3-21 産業革命開始
クーヤの展示飛行は多くの市民に迎合されたようだ。クーヤは産業革命の成就に向け走り出した。
〇サル座の拠点 転移112日目 キメイ視点
サル座の拠点は天都の外郭にある。見た目は大きな商家のように見える。
奥まった座敷で私は父と兄に向き合っていた。
私が飛行機械の破壊に失敗して、捕らえられていたことは報告されていた。
「ただいま戻りました」
私は父に平伏した。
父は鷹揚に頷いた
「それで飛行機械は帝城になかったのだな」
「はい」
「ならば、まちがった情報を寄越したあの方に責任がある。そうじゃな」
「その通りでございます。妹も危険な目に遭いました。苦情を申し出てもよろしいかと存じます」
父の言葉に兄は丁寧語過多に答える。
くだらない、そう思ってしまう。
「しかし、ドワーフの娘もお前も解き放つとは、クーヤも甘い奴よのう」
「いえ、私どもを相手にしていないだけでございます」
父の顔が赤くなる。
「千年の歴史を持つこのサル座を侮ると言うのか!」
「サル座どころか。干支座にも関心を寄せておりません」
この人達は自分達の価値を見誤ってる。
「な、なんと!」
「イヌ座がどうなったか、お忘れのようで」
「イヌ座がどうなったと言うのか」
父が兄に聞く。
「イヌ座は警らにほとんど捕らえられ、これまでの悪行を暴かれ、死罪または強制労働と言うことになりそうです。天都に会った拠点は恨みを持つ人に破壊され、故郷の村に残った残った女子供・老人は小さくなり、静かに暮らしています」
兄の説明を聞き、父もさすがに顔を青くする。
「セ、千年の歴史が・・・」
「実行部隊を失った干支座がどうなるか分かりますよね?」
「今から集めれば、その間教会の僧兵か天都軍でも借りればよい」
「天帝様が待ってくれればよいのですが?」
父上は理解できないと言う顔をする。
「父上はあの飛行機械を見なかったのですか?」
「見たさ、あれは異能ではないのか?」
「あれは一種のゴーレムです。クーヤ様の言う産業革命とは運送の革命でもあります。
何tもの荷物を運べるゴーレム車、何万tもの荷物を運べる船、そして何百kgもの荷物を運べる飛行機械、それらが列を組んで天都に押し寄せます。
それを干支座が処理できるとでも言うのですか?」
「そ、そんな絵空事が出来てたまるか!その運ぶ物がどこにあると言うのだ」
「工場で使う部品や素材、工場で作った製品、食料、運ぶものはいくらでもあります」
「工場でつくるというが、物を作りすぎても売れ残るぞ」
私もクーヤ様に説明されるまで理解できなかった。
「庶民が工場で働いた賃金で買うのです。工場で大量生産することで物が安く手に入ります」
「そんなもの、百年かかってもできんわ。わっはっは」
ああ、これはだめだ。説得できない。
こんなおっさんに国民を豊かにしようとするクーヤ様の仕事を説いても仕方がない。
私は諦めた、父に従うふりをしながら時を待つことにする。
******
〇学校建設予定地近くの山すそ
俺は皆を引き連れて魔素の濃い場所を探していた。
魔素は核反応から生まれることは分かっている。
魔素は太陽からの魔素と地球内部からの魔素に分かれる。
太陽からの魔素は地中の磁気や大気によってそのほとんどが失われるようだ。
地球内部からの魔素はその一部が地面表面まで来て、また地球内部に飲み込まれていく。
魔素の通り道は一定で地表に現れる場所では魔獣が発生することがある。
今までのゴーレム作成で魔石のある程度の分析はできている。
これを利用して
魔素から魔力への変換=魔力ジェネレーター
変換した魔力の蓄積=魔力バッテリー
これらを作成するのが目的である。
これが出来ると今まで人間には出来なかった大容量の魔力の使用、つまり何万tの船や大型トラック、旅客機、重機、発電所などが作れるのだ。
今までの経験で魔素の濃い場所は山地に偏っているのでこうして山に来たのだ。
なるべくなら学校に近い方が良い。
人間の魔力の変換能力はライヤで分かるように、空気中の魔素を使うと大人一人分が半日はかかる。
それが魔素発生場所ではどれくらいになるのかも研究対象だ。
ここらの山の木は燃料用に伐られているので、はげ山になっており、探しやすいと言えば探しやすい。
「ゥワン!ゥワン!」
探し始めて1時間ほど経った頃、少し山を登ったところでハイジが吠えてる。
何か見つけたのか?
真っ先にヒイが駆けていく。
かなりの斜度なのだが、気にすることなく駆けあがっていく。
「センセー!ここらが魔素が濃いって言ってる」
ヒイがハイジに手を回して、大きく手を振りながら俺を呼ぶ。
俺がヒイのいる場所に行くと確かに魔素は他の場所より濃いと感じた。
「うーん濃いのは濃いけどもう一つって感じかな」
俺の欲しいのはもっと濃い魔素だ。そうこれの倍ぐらいは。
「ワォン!」
ハイジが一声鳴き、地面を掘り始めた。
「もっと下だって」
ヒイがハイジの通訳をする。
「そうか!魔素はここまで上がってきてまた降りていくのか」
魔素や魔力はおそらく量子のような存在で、原子の間をすり抜けて行動する。
地球の格で起きる核分裂によって魔素は生成される。
それが筋のようになって地表まで来て降りていくようだ。
「おーい、ドーテ手伝ってくれ」
俺はドーテを呼ぶ。
「旦那ア、呼んだかあ」
元気な声を出してドーテが来た。
ハイジはやっとわかったかと言うような顔をして、おとなしく座っている。
「旦那、何をするんだ?」
「ここを5m×5m、深さも5mくらいで掘ってくれ」
俺が示した中にいたハイジとヒイも慌てて範囲外に退いた。
ドーテは土属性の異能を持っている。俺もコピーしているが練習していないので、細かい調整が出来ない。
ドーテは両手を広げて土を持ち上げる仕草をすると、指定したか所の土がグワッと持ち上がる。
抉り取った土をどけると、立方体に切り取られた穴が出来ていた。
そこへ、いつの間にか来ていたアオイが穴に飛びこんだ。
「すごい濃度の魔素だよ。さっそく実験を始めるね」
「おい、気を付けろよ」
俺は注意をするが聞いちゃいねえ。
俺はロープを出して、近くにあった一抱えもありそうな岩に結び付けると、ロープを伝って下に降りた。
確かに感じる。すごく濃い魔素が・・・流れてる
アオイには簡単なジェネレーターとバッテリーを渡してある。
「こんなに簡単に見つかるとはな」
「見つからないときはどうするつもりだったのですか?」
俺に続いて降りて来たジュレイが聞いてきた。
「ああ、川に水力発電所を作るつもりだった」
俺は山から見える・・・穴の中だから見えんわ。
「なぜその水力発電所作らないのですか?」
「日本でタービンとかを買ってると日本の金が無くなっちゃうからさ」
「こちらのお金では買えないのですか?」
「何とかその道を考えては居るんだけど、難しいな」
ジュレイには理解できないのか難しい顔をするだけだった。
ドーテも来ていたので、ちょっとひらめいたことがあった。
「アオイ、バッテリーの方はどうだ」
「もう、半分くらいは溜まってるみたい」
「ドーテ、魔力の回復はどうだ?」
「うん、この中だとかなり早い、2時間もあれば満タンになるんじゃない」
「アオイ、ちょっとバッテリーを貸してくれ」
「え。何に使うの?」
そうはいってもほぼ水晶のバッテリーを渡してきた。
「ドーテ、この白い部分に指で触れてみろ」
ドーテは少し警戒しながら指先を水晶の先端に付いた小さな白い円筒形の物に触れた。
「わ、なにこれ。すごい勢いで魔力が流れ込んでくる」
数秒でさっき使った魔力が回復した。
「これって、このバッテリーを持っていたら、異能を使い放題ってことだよね」
アオイが気付いたようだ。
「まあ、そう言うことだな」
俺が説明しようと思ったのに、モォー。
「もっとすごいことがあるぞ。バッテリーを使えば、もっと大きなゴーレムが動かせる。大きなゴーレム車・船・飛行機・発電所なんかが無限のエネルギーが使えるんだ。まあ、発電所はここに立てればバッテリーはいらないけどな」
言われる前に行ってやったぞ。
「これって公害フリーだよね。カーボンニュートラルも関係ないし」
そうなんだよ脱炭素なんか関係ないし、放射線も出ないし完全なクリーンエネルギーなんだよ。
まあ、この世界の人は分かんないよね。
「これ、私がやるね。クーヤ君は忙しいだろうし、私達も仕事をしなくちゃね」
「そうだな、大型ジェネレーターの作成やバッテリーの量産化、発電施設の建設を任せる。幸いこの山は天帝家の持ち物だから開発の許可は得てある。
珪砂はドーテに、水晶の結晶化はジュレイに頼めばいい」
俺はここをアオイたちに任せて、帝城に戻ることにした。
朝議は終わっただろうから、天帝様に報告しなくっちゃ。
俺はバイクにミヤとヒイを乗せて帝城に戻った。ハイジは走ったけどね。
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〇天都 軍務大臣屋敷 第三者視点
黒幕こと軍務大臣は朝議を終えて自宅に戻り、執務室に入った。
秘書の男が報告した。
「サル座の娘が帰還したそうです」
「飛行機械の破壊が失敗したことは分かってる。あれだけ派手に飛んだのだからな」
「それについて、帝城内に飛行機械は無かったそうで、こちらを責めています」
軍務大臣は顔を真っ赤にした。
「それを調べるのがサル座だろうが!まったくあてにならん」
「干支座が分解しそうです。イヌ座の壊滅が影響していますね」
「このまま天帝を放って置いたら、ワシの利権が崩壊してしまう」
「やはり、クーデターをお考えですか?」
「戦力の逐次投入は愚策だからな。天都軍1万を使って帝城を占領してわが政権を立てる」
「さすがです」
秘書の口角が少し上がったことに大臣は気付かなかった。
「それで各所の動きはどうなのだ?」
「各所には演習として集合を打診しています」
「なぜ、はっきりと教えない?」
「クーデターが漏れると厄介です」
「それはそうだな。それでどうなのだ?」
「約半数は集まりそうです」
「半数だと、帝城には千人の近衛兵が居るのだぞ」
「籠城では攻める側は三倍の兵が居ると申しますが、五倍いるのですよ。
それに正門、裏門は襲撃前に確保しておけば、そんなに兵はいらないでしょう」
「そうか、それでいつやるのだ?」
「三日後に手配しました」
「ちょっと早くないか?」
「やると決めたら早くやらないと策が洩れます」
「そうかそうだな。三日後にはワシが天帝様だな。ワッハッハッハッハ!!」
「そうです。やるからには徹底的にやらねば」
秘書は大臣をけしかけた。




