1-9 出発準備とダークエルフ
ご愛読、ありがとうございます。
クーヤの天都に行く準備と突如現れたダークエルフです。
鬼人の奉納相撲を見学に行ったクーヤとヒイは魔人の襲撃に会い、ヒイが金色の狼に変身したおかげで助かったが反省の多い戦いだった。
〇飛龍将軍宅 転移15日目
「はああ~、」
俺はこの日何度目かの大きなため息を吐く。
「ため息を吐くと幸せが逃げちゃいますよ」
カクタスの妹のアナスタシアちゃん十四歳だ。黄緑色した髪の背の高い美少女さんだ。
「昨日の戦いでヒイを危ない目にあわすわ。鬼人を危機に合わすわで落ち込んでるんだよね」
俺が述懐するとアナスタシアちゃんは、顎に人差し指を当て、少し上を向いて考えるというあざとい真似をした。
背が高い上、体の発育も良いので、おじちゃんはグッとくるがここは我慢だ。将軍様の娘に下手は打てねえ。
「お父さんは今日非番だから聞いてもらおう」
そう言ってアナスタシアちゃんは俺の手を引いて。飛龍将軍の執務室に連れて行った。
重厚な扉があるこの部屋が飛龍将軍の執務室だ。
「お父さん、クーヤさんの悩み聞いたげて」
流石に親子だ。ドストレートに訪問理由を告げる。
こちらは、準備にワンクッション欲しいなと思っていたが、斟酌はしてもらえなかった。
将軍は手にした本にしおりを挟み、そして静かに本を机に置いた
有事には数万の軍勢を指図される方だ。物腰に隙がなく、眼差しも鋭い。
「アナ、部屋に入るときはノックして、こちらの様子を伺いなさい」
「はーい」
「まったく、いつになったら大人になるのやら。クーヤ君、そこにかけてくれたまえ」
「はい」
娘のことになると眼差しが優しくなったな。弱点見っけ。
俺はバカでかい執務机の前に置かれたソファセットに腰かけた。
すると隣にアナスタシアちゃんが座る。おいおい、どうすんだよ。
席を立ってこちらに来ようとした将軍の目が厳しくなる。
将軍は俺の目の前にドスンと腰を下ろす。え、ちょっと不機嫌になっちゃた。
アナスタシアちゃん頼むよ。お父さんをからかわないで。
「アナ、お前に関係ある話なのか?」
「ううん、ちがうよ。昨日の魔人との戦いの話だって」
一気に眼差しが柔らかくなったな。やっぱり誤解してたか。
「そうか、なら、アナは席を外しなさい」
「いや、私も聞きたい」
将軍は額に手を置くと小さくため息を付いた。
「クーヤ君すまんが良いか?」
「はい、大丈夫です」
「昨日の魔人の件だが、青龍国の軍人を代表して礼を言う。ありがとう」
将軍は俺に頭を下げた。
「いえ、俺は褒められることをしたとは思ってません。むしろ自分の判断ミスで、多くの人を危険にさらした」
俺は悩みを聞いてもらえるのかと少し引いた気分でいたが、将軍が素直に自国民の安全に対して礼を述べたことで俺の要求が通る気がした。
「では、君が戦った詳細を教えてもらおう」
将軍に俺は昨日の戦いをヒイの変身を除いて話した。
「・・・ヒイが育てている子狼がその時の忘れ形見です」
「ヒルダの遠吠えが狼魔獣を呼んだのか不思議なこともあるものよ」
この世界は日本に比べてオカルトが結構まかり通る。まあ、そうでなくともオカルトなんだが。
「はいヒルダの両親を感じました」
「そうか、ヤタロウ夫妻がヒルダを守ったのだな」
将軍の眼には涙があった。この世界の人間は感情の流出が激しいのだ。
ヤタロウがシュバルツさんの本名だ。シュバルツはヤタロウさんが手柄を上げてもらった名前だ。
ちなみにヒルダのゴッドファーザーは将軍です。
「君はすでに君の誤りが解っているのだな」
「はい、狼魔獣が階段を登ってくるとの予想が外れました」
「ふむ、狼魔獣は脇の急坂を駆けあがったのだな」
「はい、あの脚力は予想外でした」
「それで君はワシにどうしてほしいのじゃな」
「はい、俺に策師の修行を付けてほしいのです。これからリョウカ様を守って天都へ行かねばなりません。山賊や海賊も出るでしょう。腕には自信がありますが、守れる策が必要です」
「そうだな我が国の王女の護衛の側面もあるからな。カクタスにも必要だろう。王に掛け合ってみよう」
何とか俺の意見を取り入れてもらった。後ひと月半しか残っていないが、身に着けて見せる。
「クーヤさんは何を目指してるのかな。私も自由が欲しい」
アナスタシアちゃんの呟きは気になったが、俺の立ち入ることじゃない。
今までの俺の戦いの知識はRPGやSMGのモニターの中のものだ。そのせいでヒイを危機に直面させてしまった。インストールで身に着けると言う方法もあるが、日本には魔獣がいないからなあ。
鬼人の村での事件は俺が個人からパーティーの先頭に移行した出来事だった。
******
〇飛龍将軍宅 転移21日目
日本の金が資金不足となっていたが、ナビさんの努力である程度ネットで使えるようになった。
まあ、10年落ちの4WDワンボックスが約200万円、20年落ちの30フィート外洋ボート約600万円でほぼ無くなったけどな。
将軍の家でさすがに車や船の改造はできないから、亜空間を別に作ってそこで改造してる。
流石に車や船は大きいし複雑なので、工具もたくさん買った。これも高かったんだ。
でも一番複雑な燃焼系の改造はゴーレムなので不要である。でないと出来ないよな。
車のエンジンもワンボックスは降ろすだけでも大変だぜ。燃料吸排気系外してエンジンヘッドを外さないと改造できないからな。
ピストン中央に穴を空けて、そこに調整した魔石加工品を詰める。
プラグ穴から魔導管を入れて魔石加工品に魔力を供給する。
ゴーレムの上昇下降タイミングを調節する。
これで動くのだが、四気筒なのでバランスの調整が難しい。妙な振動が出たりした。
ギアや駆動系はそのまま使って出来上がりだ。
船は船外機なので、だいぶ楽が出来たよ。
午前中が戦闘の講義、夕方からカクタスとゴンタへ剣の講義、合間を縫っての製作だったので結構時間がかかった。
ヒイはハイジの子守で忙しいらしく、ミルクの供給ぐらいで俺に迷惑は掛からなかった。
だが、今日は違った。
「センセー、狩りに行きたい。ハイジもそろそろ肉を食べたいって」
本当かあ?と思いつつ、ヒイに強請られると否とは言えない俺は、昼の弁当をヒイに用意させ、講義後に狩りに出かけることにした。
ゴーレム車の試運転を兼ねて出発だ。
ヒイとハイジを二列目シートに乗せて走り出した。
「すごい、動いた。お尻が痛くない?」
馬車の板の椅子と比べてほしくないな。ファブリック地のシートだぞ。
郊外に出ると道が細くなって、車幅ぎりぎりとなる。人が居ただけでも通れなくなりそうだ。
仕方ない、試験運転は終了だ。
「えー、いやだ。もっと乗っていたい」
ヒイはブー垂れるがこれは聞けない。事故は起こしたくないからな。
俺は車を収納庫に入れてバイクを出す。
俺は川のそばでバイクを止める。
いつもの狩場だ。小さな川や湿地帯があり、水鳥や小動物がいる。
あれ、ヒイの横にいるのは大人の狼なのか。
「ヒイ!横に狼が!」
俺の叫びにヒイはきょとんとして首を傾げる。
「何言ってんの?これはハイジだよ」
「はあ??、でかさが違うだろ!!」
「ああ、そう言うことか。ハイジ小さくなって上げて」
するとハイジが子狼に縮まる。
なんとハイジは大きさを子犬ぐらいから、大人の狼まで自由に変えられるらしい。
「もお、先に言っといてくれよ」
「ごめん、ごめん。知ってると思ってた。それより弓矢を出してよ」
ヒイはもう久しぶりの狩りのことで。頭の中は一杯だ。
「分かったよ。俺は近くの池でボートの試運転をしてるから気を・・・」
収納庫から弓矢を出してる最中に、そいつはいきなり現れた。
目の前、5mくらいの宙に浮いている。魔人か?でも小さい。
黒い長袖の服に黒の半ズボン、褐色の肌に銀色の髪の毛、若く端正な顔立ち、そして横に伸びた耳。
「やあ、僕はナータ、ダークエルフの王子さ。君が魔人を倒した子?」
「俺はクーヤ。確かに魔人は俺が倒した」
「フーン。その話聞かせてくれる?」
ナータは足を地に付けて立った。
確か、ダークエルフはアフリカ大陸北部に居住して、ヨーロッパ大陸の魔人と戦っていると聞いた。
「どうして君に話さなきゃいけない?」
俺はナータに牽制を入れる。
「ああ、いささか無礼だったか。怒らないでくれ。僕の国は魔人と戦っているので、魔人の情報は何でも知りたい。
最近、信帝国で魔人が出没していて、その中で青龍国に魔人が渡ったと聞いてね。それで君のことを見つけたわけだ」
「君の国は遠く離れてる。まして信帝国からここまで一か月は掛かる。持ち帰ってもそんな情報、古くて使えないだろう」
ナータはニヤッと笑った。うん?ずいぶん幼い感じだ。十二歳くらいかな。
「僕には、瞬間移動と重力制御の異能がある。だからすぐに国に帰れるよ」
ひえー、自分の異能を話しちゃうのぉ、ずいぶんノーガードですね。
俺は何か申し訳なくなって、軽くこの亜tだのことを話した。もちろんヒイのことは内緒だよ。
「するとその子狼は魔獣なのか?魔獣が人になつくなど信じられん」
ナータが呆然としているとヒイが割り込んで来た。
「センセー、もう行って良い?」
「ああ、気を付けろよ」
渋い顔をしてたのだが、一瞬で晴れやかな顔になった。
「おいで、ハイジ!」
ハイジは普通の狼の姿に変身してヒイの後を追いかけていく。
「・・・い!何をニヤニヤしておるのだ!僕の話を聞け!」
いかんいかん、ヒイの喜ぶ様子を見て、顔が緩んでしまっていたみたいだ。
「す、すまん、なんだった?」
多分ハイジがデカくなったのを騒いでいたんだろう。
「もういい、君は変わっているな。若いのにまるで新米パパみたいだ」
常々思ってはいたのだが、客観的にもそう見えていたとはショックが大。
「それで君はどう動くんだ」
「話を聞く限り、本格的に青龍国に侵攻することは無いだろう。ただの行き過ぎた偵察だろうね。僕としては放置かな」
そう言うことか。ただ強そうなやつらが集まっていたのを見た魔人が、ちょっかいを掛けたということか。ということは魔人は独断専行したことになる。軍の規律は弱いのか。
最近、講義を受けてるせいかすぐに軍に結び付けるようになったな。
「俺は来月天都を目指して出発する。信帝国も危ういのか?」
「いや、まだ偵察の域を出ないよ。それか他の目的があるのか。あいつら人口が少ないから二方面に出る
ことはしないと思うよ」
「僕は戻るよ。君が信帝国に落ち着いたぐらいに訪問するかもね」
「ああ、落ち着いてたら歓迎するよ。いろいろ教えてくれてありがとう」
ナータはフワッと浮き上がるとすっと消えた。
まあ、俺が信帝国に行くからと言って、魔人と関わるとは思えないしな。
あまり気にせずに行こう。
面白かったですか?何かで評価して頂けると参考になります。
次回はリョウカ様登場と天都へ出発できるかなあ。




