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精霊と愚か者  作者: 湯
2/5

 大広間に入れるだけの人数の人々が大広間の中央を囲んでいた。アルマとイクトリスが大広間に着くと、兵士たちが中央と続く道を空けるようにと人々に呼びかける。二人はその空いた道を歩いて中心に向かっていく。


 中央には、このフール国の中でも高貴な身分や重要な立場の人間がいる。アルマ達が中央に着いて、最初に口を開いたの小太りの男性であり、大臣の一人であるミムゴルだった。


 「お待ちしておりましたよ。女王よ。」


 「ありがとう。ミムゴル」


 アルマの言葉に嬉しそうに優し微笑むと、すぐに表情を引き締めてイクトリスの方を向く。


 「イクトリス様。あなた様の言う通りに可能な限りの人をこの国に集めさせました。この城内だけでなはく、国中に多くの人々が集まっておりますよ。」


 ミムゴルの言う通り、この城内だけではなく国中に可能な限りの人が外から集まってきている。そのほとんどが帝国との戦争によって他国から逃げてきた者達だった。


 「そして、予定の時刻にこの城に向かって祈りを捧げるようにと、手配も済ませております。」


 「助かるわ!あとは、帝国に勘付かれてないかよね……。」


 「……おそらく大丈夫でしょう。もし、人の流れに気づいてたとしても、他国から人が避難しているようにしか見えないですし、実際そのような意味合いもあります。」


 「そうね、心配してもしょうがないわよね。もしもの時はこの私がどうかしてみせるわ!」

 

 イクトリスが自分で不安を飛ばすように、また周りの不安を飛ばすために胸を張って言う。


 「ええ、きっと、そうですよね。」

 

 「もちろんよー!」


 予定の時刻まで話しを続ける。アルマがふと周りを見れば本当に多くの人々がいる。いつもの兵士や使用人たち、この国の国民たち、他国から逃げてきた者、様々な人たちが集まっている。

 

 (失敗はできない。——絶対に成功させないと)


 改めて自分のなかで決心を改めていると、使用人から時間告げられたミムゴルがアルマとイクトリスの二人に声をかける。 


 「お二人共、どうやら時間のようですぞ。」


 大臣達が場を静めると、段取り通りにアルマが話し始める。


 「現在、帝国は精霊の力を悪用し、多くの国々を脅かしています。これは、許されない行為です。私は、フールの女王として、帝国の暴挙を止める責務があります。よって、ファージル大樹海に住まう大精霊イクトリス様に協力をお願いし、イクトリス様のお力をお借りすることになりました。皆さん、イクトリス様に帝国を打倒するための祈りを捧げてください。そうすることによって、私達は共に戦ってくれる精霊を、仲間を得ることができます。」


 大広間中に声が響き渡る。彼女はあまり時間をかけずに簡潔に言葉を述べた。この場で納得を得れるように時間をかける暇はなく、重要なのはもうこれしか手段が残っていないのだと思ってもらうことだった。事実、帝国と対抗するためにはこの方法しか残っていない。彼女の言葉を聞いた人々の反応は様々だった。ほとんどの人々は真にアルマの言葉を理解はできなかった。驚く者や慌てふためく者が多くいるなかで。しかし、もしかしたら自分達は助かるのではないかと希望を抱き始める者も確かにいた。


 女王であるアルマが膝を床につけて、イクトリスに向かって祈り始める。それに続いて、大臣達も祈り始める。すると、少しずつ祈り始める者達が広がっていく。その波は城の外でも起こっている。ミムゴルの手配どおりに、国中の人々がだんだんとこの場所に向かって祈り始めているのだ。

 

 イクトリスが手で水をすくうような仕草をし始める。よく目を凝らしてみると、その手の中に何かが集まっているのがわかる。時間が少しずつ経つにつれて、人々にもその何かがはっきりと見えるようになる。それは光のように見えるものだった。人によって違う色が見えるような、そんな光が彼女の手に集まってくる。彼女は自分の手から溢れないように球形へと光の形を変えていく。


 光の輝きは、あり得ないことに国中をほんのりと照らし始める。光を見ることで、事態をあまり理解してなかった人々も、自分達の想像を超えるようなことが起きているのだと徐々に理解し始める。また、あの光が帝国を倒してくれるのだと不思議に思えてくる。その輝きが強まるにつれて、信じ始めた人々も真剣に祈りを捧げる。捧げた祈りによって、更に光が強くなる。儀式が始まってどのくらい時間が経っただろうか。


 ——光の輝きは既に国中を包んでいた。


 輝きの発光源である光の球形は、イクトリスの手の上で人の頭ほどの大きさで浮かんでいる。イクトリスは感情エネルギーを集めながら、人の思いを感じる。この辛い現実から逃げたしたい、死にたくない、帝国への恐怖の感情。国や家族を守る為に戦う決意、生きたい、帝国と戦おうとする勇気の感情。十分に人の精神エネルギーを集めた。後はアルマの精神エネルギーを核とするだけ。集めた精神エネルギーと核になる精神エネルギーの相性が良くなければ、精霊として成り立たない。だが、負と正問わずに集めた帝国に対する感情の核としてアルマの戦う意志は十分に相性が良い。


 「アルマ」


 声をかけられたアルマはさらに感情を露わにして出そうとする。イクトリスの目には、大きなエネルギーを発するアルマの感情が写る。最後に、核となる感情を集めるためにアルマに直接触れようと手を伸ばす。


 ——その瞬間、広間の一部が轟音と閃光とともに爆ぜる。

 


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