1-18 大陸上陸と勇者
ご愛読、ありがとうございます。
今回は大陸上陸と勇者との邂逅です。
ツシマから朝鮮半島に渡る際にミヤはその能力が開花した。
〇朝鮮半島南西端 転移64日目
半島南部に達してから島で風を避けながら西進、南西端に達した。
ここからでも大陸までは400km近くあり、黄海を横断するには遠い。
陸も見えないのに航行するのは危険だし、夜になればさらに危険だからだ。
そこで北朝鮮との国境付近の島を目指す。
そこから西進して黄海に突き出た大陸の半島を目指すのだ。
これは日本の地図アプリを見て決めた旅程だ。こちらの世界に北朝鮮はない。
適当な島に上陸して家を建てていると雨が当たって来た。
ハイジとミヤも慌てて帰って来た。
今日はヒイとミヤに手伝ってもらって夕食を作る。
そのうちこの子達だけで出来るようになるだろう。
だいたいこの子達は俺の世話をさせるために従者にしたのに、なんで戦い中心みたいになってんの。
「ミヤ、ボートの上で飛び跳ねてたのってなんで?」
「あの、私が戦うのはいけないのでしょうか?」
ミヤが必死な顔で俺に言ってくる。こういうのは弱いんだよ。
ミヤは勝手なことをしたのを叱られてると思っているようだ。
「前も言ったが危ないことをしてくれるな。あの時、海に落ちたら死んでたんだぞ」
「でも私が戦えることを見せないと、ご主人様に捨てられるのではないかと不安です」
盗賊の時にヒイに弓矢をやらせたのが問題だった。あれで従者は戦えないとと考えるようになったようだ。その前は抱いてもらえないと安心できないとか言ってた。
何度も捨てないと言っているのだが、安心できないみたいだ。
この娘は結局俺に依存したいのだ。そのためなら命も賭ける。
時の流れに任せるしかないのだろうか。
〇朝鮮半島の西側 転移65日目
雨で視界が悪く速度を出せない。
風はないが視界が1kmほどしかなく、岸に沿って航行するほかなく距離も増える。
カクタスが運動不足を嘆き、バウバースに降りて腕立て伏せをやっている。ヒイ、ミヤも最初は面白そうに真似していたが、すぐに飽きて脳筋を邪魔そうに見ている。
「なんだヒルダもミヤももう降参か?俺はまだまだいけるぞ」
「カクタスさん、暑苦しいから」
ヒイにそう言われたカクタスはお坊ちゃんである。こんな言葉は言われ慣れてない。
膝を抱えてしょぼんとしている。
「ごめんなさい、言い過ぎました」
ヒイが謝ると気を良くしたカクタスが顔を上げる、覗き込んでいた俺やリョウカ様達と目が合う。
「お前ら!・・・」
顔を赤くしてまた膝を抱える。
「あのなあ、視界の悪い中走ってんだぞ。見張りぐらいしてくれ」
俺が文句を言うとヒイとミヤが上がってくる。
「僕たちが見張るよ」
ヒイとミヤが助手席を半分こして座って進行方向を見つめる。
俺もとカクタスが起き上がるが、バウバースは1m強の高さしかない。当然頭を打った。
3人がキャビンに上がって来たので、狭くなりリョウカ様とハンナさんはバウバースへ降りて行った。
「センセー!!正面になにかあるよ!」
早速ヒイが200mほど離れた暗礁を見つけたようだ。そこだけ少し波の様子がおかしい。
俺は余裕を持って舵を左に切る。
この日は雨のせいで200kmも進めなかった
******
〇朝鮮半島の西側 転移66日目
まだ雨がやまない。
梅雨の時期には早いので近々やむのだろうが、そういや朝鮮半島に梅雨はあるのか?わからん。
俺が目指してるのは黄海に浮かぶ小青島と呼ばれる小さな島だ。ここから大陸は百数十kmと半日ぐらいの距離だ。それが遠い。
距離的には今日中には着けると思うが、明日も雨なら、目標もなく百km以上は走れないからな。
ああ、GPSが欲しい。いや、システムはあるのだが衛星がないのだ。
海流や風で方向を失えば迷子になってしまう。
突き出た大陸の半島には崑崙山(伝説の崑崙山とは違います)という高い山があり、晴れれば見える来るはずと思っている。
夕方に小青島に着いた。明日は晴れることを祈ろう。
******
〇小青島 転移67日目
晴れた。雲一つない青空だ・・・大陸は見えない。
俺ががっかりしているとナビさんが言って来た。
『崑崙山の高さですと計算上100kmぐらいまで、近付くか高い所に登るかをしないと見えません。下手をすると海岸の方が、早く見えるかもしれません』
地球が丸いって実感するよ。水平線に遮られてその向こうは見えないのだ。
「久しぶりに晴れたな。今日は大陸に上陸だな」
カクタスも気持ちよさげに伸びをする。
まあ、出発した島との角度を見ながら航行れば、大陸も見えてくるでしょ。
いつものように朝8時に出発。
出発してから2時間後。ようやく大陸が見えた。
流石出てきた島が見えなくなったときは焦ったけどな。まあ、皆には内緒だ。
ヒイとミヤが選手に走っていく。
「本当に見えたよ」
「あそこに行くのね」
行けども行けども海ばっかって不安だよね。
「センセーあそこに行くんだね」
「上陸するところはもっと奥だ」
ヒイはキャビンに戻ってきても興奮が抑えきれないようだ。雨で退屈してたからなあ。
昼食をおにぎりで済ませた頃、南に大陸の出っ張りを西に航行る。
「センセー、どこまで行くの」
なかなか上陸しないので、ヒイがイライラし出したようだ。
「煙台と言う街だ。カクタスの地図によると主要街道がある」
カクタスが案内役だが、彼もオオサカまでしか行ったことは無い。
「主要街道ってなあに?」
ヒイが首を傾けて尋ねる。可愛いな、この!。
「広くって良い道だってこと。車が早く走れる」
「もうお船には乗らないの?」
「ああ、船は終わりだ」
やはり船はトイレ休憩がないし、景色もあまり変わらないから退屈なんだろうな。
俺達は煙台港の手前の砂浜にボートを上陸させる。街道は港から始まっているみたいだからな。
ボートを収納に入れて、少し木陰で休憩をする。
ハイジとヒイは久しぶりの広い場所で走り回る。
「クーヤよ、この先はどうなるのじゃ?」
俺は信帝国の地図を出し、リョウカ様に説明する。
「まず、西に走って邯鄲を目指します。順調にいけば2日ぐらいです」
俺は地図を指でなぞる。
「その後、南に向かって鄭州に行きます。これは1日かかります。それから西に向かえば3時間くらいで天都です」
「では後3日半で天都へ着くのか?」
「順調にいけばそうなります」
距離は地図アプリで拾ったものだ。実際の距離とそうは変わらんだろ。
カクタスが指を折って数えて驚いている。
「14日だと、今まで一番早くてひと月半掛かってたんだぞ。それを14日・・・」
「まだ分かんないよ」
これにはヒイの家が大きく関与している。まともに行けば宿の都合で移動距離が制限されるが、ヒイの家があれば走れるだけ走ればいい。船はもっと制限されるし、風待ちなことも多い。
一日の移動距離は陸路300km、海路250kmと言ったところか。
「ヒイおいで、出発するぞ」
「はーい」
人に見えないところで車を出し、出発する。
まずは港に向かう。ここからは大連行きの定期船が出てるので結構にぎわっている。
邯鄲に向かう街道に出た。荷物を載せた荷車が行き交う。人が大声で叫んでる。港が近いと実感させる。
突然!車の前で両手を広げる人間が飛び出した。そいつは革の全身鎧を付けた女性だった。
助手席からカクタスが飛び降りて女に叫ぶ。俺はいざという時に車で逃げるために降りない。
「誰だ!!」
「待ってくれ!この乗り物は君のものか!」
カクタスも女性も大勢のいる前なのでか、剣を抜いてない
カクタスは言葉を発さない。乗車している人の身分を明かせばまずい場合がある。
「どけ!」
「この乗り物は私がいた世界のものなのだ。話を聞きたいだけだ!」
カクタスに比べると格段に小さい女性が声を張る。この車が異世界転移したものって解ってる?。
押し問答をしていると勇ましい女性3人がカクタスを囲む。
「ベル、こいつは魔人の手先か?角生えてるし」
褐色の肌のビキニアーマーの女が剣に手を掛け、革鎧女に声を掛ける。
「こいつは龍人族よ。青龍国人かもね」
黒っぽい服と裳を穿いてアカザの杖を構える女が言う。
「ちょっと待って、何か事情がありそうよ」
白い僧服を着る女が止めて革鎧女に顔を向ける。
「ごめん、みんな、私はこの人達に話を聞きたいだけなんだ」
ベルと呼ばれた革鎧女が他の女達を制止する。
うーん、どうするべきか。今はリョウカ様の護衛として動くべきなので対応が難しい。
「クーヤと同じ日本の人間なのか?このままではらちがあかん。話を聞いてやれ。それともひき殺すか?」
リョウカ様が怖いことを言う。
俺はドアを開け、カクタスに叫ぶ。
「カクタス、代わろう!」
俺は念のため、ヒイ達に武器を出してやり、車を降りてカクタスを運転席に乗せる。
「話を聞こうか」
俺は丸腰で革鎧の女に話しかける。
「あなたの乗っていた乗り物は日本のものではないのか?」
「その前に名乗るべきではないか」
焦って俺から情報を仕入れようとする女のペースに巻き込まれることは無い。俺はこれでも10年以上社会経験がある。
女の表情が変わった。覚悟を決めたようだ。
「失礼しました。私は2年前に日本からこの世界に来た田中鈴鹿と申します。今は信帝国の勇者としてベルディアと名乗っています。東北部にいる魔人と戦うため、大連に行くのに、ここで船に乗りに来ました。この女性3人は私のパーティーですがこの世界の人達です」
間違いなく日本語を話して居る。本当に日本人なのか。
俺も日本語で返す。
「俺は2か月前にこの世界に来た浅野空也と言う。聞きたいことは何だ」
この世界で初めて会う日本人なら隠すことはあるまい。
「私は日本に帰りたい。その術を知りませんか?」
俺にはその能力はあるが、2年前になら送れるのかな、良く解らんし、俺はリョウカ様の護衛を優先するべきだ。ここでそれを話すべきではない。
「俺はそれを天帝様に聞きに行くのだ。もし聞きたいなら天帝様のところに来てくれ」
俺は罪悪感を感じながらも回答を伸ばすことにした。
「解りました。ではあの車はどうしたのですか?」
「あれは俺と一緒に来たんだ」
ごめんよ。いま本当のことを言うと放してもらえないだろうからな。
「車の中にいるのは誰ですか?」
もう一つ信用されていないようだ。仕方ない。
「誰にも言わないでほしいんだが、青龍国の王女様だ。天帝様の巫女になる予定だ」
「あ、失礼しました。無礼をお許してくださいとお伝え願います」
焦ったようにお辞儀をして、「偉い人が中に居るんだって」と他の3人を連れて横に退いてくれた。
流石に王女様、一発だな。最初からばらしたらよかったかな。
俺はカクタスと代わり運転席に座った。
「それでなんだったんだ」
出発しながら俺は答えた。
「信帝国の勇者で俺と同じ国の出身者だ」
「日本と言う国か?」
「そうだ。国に帰りたいそうだ」
「帰れるのか?」
「分からない。俺は帰りたいとは思わないけど、天帝様に聞いてみるつもりだ」
「ご主人様は帰らないのですね」
おっとミヤが被せて来た。
「5年経ったらミヤをお嫁さんにしてくれるんですよね」
「ヒイもだよ」
まあ、そのうち気が変わるだろう。俺とは本当の年齢が20年以上違うんだぜ。
「お前達が他の男が好きにならければな」
「ならないです」
「大丈夫だよ」
そんな事を言ってても三年も経てば忘れてるさ。
「クアハッハッハ!、クーヤ、モテて大変だな」
リョウカ様が無責任に大笑いする。
面白かったですか?何かで評価して頂けると参考になります。
次回は反乱に巻き込まれます。




