6-1 ヒイ受難
ご愛読、ありがとうございます。
6章の始まりです。この章からオリジナルとなります。
モンゴルでの戦いから1か月が経った。
季節は晩秋から初冬に移り、あちこちで木々が赤や黄に色づき始めた。
黄河に掛かる鉄橋も完成し、石炭や鉄鉱石が黄河手前に集積地が作られ、魔導貨車によって技術学校に運ばれるようになった。あとは、同時進行してた鉱山までの線路が少し残っている。
実は鉄橋の線路の上に道路を建設する予定で、橋脚はずいぶん丈夫にした。
〇帝城 天帝執務室 転移251日目
俺の正面には目を瞑ったまま腕を組んだ天帝様、そっぽを向くコウメイ様、天を仰ぐ宰相がいる。そして目の前には50枚ほどの紙の束。
「えーと、俺はなんで呼ばれたんでしょうか?」
何かまずい雰囲気の3人に聞いてみる。
「黄河鉄橋完成、おめでとう」
なんか天帝様、言い方がおかしい。
「はい、ありがとうございます」
俺は警戒しながら礼を言った。
「それでな、朝議で言われたのよ。次はどこに線路を敷くのかって」
「え、線路を敷く予定はありませんけど・・・」
「朕もそう言った」
はあ、と大きなため息を吐く。
「ではそれで・・・」
「あまりにうるさいので、嘆願書で提出せよと言ったわけだ」
机の上の紙の束を見る。
「これ全部そうなんですか?」
天帝様は大きく頷く。
「無理ですよ。採算取れるかも検討してないでしょ」
「元軍務大臣が倒れても貴族達は文句を言わなかった。それはお前が金儲けの話を持ってくると思っていたかららしい」
まあ、最初に説明するときにそんなことを言った気がする。
「しかし、それは技術学校を卒業した生徒が起こす事業によってです」
「人の尻馬に乗ることしか知らん奴らだからな」
要するに口だけ出せば金が入ってくるような仕事が欲しいらしい。
「朕ももう少し賢い奴らだと思っておったわ」
「それで俺にどうしろと?」
「奴らはうまくいかないとみると裏に回ることを考える。元軍務大臣と干支座のようにな。気を付けろと言うことだな」
「は、はい」
村上水軍の人達やや鬼人族が来てくれたので警備の人員に不足はない。まあ大丈夫だろう。
「まあ、お前の実力は知れ渡っているから手を出す奴はいないだろう」
そんな兆候があったらキメイから連絡があるだろうしな。
その後、学校の名前を決めることになって「産業技術大学校」に決まった。
大が付くのは巷にある学校と区分するためだそうだ。もともと信帝国の設備なので俺に文句はない。
俺が担当するのは工場の設計と中の人の準備だ。
天帝様が去り際に話しかけてきた。
「最近、天都で女児の誘拐があるそうだ。お前のところも気を付けろよ・・・お前のところのをさらえる奴はいないか。まあ気を付けろ」
「いくつぐらいの子供ですか?」
「ローティーンだ」
えーと、ヒイとミヤとマール、ミノンがローティーンで、十五歳がジュレイ、ドーテ、ナータか、ナータが見た目幼いから注意しとかないとな。
とぶつぶつ言いながら部屋を出る俺。
「親馬鹿か」
天帝様が言っていたような。
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〇天都 外郭のとある道 ヒイ
僕はハイジに乗って帝城の北側まで来て散歩している。
「ヒイちゃん、ぱとろーるかい」
向かいのパン屋の小母さんが声をかけてくれる
「うん、そうだよ」
「ご苦労さんだねえ。これ持っておいき」
小母さんは小さなパンを一つとると僕に向かって放り投げた。
僕はキャッチする。
「ありがとう」
礼を言って、パンを半分に割ると一方を口に入れ、一方をハイジにあげる。
ハイジは魔獣なので物を食べる必要はないが、僕と食事をしたいということはあるみたい。
食べたあとは「ウォン」と小母さんにお辞儀をする。
「あら、賢い子だねえ」
小母さんがハイジを褒めてくれる。
僕がこうしてパトロールという名の散歩をするのは訳があるんだ。
近衛も警らも弓矢を大事に思ってないの。だから剣や槍なんかは熱心に稽古するけど、弓矢はあまりやらないんだよ。マールさんが一人いれば十分稽古できるんだって、だから僕はいろんなところを回っているんだ。もちろんひったくりや泥棒を捕まえて警らの人には喜んでもらえてるんだ。
そうだ、今度ミヤちゃんを誘って、夜もパトロールしようかな。でも夜はセンセーのお世話で忙しいか。
「キャー!!」
前の路地から子供の悲鳴が聞こえた。
「ハイジ!行くよ!」
僕はハイジから飛び降りた。
ハイジはすでに路地に駆け込んでる。
路地に入ると覆面をした四人の男が少女をさらおうとしていた。
ハイジが少女を抱えた男に飛び掛かる。
「魔獣か!!」
男の一人が言うと手を伸ばした。
「破壊!!」
ハイジが・・ハイジが・・。
ハイジが避けられて、そのままグシャっと地面に・・まるで生きてないみたいに・・
「ハイジー!!」
僕はハイジに近寄ろうとしたが男の一人が捕まえようとしてくる。
男の腕を取り、くるっと回って柔道の技で投げ飛ばす。
そのままハイジの方へ走るとまた男が手を伸ばす。
「異能使いか!くたばれ!」
「あ」
力が抜けていく。
さっきとは違う男が蹴り上げて来た。
避けれない。体が思うように動かない。
ガードはしたけど顔面を蹴られる。
目の前がぼやけてきた。
僕はその場に倒れたみたいだ。
「こいつはどうする」
「獣人なんかいらん!」
「ああ、人が集まって来た。逃げるぞ。ガキも捨てていけ!」
僕には男達は裏通りに向かって走って行く音が聞こえる。
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〇闘刃姫寮
『ヒルダの従者契約がキャンセルされました』
執務室に居た俺にナビさんが報告した。
「なんだって!」
従者通信がつながらない、マップでも確認できないので、ナビさんに確認したらその答えが返って来たのだ。
「どうしたらそんなことになるんだ?」
『ヒルダが魔力を失ったのではないかと、ただ通常では契約が切れるほど失うことは考えられません』
まさか、・・・悪い考えが頭から離れない。
「ヒイが連絡を絶つ前はどこにいた」
『外郭の北側です』
「マップで表示してくれ、すぐに行ってみる」
俺は瞬間移動で跳んだ。
そこには意識なく倒れているヒイとハイジが居た。
俺は意識がないから瞬間移動が出来るかと考えたが、大事を取って両脇に抱えて重力制御で飛んで帰ることにする。
その間にヒイの見た映像でヒイに起きたことを確認する。
これは天帝様の言ってた少女誘拐に巻き込まれたんだ。
闘刃姫寮に着いたらすぐに執務室のソファーにヒイとハイジを寝かした。
まだ他の闘刃姫は帰って来てない。
『ヒルダは顔面に殴打の痕跡があり、再生で治ると思います。それと魔力回路が破壊されています』
俺は再生をヒイに掛けながら訊いた。
「魔力回路は治るんだろ?マシロ達の時にはすぐ作れたし」
ナビさんがすぐに直さないので不安があったが、それを隠して聞いてみる。
『魔力回路の再生は難しいです。回路を断片にまで破壊されており、一度断片を取り除いて再構築を図ります』
「それでヒイはどうなるの?」
『日本人と違い生まれた時から魔力回路に依存するこの世界の人間は、特に内臓が弱くなります。今は小康状態ですが再構築できるまでは苦しむこともあるかと思います』
こちらの人間は普通に生きることにも魔力に頼っているのか。
魔力回路がないだけで苦しむことになってしまう。
「それでどれくらいで再構築できるんだ?」
『断片は数万にまで粉砕されていますし、ご主人様との契約がない状態ですと期間は分からないと言って良いかと』
ああ、ヒイ、お前が苦しむ様子を俺に見て居ろというのか。
ヒイはまだ意識を失ったままだが、外傷の治療は終わって顔も拭いたので、元の可愛いヒイだ。
胸が呼吸のため上下するのを見ると少しだけ心が軽くなる。
ハイジはそのままぐったりとしている。
こいつは魔獣なので呼吸もしない。
「ハイジはどうなのだ?」
『ハイジも魔力回路を失ったことで仮死状態になっています。ハイジの体はほぼ魔力で作られていますので、このままの状態が続けば消えることも考えられます』
「治るのか?」
ヒイが目を覚ましてもハイジがこの状態だとひどく落胆するだろうな。
『ヒルダが完治しないとハイジの治療にはかかれません。二人の従者契約が出来ないことには私は関与できません』
そうだキメイに犯人の捜索を頼んでおこう。
しかし、魔力回路を壊す異能か、厄介な奴が現れたもんだ。
『しかし、おかしいですね。人買いの組織は干支座とともに滅びたはずですが。目的が違うのかもしれません』
キメイが言うには人買いのような仕事は小さい組織では難しいこと、たとえ小さくても天都ではキメイの組織の眼をかいくぐるのはまず無理だと言うことで、犯罪組織ではないかもしれない。
今回は事件に巻き込まれた形だし、我々に敵対するつもりではないだろう。
だからと言って許すつもりはないがな。
夕方近くなると外に行っていた連中が帰って来た。
ヒイのことはすぐに広まって、執務室がすぐにいっぱいになった。
「誰がヒイをこんな目に!」
中でもミヤの怒りがすごい。
自分の妹と思っていたみたいだった。
「警らもキメイも犯人捜しをしてくれている。操作の進展を待とう」
「いや、明日から私も探しに出る」
「ミヤ、やめなさい!お前までやられたらどうする!今度の敵はお前達に対して、致命的な攻撃を仕掛けてくるんだ!」
俺は魔力回路破壊が出来る敵と、闘刃姫を戦わせたくない。
工場組も帰って来て、ちょっと執務室に入らなくなってきた。
皆が食堂に出たがミヤはヒイに付いていると言った。
「目を覚ますまで一緒に居ます」
結局訓練をしていたミヤ、マシロ、アカネ、ジュレイ、ドーテ、マールが捜査に加わることになった。
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ヒイとハイジはどうなるのか犯人は誰なのか、次回より徐々に全体が見えてきます。




