1-5 鬼の村
ご愛読、ありがとうございます。
ちょっと話が面白くなかったので書き直して居ました。間が空いちゃってごめんなさい。
今回は鬼の村の話です。
クーヤと従者契約した11歳の少女ヒイは、恐るべき弓矢の才能を持っていた。80mの距離で誤差は数mmという人間離れした能力だった。
クーヤはこの世界で生きていくために、熊の魔獣を売って大金を稼ぎ、魔石を手に入れるためにゴーレムバイクを用意した。
転移12日目 飛龍将軍屋敷
俺は未明に目が覚めてしまった。
ふと従属回路について考え始めた。
ヒイがセンセーと言って纏わり付いて来た時、俺はどちらかと言えば鬱陶しいと思った。
それが寝具に潜り込んだヒイを見た時、愛おしいと思ってしまった。俺の父性が目覚めたのだ。
それからはヒイのことを昔ながらの家族のように感じられた。
それから従属回路には契約した双方にもう一方の異能が追加される。
従者をたくさん増やせば、俺は無敵になれる可能性もあるわけだ。
それにだ、俺は両親と希薄な関係しか築けなかった。
その分、ヒイとの関係は俺を居心地良くしてくれる。
また日本に帰れなくなる理由が出来た。
ウトウトとし始めると入り口で音がする。
またヒイが来たみたいだ。
まあ、寝たふりをしていよう。
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朝早くから魔石集めのために昨日カクタスから聞いた方面にゴーレムバイクを走らせる。
もちろん羽織袴じゃあバイクの運転は難しい。
見つけたよ。服飾通販カタログ”セリセーヌ”。
俺はデニムの上下にグレーのトレーナー。
ヒイはズボンは嫌というのでグレーの厚手タイツと紺色のショートパンツ、上はデニムでお揃いだ。
色が地味なのは狩りなので派手な色は避けた。
今回は山の方に走ったが、残念ながら魔石は空振りに終わった。
しかし、未舗装路とはいえ、自然の中にバイクを走らせるのが、こんなに気持ちが良いものだったとは思わなかったよ。
まだ木々は葉を広げてはいないが、芽吹きは感じられる。
草花もまだ芽吹いたばかりで背丈も高くなっていない。
あちこちに湿地帯があり、池には水鳥やサギ類がいた。
ヒイが弓矢を出せと騒いでいる。
驚いたことに野生の朱鷺が大量にいる。
日本では絶滅させてしまっただけに、ヒイには狩らないようにお願いした。
ヒイは4羽のカルガモを獲って、満足そうなので良かった・
山の中では木の枝が道にまで伸びてきており、ヘルメットとゴーグルは必需品だった。
残念ながら魔獣とは遭遇しなかったが、イタチ、ウサギ、タヌキ、キツネには遭った。
その度にヒイが飛び降りようとするので困ったよ。
故郷を出てから、見ることのなかった野生動物たちに、子供のように喜んでしまう自分に驚いた。
魔獣は魔素だまりで発生するが、普通は魔素だまりからあまり離れないらしい。
こないだの熊みたいな大型獣に追い回されたり、魔素だまりが消滅したりすると人里に来ることがあるらしい。
魔素だまりを離れた魔獣は、体を大きくしたり、力を強くしたりするのに魔素や魔力が多量に必要で、空気中の薄い魔素ではすぐに魔素欠乏症になる。それで、人間を襲って魔力回路から魔素や魔力を吸収しようとするのである。
ということが解っても現状どうしようもないのだがな。
この世界は何万年も魔獣と生きて来て、これぐらいのことと魔石の利用法ぐらいしか解っていないのである。なんて怠惰な世界なんだ。
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転移15日目 飛龍将軍屋敷
今日は魔獣狩りは中止した。屋敷の人間もカモ肉に飽きて来たみたいだからな。
「ねえ、魔獣狩り行こうよぉ」
ヒイが俺の服を引っ張る。
「スニーカーを洗濯しろって言っただろ」
彼女の履いてるスニーカーは元はピンクだったのだが、今は泥色だ。
湿地帯で狩りをするので、仕留めた獲物を回収するのに泥の中を歩くのだ。
もちろんタイツも泥だらけだ。
彼女には衣服をきれいに保つという意識が薄いらしい。
獲物を拾ってくる猟犬を飼うか?、いや育てて躾て、どれだけかかるんだよ。
そういや、Uチューブで腕にスピニングリール付けて、パチンコで釣り針飛ばしてる動画を見たことあるけど、ああいうのって利用できないかな。
「クーヤ、ちょっと頼みがあるんだが」
暇そうに考え事をしていたからか、非番のカクタスが話掛けてきた。
「なんだ?、ややこしいことは勘弁してくれ」
「先に構えるなよ。実は会ってほしい奴がいる」
カクタスは笑いながら俺の肩を叩く。
カクタス相手に警戒しても意味ないか。こいつは転移して以来、俺のために動いてくれる。
「誰だよ」
「ゴンタって言う俺の同僚だよ」
「お前の?、じゃあ、貴族か?」
相手の身分を聞いとかないと失礼はできないからな。
「いや豪族だ。王都の近くに領地がある」
豪族というのは中央に役職を持たない小さな地方領主だ。竜王に忠誠を誓うため、一族の若い男子を何人か兵隊に出すことが多い。ゴンタもそのうちの一人だろう。ナビさんの受け売りだがな。
農民に毛が生えたような身分だ。そう構えることもあるまい。
「ここにくるのか」
「いや、そいつの領地まで行ってほしい」
まあ、ちょっとした恩返しのつもりで承諾した。
俺はバイクでカクタスは馬ゴーレムで出発した。俺の後ろにはいつの間にかヒイが座っている。
多摩丘陵の方へ向かってるみたいだ。
多くの林を抜けると目的の村が見えてきた。
ゴンタの居るセッキ村だ。
村は30軒くらいの規模で農業中心にやっているみたいだ。
黒狼村と同じく茅葺の家が並んでいる。
その中で門構えのある大きな家がゴンタの家らしい。
門をくぐると大きな庭があって、俺達がゴーレムを置くと大男が現れた。
「やあ、本当に来てくれたんだ」
にこやかに駆け寄る大男の額の生え際には直径2cm、長さが10cmくらいの角が生えている。
鬼人だ。
カクタスが俺の肩に手を置きゴンタに紹介する。
「ゴンタ、彼がクーヤだ。俺は剣を教えてもらってる」
「俺はゴンタ、18歳だ。見た通り鬼人なので来てもらえるとは思わなかった」
うん、鬼人だから何だというのだ。
俺の怪訝な顔を見てカクタスが言った。
「信帝国では亜人は国の要職に付けないんだ。俺達のような王に連なる種族を除くがな。それでお前のような信人は亜人を忌避する奴がいるんだよ」
信帝国を治める信人は俺達と同じ姿らしい。信人は亜人を差別するのか。
「俺は日本人だし、まあ、日本人にもいろいろあるけど、俺は見た目で差別することは無いぞ」
「そうか、なら良かった」
ゴンタはニコッと笑った。図体の割に人懐っこくっていい奴みたいだ。
「で、俺に用事ってなんだ」
「剣を教えてもらいたい」
「それならカクタスと一緒に習えばいいじゃないか」
カクタスには終業後屋敷で1時間ほど毎日教えている。
「いや、上の兄上が鬼人嫌いでな」
「俺の客ってことにしたら?」
「それなら、言いくるめられるか」
カクタスは悪そうに笑った。
「ところでゴンタさん、教えるのが本当に俺でいいのか」
「ああ、カクタスの上達ぶりを見て羨ましかったのだ」
大男が後頭部を搔きながら照れている。
俺にも問題はないので、さっそく教え始めた。
今は農閑期なのか、村の男達が周囲に集まり始めた。
最初はすり足での足さばきと刃筋を立てた素振りを同時にしてもらう。
呑み込みが良く、さらにはカクタスも同じ動きを始めたので、飽きて拗ね出したヒイの相手をする。
「ヒイ、合気道の進み具合を見てやる」
「うん」
ヒイにはちょっと前から合気道の達人をインストールしてあるが、経験がないのであまり進んでないと思う。
俺も柔道をインストールしていたのでちょうどいい。
ちょっと場所を開けてもらって試合をしようと思う。
「ヒイ、良いか?」
「良いよ」
お互い自然体のまま対峙した。
俺は両手でヒイの襟を取りに行く。まあ、基本だな。
ヒイは右手で俺の左手首を極めに来た。
俺は力で外すことはできたけど、ヒイに任せてみることにする。
ヒイは俺の左腕の下を回りながら通り、俺の足を払った。
俺は左手首が極められているので素直に投げられるか、手を折られるしか道がない。
俺は投げられて背中から地面に落ちた。受け身をしているのでケガはない。
「おお、ヒイ、すごいじゃないか」
仰向けのままヒイを褒めてやる。動作がスムーズで隙が無い。結構完成されているようだ。
「へへー」
ヒイは俺を投げられたので、ちょっと驚きつつドヤ顔をした。
そこからは簡単に勝たないくらいに力を解放した。
最初のように俺を簡単に投げられず、苦戦を始めてインストールがフル稼働を始めたようだ。
すごい速さで経験が実力に変換される。俺もヒイもだ。
どれぐらい経っただろうか。俺達の周りに人垣が出来ていた。
「お前達は一体・・・」
「素手の組手もできるのか?」
カクタスと特にゴンタが俺に迫って来た。
「そりゃ、ある程度はな」
「今のがある程度だって、完全に名人クラスじゃないか?!」
カクタスは俺の返答に意を唱える。
「そんなことはいい、なあトーヤさん、俺にその組手を教えてくれないか?」
ゴンタが俺に再度迫って来た。こりゃ、追い込まれてるなあ。
「どういう理由か教えてもらえるか」
俺はゴンタの焦る理由が知りたかった。
「三日後に鬼人の奉納相撲大会がある。近隣5ケ村の力自慢の男が集まって相撲の勝ち抜き戦をやる。
一応神事だが嫁婿探しの側面が強い。鬼人は強い男がモテる。
俺はマツキ村の村長の娘シズカを狙っているが、あいつは兄に勝てる男でないとと言っている」
「その兄に勝ちたいわけだ」
ゴンタは大きく頷いた。
「試合は裸か」
「そうだ、ふんどし一丁だ。なぜそんなことを?」
「俺の技のほとんどは服を掴むことを前提としている。裸だと使える技が限られるんだ」
ゴンタは俺の回答に唖然とした。
「それでもいい、頼む」
インストールを使えば教えることぐらいはできるだろう。しかしそれでいいのかがわからない。
中途半端に教えて負けでもしたらゴンタは俺を恨むだろう。
「僕が教えてあげようか?」
その時、ヒイが口をはさんだ。
「ヒイ!!」
相撲は体当たりから始まり、終始力で勝負を決める、そこに合気道の活躍する余地はない。
だから、ヒイにやらせるわけにはいかない。
「解った。俺で良ければ教えよう」
あまり、俺の影響を受ける人間を作りたくないが、仕方ない。
面白かったですか?何かで評価して頂けると参考になります。
次回は相撲大会に行けるといいなあ。




