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異世界最強の転移者と15人の美少女剣姫  作者: 西村将太郎
第1章 天都へ
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1-8 魔人とハイジ

ご愛読、ありがとうございます。

魔獣の襲撃とその後です。

 ゴンタは奉納相撲優勝とシズカの兄に勝ってシズカの求婚条件を果たした。クーヤはハッピーエンドを見られるとワクワクしていたが魔人が狼魔獣を引き連れて襲って来た。


 〇奉納相撲会場 転移14日目

 神社は小高い丘に立っていた。頂上部は平たく削られ、そこに神社、社務所、土俵が置かれている。

 南側からの参道が階段になっており、今俺達はそこで魔獣を迎え打とうとしていた。

 北側に細い道が村を繋ぐ道に繋がっている。いま、神社にいた人達がそこから避難している。


「ヒイ、ゴンタとキヘイタさんと一緒に神社まで下がってくれ」

 俺はヒイを傷つけることを恐れ、ゴンタとキヘイタに目配せする。

「いやだ!センセーと戦う」


 ヒイは引く様子を見せない。

「諦めろ、俺達が負けたら、鬼人族はおしまいだ」

 ゴンタが悲壮な覚悟を見せる。


 ゴンタは王軍の兵士だ。狼の魔獣との戦闘経験があるか聞いてみよう。

「ゴンタ、狼の魔獣と戦ったことがあるか?」

「ああ、前に1頭だけどな」


「勝てたのか」

「そりゃ、50人がかりだからな」


「どうやって勝ったんだ」

「遠くから矢で射て、弱ったところを槍で止めを刺した。それでも重傷者は10人を超えた」


 やはり、こないだのネズミやウサギとはレベルが違うようだ。

「もうすぐ村の男たちが武装して来てくれるだろう。それまで頑張れば・・・」

 兵士50人で1頭だぞ。戦える奴が何人いるのか。

 考えれば考えるほど落ち込んでしまう。

 仕方ない、これ以上ごちゃごちゃ考えても無駄だ。


「魔人に急所はないのか?」

「噂では胸の肋骨の裏に魔石が在って、それを壊せば死ぬらしい。手足を切っても再生すると聞いたぞ」

 ゴンタは魔人の情報も共有していたみたいだ。



 俺のインストールを相撲から剣に変更する。

『クーヤ殿、焦るな。一つずつ下していけばいいござる。それと相手はでかい、速度に乗せてはイカンでござる』

 井倉さん、ありがとう。井倉さんは俺の剣のインストーラーだ。

 速度に乗せると止められないと言うことか。坂の頂点であるここで待てばいいのだな。


「ヒイ、近ければ矢が効くかも知れん。30mまで近付いたら射ろ」

「ゴンタ、キヘイタさんは俺の後ろですり抜けたやつをやってくれ」

 後ろは鬼人達に任せるしかないな。


 魔人と4頭の狼魔獣はゆっくりと近付いて来る。ようし、そのままゆっくり来い。

 階段の下まで来たら30mだ。


 魔人が手を挙げた。

「行け!!」

 魔獣が走り出した。

「ヒイ!!撃て!!」


 魔獣は俺達に考える暇を与えない。数秒で坂を横に並んで、駆けあがって来た。

 ヒイの矢は四匹の額を見事捕らえたが無情にも跳ね返る。

 階段を登ってくると思ってたのが裏目に出る。


 俺は何とか胴を斬ったが駆け抜けていった。

 ヒイは1頭に体当たりされゴロゴロと転がって行った。

 ゴンタとキヘイタの槍は踏み折られ、体当たりで飛ばされていた。

 坂の上でもこんなスピードで、しかも100kgを超える体重で止められる訳がない。


 魔獣は俺達を無視して神社の裏に向かって行く。

 まずい、後ろの村人たちを狙ってる。

 しかし、ヒイを助けないと・・・。


 ヒイはむくりと起き上がって四つん這いになる。しかしその額からは少なくない血が流れ落ちる。

『ヒルダに大きなけがはありません。ゴンタとキヘイタは気を失っています。けがの有無は解りません』

 ナビさんが仲間の状況を知らせてくれる。死んではいないようだ。


 ヒイに駆け寄ろうとしたが様子がおかしいので躊躇する。

 ヒイはそのまま顔を上げ大きく口を開いた。

「アオーーン!!アオオーーーン!!」


 ヒイ!?

 彼女のショートパンツのお尻が盛り上がり、バリっと音を立て破れると金色の尻尾が飛び出る。

 口が裂け、牙が伸びる。服もビリビリ引き裂いて体が大きくなる。

 現れたのは魔獣に引けを取らない大きさの金色の狼。

「ヒイ・・・なのか?」


 いつの間にか神社の裏に駆けて行ったはずの魔獣達が、ヒイの前に整列している。

 魔獣の尻尾が股の間に入っている。これは怯えてるときに犬がするポーズだよな・・・。


 つまりなに、ヒイがなんか狼の神様かなんかになっちゃって、狼魔獣を従えたってことなの。

 そんなご都合主義な・・・。

 ヒイが「ウォン」と小さく鳴くと魔獣が小さくなって逃げて行った。

 魔石が狼の前に並んでる。魔獣でなくなったのか。


 いや1頭が境内の端っこで倒れた。

 俺が斬った奴だ。

 金の狼が見に行った。どうすんだろ?。


 は、魔人、魔人のことを忘れてた。

 俺は慌てて坂の下を覗く。

 目の前に魔人が現れた。浮いてるよ。

 不思議と恐怖はない。魔獣の方が恐ろしかった。


「どういうことだ?魔獣共の応答が無くなった。お前がやったのか!」

 魔人が俺に話しかける。魔人と言っても大きいだけで、人間のようで、白人系の顔だ。

「いや、俺がやったという訳ではないのだが・・・」


「今立ってるのはお前だけではないか!」

「まあ、そうなんだけど。そう簡単に説明できなくて」

 さっき起きたことをちゃんと説明できる奴がいたら、説明してほしいぐらいだ。


「魔獣はどこへ行ったのだ?!」

「逃げて行ったけど」

 うん、そうとしか言えないよな。


「そんなことあるか!馬鹿にしおって!!」

 剣を抜いて掛かって来た。

 すれ違いざまに胴を抜く。下半身が黒い靄のように消えて行く。


「おのれえ!!」

 こいつ!上半身だけになっても掛かってくる。

 そうか魔石を斬らないと。

 袈裟斬りにしてみる。今度は斬れたみたいだ。

 上半身も消えて行った。壊れた魔石が俺の目の前に落ちた。


「ふー、魔人って言っても大したことなかったな。・・・そうだ!ヒイ!」

 振り返ると境内の隅に蹲る裸のヒイが居た。

「ヒイ!もとに戻ったのか。あれはどうやって・・・」

 ヒイの足元には狼の死体があった。


 そしてヒイは狼の赤ちゃんを胸に抱いていたのだ。

 あー、どういうことだ。訳が分からんぞ。

 俺はヒイが破いた布の残骸を集めて、狼の赤ちゃんをそこに置かせた。


 収納庫からお湯とタオルを出した。

「前は自分で拭きなさい」

 俺は濡れたタオルで彼女の後ろをきれいにしてやった。

 尻尾はもうないな。


 彼女が前を拭いてるうちに着替えを出しておいた。

 この頃良く汚すので着替えは何枚か用意してある。

「ねえ、センセー、この子お腹がすいてるの。僕のお乳、出ないの」

 着替えながらその薄っぺらい胸を揉むヒイ。そんなもん出るか!。

「分かったから、早く着替えなさい」


 俺は子犬用のミルクと哺乳瓶を買ってミルクを作ってやった。

 ヒイはその間に赤ん坊を濡れたタオルで拭いて綺麗にしてやってる。

「ほら、これを飲ませなさい」


 着替えたヒイはミーミーと鳴く赤ちゃん狼を抱き上げると哺乳瓶を咥えさせた。

 狼はすぐにミルクを飲み始めた。

 なぜかしっくりとする姿だ。やっぱり女の子なんだな。


「ヒイ、どういうことか教えてくれるかい」

 お母さんの顔をしているヒイが顔を上げた。

「なにを?」

 俺はガクッとつんのめる。まるで吉〇新喜劇みたいだ。


「君が金色の狼になって、その赤ちゃん狼を抱っこするまでだよ!」

「金色の狼??僕が気が付いたら狼がこの子を産んでて、助けなきゃって・・・」

 ヒイの頭の上にはクエスチョンマークがいくつも並んでるようだったから、金色の狼になっていた時の記憶はなさそうだった。


「君は服を破って狼に変身したんだよ。何も覚えてないのかい?」

 さっきまで狼の赤ちゃんを置いていたボロボロの服を見せてやった。

「あ、ひっどーい、僕の服、ボロボローッ、誰がやったのぉ!」

 お前だお前、これ以上聞いても無駄か。


『私が説明します。ヒルダはまず遠吠えで魔獣達を呼び戻しました。そして金色の狼に変身して、自分の傷を治して、前に来た魔獣達を元の狼に戻しました。狼たちは逃げましたが、ご主人様が斬った狼は魔獣でなくなったので、傷のせいで死んでしまいました。

 金色の狼は死んだ狼が妊娠していたので赤ん坊に魔石を与え、母親から出ても生きられるようにしたようです。そして金色の狼は去りました。ヒルダはその間、意識がなかったようです。

 金色の狼の正体ですが、ヒルダの両親の魂の関与があったように思われます』


 ヒイの精神状態にも関与できるナビさんがこの程度しか分からないと言うことは本当にヒイの両親が助けてくれたのかもな。俺は狼の死体とボロ布を収納庫に入れた。

 どれ、仕方がない、ゴンタ達を見て来るか。


 え、ゴンタ達がかわいそうだって、優先順位ってもんがあるんだよ。1番目はもちろんヒイだろ、2番目もやっぱりヒイだろ、3番目が俺で、あとは一緒かな。

「センセー、まだミルクが要るって!」

 仕方ないなー、先にミルクを作るか。


 ******


 あの後各村の村長さんい土下座で礼を言われたり、鬼人達に囲まれたりして大変だった。

 ゴンタは無事にシズカさんと結婚できるようになったみたい。

 奉納相撲の後は決まったカップルが、みんなの前でいちゃつくのが恒例みたいで、ヒイに悪影響を及ぼすので、早々に帰ることにした。


 見送りに全員来るのは勘弁してもらって、ゴンタとキヘイタだけにしてもらった。

 俺はバイクにキーを差し込み、オンにする。別にオンにしなくても走れるんだけど、ギアの位置とかライトとが使えないからね。


「クーヤ殿、鬼人はあなたの恩を忘れない。なにかあったら遠慮なく俺達を呼んでくれ」

「俺は明日将軍の家で会うだろうけど。しっかりと恩は感じてるから心配しないでくれ」

「まあ、忘れてくれてかまわんぞ。じゃあ、またな」

 包帯まみれのキヘイタとゴンタに別れを告げてバイクは走り出した。


「センセー、もっとゆっくり走って、ハイジが苦しそうだよ」

「ハイジって何?」

「うん、この子の名前。お母さんのニックネームからとったんだよ」

 長い幅広の布を貰って肩から斜交いにぶら下げている赤ん坊を指した。


「名前は付けない方が良いんじゃないか。野生に帰すときに寂しくなるよ」

 俺はどぎまぎしながら言った。大きくなったら山に放しに行こうなって言ったのに。

「大丈夫だよ。ずっと一緒に居るって決めたから」

 そ、そんな。


「だってその子魔獣だよ。魔石を四つも持った魔獣なんだよ」

 そうだよ。魔獣なんだよ。人の中で飼えるものじゃない。

「大丈夫、私の言うことはちゃんと聞くから」


『ヒルダとハイジの間に従者契約が成立しました』

 ナビさんの非情な声がする。

 従者契約って俺の異能じゃないのかよ。

 なんか重い荷物がドシッドシッと両肩に乗った気がする。

面白かったですか?何かで評価して頂けると参考になります。

次回はいよいよ出発に向け加速していきます。

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