか......?


______パシィン!


「ルミ、自傷は推奨できない」


 私は、自分の頬を両の手で思い切り叩いた。

それを見て、私を諌めるような事を言うノワール。


「違う。私は今、こんなのが治るのかと考えた。イメージが全てである魔法においてソレは最も愚かな行為。自分の能力(チカラ)を疑う事をした馬鹿者の目を覚ましただけの事だ」


 気を取り直して、ヴェンの身体を視る。

呪いが身体の中でくすぶっているという事は、これを取り除けば通常の回復魔法が効くという判断で良いだろう。

しかしまあ、酷く難解な魔法だ。

数千、数万の絡まった糸を解くような作業。


「手を貸せ、ノワール。お前の魔法だろ」


「承認する」


「待ちな、この子の魔法?一体......まさか」


 アリアンナが何やら騒がしいが、私にもノワールにも声は届かない。

既に魂が変化しているとはいえ、元はノワールの魔法だ。

思考を深く集中させて解呪していく。


 これから説明するのは、完全に私の中のイメージだ。


 ノワールは、糸のように織り重なった呪いの一部分に魔力を込めた。

すると、糸一本だけが光って見える。

当然実際に光っているわけではないが、魔力を通して視るとそう感じるのだ。

その光った糸を探ると、何千と絡まった糸の大部分とこの糸が関わっていることが分かる。


「これをほどいていけば......」


 その一本を消滅させると、その部分の呪いがかなり薄まるような感覚を覚える。

何故この糸だけがたくさんの糸と絡まっているのか。きっと何か呪いの大事な部分を担っていたのだろう。


「呪いの根幹は、普通の魔法を遥かに上回る感情の発露」


 その一言で、恐らくだが先ほどの糸の意味を理解した。

あれは、憎しみや苦しみ、そういった負の感情を司る部分だったのだろう。

だからこそ、より深く根付き、たくさんの糸と絡み合っていた。


「似た部分に魔力を込める。ルミは解呪を」


「分かった」


 私達が真剣に治療していることを感じたのか、いつのまにかアリアンナは黙って私達の解呪を眺めていた。

ノワールが浮かび上がらせ、私が消す。

そんなことを、一時間ほど繰り返した。


「......ここまでくれば、通常の回復魔法と人間の一般的な代謝でどうにかなるだろう」


「肯定する。もう私の呪いは残っていない」


 一気に力が抜け、椅子に座りこむ。

それとは裏腹に、アリアンナは立ち上がってヴェンの容態を伺うように顔を覗き込んだ。


「......まずはありがとう。ルミ......と、ノワールでいいのかい。『月華』を代表して礼を言うよ」


 彼女は深く頭を下げ、ノワールを見つめながらおもむろに頭を上げた。

まあ、彼女の疑問は聞かずとも分かる。


「ノワール、あんたはこないだのアラクネなのかい」


「肯定する。この剣士を呪ったのも、貴女の攻撃を受けたのも私で間違いない」


 流石のベテラン冒険者でも、その事実には目を丸くするしかないようだ。

そのままにしておくのも面白いが、私も聞きたいことがあるので事細かに説明してやった。


 何か嫌な魔力に人間への敵意を増幅させられていたこと、魔卵になる際にその魔力が抜け出たこと、そして今は人間のように生きたいだけの私の従魔であること。

全てを伝え終える頃には、アリアンナは真剣というよりは呆れたような表情をしていた。


「まーた、変な魔物を仲間にしたもんだね。流石は白肢だよ」


「どういう意味ですか、まったく。......とにかく、ノワールの目標の為に彼女に人間としての知識を付けてあげたいのですが、何か心当たりはありませんか?」


「心当たり?そんなもんいくらでもあるだろう、あんたほどの冒険者なら」


 どういう意味だ?と改めて問い返そうと思ったが、彼女は言葉をつづけた。


「前に、継続的に貴族と関わる依頼をしていると言ってただろう。良くしてくれてるなら、本を読むくらいならさせてくれるんじゃないかい?」


 ......正直、完全に盲点だった。

確かに、ナァナ様の父君であるファーリア侯爵なら本の数冊どころか書斎すらある可能性がある。

この世界の本というのは、金銀財宝と同じかそれ以上に高価だからな。

完全に存在を忘れていたのだ。


「本?ルミ、それはどんな物か知りたい」


「人間は発声以外に、文字という視覚で情報を伝える技術があります。それを沢山書き連ね、一つにまとめたものを本と呼ぶんですよ」


 たくさんの知識が詰まったものだという事を理解したのか、ノワールの目は心なしか潤っている。

きっと興味があるのだろう。表情はあまり動かないが、意外と分かりやすい魔物だな。


「......ありがとうございます、アリアンナさん。おかげでノワールの目標達成に一歩近づきました」


「何を言うんだい、礼を言うのはアタイの方だよ。元々あんたが持ってる手札を思い出させてやっただけさ」


 とはいえ、それを思い出させてくれたのはアリアンナだ。

今度しっかりとお礼をさせてもらおう。


「ヴェーロンさんが元気になったら、また食事に行きましょう。次は、私が奢ります」


 私の言葉に、アリアンナは声を上げて笑った。

次は私の財布を空っぽにしてくれると息巻いていたので、アヤメには留守番をしてもらうか。

週3(くらい)投稿継続中です。

読んでいただき、ありがとうございます。

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