3-9 スズカ送還
ご愛読、ありがとうございます。
今回はスズカが日本に帰ります。
魔人討伐を失敗して帰って来た勇者スズカだが、彼女を送り出した教会に戻るのは危ないとしてクーヤを頼るのだった。
〇帝城 宿泊所 転移101日目
近衛の練兵場に居っていた仲間も、勇者たちが来たと言うので、早めに帰ってきた。
あれジュレイがまだいるよ。今はスルーしとくか。
スズカ達は着替えを含めた服をアオイに選ばせていたので、今は皆と同じTシャツ・ショートパンツ姿だ。
俺は天帝様の依頼の品を設計していたが、中断してみんなを食卓に座らせた。
スズカとドーテの紹介をして、みんなにも自己紹介をしてもらった。
「さて、俺が勇者、いやもう勇者じゃないからスズカって言おう」
「いや、ベルディアじゃないのかよ」
ドーテはスズカと名乗るのが気に入らないらしい。
「そのベルディアって何処から来た名前なの」
「分かった名前の英語読みだ。鈴がベルで鹿がディアーでしょ」
マシロの問いをアオイが答える。
「こちらに来た時、まだ中三だったので、カッコいいかなと・・・」
スズカが顔を真っ赤にして説明してくれた。
まあ、そんなに重い中二病じゃないから大丈夫だ。
「まあ、これからはスズカでいいよな」
「はい」と答えたスズカにドーテが「ちぇっ」と舌を鳴らす。
ずっとそう呼んできたのだろう。仕方ないよな。
とりあえず、文句はなさそうなので先に進めよう。
「スズカは日本に帰りたいそうだ。それについては俺の従者になって貰って、転移できるポイントを持っているかを調べるところからだな」
「あの従者と言うのは、それと転移って?」
不安そうに俺を見るスズカだが、安心して良いぞ。
「転移って俺の異能の一つで日本とこの世界を行き来できるんだ。それには明確な転移ポイントが必要で俺達は日本の転移ポイントを失っている。それは日本が核攻撃を受けたからみたいなんだ」
「日本が核攻撃を・・・」
「そう、地形が変わったからなのか、景色が変わったからなのか分からないけど。俺達の地図では探せないんだ。俺の従者になると、君の見た風景も地図に落とし込まれるから、もし核攻撃も転移できる場所があればそこに行ける。
もう一つのは確実に行けるけど、我々の事を覚えていてもらったら困るんだ。それは二年前の君が来た直後の日本に行くことだ。君が我々に関与すれば、その時に生きている我々かここにいる我々が下手をすれば消えてしまう」
「もし、核攻撃後の転移ポイントがあれば、私達も帰れるってことよね」
「まあ、そう言うことだ。そう言ってもスズカの地図に使えるポイントがあればだけどな」
マシロの言葉に俺はそう返した。まだ決まった訳じゃないことは強調しておかないとな。
「センセーも帰っちゃうの」
「ご主人様!」
おっとヒイとミヤが拗ねて来たな。
「お前達、心配しなくても俺は日本には帰らないよ。少なくともお前達が俺を必要としているうちはな」
「ホント」
「本当ですか」
「ああ本当だ」
抱き着いてきた二人の頭を両手で撫でる。
なぜか転生組の三人が俺に冷たい視線を送ってくる。
何なんだ???
転生組の視線を外して、スズカに目をやる。
悩み深げな顔をしている。
中三でこちらへ来て二年と言うことは17ぐらいか。
名だ幼さの残った顔は美人と言うより可愛らしい。
「まず、俺の従者になるか、ならないかだな」
「従者になるとどうなるのですか」
俺はいつもの内容を話す。
スズカは当然熱心に聞いているのだが、なぜかジュレイとドーテも熱心に聞いている。
「・・・とまあこういうことなんだが、日本に帰ると役に立たない」
「なぜですか?」
「日本には魔素がない。核戦争で一時充満したが、すぐに拡散したはずだ」
こちらでも魔素の出現ポイント以外の場所は拡散して薄くなっている。
その薄い魔素でも魔力回路が、魔力にして溜めていてくれるんだけどな。
「それでは日本では魔力回路が解けて、従者契約も無効になって、なにか強制されることはないのですね」
「ここにいる子を見れば分かると思うけど、こちらでも何も強制されることは無いよ」
従者と言う響きで奴隷を思い浮かべるようだ。そんなことは無いのにね。
「早速従者にしてくれますか?」
ナビさん、お願い。
『お断りします。彼女はご主人様を尊敬も敬愛もしていません』
はあ?!
「どうされたんですか?」
余程俺が間の抜けた顔をしていたんだろう。スズカは険しい顔で俺を睨んでる。
「いや、そのお、俺の異能はナビさんて言う疑似人格が管理してるんだけど、お断りされた」
ナビさんが俺の命令やお願いを断ったのは初めてなので、どうしていいか分からない。
「あなた、私を馬鹿にしてるのですか?」
ああ。怒っちゃった。疑似人格とかAIとか言っても信じてもらえないか。
「どうしたの?なにかナビさんが怒ってるみたいだけど」
マシロがナビさんの感情に気付いたようだ。
「いや、スズカが俺のことを信用してないみたいで、ナビさんが従者契約を嫌がってるんだ」
「ベル!、あんた、俺の手を直してくれたクーヤを信用できないってどういうことだ!」
ドーテがスズカに食って掛かる。
「ごめんなさい。私、この世界のこと全部信用できないのよ」
「俺もか?」
ドーテは絞り出すような声で聞いた。
「あんたは命がけで私を助けてくれた。信頼してる。でもね、私にとって。この世界のことは夢みたいなものなのよ」
彼女は一拍置いて続けた。
「現実として受けとっていたら、勇者なんかできないし、魔人とはいえ、人を殺すなんてできないでしょうが」
そうか、スズカにはナビさんが居ない。
俺達はナビさんのおかげで、俺や仲間を傷つけようとするものに冷酷に対処できるし、それについて後悔はしない。
日本と言う優しい世界で育ったスズカには、この世界は厳しすぎるのだ。
「解った、君が俺を信用できない理由がな。ナビさん、もう一度お願いする。スズカとの従者契約を結んでくれ」
『判りました。制限付き従者契約を結びます。コピーする異能は従者通信・脳内地図です。スズカからは”剣道”がご主人様にコピーされます。
引き続き、スズカの脳内地図より転移ポイントを検索します』
「頭の中で誰かがしゃべってる・・・」
「それがナビさんだよ」
スズカの呟きに俺はそう返した。
スズカの転移ポイントは限られる。ナビさんが見ていないからだ。ナビさんが見ればそのポイントはデジタルデータとして記録されるからだ。
従ってポイントとして選ばれるのは長く滞在して明確に覚えてる場所がポイントになる。
『2年前のポイント15か所と現在のポイント1か所が転移可能です。転移ポイントを選んでください』
家の中や、学校の教室などの画像が映っては消えて行く。最後の画像は古びた家屋の中だった。
スズカは静かに泣いていた。
「私、騙されてました。魔王を討伐すれば神様が日本へ帰してくれるって教会の人が、でもそれしか縋ることが出来なくって・・・。
教会には従者契約もなかったし、私の転移ポイントを教えてくれることもなかった」
「まあ、それは良い。転移ポイントは決まったのか」
「ま、待ってもらえますか」
感極まったのか泣き出してしまった。2年ぶりに帰れるのが分かったんだ、嬉しいのだろう。
「ゆっくり考えればいいよ。ただ帰る前に腹ごしらえだけはしておこう」
「ははは、そうだね」
スズカは楽しそうに笑った。
その日の夕食は9人と一匹で食べた。
スズカにはこの世界で最後の晩餐となる。
「もう一度転移について教えて欲しい」
食事が終わってスズカは俺にそう言った。
「そうだな。2年前に帰るときにはこの世界の記憶は消させてもらう。君一人の影響で未来が大きく変わることは無いと思うが、最小にしたいからな。
現在の時間に変える場合は社会の変化が読めないし、君自身の異能も使えないから、生きにくいかもしれない。
俺は転移組の方を向く。
「マシロ・アカネ・アオイ、君達はどうする。一緒には魔力的に無理だけど一人ずつなら送り返せるよ」
「現在の転移ポイントはどんなところなの」
マシロが聞く。彼女達は2年前は日本にいたので、現在のポイントしか使えない。
「栃木県の山奥よ。私の父方の祖父母の家よ」
スズカが言った。
マシロはフーンとあまり熱心ではない表情を見せた。
「そこは街に出ようとするとどれぐらいかかるの」
「何人ぐらい住んでるんだ」
「バスで1時間くらいかなあ。村には100人もいないんじゃないかな。あんまり覚えてないけど」
スズカはアオイとアカネの質問に答えた。その場所には思入れはなさそうだ。
「じゃあ、行き先が決まったら行ってくれ」
俺は執事室に入って、設計した物の材料を書き出し始めた。
1時間ほど経っただろうかスズカがやって来た。
「クーヤさんはなぜこんな私の願いを聞いてくれるのでしょう」
「ああ、転移ポイントが欲しいって言うのが一番かな。それに転移者には優しくしておいた方が将来的に良いんじゃないかと思ってる」
スズカは覚悟を決めたように言った
「決まりました。2年前の私の家にお願いします」
俺はスズカを見ると希望に満ちた目をしていた。
「ドーテにはもういいのか?」
「はい、彼女にはお世話になり、挨拶はしました。どうか優しくしてあげてください」
「分かった。じゃあ、服はそのままでいいか」
「はい、家の中なら問題ないです」
「ではナビさん頼む」
『まず2年間の記憶を消すので、意識を失わせます』
彼女はが倒れそうになったのでお姫様抱っこして、俺のベッドに寝かした。
『彼女の記憶は封印されました。私が解かない限り蘇りません』
『では彼女の家、彼女が転移して一時間後に転移させます』
『転移ポイント状況良し。転移を開始します。ゲートオープン』
彼女の姿がかき消えた。
『転移成功しました。ゲートを閉じます』
******
〇日本 スズカの家 鈴鹿
「鈴鹿、なんでこんなところで寝てるの?」
母親に呼ばれたが私はリビングの床で寝ていたようだ。
「私、覚えてないよ。なんでこんなところで???」
「いやねえ、若年性の健忘症かしら」
「知らないよ。ってこのTシャツと短パン、見たことない」
「鈴鹿ったら、何を言ってるの。本当に心配になって来たわ」
お母さんは私の顔を覗き込んだ。
「あなたちょっと老けたみたいだし、髪型も変わった?」
「変わるわけないじゃん」
「そう言えば今日は塾がある日じゃないの?」
「そうだっけ、あ、ヤバいこんな時間、ミクが迎えに来ちゃう」
私は慌てて自分の部屋に駆け込んで着替えを始めた。
あれ、子供の時の傷跡が無くなってる。
ま、いいか。
面白かったですか?何かで評価して頂けると参考になります。
次回はアオイが主人公?




