3-12 VS干支座
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今回はクーヤ達が襲撃されます。
学校建設用地の見学兼ジュレイ・ドーテの魔法練習に来たクーヤ一行に対して、殺気を放って干支座が近付く。
〇学校建設用地手前の丘 転移103日目 第三者視点
クーヤ達は緩やかな丘の上に立って敵を待っていた。
天都の方から殺気を含んだ荷馬車が4台、騎馬が10騎接近して来ていた。
「あれはなにか?!」
ジュレイが叫ぶ。
「まあ、敵だと言うことは間違いない」
ドーテは低い声で返した。
この二人はなぜか気が合うようだ。
「センセー、気持ち悪いよー」
相手から直接ぶつけられる悪意を感じて、ヒイが怒りとも憎しみともつかない感情を持て余している様だ。
「ご主人様、排除してもよろしいですか?」
ミヤは明らかに怒ってる。敵に感情をぶつけたくて仕方ないようだ。
もう数十秒でここに敵が来る。おそらく暴力で人を虐げてきた奴等だ。
しかし、攻撃はまだしてこないし、武器も出していない。先制攻撃は控えるべきだ。
専守防衛。日本人に染み付いた理論がクーヤに攻撃を押さえさせていた。
敵は白い犬の耳を立てた犬獣人だ。
後10秒くらいの距離になった時、敵は弓を用意する。
「マシロ!結界を!、ヒイ!迎撃用意!」
敵から矢が放たれるが結界に阻まれて跳ね返る。
結界はマシロの異能だ。透明な壁を作って地面や自分の体に固定する。
今回は地面に長方形の結界を固定してクーヤ達を守ってる。
結界は両面に効果があるので、ヒイは従者通信で共有された範囲から飛び出した。
矢が届かなくて驚く敵に向かって、ヒイが矢を放つ。
ヒイの矢は弓を持つ敵を次々と倒していく。ヒイの異能は狙撃、狙った獲物を外さない。
アオイのコイルガンの射程距離は短い、それに刀剣類を武器にするものは結界の後ろで出番を待っている。
敵は板を立ててヒイの矢を防ごうとした。
しかしヒイの弓は強化されている。薄い板など突き破り、そのまま後ろの敵を倒していく。
前の馬車が御者をやられて横向きに立ち往生したので、後ろの馬車からぞろぞろと敵が降りて来た。
騎馬は前に出てこず後ろで戦況を見ている様だ。
ヒイはもう3つ目の箙を収納から出している。
敵との距離が30から40mになったところでクーヤが叫ぶ。
「アオイ!攻撃開始!」
タタタタタタタターッ!!
コイルガンがフルオートの軽快な発射音を残して、直径6mmの鉄球を亜音速で吐き出す。
「薙ぎ払え!!ウージー!!」
一秒間に10発以上の弾丸を発射しながら横に薙いでいく。
残念ながらアサルトライフルに比べると威力は半分以下だ。相手に一撃で致命傷を与えるのは難しい。
しかし、継戦能力を削ぐことはできる。
実際、敵は次々と倒れていく。
空になったマガジンを抜いて、新しいマガジンに換装する。
「吼えろ!!ウージー!!」
アオイはいくら仲間が倒れても、それを踏み越えてやってくる敵に恐怖を感じていた。
『アオイの精神が強い不安を感じています。抗不安シーケンス開始、沈静します』
ナビさんが全員の精神をフォローしていた。
サル座のキメイは集団の後ろで、兄とともに騎馬で戦況を見ていた。
何なの?これは。
あっという間にイヌ座の戦闘員の半数近くが倒された。
「兄上、半分近くやられました。撤退した方がよろしいのでは?」
「大丈夫だ、もう飛び道具は使えなくなる。イヌ座の連中は従順だ、残り一人になっても突っ込んで行く。もう接近戦になる、そうなればこちらのものだ」
敵味方の距離は近付き、戦況は接近戦になって来た。
「敵味方入り乱れたら、飛び道具は使えねえ!お前ら突ゲ!・・・」
イヌ座の兄貴分の言葉が終わる前に首が飛び、兄貴分の後ろに黒い影が着地するとその周りの戦闘員が倒れる。
いつの間にか黒装束に着替えたミヤの仕業だ。次の敵を探してその姿はかき消えた。
その途端、廻りで戦闘員の悲鳴が上がる。
ミヤの異能体術が敵に認識させることなく近寄り、その小刀が切り裂いていく
ハイジもミヤに着いて、噛み付き戦闘力を奪っていく。
「いよいよミヤちゃん、とんでもなくなって来たねえ」
バイクとワンボックスを守ってるアカネが、向かって来た戦闘員を片鎌槍で突き刺していった。
「ホントよね。私達じゃ着いて行けないわ」
戦闘員を薙刀で切り下げながらマシロが言う。
彼女達の異能は戦闘向きではないがインストールで訓練された技術はイヌ座の戦闘員など歯牙にも掛けない。
「氷縛!」
ジュレイが相手を凍らせて、斬る。今日初めて使った氷魔法だ。
「もっと派手な魔法を使いたいぞ」
「我儘言うんじゃないよ!こんな混戦で大技使えるかよ!地縛!」
地面が相手の足を搦めとって、ドーテが斬る。
彼女達の異能、氷精・土精はその属性の魔法が使えると言うものだ。さらにインストールで技術を磨いているので危なさがない。
トーヤはジュレイとドーテが危険にならないようにフォローしながら戦っている。
「兄上、もう味方が一桁しか残ってないわ」
「分かっている。おのれえ、ここまで強いとは・・・先生方!」
兄は振り向いて各座が出した用心棒を呼んだ。
「せんせ・・え・・」
兄が見たものは天都の方に駆けていく用心棒達だった。
「兄上、・・」
イヌ座の最後の一人が黒装束に斬られていた。
「キメイ、帰るぞ。結果を報告しないといけない」
「はい」
兄妹はぐるりと回って、天都に馬を走らせるのだった。
「はあ、情けねえ奴らだ」
キメイ達が居たところに立っている三十半ばぐらいの男がため息を吐く。
この人間の男は先生と呼ばれた男たちの一人だ。
ここはクーヤ達とは数十m離れているので、クーヤ達も敵味方の区別がつかず放置していた。
「おっさーん!関係ないならどっか行きなあ!巻き添え喰うぞう!」
ドーテが近付きながら叫んだ。
「うむ、お前ちょっと顔を見せてくれ」
男はドーテに話しかける。
近寄ったドーテの顔をしげしげと見回す。
「なんだよ。キモイなあ」
ドーテが剣をぶら下げているのに男は平気だ。
「なあ、お前、台湾の山岳民族の出じゃねえか?」
「そうだけど、なんで判った?」
「やっぱりな。おまえドーテだろう」
男はどや顔でドーテの顔を覗き込む。
「な、なんで知ってんだ?」
ドーテは驚いて後ざすった。
「おまえの顔が母ちゃんとそっくりだからさ」
「おまえは何者だ!?」
「おれか?俺はお前の父ちゃんだ!」
どや顔を極め顔にバージョンアップしていた。
「何しに来たんだ!お前は俺が1歳になる前に村を出て行ったんだぞ!」
「いやあ、本当はイヌ座に頼まれてお前達を襲いに来たんだがな。さすがの俺でもお前たち全員を相手には出来んと、後ろで見てたらお前を見つけた」
そう聞いて焦るドーテは剣を構えて戦闘態勢を取る。
「おいおい、娘とやるわけねえだろ。剣を降ろせ。まだまだお前には負けないけどな」
ドーテはこれまで片手の長剣を使っていたが、従者になって日本刀に変えた。ナビさん曰く日本刀での格闘技術は他の剣術に比べ変態的に極められており、剣対剣の場合かなり有利になるらしい。
しかし、昨日の夕方従者になったばかりなので、筋肉や神経の繋がりが出来ておらず、まだ従者になる前の強さから少し向上したぐらいだ。
彼女の父親は剣を腰にぶら下げたままだが、相応のオーラは出ており、それは彼女を上回っていた。
ドーテは剣を降ろした。
「そうそう、ガキは大人の言うことを聞くもんだ。
そういやお前の名前こっちで聞いたことあるぞ。
確か勇者の従者に名前があったな。あの男が勇者か?」
ドーテが首を横に振ってから、クーヤの方を見ると生き残ったイヌ座の戦闘員を拘束して回復させていた。
本当に優しいんだよな。私もジュレイも生かしておく余裕はなかったな、彼女はトーヤの横顔を見てニコッと笑った。
「おまえ、あいつの嫁になる気なのか。父ちゃんは許さんぞ!」
ドーテの優し気な笑顔を見て、父親が怒り出した。
「何言ってんだ。あの人は帝国相談役だぜ、俺らが嫁になれる訳ねえって言うの」
「て、帝国相談役・・・。偉いのか?」
いきなり顔を青くした父親が聞く。
「ああ、身分は公爵様並みらしいよ」
「そ、そうか・・・父ちゃん用事を思い出したわ。じゃあな」
帝国相談役を襲撃したことを知った父親は、滝のような汗をかきながら、天都に向け駆け出した。
「気の小さな野郎だぜ」
内心父親と戦う必要が無くなってホッとするドーテだった。
「旦那、これからどうすんだ?」
ドーテはクーヤの元に駆け寄って聞いた。
「そうだな、このまま放って置くわけにもいかないから、天都に戻って警らに連絡するか」
警官のような仕事をする軍隊をこちらでは警らと呼んでいた。
他の軍隊とは組織が分かれているので、黒幕とは関係ないだろうとクーヤは思っていた。
「えー、俺達の魔法の練習見てくれるんじゃないのかよ」
ジュレイも後ろでうんうんと頷いている。
「無理言うなよ。死体も放って置けないだろ」
「それより、あのおじさんは何者だったんだい?」
「ああ、あれなあ。俺の親父だって言ってた」
「はあ?」
全員がドーテの周りに集まって来た。
「なんでお父さんがこんなとこにいるの?」
「いやあ、なんかさあ、どっかの用心棒やってて、手伝わされたらしいだ」
頭を掻きながらぼそぼそと話す彼女は顔が赤くなっていた。
「俺も顔は覚えてなくてさ、赤ん坊のころに村を出てってるからさ。
俺の村には族長を継ぐ娘が外に出て、強い男を婿に連れてくるって風習があってさ」
「それってあんたもそうじゃないの?」
「ええ、センセー連れて行くの?」
「連れてかないよ。俺は外に出て、俺の村が限界集落だって分かった、俺の村には未来がないんだ」
「限界集落って何?」
「若い人が街に出て行くから、年寄りばかりになって、村の力が無くなって消えようとしてるんだ」
「ドーテは族長になるんでしょう。どうするつもりなの?」
「そんなの、俺に何が出来るんだ!どうしようもないじゃないか」
ドーテは俯いて嗚咽を漏らし始めた。
ドーテは乱暴な言葉を使っているが優しい子だ。でもそんな子がどうすることもできなくて、俺の元に来た。クーヤはドーテの気持ちを汲んだ。
「よし、こっちに村を作ろう。みんなでこっちに引っ越してくればいい」
「え、?!」
ドーテが顔を上げる。頬には涙の跡があった。
「そんなことが出来るのか?」
「ここに造る工場では3000人が働く予定だ。そのうち1000人は学生だけど。2000人は新しく入れないと行けないんだ。それに学生や従業員の食事を作る人や掃除をする人、働く場所はいくらでもある。年内には集めたいと思ってる」
「前に言ってた学生を指導する人だと、ほとんど無理だと思ってたんだ。でも調理や掃除ならできる」
いつものドーテに戻ったみたいだ。
「さて工事の人に騒動を説明して、警らに行こう」
面白かったですか?何かで評価して頂けると参考になります。
次回は少女たちのクーヤに対する心の声です。




