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16 -謝罪-

「ルミちゃん、無事だったんですね!」


 私が報告の為にギルドに顔を出すと、いつの間にか私を「ちゃん」付けするようになったナドゥが出迎えた。

頬をうりうりとこねくり回され、うんざりしている所にダグレスが現れる。


「ナドゥ、ルミが心底鬱陶しそうな顔をしてるぞ。離してやれ」


「そんな事ないですよ!ね、ルミちゃん?」


 私は無言で彼女に抗議しつつ、本題に入る。

ひとまず眠らせる事自体には成功した事、しかし長期的な治療が必要だと侯爵に伝えた事、そしてそれを侯爵が受け入れた事。

可能な限り簡潔に、昨日の出来事を伝えた。


「流石元貴族、貴族の相手も卒なくこなしてみせたって訳だな。じゃあ、長期依頼の指名が来る事になるのか?」


「ギルドを通すようには言ったので、そうなる筈です。とりあえず昨日の分の報酬を頂きたいのですが」


 早く寄越せ、というように掌を上に向けてダグレスに差し出す。

ダグレスはやれやれといった様子で、小さな革袋を私の掌に乗せた。

思っていたよりは軽かったので、中を確認すると思っていた貨幣の色では無かった。


「白金貨……随分羽振りが良いんですね」


 帝国の貨幣には、銅・銀・金・白金の四種類があると聞いている。

それぞれ10、100、1万、10万レンの価値があり、この革袋には45万レンが入っていたのだ。

ダグレスに聞いていた依頼達成報酬はこの半分ほどだったので、正直面食らっている。


「一体何をやらかしてきた?……いや、言うな。聞きたくない。Bランク以上の君なら、その金をギルドに預ける事が出来るがどうする?」


 こんな大金を持ち歩くのは私もごめんだが、今のところしまっておくほどの余裕も無いので断る。


「あ、ちなみに例の本の代金は抜いてあるからな。持ってけ」


「入門書は高価なのでは無かったんですか?こんな大金が残るとは思えないのですが」


 私の言葉に、こっちの台詞だと言わんばかりに私を睨んできたので、肩をすくめて部屋の隅に置いてある本を持ち上げる。

結構な重さだな。


「失敗した、アヤメを呼んでくれば良かった」


 私が呟くと、ダグレスは思い出したかのように話し始めた。


「そういえばあのグラフェノス、まだ君との連携が完璧じゃないように見えた。それを解消する為に、ちょうど良い依頼がある」


「ギルドマスター!ルミちゃんにはあの依頼はまだ危険だと貴方も言ってたじゃないですか!」


 ナドゥのその言葉で私は彼を睨み、彼はばつが悪そうな顔をする。

それにこの男、私がギルドに来る度に面倒な仕事を振ってくる気か?

悠々自適な睡眠ライフの妨げになりそうなら、色々考えなくてはならないな。


「そう睨むな。Bランク以上の受けられる依頼だ、当然報酬も多いぞ」


「これからは報酬が多くて、危険でもない依頼を見繕ってください。で、内容は何ですか?」


「地竜の幼体がイッツォ荒野に現れたと報告を受けた。生憎Bランク以上の冒険者は殆ど出払っててな、君に白羽の矢が立ったというわけだ」


 竜種か。

この世界でいう竜とは、西洋風の竜……所謂ドラゴンだ。

イメージに違わず、魔物の中でも屈指の凶暴性と戦闘能力を誇る。

であるからして、幼体の内に討伐できるのであればこれ以上のことはないのだ。


「幼体であれば、一応Bランクの依頼として受理出来る。当然君の言うように危険ではあるが、経験にも実績にも金にもなるぞ」


「この上ない依頼なのはわかるんですが、貴方の思い通りに動いてるのが少し不満です。そして本が重いので持ってください」


 私がぶーたれると、ダグレスは眉間を指で摘み、後で本を部屋に送ってくれると約束してくれる。

______ふふ、ごねてみるものだな。


△▼△▼△▼△▼△


「アヤメ、今回の相手は今までの相手とは訳が違う。間違っても魔石を破壊されるなよ」


 私の理論が正しければ、魔石さえ残っていれば何とか復活させられるのだ。

しかし、その肝心の魔石が壊れてしまえばこの優秀な壁を失ってしまう。


「やっとアヤメの本当の力を見せる時が来そうっすね!」


 全く楽観的な魔物だ。

しかし、こいつの本気を見たことがないのは事実。

楽しみにしつつも、準備を進める事にしよう。


「……この店に来るのだけが憂鬱だった」


 アヤメと共に歩いて向かっていたのは、前にくず鉄レベルの剣を買った店だ。

店主の機転がなければ、ミノタウロス・バーサーカーとの戦いで致命傷を負っていてもおかしくは無かった。

癪だが、それは事実だ。


「他の剣を売ってる店じゃダメなんすか?そしたらここに来る必要無いっす」


「私は受けた恩を忘れるような愚か者じゃない。だが啖呵切って出てきた手前、な」


 アヤメのやつは私の言う意味がわからない、というように肩を竦めた。

少々の苛立ちを感じつつ、再びこの重い扉を開いた。


「いら……っしゃい。何だ、お前か」


 出迎えたのは、あのやかましい青年だ。

しかし、私が来たのだと分かった途端、露骨に気分が落ちている。

私だってお前のようなやかましい奴に用はない、と言ってやりたいが今回は謝罪と感謝に来たのだ。


「この間の親方さんにお話があります。呼んでいただけますか?」


「……待ってろ」


 むかつくガキとはいえ、親方の客となれば無視する訳にもいかないのだろう。

いやいやあのドワーフの老人を呼んできてくれた。


「お前さん、生きて帰ってきたってこたぁバカでは無かったみてぇだな?」


 相変わらずの憎まれ口に対抗する事なく、私は頭を下げた。


「貴方のお陰で大怪我をせずにすみました。知ったような口を聞いてすみませんでした」


 下を向いているので親方がどんな顔をしているかはわからなかったが、青年の方からは動揺の声が聞こえた。


「若ぇモンのケツ拭いてやんのが、大人の役目ってもんだ。気にすんな。で、今日はどんな剣が欲しい?」


 このドワーフは、本当に気にした様子も無く私にそう問いかけた。

......行動で返すとしよう。私の出来る事はそれだけだ。


「アヤメの剣に匹敵する剣......と、言いたいところですが技術的にも金銭的にも無茶なので諦めるとして。地竜の幼体に刺さる短剣を下さい」


 私の言葉に、次は親方が眉を顰めた。


「ほう、ワシにはその剣を超える物が打てないと。つくづく生意気なガキンチョだ。見せてみろ」


 私の予想通り、彼は自分の打つ剣に誇りを持っている。

そこを刺激してやれば、アヤメの剣を見たがると思ったのだ。


「アヤメ、ゆっくり出せよ」


「わかったっす」


 私はアヤメに指示し、彼女はその透明感のある紫色の刀身を露わにした。

そこで初めて私の言っている剣の持ち主を理解したのか、青年が声を上げた。


「何かと思えば、グラフェノスの腕に付いてる剣の事かよ。そんなもんより、親方の方が……」


 青年が最後まで言う前に、無言で親方が彼の頭に拳骨を落とした。

______この拳骨の落とし方、日常茶飯事なんだろうか。

なんてくだらない事を考えていると、親方が口を開いた。


「確かに、これはワシには打てん」


 その言葉に青年は驚きの表情を浮かべ、アヤメは得意気な表情を見せた。


「魔力伝導率が高すぎる、ですね?」


「分かってて見せるたぁ、性格の悪ぃヤツだ。そうだ、一般的な鉱石じゃ硬さか魔力伝導率、どちらかしか似せることができねぇ。その上、伝導率の方は似せようとしても同じだけ魔力を通すことはできねえだろうよ」


 アヤメの剣は、私が視ても魔力の通りが良すぎる。

まるで物体を経由していないかのように、魔力が剣を素通りするのだ。

しかし、戦闘中のアヤメの魔力は剣の中で留まり続ける。

どういう原理なのかは知らないが、これを再現することができれば剣から魔法を放つことすら出来るだろう。

その上で、硬さだけでも最上級の剣なのだ。

反則と言われても仕方ない性能だ。


「最低でも、魔銀(ミスリル)クラスの魔導金属が欲しいところだな。下位互換くらいなら打てるかもしれん」


 魔導金属というのは、錬金術や魔法によって生成される金属の総称だ。

しかし下位互換とはいえ、これを目標にしろと言われて一切尻込みしないのは流石と言わざるを得ないな。


「錬金術も学ぶつもりですので、その剣についてはいずれ。問題は、今必要な剣についてです」


「地竜の幼体に刺さる剣、だったな。そりゃ、ワシが混ぜておいた剣で何を切ってきたのかによるわな。あの剣でゴブリンを斬ったのと、デーモンを斬ったのじゃ勧める剣が違う」


 当然のことだな。

つまり親方は、私の魔力で何処まであの剣を強化できたのかを聞いているのだ。


「ミノタウロス・バーサーカーの斧の振り下ろしを一度弾き飛ばして消滅しました。今なら消滅しない程度には魔力の加減が効くと思いますが」


「......何?あのなまくらでミノタウロスの上位種の攻撃を弾いた?ちょっと来い」


 親方は目の色を変え、私を奥の部屋に引っ張った。

青年は、何が起こっていたのか分からずに呆けたままだった。

読んでいただき、ありがとうございます。

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