ウサギの足を再びください
ウサギの足をもらったトロアはしばらく平和な日々を過ごしていた。
しかしある朝効果がなくなったのか次々とトロアにとっての不幸が押し寄せた。
うさぎの足を貰ってからそんなに不幸だ不運だと思えることは起きていない。それどころかちょっぴりハッピーと言える。
朝起きて用意されている今日の服を手に取って、今日はまたフリルが多いな……
こんなふりふり、まるで女の子みたいじゃないか全く……いつもメイドが用意してくれているのは知っているがこの服だけは気に入らない、他に何かないだろうか。
部屋の収納にあった、よかった。
………ん?
これは、スカート?
まさか私が拒むからと外堀から埋めるつもりか?
「上等だ、裸で廊下に出てやる、兄様の部屋に行って服を拝借しよう」
扉を開けるとそこに待ち構えていたのは母様と父様、流石に私がパンツとシャツで出てきたのを見て面白いくらいに焦っているな。
うんうん
「実に愉快ですね」
「いいからブラウスを着なさい」
「いやです、お断りします」
「いきなりスカートは嫌だったかもしれないがせめて上はかわいいのを着てほしいのよ?母様は……」
「いやです⭐︎」
「ワガママ言うんじゃないぞトロア」
「ワガママではありません、私は男の子として生きるのです」
そんなこんなでやいのやいのしていたら遅刻ギリギリになったわけだが?
久しぶりに不運だ……
全く、中のシャツまで女の子仕様にしようとするとはすごい束縛具合だ。
女の子だと言われる前に戻りたい。
エリックにも会えなかったし
「よっ、今日遅いじゃん!」
「貴様には関係のないことだ」
アレクはうるさいし
効果がなくなったのか?
あの宗教学科の男を探し出して聞くしかあるまい……こうなった場合聖水とかぶっかけて聖書の言葉をブツクサ言ってなんとかするんだろう、それまでの保険としてもう1本、いや3本欲しい、ちょうど1羽分になるし
非現実に縋るほど参っている自分が嫌いだ。
何故にこんなに弱いのか
「部活行きたい……」
あの涼しい本だらけの空間に一生居たい、長期休みに来ていいなら宿題をやって本読んで夕方に帰る
なんて素晴らしい!
「結局トロアってどこの部活行ったんだ?俺フリーダム部なんだけど」
「は?………」
最悪だ。
結局あのベンチに座っていてもウサギの足の男は居なかったしこなかったから旧図書室に来たわけだが……
エリックも今日は部活に来られないと言うし、本当に私は運が悪い。
「うわ、赤い目のウサギ」
そうでもないらしい。
目の前にいるのは間違いなくあの男だ。
「フリーダム部だったのか?」
「あなたこそ………って、あなた1年だったのですね、私は2年ですよ」
「この小さい体で同学年だと思っていたのか?」
「いや………態度が大きいから同学年かと………私が先輩なら一応自己紹介しましょうか……ロドリゲス・フォン・カルデラと申します」
長いからロドでいいな。
「私はトロア・グリアノール。早速だがウサギの足もう3本くれ」
「はぁ?前のあるでしょう?」
「効かなくなった」
「これだから化学学科は……ほら見せてみなさい」
化学学科だからなんだと言うんだ。
ウサギの足は……鞄の内側につけていたから黒ずんで黒ウサギになってしまったのだが……こんなことなら洗っておけば良かった。
ちょっと恥ずかしいな。
「あー………あなた誰かに呪われてません?譲渡してからまだ1週間経ってすらいないのになんで真っ黒なんですか……」
「汚れたのは申し訳ないと思ってる」
「汚れたわけじゃないですよ、あなたの不運を吸い取ってこうなったんです」
「………そういう商法か?」
「違いますー、普通なら今日1日無事に過ごせたことをお祈りすれば3ヶ月くらいは余裕で持つんですけどね、それをしなくても1ヶ月はこうならない……最近誰か亡くなりました?」
「祖父が死んだ」
「身内の呪いか……はたまた強い未練か………しょうがないですね、特例で新しいのあげましょう」
またポケットからウサギの足を出したなこの男、いったいいくつ持ってるのだろう
「ありがとう、ロド」
「勝手に名前を略さないでください」
やったぞ!真っ白のウサギの足を手に入れた!
そもそもこれは何でできているのか、宗教学科は神力を借りて神具を作るとは聞くが……
隠された部分が多いからなぁ……
魔法と神力が全く別なものというのもよくわからない……魔法は人の願い、神力は神への祈りとはよくいうが私には両方同じに見える………ま、兎にも角にもこれでしばらくは安泰だ。
「トロアくん!補習早く終わったから来たよ!」
ここまで効果があると少し怖いな
ロドリゲスは帰宅してからすぐに自室に行くとベットに倒れ込んでみるとポケットに違和感を感じて眉間に皺を寄せつつ取り出してみると真っ黒に変色したウサギの足のキーホルダーが入っていた。
入れたのを思い出してからギュッと握り締めてその上から反対の手のひらで拳を握り、聖書の一部を朗読しながら神に祈りを捧げると少し手の中が光り輝き、手を広げると真っ白なウサギの足に戻っていた。
ロドリゲスはそのキーホルダーを電気の光に照らす。
(まさか私の作ったキーホルダーが1週間未満でああなるとは……)
自分の力を過信しているわけではない。
だが周りの評価を見るに生まれつき神力が強いらしく、それを証明するように神器を作る授業ではいつも成績トップでそれどころか学校の中で誰も神力でロドリゲスに勝る相手などいなかった。
そんなロドリゲスの力で作られたウサギの足が普通の性能であるはずがなく、幸運の授かり方が尋常ではないため他人に渡すことなどできない代物になっていて、あの時トロアに渡した後すごく後悔していたのだが、あんな真っ黒な状態を見せられては渡さなければいけないと思わされてしまうくらい気持ちが変化していた。
(それにしても化学学科……
…………
いいなぁ〜〜〜
私も化学がっつり勉強したい!特に鉱石について調べまわりたい!!あぁもう!ヤキモキする!私は大司教より科学者になりたいのになんでこんな力を持って生まれてきたのか!!)
だがこの力を持つ限り、周りの親族も教会連中も許してはくれないだろう。
神が授けたこの力を使うこと、それが自分の使命だとは認識しているがそれはそれこれはこれだ。
(神を信じる科学者がいてもいいでしょうに……)
それを決して口にすることはないが、綺麗になったウサギの足をまたポケットに入れようとして辞めた。ベッドから起きて机に向かい、あの凄まじい念を抑える、または浄化する神器となるように手を加えるためにウサギの足のキーホルダーの分解を始めた。






