3-7 白虎国事件簿
ご愛読、ありがとうございます。
今回は黒幕の動きでジュレイの母が狙われます。
白虎国から帰ったクーヤ達は日常に戻ろうとしていた。
そんな時、朝食を摂るクーヤの前にジュレイが「母が捕まった」と現れた。
〇帝城 宿泊所 転移100日目
「どういうことだ?」
「軍警が来てトルキスタンの軍隊が来ていると虚偽の申告をしたと言われたのです」
そう言えば嘉峪関に天都の軍隊を派遣したのは、西域の軍隊が来たと言うデマが元だったな。
「それは事実なのか?」
「いえ、母は商人から軍隊の噂を聞いて、軍に調査をお願いしたのです」
「それで拘束はおかしいんじゃないか?」
王妃は噂の真偽を調べて欲しかっただけだ。国防上のことだし、罪になるのかな。
「とりあえず、天帝様に聞いてみる。それまでここに居ればいい」
「私も一緒にお願いします」
こんな時は相談役の地位はありがたい。
早速、面会申請をした。
「朝議中なので午後一まで待って欲しいと連絡がありました」
宿泊所のお姉さんから連絡が来た。
「あのう、廊下に立っている方を何とかして欲しいのですが」
廊下にって、先生に立たされたのかな。
「あ、すみません。私の護衛です」
ジュレイの護衛だったか。そりゃ王女様だから、帝城に来るにも護衛ぐらい着くよな。
武装した人が廊下に立ってるとまずいよね。とりあえず中に入って貰おう。
「ねえねえ、おねえさん。帝城の外って危ないの?」
ヒイがジュレイの護衛を見て思いついたようだ。
「そうね、女の子が一人で歩くのはやめておいた方が良いよ」
ジュレイはヒイに優しく答えた。
「センセーが勝手に外へ出ちゃダメって言うのはそう言うことかあ」
ヒイがしきりに感心する。
「流石に天都は強い奴がいっぱいいるんだ」
「いやそう言う意味じゃない。君達に勝てるやつはめったにいないと思う」
ジュレイは白虎国からの帰り道で、彼女達の理不尽なまでの強さは知っている。
「じゃあ、どうして?」
ジュレイは答えに詰まったみたいだ。ジュレイの険しさがほぐれたようだ、放って置こう。
「いやそれはだな、・・・クーヤ殿は君に危ない目に遭ってほしくないんだ。そうだそれに違いない」
何とか無難にまとめたようだ。
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〇帝城 天帝執務室
昼食後、俺とジュレイは天帝様の執務室に来ていた。
俺達の正面には例によって、天帝様とコウメイ様が座ってる。
「白虎国の王妃が軍警に捕らえられたという話じゃが、我々の方には参考人として招致すると言う申請だけじゃ。何か情報が間違っておらぬか?」
天帝様はジュレイの話を少し割り引いて聞いている様だ。
「しかし、事務所に居た者の話では、かなり乱暴に連れていかれたと聞きました」
「待て、いかに軍警とは言え、白虎国の王妃に乱暴な真似はせんはずだ」
「でも母に連絡がつかないのです」
ジュレイは明らかに焦ってる。昼食も用意してもらったがほとんど喰わなかった。
「天帝様、軍警に俺を派遣してください。様子を探ってきます」
このままではらちが明かないと思った俺はそう提案した。
「ちょっと待て、クーヤと軍に軋轢を作りたくない。自重してくれ」
俺が軍部と対立するとまずいのかな。コウメイ様がくぎを刺す。
「ではどのように?」
「軍警には面会申請があった時点で、すでに使いを出してある。もう少し待ってくれ」
軍警は天都軍の駐屯地にあるから帝城からは数十分の時間がかかる。
様子を見るだけなら、そろそろ帰ってきてもいい時間だ。
「俺に軍ともめるなと言うのはどういうことですか?」
コウメイ様に疑問を聞いてみる。
「嘉峪関の汚職の件、俺は黒幕まで追求したい。お前の出番はまだ先の予定だ」
コウメイ様は黒幕と対峙するようだ。それに俺は必要になると考えている様だ。
「それはいつ頃になる予定ですか」
「そうだな、嘉峪関に行っていた兵が帰ってくるのが20日後ぐらいになるだろう。それぐらいにはケリを付けたいな」
コウメイ様には黒幕の正体は分かっていそうだ。
俺としても対決が短期間で済むならその方が良い。
その時、侍従が入って来た。
「白虎国の王妃様が釈放されました」
ジュレイが立ち上がり、詳細を聞きたそうにしたがコウメイ様が止めた。
「それで、状況は?」
「はい、すぐに天帝様が私を使いを出したことで、尋問は簡単なものになったようです。罪に陥れる可能性もありました」
「目的は何だと思う?」
「はい主計局の係長の自殺で幕を引き切れないと考え、黒幕を擦り付けようと考えたのかと」
俺は日本で犯罪者にされかけたことを思い出し、怒りで震えた。
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〇天都軍 軍警詰め所 第三者視点
侍従が帝城に帰る少し前。
詰め所の奥、誰も近づかぬようにした高位貴族用の応接室の重い扉が軋んで開いた。
軍警総監ハクギは、靴音を響かせながら薄暗い室内へと足を踏み入れる。
部屋の中央には、白虎国の王妃が静かに座っていた。
華麗な衣装は影を吸い込み、彼女の表情だけが魔法の光に浮かび上がる。
「……王妃殿下。ご協力いただけることを願います」
ハクギの声は低く、しかし揺らぎがなかった。
王妃はゆっくりと顔を上げ、微笑とも嘲笑ともつかぬ表情を浮かべる。
「軍警が、わたくしを尋問するなど。時代も変わりましたわね」
「変わったのは時代ではなく、宮廷の金庫です。
消えた金貨1万枚の行方を、説明していただきたい」
王妃の瞳が一瞬だけ細くなる。
そのわずかな変化を、ハクギは見逃さなかった。
「あなたは、わたくしを陥れたいのね」
「陥れるのではなく、事実を確認しているだけです」
沈黙が落ちる。
壁に映る王妃の影が長く伸びた。
やがて王妃は、指先で椅子の肘掛けを軽く叩きながら言った。
「ハクギ総監。あなたは忠誠心が強いと聞いています。
けれど忠誠とは、誰に向けるものかしら。
天帝様か、国か、それとも……軍か」
ハクギは一歩前に出た。
その瞳には、揺るぎない決意が宿っている。
「私は、軍に仕える者です。
そして軍を蝕む者が誰であれ、見逃すわけにはいかない」
王妃はふっと笑った。
その笑みは、氷のように冷たく、どこか哀しげでもあった。
「ならば、あなたはこれから強力な敵をつくるのでしょうね」
「覚悟の上です」
ハクギが机に書類を置くと、王妃の視線がそこに落ちる。
その瞬間、彼女の表情がわずかに揺らいだ。
「・・・わざわざ自白書を用意してくれたのね」
「あなたがサインしてくれれば、それでいいのです」
王妃は長い沈黙のあと、ゆっくりと息を吐いた。
その瞳には、諦めとも、反撃の決意ともつかぬ光が宿っている。
「ハクギ総監。
あなたはまだ、帝国の本当の力を知らない」
その言葉に、ハクギの背筋がわずかに強張った。
尋問は、まだ始まったばかりだった。
なんとしても自白書にサインを貰わねば、あの方に消される。
ハクギの顔に汗が一筋流れる。
「総監!天帝様の侍従が王妃様に面会を求めています」
扉の向こうから兵の声が聞こえる。
馬鹿な!なぜ天帝様が・・・。
今までこんなことは無かった。
頭の中であの可愛い顔をした天帝が悪魔のように変わっていく。
終わった・・・。
ハクギは自白書を丸めてポケットに入れた。
「お通ししろ!」
再び重い扉が開いた。
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〇白虎国府 第三者視点
車止めに入って来た馬車から降りる王妃。
ジュレイは帰って来た母親に抱き着いた。
「母上、あいつらの狙いは何なのですか?」
「あなたは知らなくて良いのです。巻き込まれてはなりません」
王妃は優しく、強い口調で言った。
「・・・ははうえ、どういうことですか?」
ジュレイは納得できなかった。
「白虎国のためを思うなら、何もなかったことにするのです」
王妃は後は何も言わず、建物に入って行った。
「母上、ジュレイは納得できません。軍警は白虎国を貶めたのです」
一人呟くと帝城に向かって歩き始めた。
「ジュレイ様、どちらへ?」
護衛の一人がジュレイの行手を塞ぐ。
ジュレイとて一人で軍警の組織と戦えるとは思ってない。
ただクーヤなら道を示してくれるのではないかと思ってる。
「帝城に戻る。着いて来い」
ジュレイは護衛を避けて足を速める。
護衛は緊張した面持ちで後を追った。
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〇某所 第三者視点
豪邸の奥まった一室でその男は怒っていた。
「おのれ小娘、俺が目こぼししてやっていたから、その地位に就けたとなぜ判らんのだ」
前に立つ若い男は何も言わずその様子を眺めている。
前天帝を殺してやった。
皇太子は殺せなかったが、立つこともできない体となった。
御しやすい少女を天帝に祭り上げた。
もうこの国に俺に逆らうやつはいないはずだった。
それなのにハクギが死んだ。
俺が目を掛けて育てて来た男だ。
男は机を拳で叩く。
「ハクギよ!」
「閣下、ハクギ殿は証拠を残さず、自身が単独で犯行に及んだと遺書に残しています。後腐れは無いかと」
「分かっておる。産業革命後の西域の利権を握るためには、必要な一手だったのだ」
「はい、王妃の自白を引き出し、白虎王を嘉峪関に送った兵で攻める。天帝さえおとなしくして居れば成功していたと思います」
「誰だ、誰かが天帝をそそのかしているのだ。おいぼれ宰相ではあるまい」
「近衛師団長ではないですか。最近警備が厳しくて、天帝様の近くに密偵が入り込めなくなっております」
「ゲントクか!・・・しかし、奴だけではあるまい。嘉峪関の事も俺が手を打つより早く知られていた」
「それには、あのクーヤという男が関与したらしいです」
「ああ、いつの間にか相談役になっていた男か。俺の邪魔をするなら早いうちに消した方が良いか」
「しかし、あの男が居ないと産業革命は成りませんよ」
「そうだな、今石炭・鉄鉱石・綿・麻・絹などの原料の利権を集めているから、それがぽしゃるのは面白くない」
「それらは学校の卒業生が出てくれば勝手に広がっていくでしょう」
「では、利権が有効になるまで泳がせておくか。しかしゲントクは足をすくってやらねば気が済まんな」
「しばらくは動かぬ方が安全です」
「では干支座を使って情報収集をせよ」
「はい」
「そうだ。死んだ係長は族長であったな。奴の一族を追い込んで利用できるようにしておけ」
「はい」
その時兵が若い男に近付きメモを渡した。
「閣下が魔人討伐に送り込んだ異世界人の勇者が、魔人に敗れて帰ってくるらしいです」
「そういやそんな奴がいたな。魔人に勝てれば取り立ててやろうと思ったが、負けるような奴はいらん」
「では放逐いたします」
「ああ、それでいい」
「ちょっと待て!ゲントクにぶつけるのはどうだ」
「そうですね。いいかもしれません。私達の素性も知りませんから」
面白かったですか?何かで評価して頂けると参考になります。
次回は帰って来た勇者の予定です。




