2-13 依頼終了
ご愛読、ありがとうございます。
2章はこれで終わりです。
虎に跳ね飛ばされたクーヤは崖を落ちていく。
〇朱雀国歴代王の墓所 転移84日目
俺は墓所に行く道の脇にある崖を落ちていく。
ヒイはちゃんと戦えたのにな。
まあ、虎が生きていたとしても両目がつぶれてるから、あの子達は大丈夫だろう。
崖の高さは100mはあるだろうか。
手足の届くところに取っ掛かりはない。
こりゃ死んだな。
そう思った瞬間、頭の中はヒイとミヤ一色となった。
俺が死んだらあの子達はどうなる。
路頭に迷うんじゃないか?
死ねない。死ねないぞう。
少しでも崖に近付け、垂直に切り立った崖でも、手を引掛けるところぐらいあるだろう。
体を操って空気抵抗で崖に進むように調整する。
もう地面が迫って来た。
まだ手は届かない。
くそ!!、ダメか、もうダメなのか。
目の前に黒い影が・・・。
落下速度が急激に遅くなっていく。
俺は体勢を整え、足から着地した。
正面を見るとナータが俺を引っ張り上げようとしていた。
「君が助けてくれたのか?ありがとう」
ナータは返事もできないほど消耗していた。
そこは崖から崩れた石が斜めに積もった場所だった。
ナータは地面に座り込んだ。
こいつの異能は瞬間移動と重力制御。
瞬間移動で俺の目の前に現れて、重力制御で俺の落下速度を緩めたわけか。
「ぼ、僕の異能は・・・僕自身にしか効かないから、・・・持ち上げるのに・・・疲れた」
ナータが青息吐息の状態でそう言った。
俺は再生の異能をナータに掛けてみる。
「お、楽になった。君いつの間にこんなことが?」
この異能はアカネからもらったものだ。
「まあ、俺にもいろいろあったからな」
ナータに手を貸し、引き起こす。
「さて、僕は帰るよ。これでも忙しいんだ。王子だからね」
「君に礼がしたい。どうしたら良い?」
「うーん、そうだねえ。・・まっ貸しにしとくよ。じゃあね」
ナータの姿はかき消えた。
俺は従者通信で無事を知らせた。
俺は上を見上げた。100mのほぼ垂直の壁である。
『ナビさん、登坂ルートを』
ナビさんは俺の視界から、俺の体力に合った登坂ルートを選択してくれる。
「ええ、これってジャンプして登れってこと?」
ナビさんの示したルートは線でなく点だった。
俺は点を目標に4、5mずつ飛び上がって、上の道にたどり着いた。
「ふう、俺ってこんなこともできるんだ。解ってたらもうちょっと戦い方もあったかな」
自分の能力を把握せずに戦ったことを反省した。
虎はすでに息絶えていた。
今見ると戦っていた時より小さく見える。それだけ俺が圧倒されていたんだろう。
「センセー!」
ヒイが上がって来た。ハイジに跨ってるから他の従者より早いんだろう。
「うわー、ハイジの倍くらいあるよ」
横でハイジが不満そうにそっぽを向く。
「なんでえ、ホントの事でしょ」
ハイジに不満をぶつけるヒイ、まるでコントである。
他の従者たちも現れ出した。
「うわ、近くで見るとより大きいんだ」
「こんなのとやったのか。信じられん」
「こんなのに勝つなんて、すごいんですね」
好き勝手に盛り上がってる。
俺は虎の死体を収納庫に入れる。
「さあ、王城に行くぞ」
崖から落ちたことは秘密にしておこう。
******
〇朱雀国 王城
一人残したアオイの文句を聞きながら王城に戻って来た。
ホテルからの連絡がついていたのか門番はすぐに城の中に入れてくれた。
皆を車に待たせて、前に王女さん達とあった部屋に通された。
宰相とトウガイが連れ立って入って来た。
「魔獣の様子を見に行ったと聞いた。どうであった?」
「ああ、全長は5mを越えていたな」
「で、退治できそうか?」
「退治したらいくら払うのか?」
「金貨50枚でどうだ?」
「しけてるな」
「無理をいうな。小さな国だし、物入りだからな」
「よし分かった。じゃあ金貨を持ってこい」
冷静に話していた宰相が胡散臭そうな顔をする。
「勘違いをするな。魔獣を退治してからだ」
調子に乗るなとばかりに言ってくる。
「もう退治してきたぞ」
宰相は「なに!」といって驚いた。
「し、証拠はあるのか?」
「あるよ。虎の死体を持ってきた」
「な、なにい!、見せてくれ」
「ここでは部屋が汚れる。出せる場所はあるか」
「そうかそうだな。では中庭でどうか?」
「案内してくれ」
俺達は中庭にでた。
「じゃあ、良く見てくれ」
俺は虎を出した。
「おお!」
何回見てもでかい。宰相も感極まっている。
「これで継承の儀式が出来る。トウガイ、皆を呼んで来い。魔獣が滅んだことを見てもらうのじゃ」
やがて大勢の人々が押し寄せ、虎を見て行った。
俺は虎に触らせることはしなかった。売るつもりだからな。
小一時間後、見物客を下がらせ、虎を収納庫に仕舞った。
再び部屋に戻った俺は宰相に依頼金を求めた。
「トウガイ、用意せよ。それであの虎はどうするつもりだ」
「見栄えがいいから売るつもりだ。あんたが買うか?」
宰相は少し考えた後、首を横に振った。
「あれでは金貨数百枚を下るまい。我が国には無理だな。即位とかに金が要るからな」
娘の旅費を使ってしまった青龍国の王様よりは賢そうだ。
そこにトウガイが金を持って現れた。
「受け取れ」
「おう、ありがとよ」
俺は収納庫に金を放り込んだ。
「じゃあ、天都に戻るけど天帝様への返書はあるか?」
俺はここに来た時に天帝様からの書類を渡したことを思い出した。
「ああ、そうであった。今から書くから1時間ほど待ってくれるか」
「そうか、じゃあ、昼飯でも食ってくるか」
「じゃあ、コウシュウホテルに行ってくれ。俺が奢る」
「ありがとう。じゃあ、行ってくる」
俺は全員を連れてホテルに行き、トウガイの書付を渡して昼食を取った。
コウシュウは、いろいろな食材に溢れているがちょっとね。
蝙蝠や蛇、ネズミの胎児、水ゴキブリ、ジャコウ猫、ウサギ、カエルなどなどがメニューにあったが牛肉料理にしておいた。
戻って宰相に返書を貰った。
「しばらくしたらトウガイを天都に出す。何かあれば力になるからそのつもりでいてくれ」
宰相はそう言って俺達を送り出してくれた。
******
〇天都 帝城 転移88日目
昼頃に帝城に着き、天帝様に面会を申請して、久しぶりに帝城の俺達の部屋に戻った。
「ふう、結構長かったな。ちょっと疲れたよ」
「私達はあまり役に立たなかったな。すまん」
俺の感想にアカネが謝罪する。
「いや、君達には運転してもらったし、助かったよ」
アカネとマシロにはワゴンの運転をしてもらって、本当に楽が出来た。
流石に虎の魔獣の相手をさせる訳にもいかんからな。
1時間ほどで天帝様からのお呼びがあった。
天帝様の執務室に入るとすでに天帝様と宰相が居た。
「ご苦労であった。朱雀国からは連絡があった。どうせお前が何かやったのだろう」
「はい、先代様が亡くなって、墓所で儀式をするところ、虎の魔獣が住み着き儀式が出来ませんでした」
「虎の魔獣だと。おぬしが退治したのか」
天帝様が身を乗り出した。
「はい、ここにいるヒルダと私で退治しました」
俺の横に座っていたヒイの頭を少し乱暴に撫でる。彼女は得意げにニッと笑った。
俺は虎との戦いの様子と朱雀国の様子を天帝様に話した
「さようか、よくやった」
天帝様はニコニコだ。
「それで虎はどうした」
「持ってきましたよ」
「見せよ」
俺は外の通路に出て虎を見せた。
「おお、こんなのに勝てたのか!」
天帝は目を見開いて大はしゃぎだ。
いつの間にか虎の周りには人垣ができていた。
「クーヤよ。この虎を朕に譲ってくれぬか?」
「はい、そう言っていただけると思っておりました」
「宰相!朕はいくらを払えばよいと思うか?」
「さようですな。おそらく史上最大の虎でしょう。金貨1000枚でいかがでしょう」
げげ、金貨1000枚って日本円換算1億円か。
「うむ、それぐらいの価値はあるじゃろう。宰相、用意しておけ」
「はい、クーヤ殿、台車を用意するのでそれに乗せてくれるか?」
「分かりました」
俺は虎を一度収納庫に入れ、台車の上に出した。
「あれは剝製にして謁見室に置くのがよろしいかと思いますが」
「ええ、毛皮にして朕の部屋で絨毯替わりに敷こうと思ったのに」
天帝がそう言うと宰相が怖い顔をした。
「う、ちょっと思っただけじゃ。そうじゃな、謁見室に置いてまつろわぬ者どもに、我が国の威厳を見せるのは良いことじゃ」
ほう、この子は自分の我儘を通そうとはしないらしい。見所があるじゃないか。
「産業革命のことは明日時間を取る。今日のところは体を休めるが良い。依頼の半金と虎の代金は宿泊所に届けさせる」
天帝様がそう言うと宰相が近寄って来た。
「今回は朱雀国と信帝国を助けていただき、ありがとうございました。クーヤ殿のおかげで帝国内に波風が立つこともなく事態は収束しました」
裏でなにかあったのだろうか。まあ、感謝してくれてるならいいか。
******
〇帝城宿泊所 第三者視点
「私の事、何も聞いてくれなかったね」
アオイがぼそっと呟いた。
食卓にはアオイ、マシロ、アカネの三人だけが居た。
「そりゃあ、あの人値は私達の事なんか気にしてるはずないじゃない」
「でも、今回の依頼に私の事も入ってたんでしょう」
「それは、クーヤさんに依頼を受けさせるためだよ。あの人達にとって私達がどうなろうと気にしないんだよ」
アオイは、今回の依頼に自分が含まれていたことで、この世界に自分の居場所があることを感じていたのだ。
それが天帝達に無視されたことで自分を見失いそうになっていた。
「それって、私はいらない子ってこと?」
「それは違う。アタイらは命を懸けておまえを迎えに行っただろ」
「そうよ。まだ私達はこの世界に必要とされていないわ。だから、努力してこの世界にしっかりと私達の名前を刻むのよ」
「どうすればいいの?この世界に必要にされるには」
「クーヤの従者になるのが早道だろうな」
「そうね。従者になれば言葉もしゃべれるし、魔法を使えるようになるわ」
「あいつには大物になれる素質がある。でも精神が伴ってない。だからアタイらがケツを叩いてやらないといけない」
「そうね。クーヤさんを大物にして私達もついて行きましょう」
「分かったけど、あいつは私を従者にしてくれなかったんだ」
「あの時は会ったばっかりだからな」
「今だったら、大丈夫よ。あの人は日本で人に裏切られたりしてるから慎重になってるだけよ」
ちょうどその時、執事室の扉が開いてクーヤが出て来た。
背中にヒイがおぶさり、右手にはミヤがしがみ付いていた。
「ワリい、この子達の相手をしてくれないか。明日までにプレゼンを考えたいんだ」
「じゃあ、私を従者にして」
アオイは右手を伸ばして、自然にクーヤを求めていた。
クーヤは何かに気付いたような顔をした。
「ああ、そうだな」
クーヤが言ったとたん、何かが体に張り巡らされる。
「アッ!アッ!アーー!」
いや、恥ずかしい声が出る。私が私でなくなるような。
『アオイに魔力回路を付与しました。続けて従属契約を実施します』
誰かが頭の中でしゃべってる。あれ、何も感じない。
従属契約って言うぐらいだから、拘束されるような感じかなって思ってた。
『従属契約を締結しました。ライブラリ信国語をインプラントします。
異能身体強化、従者通信、脳内地図、インストールをコピー、使用可能です』
なんか、頭の中をかき回されたような感じだ。
『固有の異能磁力制御をご主人様にコピーします。以上で従属契約を終了します』
終わった?まあ、聞いてたからこんな感じかな。
「アオイ、従属契約は締結された。お前は俺の従者となった」
面白かったですか?何かで評価して頂けると参考になります。
登場人物、異能を紹介してから3章に入ります。




