親友と結婚するつもりはありません
体育の授業中に殴られたトロアは家のベットで動けずにいた。母から親友との結婚を進められるなど色々あったが多少は良くなって3日ぶりの登校日学校の敷地内で名前も覚えてない同じクラスの男に肩を叩かれる…
拝啓お腹が痛いです。
家に帰ってからも何回か吐いたし、トイレに行くのも足がガクガク震えるし、発熱はするし、碌なことがない。お医者様は子宮も大丈夫とは言っていたが私はそんなこと心配していたわけではないんだ。
明日は学校休みなさいと言われたのは幸いだ。これでいくなんて無理、途中で力尽きる。
それに
「兄様大学は?」
「休んだ」
「また留年しますよ」
「大きなお世話だ」
ラナク兄様が私の部屋で本を読んでいる。
正直落ち着かないしどっか行って欲しい。
可愛い弟が寝にくいと思わないのだろうか、あと留年してるんだから大学はきちっと行くべきだと思う。
ちなみに留年理由は出席日数不足だ。
計算を間違えたとかなんとか言って父様と母様に怒られていたのを見たしあんなに怒っている父様も初めて見た。
「大きなお世話はこっちのセリフです」
「チッ……お香焚いてやるから寝てろ」
「要りません」
喋らさないでくれ、痣に響いて痛いんだよバカ兄様……
お兄様や母様、父様、誰かこいつを連れて行ってくれ……
ガチャ
「お前大学も行かず何をしてるんだ?」
ナイス父様!さあさあ連れて行ってください!
「誰かが居てやらねばと思って」
「だから使用人に任せていたのになんでお前がトロアを見ているんだ?さっさと大学行ってきなさい!!」
「まだ三年生を再開してから1日も休んでないから1日ぐらいどうってことはないはずだ!」
「それで留年したんだろう?次留年したら家から叩き出すぞ!」
お願いだから私の部屋喧嘩するのはやめてもらえませんか?私の存在小さいから?物理的に、ほら、可愛い末の子が布団頭まで被って世界を遮断しているぞ?ほら、気づいて?え?殴り合ってる、ちょっ、待って、暴れないで
「何してるの!トロアがゆっくりできないでしょ!2人とも外でやりなさい!」
「あっ、しまった……すまんなトロア、ラナクはこっち来なさい!」
「い、いや俺はトロアが……」
母様降臨した瞬間すぐに片付いたな。
母様はもしかしたら平和の女神の生まれ変わりだったりするのだろうか。
だとしたら私は女神の子か、うん、悪くない。
でも母様はまだ魔法が使えないし私も男だから魔法……あ、私女の子って言われたんだった。
じゃあ魔法が使える可能性があるのか?
いつ魔法が使えるようになるかは完全な個人差と老婆になってから使えるようになった例も確認されている。
でも男で生きていくって決めたからな私は、もし男の魔法使いが生まれたと言われるようになったらただの詐欺師だと思われるかあるいは女であるか確かめられるかどちらかだろうから、余計なことはしないでおこう。
「トロア、化学学科の子のノートをエリック君が持ってきてくれたわよ」
「エリックが来てたのなら通して欲しかったです……」
「そういうわけにもいかなかったのよ、隣国の大使館の方がいらっしゃってたから……そうだわ!あなたエリック君と結婚しなさいな!あの子なら大歓迎よ?」
「母様それは無理です」
エリックと私が結婚?
確かにエリックは優しいし私の理解者だがもし私が女だから結婚してくれって言っても今まで男として接していたのだからエリックも困ってしまうじゃないか。
結婚相手としては……
うん、毎日楽しく暮らせそうだ。
いや、私が母様の思惑に嵌められてどうする。
「エリックは私の目が覚めるまで手を繋いで待っていてくれるほどいい男です。きっと他にいいお相手がいます。私は男として生きるんです。エリックの子供が生まれたら抱っこさせてもらうくらいでいいのです」
「あら、他の女の子に取られていいの?」
「だから私は男として彼の1番であればいいのです!」
お腹クソ痛い、正直今までの関係を壊したくない所はある。わかってください母様
これでもトロアもいろいろ考えているのです。
「まだ高等部です。私はまだこれから先いろんな人に出会いますから……エリック以外の友を見つけることだってあるでしょう」
「それもそうね」
わかってくれた。
それだけでホッとしたし、ラナク兄様も居なくなっていたから私は案外すぐに眠ってしまった。早く学校に行きたい、エリックのためにも元気な姿を見せたい……
そういえば、ノートに書いてあった名前はうちのクラスの誰なのだろうな。顔もわからないのに返すの面倒だな………
僕エリック
家に帰ってからひたすら考え事をしてたんだ。
トロア君に今日ノートを届けたんだけど僕が貸してっていう前にトロア君と同じクラスメートが貸してくれたんだけど……
彼は誰だったんだろう。
トロア君は「まだ新しい友達が出来そうにない」って言ってたのに彼は「トロアの友達」を名乗った。
正直僕は何かの冗談だと思ったさ
彼は友達の定義が広かったのかな?
アレクって名乗ってだけれど……トロア君の口から一度も聞いたことがない名前だったし、そもそもトロア君が興味ない人の名前を覚えるような子じゃないから、きっと彼のことを聞いても知らないっていうに違いない!
断言する!
そう思うとなんか可哀想だな彼……
「ねぇエリック、今なんの授業かわかる?」
「わかりますよ先生、中央の女性の裸体像を描く授業でしょう?」
「ええそうよ?わかってるなら勝手に像の顔変更しないで、書き直しなさい」
うっかり裸体像にトロア君の顔くっつけちゃった…………
………
「先生、長丁場になると思いますがトイレ行ってきます」
「わかりました、貴方は一点減点するけど行ってきなさい」
………僕は最低だ
◇ ◇ ◇
3日経ってやっと普通に歩けるくらいになったがやはりしばらく体育は見学したほうがよさそうだ。
馬鹿でかい正門を潜って校舎まで歩いていく生徒は数多い、案外子供ってたくさんいるんだなと実感するよ。
「よっ、元気になったか?」
「誰だ貴様ぁ!?」
突然肩を叩かれてびっくりして腹に拳を一つ叩き込んでしまった……なんだこいつ……
あ、わかった、思い出した。
背の順で私の隣にいた男だ。
私より小さいわけではないものの平均値よりちょっと低いくらいのやつだ。
つまりこいつは同じクラスで……
「何すんだよ、友達だろ?」
「まだ友達ではないはずだが?」
「まぁまぁそう言わずに、ノート貸したの俺だぜ?」
ノートと言われてこれ以上借りを作るわけにはいかなかったから即その場でノートを出して返してやった……そもそも名前は……
あ、名前がある……アレク・サンドレアス?
ますます聞き覚えがない……
「ノートに関しては礼を言う、ではな、親友を探さねば…」
「親友ってあれじゃね?」
なんでこいつがエリックのことを知っているのかは知らないがあれは確かにエリックだ。
なんだか少し元気がないようだな。ちょっと抱きしめてあげるべきなのかもしれない。
手を広げて待ってやろう
「お前痣どんな感じ?」
「ひぇっ?!」
今こいつ何した?!
なんだこいつは!
いきなり人の着ぐるみを剥がせるように特訓されたようなスピードで私の服をめくって!
最悪だ、他の生徒にもこの頼りない柔らかそうな腹を見られた……
あとエリックにもこんな痣でまだらになった肌を見せてしまった……
「ちょっと君何してるの!」
「いやいや、ただ心配してるんだよ」
「大きなお世話だ!トロア君には僕だけで十分だ!さっさと教室に行けこの変態!!」
「はいはい、またあとでなー」
「地獄に堕ちろ!」
あぁいつもはおとなしいエリックが荒れてる…それもこれもあのアレクとか言うバカのせいだ、教室に行ったらもう一撃ぐらい殴ってもいいくらいの所業だ。
「トロア君大丈夫?」
「あーびっくりした、だが問題ないよエリック、昨日はありがとう」
「お礼なんていいよ、僕と君の仲じゃないか」
「親しき仲にも礼儀あり、言わせてくれ」
「あ、今日の放課後に部活動見に行かない?、部長さんにはもう話はつけてあるから」
「わかった行こうか、さすが行商人一家の長男だ。話が早い」
まだ学校に着いたばかりなのにもう放課後が楽しみだ。勉強以外の楽しみがこれしかないのも少々問題かもしれないけど……
エリックと居られるならそれでいいさ