1-16 異能と海賊
ご愛読、ありがとうございます。
船旅1日目です。
盗賊の襲撃を撃退したクーヤ達、天都を目指し、また旅を始めます。
〇ヒメジ 転移61日目
俺は眠れずにいた。人間を殺してしまった罪悪感とかではない。命を懸けた戦闘に興奮したのかもしれない。
『ご主人様、ご主人様の能力の把握が進みましたので報告いたします』
「なんだ」
『お静かに願います。カクタスが目覚めます』
そうか、俺はカクタスとヒイの家の台所で寝ているのだった。つい声を出してしまった。
幸いカクタスは隣で静かな寝息を立てていた。
『すまん、続けてくれ』
『ご主人様の異能はまだ未解析な部分がたくさんあります。今回解ったことはご主人様の能力は、従者が増えてその愛情が増えると、ご主人様も従者も能力が上昇するということです』
『ミヤが増えたから能力が上がったということか?』
確かに魔獣と戦ったよ来より今回の方が体が良く動く気はしたがな。
『ミヤによる上昇だけでなくヒルダの愛情が深まったことにも要因があると思います』
『魔獣や人を殺したからと言う訳ではないのだな』
『はい間違いありません』
良かったよ。ゲームみたいに経験値とかで上がると、強い敵に当たるたびにレベル上げで殺しまくらないといけない。
『愛情を深めるとかセックスしないとかないよな?』
ファンタジーにはエロ系もあるからな。
『不明です。ヒルダもミヤも否とは言わないはずです。確かめてみますか?』
『いやだよ。彼女達にはそんなことは知らずに健やかに育ってほしい』
『はあ、ご主人様は少女にロマンを求めすぎです。男は年々男になっていくけど、女は生まれた時から女なのです』
どういう意味だ・・・。ああ、眠くなってきたな。
******
朝早く起きた俺とカクタスは盗賊の死体を見えないところに並べなおして、リョウカ様達から見えないようにした。
ここは村から3kmほど離れているので、ヒメジ村の村長に手紙を書き、死体を処理してもらうようにカクタスにバイクで手紙を運んでもらった。
やがてヒイはハイジの散歩に行き、ミヤやリョウカ様も起き始める。
俺は朝飯の用意を始めるのだが奥の部屋が何やら騒がしい。
「どうかしましたかあ?」
俺は戸をノックして状況を聞いた。
「ちょっと来てくれ」
呼ばれて戸を開けるとミヤが上はブラ一枚、下はタイツ姿で立っていた。その前にはハンナさんが必死の形相で膝立ちしていた。
「あのー、これはどういう状況ですか?」
「クーヤさん、これはどういうものですか」
ハンナさんはミヤのブラを指さす。
「これはスポーツブラと言うものですね」
「ミヤちゃんに聞いたら、揺れにくいし、先っぽが擦れないので痛くないと言っていました」
まあ、そのために買ったものだからな。
「はい、ミヤには必要かなと思い、買いました」
「私にも買っていただけませんか」
ハンナさんの必死さについ、ハンナさんの巨大なものを見てしまう。
「大きさを測らないと買えませんけど」
「測ってください」
メジャーをミヤに渡して、測り方はナビさんに一任した。
さすがに俺が測るのは冷静でいられない気がする。
俺は朝食の準備に戻ってナビさんの報告を待った。
『採寸が終わりました。いかがしましょう』
『予算と必要枚数を聞いて』
あまり高価だと日本円は限度があるからなあ。
『金貨一枚で10枚くらいほしいそうです』
「とりあえず、3000円、6000円、1万円くらいでサンプルを見せてあげて」
『分かりました』
朝食が出来上がるころナビさんから報告が入った。
『6000円のを10枚購入いたしました。サンプルを合わせて大銀貨8枚を徴収いたしました』
ミヤのが1枚2000円だから高級品だな。
ちょっとハンナさんがブラを付け替えする様子を妄想してしまい顔が緩む。
巨乳はロマンだからな。
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午前9時ごろには海岸に来ていた。
近くの海でボートの接岸が出来る場所を探す。
結局砂浜に船首を乗り上げさせて、梯子で乗船した。
ヒメジからハカタまでボートで行く予定だ。
距離は約500km、夜は走れないから、どこかに上陸して泊まる予定。
まずは15ノットから20ノットでショウドシマの南を回る。
昼頃にはオノミチ、イマバリを結ぶしまなみ海道はこの世界にはないか。
「この旗を船に掲げよ」
リョウカ様が旗を持ってきた。
王家が使ってる船を示す旗だ。
船尾のスパンカー用のロッドに付ける。
風になびいて良く見える問題ないだろう。
「ここらは何か出るんですか?」
「ここからは村上水軍の縄張りじゃ。王家の旗を揚げんと絡まれる」
村上水軍は瀬戸内海の通行料の徴収を許された領主だ。もちろん王族からは徴収できない。
ここらでボートの説明をしておこう。
俺達の乗るボートは全長が10m強の釣り用の船外機付きの小型ボートだ。
船首をバウ、船尾をスタンと呼ぶ。
船の中央にはキャビンと呼ばれる構造物がある。四方ガラス張りで運転席や助手席、乗組員の席がある。
船首と船尾を繋ぐ通路がサイドウォーク、キャビンの両側にある。
船首の床がバウデッキ、船尾の床がスタンデッキだ。
バウバースはバウデッキの下にあるスペースだ。大人3人ぐらいが寝られるスペースとトイレがある。運転席と助手席の間を降りていくとある。普段はヒイ、ミヤ、ハイジの遊び場だ。
瀬戸内海を遮るように島々が現れる。
ボートは島々に沿うように南下して、四国のイマバリの北の海峡を通過する予定だ。
『右前方、島影から出た船がこちらに近付いてきます』
ナビさんの声にそちらを見ると、ボートと同じような大きさの船が2隻、俺達の進路の前を横切る様に走っている。
「リョウカ様、右前方に我航路を遮るような行動をする船がいます」
リョウカ様は俺の肩に手を置き、前方を眺める。
「村上水軍の旗じゃな。旗を見れば引き返すじゃろう。カクタス、前方に出よ」
カクタスはキャビンを出てバウデッキに立って、相手の出方に警戒する。
船はぐんぐん近付いて来る。どうも相手の船の方が遅い。
船の後方両側に突き出した台に等身大のゴーレムが並ぶ。ガチャガチャと言う感じでせわしなく櫓を漕いでいるがそんなに速度は上がっていない。
櫓は櫂、オールに比べて力はいらないが速度は出にくい。
俺のボートは船外機だがもともと300馬力級のエンジンをゴーレム化した。
4ストロークエンジンは燃焼のサイクルでしか力を発生できないが、ゴーレムは4っつのサイクル全部で力を発揮する。単純比較はできないが、もとよりパワーは上がっていると思われる。
しかもスクリュー推進で効率が良い。
「引き離すことは可能ですがどうします?」
「放って置け」
リョウカ様は相手に脅威を感じないのか、興味を失ったようでハンナさんと何か話してる。
いよいよ近付いて来て、相手の顔が解るぐらいとなった。
相手が今から進路を変えても、こちらにぶつかることもできないことは判っている。
カクタスと相手が叫び合ってるが、意思が通じないようだ。
いきなり相手が弓を出した。
俺はヒイを呼ぶ。ボートに穴をあけられたら敵わん。
バウバースから上がって来たヒイが俺から弓と矢を受け取り、キャビンの窓を開けようとした時だった。
ヒョォォォーーーー!!
甲高い音を残して、卵のようなものが付いた矢が空高く飛び上がった。
「鏑矢じゃな。増援を呼んだみたいじゃのう」
リョウカ様がのんびりとのたまわった。
こっちは緊張しまくってんですけど!。
相手も船を見るとボートの船尾を指さして何か騒いでる。
ようやくこっちの旗に気付いたのか。
その時だった。
ガッシャーン!!
グシャッ!!
バキバキバキ!!!
相手のこちら側の船のゴーレムの腕が吹っ飛び急旋回して、向こう側の船に乗り上げ転覆した。向こう側の船はゴーレムごと薙ぎ払われ、船尾が吹っ飛び、浸水して水没した。
一瞬の出来事にヒイも弓を構えようとした状態で、微動だにしない。
「リョウカ様!、救助を!!」
「うむ、だがキャビンには入れるな!」
こんな時でも身分格差は忘れないんだね。
すでに減速していた俺は急旋回、事故現場に急ぐ。
現場には転覆した船と前後に分かれて水没した船と破片が散乱していて、それに捕まっている人間がいた。
「大丈夫か?!」
俺とカクタスが要救助者に声を掛ける。
この船は釣り用の船なので、結構、縁が海面から高いし、転落防止用の柵もあるので、要救助者を持ち上げるのには苦労したがスタンデッキに並べた。
定員が十名だから5名がギリギリだ。
ケガ人3人と疲労困憊が2人、疲労困憊はゴーレムの魔力供給者らしい。
一応、ヒイが狩りをしていたので手当て用に絆創膏、包帯、ガーゼ、脱脂綿なんかは用意してたけど絆創膏以外は全然足りない。日本円は有限だから使いたくないが仕方ない。
幸い深刻なケガをしている人は居なかった。ヒイとミヤがかいがいしく手当てする。
「申し訳ございませんでした。御座船とは気付かず、ご無礼をしました。どうか私一人の命でお許し願います」
ケガ人の一人がこのチームのリーダーらしく、狭い場所で土下座をかましてきた。
俺がアタフタしてるとカクタスが前に出た。
「少し待て」
キャビンの中に入って行った。
リョウカ様達はスタンデッキのの扉がガラス張りのため、見えないようにバウバースに移動している。
カクタスはリョウカ様の意向を確認してきた。
「王女様はこちらに損害はないし、旅を急ぐため今回の件は不問にするとのことだ。よかったな」
今度は全員で土下座して「ありがとうございます」を合唱した。
『こちらに近付く船2隻を発見、ご注意願います』
ナビさんの声に対象を探すが見えない。
ヒイが見つけたみたいだ。しばらくしたら俺にも船が見える。
その船は、こちらが止まってることもあるけど速かった。
早船と言い、ゴーレムが3対、6台も付いてるし、細くて速そうだった。
数分後には到着したが警戒しているようだった。
やがて俺のボートに接舷しようとした。
「御座船である。武装を解除せよ」
カクタスが叫ぶ。ケガ人を引き取り来たと思ったから気にしてなかった。護衛失格だな。
船首にいた、良く焼けた筋肉質の体をこれ見よがしに見せていた男が俺に剣を鞘ごと腰から外して渡した。
「若!!」
「お前達も武装解除しろ。仲間を助けていただいたのだ。配慮せよ」
部下達も剣をもう一隻に渡した。
「ケガ人の救助、ありがとうございました。ケガ人を引き上げさせてください」
その若様、出来た人みたいで丁寧に頭をさげた。
早船の方にケガ人を引き取ると礼を言いたいと言い出した。
「貴様!、そのような格好で王女様に会えると思ったか!」
「いえ、直接などと思ってはいません。そこに上がらせていただいて礼を言うだけです」
怒ったカクタスだが、そう言われるとリョウカ様に言上せざるを得なかった。
「上がれ、しかし、王女様のお姿は拝めぬ。それでもいいか」
「はい、あり若様はひょいとボートに飛び移った。
そして間髪を入れずにリョウカ様の方を向いてひれ伏した。
「私は、ここいらを治める村上頼国の長男信国と申します。この度は部下が無礼を働き、まして事故の救助までしていただきありがとうございます。つきましてはあなた様が私はご入用になった時、呼んでいただければ、万難を排して駆けつける所存であります」
しばらくするとハンナさんがキャビンに出て来た。
「王女様のご返答です。会い分かったがワラワはこれから先、政治にも軍事にも関わる気はない。代わりに良ければ、そこの浅野空也権利を譲りたいとのことです」
ああ、リョウカ様面倒臭いから丸投げしたなあ。
立って俺の前に来たノブクニはよろしく頼むと言って帰って行った。
1時間のロスだよもう。
俺は愚痴りながら旅を再開した。
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次回はハカタ到着です。




