2-6 新たな従者
ご愛読、ありがとうございます。
従者が増えます。
近衛の練兵場を借りて運動がてら、剣の練習をしていたクーヤ達に近衛師団長が話しかけて来た。
〇帝城 近衛師団練兵場 転移74日目
近衛師団長に急に声を掛けられた俺はちょっと構えた。
「はい、俺がクーヤです。何か用でもありましたか?」
近衛師団長は紺色の上下に襟が赤、袖口とズボンの裾が金色に縁どられていて、とても貫禄がある。
「いや、朝一からカクタスと言うものが、君を剣の指導者にしろと言って来たのでな」
あいつ本当に行ったのかよ。困った奴だ。
「すみません。悪い奴じゃないんですけど、脳筋でいいこと思い付いたと思うとブレーキが利かないみたいで」
「いやカクタスが中隊の猛者達を倒した事は聞いているし、彼は君が鍛えたんだろうし、今の練習を見ただけでもその資格はあると思うぞ」
まあ、そうなんだけど、近衛って千人以上いるんだろ。そんなの相手にできないって。
「まあ、そうなんですけど・・・」
どうしても歯切れが悪くなるのも仕方がない。
「君が天帝様の仕事を請け負っているのは知っているから、空いた時間に指導に来てくれればいい」
そこまで言われたら断れないよな。
「一週間は天帝様の仕事で、まとまった時間を取るのは難しいと思いますが、出来るだけご希望に添えるように努力します」
師団長は近衛府へと戻って行った。
「おい君、師団長閣下と話してたがどういうことだ」
あ、中隊長さん?だ。忘れてたよ。
「ああ、空いてる時間でいいから、剣の指導をしてくれと頼まれました」
「ほお、まあ、君とその子の試合を見ていたがすごかったからなあ。他の中隊長たちに連絡は通しておくから、指導はここに来てくれたらいいから」
「一週間は忙しいんですが、天帝様の仕事が一段落したら、また来ますね」
「おお、頼むぞ」
あ、そうだ疑問があったんだった。
「一つ教えていただきたいのですが、なぜ本物の馬を使っておられるのですか?」
「ああ、ゴーレム馬は馬車とかは良いんだけど、騎馬で戦うのには向かないんだ。ある程度足でも操作できる馬の方が戦える。馬車の護衛とかの仕事も多いんだ」
なるほどなあ。今後ゴーレム車を作るときに有用な考えだな。
「ねえねえ、僕達、また練習に来ても良いかな」
俺の後ろからヒイが顔を出す。
「ああ、君達なら大歓迎だ。なんなら、うちの兵隊を鍛えてもらってもいいぞ」
「ちゃんと中隊長さんに挨拶してからだぞ」
「はい」
「はい」
どうもうちの娘の実力も認めてもらったみたいだ。これで俺が手が離せなくても彼女達の暇潰しが出来るな。
時間を見るともう昼になるので、部屋に戻らないと昼食を食いっ逸れる。
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〇帝城 宿泊所 転移76日目 アカネ
今日もヒイちゃんとミヤちゃんは近衛の練兵場に行った。
最近はハイジも連れて行ってる。馬が怖がるので子犬サイズだそうだ
クーヤは食事時以外執事室から出てこない。天帝様に出す資料の作成に没頭しているのだ。
私達と言えば毎日リビングの机に並んで腰かけ、駄弁っているだけ。
私達がこの世界に来て2か月半、何にもしていない。
悪く言えば引きこもりだ。
「よし決めた、私クーヤさんの従者になるわ」
急にマシロが立ち上がった。
まあ、私達がまともに働こうとすれば、それしかないけど。でも不安だ。
「でも、クーヤなんて中身はおっさんだぞ。怖くないか?」
「怖がってても仕方ないわ。ヒイちゃん達への対応見れば、そんなに怖がる必要はないと思うよ」
「確かにかなり自由にさせてるし、父さんみたいな感じだ」
それでも私は怖い、男に怖い目に遭ったことがあるから。
「じゃあさ、私達って自立しようとしてなにができる?言葉もしゃべれないし、魔力もないんだよ」
「言葉はそのうち話せるようになるよ」
なんにも努力してないのに・・・。
「言葉話せたところで何が出来るの?出来るのなんて売春婦ぐらいだよ」
ああ、言われてしまった。解ってた。解ってたんだ。
私はパソコンのデータ入力が出来ても、パソコンを作ることはできない。
この世界で必要なスキルはないんだ。
涙が出て来た。私は無能だ。無能から脱却する手段があるのに、それをしない臆病者だ。
「アカネはさ、私が従者をするのを見て決めればいいよ。私さ、薙刀やってたでしょ。だからクーヤさんのすごさが解るの。ヒイちゃんやミヤちゃんみたいになりたいと思ってしまうのよ」
そうかクーヤのことを尊敬してるのか。私も彼のことはすごいと思ってる。
孤児を二人も養ってること、その子らに生きがいを与えていること。
私達にも同じことをしてくれると言う。私も思い切るしかない。
「分かったよ私も従者になる。他に道はないのに今まで何を迷ってたんだろ」
「嬉しい、私もちょっと不安だったからさ。良かったかどうかはアオイに判断してもらおう」
「そうだな。しかしアオイならクーヤも喜ぶんじゃないか。あいつリケジョだから」
アオイは私達の一つ下の後輩だからまだ高校生で同じ施設に居た。私達のアパートを見に来た帰りに転移に巻き込まれた。今は信帝国の南の端の朱雀国にいるはず。
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その日の夕方、私達は夕食が終わって、仕事に行こうとするクーヤを捕まえた。
「クーヤさん、少し時間いいかしら」
「うん、なに?」
ヒイちゃんとミヤちゃんは使い終わった食器を片付け、ワゴンに乗せている。
リビングにある食卓兼会議机に相対して座るクーヤと私達。
緊張する私達に対してクーヤはのんびり構えてる。
従者になった時のことは聞いていたからマシロが言った。
「担当直入に申します。あなたの従者にしてください」
それに対してクーヤは少し眉を上げたぐらいで表情に変化はなかった。
まるで私達が言ってくるのが解ってたみたいだ。
「良いよ。もし従者が嫌になったらいつでも辞められるからね」
「ど、どうすればいいにょだ」
緊張しすぎて噛んでしまったのだ。
「そう緊張しなくていい。ナビさん、始めてくれ」
クーヤが言ったとたん、何かが体を駆け巡る。
「ハアッ!アッ!アーー!」
なんか、恥ずかしい声が出ちゃうんだけど。
『アカネに魔力回路を付与しました。続けて従属契約を実施します』
誰かが頭の中でしゃべってる。あれ、何も感じない。
従属契約って言うぐらいだから、拘束されるような感じかなって思ってたから拍子抜けだ。
『従属契約を締結しました。ライブラリ信国語をインプラントします。
異能身体強化、従者通信、脳内地図、インストールをコピー、使用可能です』
なんか、頭の中をかき回されたような感じだ。
『固有の異能再生をご主人様にコピーします。以上で従属契約を終了します』
終わった?緊張して身構えた割にあっさり終わった。
「アカネ、従属契約は締結された。お前は俺の従者となった」
「アカネ、どんな感じなの?」
マシロが心配そうに私の顔を覗き込む。
「いや何にも変わった気がしない」
だって、そうなんだから仕方ない。
うん、マシロがクネクネし出した。
『マシロに魔力回路を付与しました。続けて従属契約を実施します』
また頭の中で声が・・・マシロの契約が始まったのか。
『従属契約を締結しました。ライブラリ信国語をインプラントします。
異能身体強化、従者通信、脳内地図、インストールをコピー、使用可能です。
固有の異能結界をご主人様にコピーします。以上で従属契約を終了します』
「マシロにも従属契約は締結された。これで二人は俺の従者となった」
クーヤは信国語で話しかけている。
「分かる、信国語が分かる」
「本当、私信国語を話してる」
「おはよう」
マシロがなんか変。
「どうしたんだ?」
「信国語の”おは”が発音できなかったのに出来てる」
「ああ、それは身体強化が発音できるように神経を繋ぎ変えたんだよ。時間が立てばもっと完全な発音が出来るようになるぞ」
クーヤがどや顔で説明する。
「インストールでいろいろな名人達人を憑依させるけど、神経の繋がりが出来ないと完全に習得できないんだ」
クーヤは理系な説明をしてくる。
「クーヤ、どうした。いやに饒舌じゃないか」
「今まで、こんな話をして理解してくれる人が居なくて、それで嬉しかった」
こいつ、ニシャッと笑いやがって、今まで警戒してたけど、良い奴みたいだな。
「そういや、魔導コンロも使えるようになったはずだ。試してみたら?」
「はい」
マシロが先に台所に行った、うぬ、出遅れたか。
魔導コンロは2台あったので、私も試すことができた。
コンロは五徳の下に多くの小さい穴が円形に空けられていて、そこから火が出るようになっていた。
つまみを持ち、回すとつまみを掴んだ指から、何かが吸い取られていく、これが魔力か。
小さい穴からは赤い火が伸びる。つまみを多く回すと火が大きくなる。
手を離すと消えてしまう。魔力の供給が立たれるから消える訳か。
しかし、赤い火と言うのは違和感を覚える。ガスの青い火に慣れてるからだな。
それから従者通信や脳内地図を確認した。
ヒイちゃんやミヤちゃんに改めて挨拶もした。
私達は明日からはクーヤの仕事を手伝うことになった
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夜、ヒイちゃんとミヤちゃんはもうダブルベッドで寝ている。
私達はダブルベッドから一番離れたベッドに腰かけて話していた。
「あんなに身構えていたのに、あっけなくて肩透かしだな」
「そうよね。あれから私達が逆らえるのかも試したし、結局危ないことは無かったね」
クーヤにじゃんけんでパーを出せと命令してもらって、グーが出せるかの実験をした。
クーヤがチョキを出し、私達はグーを何の抵抗もなく出せたのだ。
クーヤの命令に逆らえたのだ。奴隷になる契約ではなかった。
明日からの私達の仕事も決まったし、もう無力感はない。
自分たちの前に道が開けた気がする。
日本に帰れない以上、この世界で生きていくことを考えなきゃ。
「インストール何にする」
唐突に私は聞く。
「格闘技でしょう。素手が柔道で武器は薙刀に決めてるわ」
「そっか、マシロは薙刀やってたもんね。私も柔道はデフォルトで、やっぱり武器は長い方が有利だよね」
この世界には盗賊や魔獣が居るので護身術をインストールで覚えるように言われてる。
「長柄だと槍とか戦斧になるかな。取り回しの良いのは槍かな」
「戦斧は嫌だな。でも斬るのも捨てがたいな」
「じゃあ、十字槍や鎌付槍はどう?」
頭の中にナビさんがいろんな槍を映してくれる。
「あ、これが良い。片鎌槍。結構来たわ」
少女達の夜は更けていく。
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次回は新たなクエストが天帝様から提示されます。




