1-17 ミヤ覚醒
ご愛読、ありがとうございます。
今回はミアが能力に目覚めます。
盗賊の次は海賊と出くわしたクーヤ達、何かに祟られたりしてるのだろうか。
〇瀬戸内海マツヤマ付近 転移61日目
航海中の昼食は基本おにぎりである。おにぎりは王城で作って貰ったのが、数百個あるのでこの旅では消化できないだろう。移動しながら食べられるおにぎりこそ至高だ。
ボートは順調に進む。基本的にボートや車の運転は俺がやっているが、カクタスにも練習させているから代わることは可能だ。しかし根本的に魔力が不足しているから1日任せることは不可能だ。
腹が膨れたのでみんな眠いようだ。リョウカ様とハンナさん、ヒイもバウバースで横になってる。
カクタスは護衛の仕事なので、仕事中に寝ることは無い。
で、
「ミヤはなぜ起きてるのかな?」
「私はヒイのようにご主人様と一緒に戦いたいのです」
「君も弓を使いたいのかい?」
会ってまだ二日目の少女がこんなことを言う。まあ、出会いからして濃かったからなあ。
「いいえ、私はヒイのようには弓を扱えないと思います」
「じゃあ、どうするんだい」
「私は刀が欲しいです。私はご主人様の隣で戦います」
うーん、困った。弓は敵と離れてるからいいけど、刀となるとなあ。
「俺としては危ないことはしてほしくない」
「でも、盗賊が襲ってきたとき、ご主人様が戦いに出て行った時、心臓がキューってなって、ご主人様が死んだら私は奴隷に戻ってしまう。せっかく新しい家族が出来たのに、また一人になっちゃう。熱で捨てられた時でもこんなに怖くなかった。ご主人様を失うことは死ぬよりつらいことだと分かったんです」
ミヤの眼には涙が見えた。
そうか、ヒイと違って家族に恵まれてないもんなあ。
この世界には盗賊は居るし、魔獣もいる。なんなら魔人まで出て来たし、俺はもう戦わないって言っても空しいよなあ。
どう言ったら納得してくれるんだろう。
「ミヤは戦っちゃだめですか?」
そんな悲しい顔するなよ。
でもまだヒイほどの威力はない。ヒイにこんなこと言われたら何でも許しちゃうよ、俺。
「そうだな、じゃあ、練習してカクタスぐらい強くならなきゃ、俺の横には立てないぞ」
まあ、練習させてカクタスに勝てないと分かれば諦めるだろう。カクタスが後ろで嫌な顔をしているが。
「はい、頑張ります。それから鉄串を買ってほしいの」
「鉄串?バーベキューでもしたいの?まあ、そんなに高いものじゃないし、いいか」
俺は30cm50本のステンレスの鉄串を買ってやった。
この時俺はナビさんの策略が密かに進行していることに気付いていなかった。
いい天気だ。お、あの島は、日本で解散した小父さんアイドルが開拓してた島だよな。こんなところにあったのか。
あと4時間ぐらいで日暮れだ。そろそろ岸に近付いて、夜営の場所を探すか。
こういう時は日本のマップアプリが便利だ。開発されてないところは、ほぼそのままだからな。
無人島に近付いていく。
「どうするんだ」
カクタスは俺の意図を測りかねたようだ。
「ああ、この島の裏に砂浜がある。そこで夜営するつもりだ」
「なんでそんなことが解るんだよ」
衛星写真があるから解るんだと言っても理解されないだろうな。
こういう時は「俺の異能だよ」と言っておく。
50mくらいの砂浜の中央にボートを乗り上げる。梯子を降ろしてまずカクタスが降りて確認する。
あたりを警戒して何もないと判断する。
「よし、大丈夫だ」
カクタスが声を上げるが、すでにうちのお嬢さん方が強化された五感で探索してナビさんがOKしてる。
海岸の様子を見て満潮時の海面を推測する。朝起きたら波が押し寄せて来てたでは、話にならないからな。
いつものように家を建てる。陸に民家はないし、航路の裏側だし、漁師も引き上げている時間なので、まず見つかることは無い。
日暮れまでまだ1時間以上あるので、まだ周囲は明かるい。
「センセー、合気道の練習しよう」
一応俺はヒイが村を守れる戦士となれるように、訓練する先生だから、付き合わざるを得ない。
砂浜の貝殻などを取り除き、練習場所を作る。
何回か投げられているとミヤが熱心に見学してる。そういや格闘技をインストールしたって言ってたな。
「ミヤもやって見るか?」
「はい」
「じゃあ、僕とやろう」
この頃はヒイも手加減ができるようになったからやらせるか。
まだミヤは体を作ってる最中のはずだから、そんなに動けないだろう。
ミヤとヒイが対峙する。
バッ!
二人が動くが砂は上がらない。ミヤも武道のすり足だな。
これは!
二人が凄まじいスピードで絡み合う。
ヒイが極め切れずにいる。投げを撃つ前の段階で止められているということ。
なぜミヤはこんなに動けるんだ。
「やめ!!」
このままではどちらかがケガをする。そう思ったんだ。
ミヤの技は柔術の一派かぬるっとした動きで、あれは突きも蹴りもある格闘技だ。
「ミヤ、君の技は何の技?」
「ナビさんがトガクレ流とか言ってた」
トガクレ、聞いたことないな。後で調べてみよう。
「センセー、なんで止めるのさ」
「ヒイ、本気になってたでしょ。合気道の技は危険だから、仲間とやるときは手加減しろって言っただろ」
「だって、ミヤちゃん強いんだもん」
ヒイは唇尖らせて向こうを向く。
「ミヤはもう少し慣れるまで、人との試合は禁止」
「どうしてですか?」
「どうも君の格闘技は急所を狙う格闘技だと思う。未熟だと相手に大ケガさせちゃいそうだ」
この子は末恐ろしいと言うか、今まで格闘技なんてやったことないだろうに、ここまで動けるなんて。
とりあえずヒイをハイジの散歩に行かせて、俺は夕食の用意を始める。ミヤは風呂の用意だ。
俺はミヤが手伝うようになってずいぶん楽をしている。
俺としては彼女には家政婦みたいに過ごして欲しいんだけど、獣人の本能なのか戦いを好んでいるらしい。危ないことはして欲しくないんだけどなあ。
夕食後、リョウカ様にこれからの旅程を聞かれた。
「明日はハカタに上陸します。ハカタでは補給をします。主に水ですね」
「ふむハカタか?千年前に我先祖が上陸したところだな」
龍人族は千年前、天帝軍に所属してこの地を征服して、天帝より青龍国として転封された。
「次の日は船でツシマまで行って、次は朝鮮半島に沿って北上して、四日後に大陸に上陸する予定です」
「まだ船旅が続くのか?」
リョウカ様は退屈らしい。かといって今日のように海賊が来るのは論外だ。
「カクタス、お前はハカタに何があるか知っておるか?」
「いえ、大陸からの迎賓館があるぐらいしか知りません」
リョウカ様はカクタスをいじり始めた。
リョウカ様にはハカタでショッピングぐらいさせた方が良いかもな。
その日はいろいろ疲れたから早く寝た。
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〇ハカタ 転移62日目
まだ日が高いうちにハカタに着いた。
この町と周りには良い湧水があり、俺は二つほど空になった水タンクに水を入れに行く。
早速ボートから車に乗り換えて、日本の湧水ポイントを探しに行く。地図アプリ最強!
ミヤだが、買ってあげた鉄串を加工したいとか言ってたので、車とかボートを改造した、今は物干し場になってる空間に置いてきた。ナビさんがついてるから大丈夫だろう。
俺は手押しポンプで水を汲み上げて300ℓのタンクに入れていく。
リョウカ様達も一緒に来ている。護衛がカクタスだけだと心細いからね。
水を確保したら、次は家を建てて、いつものルーティンをこなすだけだ。
ミヤもご飯前には帰って来た。
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〇ハカタ 転移63日目
今日は朝からショッピングに連れていく約束だ。
ハカタは大陸へ行く船や大陸から来た船が集まる街だ。
この世界の貿易に使うような船は帆船で、陸の見えない夜は港に停泊する。
ハカタは大陸関連の貿易船がほぼ必ず停泊する港だ、だからこの町はいろいろなものが商われている。
ヒイとミヤは護身用の刀が欲しいらしい。
リョウカ様はアクセサリーの店を覗きたいらしく、ヒイとミヤを急かせている。
本当にどっちが子供か分かんないよね。
結局、ヒイが1尺の小脇差、ミヤが1尺5寸の中脇差を選んだ。
対価を支払ったとたん、リョウカ様が走り出した。まったく護衛泣かせの人だ。
買物は2時間ほど掛かり、早めの昼を食べてツシマに向けて出発することになった。
「あんたら大陸に行くのかい」
食堂で会ったおじいさんが声を掛けてきた。
「そうですが」
良く日に焼けた皴深いお爺さんでいかにもな雰囲気を感じる。
「天気が崩れてきそうだ。船主に言っときなさい」
「いつ頃崩れそうですか?」
今から行くんだぞ。幸先が悪いじゃないか。
「そうだな、壱岐の島影の様子では明日から明後日の夜ぐらいかな」
「風は強いんですか?」
「まあ、そんなには強くはならんと思うが、船酔いにはなるかもな」
「ありがとうございました」
俺はお爺さんに銀貨を握らせた。
俺は考えたが、今日中に朝鮮半島に行くのは無理だ。
ツシマまで行って天候を見るしかないか。
〇ツシマ 転移64日目
朝起きると空はどんよりと曇っている。
ツシマから先は2時間ぐらい陸はない。
午前中なら大丈夫かな。
ボートを出して1時間、北西の風が出て来て、波が高くなってきた
ちょっとヤバいかな。今更引き返せない。
「クーヤ、大丈夫か?」
「この分なら朝鮮半島には行けるだろう」
カクタスの心配を晴らすように言ったつもりだが、カクタスの顔は厳しい。
ボートのピッチングも激しくなってきた。
こっちは風に正対させるしかない。
風の抵抗でボートの速度も上がらない。
バウバースにいたヒイ達もキャビンに上がって来た。
まだ、大きな波しぶきがキャビンに届いてないので大丈夫だ。
キャビンの扉が開いて誰かが外に出た。
今、海に落ちたら探せないぞ。嫌な汗が流れる。
俺の目の前のバウデッキにミヤが立った。
波で選手が持ち上げられる。ミヤが垂直に飛ぶ。2mは跳んだか。
俺は何もできない。今、ボートを止めることも、席を離れることも転覆の危険がある。
ミヤは着地するとすぐに選手の上昇に合わせて跳んだ。さっきより高い、空中で回る、捻る。
ミヤは10回ほど繰り返して戻って来た。
怒ろうとしてミヤの手にあるものを見て言葉が出なかった。
直径10cm、長さ15cmほどの円柱状の木片だ。
それには短く切った鉄串が10本ほど刺さっていた。
「ミヤ、飛び上がった時にボートに置いたこれに、鉄串を投げていたのか?」
「はい、私はご主人様のために戦えるようになりました」
「分かったから、もうこんな危ないことはしないでくれ」
俺にはこう言うしかなかった。
外を見ると島が見えていた。朝鮮半島になんとかたどり着いたみたいだ。
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次回は大陸に上陸します。




