とっても優しい私の親友
女だと聞かされてから初の登校をするトロア
しかし今日の体育の授業は皆から嫌われるあのクラスと合同であると聞かされ、トロアは信じていない神をさらに嫌うのだった。
自分が女だといわれてから初の登校日だ。
とは言っても制服もないし自由な格好が認められているから私はズボンで行くわけだが?
別にわざわざ教えなくても良かったような気がするが……そう言えば先生方は私が女だということを両親から聞いていたのか?
いや、それはないな、ないと信じよう。
私が通う学校、帝国立マカルトール学校は男女共学でこの国1番の名門校だ。
ここにはさまざまな分野で良い成績を収めた者や名の知れた権力者の子供も通っていて多様性も大事にする学校だから私がどう生きようとも自由にさせてくれるだろう。
「おはようトロア君」
「おっとおはよう親友、今日も元気そうで何よりだ」
後ろから小走りで来た緑の目をした清潔そうな男の子は私の初等部からの大親友のエリック・メルセルだ。
1番最初にできた友でもある。
初等部時代、他人にどう接するべきかわからず1人で本を読んでいた頃に転校してきたのが彼だった。
当時の国策で地方に住んでいようがどうであれ優秀な子供は全てこの学校に集結させられるらしい、今は分校があちこちに設立されたから無理に引っ越す必要はないとかなんとか
まぁそんな話はどうでもいい。
私が読んでいる本を勝手に覗き見したエリックに本の貸し借りをしないかと誘われたのが会話の始まりだった気がする。
流石にはっきりとは覚えてない。忘れた。
「トロア君なんか元気ないね、どうしたの?」
「わかるかい?、少々家族からエイプリルフールのような告白をされてね………あまりこの件に関しては聞かないでくれたまえ」
「ふぅん、何か困ったことがあるなら言いなよ?僕でよければ力になるからさ」
「エリック、君ってほんと優しいね、優しさが人の皮被って歩いてるみたいだ」
「君のその特殊な表現力、僕は大好きだよ」
さて、1時限目はなんだっただろうか、私の記憶では確か語学だったはず……残念ながらエリックとは教室前でお別れだ。私はS組で彼はA組
来年こそは同じクラスに!
と、言いたいところだが、クラスごとに専門学科の英字の頭文字が当てられていて私はScienceのS組こと科学学科、彼はArtのA組こと美術学科
つまり卒業するまでニ度と一緒のクラスになれない。
こんなことならもっと若い頃に門限無視とか不良の遊びをすればよかったよ。
教室に入ればみんな本を読んでいるか何か作っているかのクラスだ。
やれやれ今日も退屈な日になりそうだ。
昼ごはんになれば食堂でエリックに会えるしそれまでは我慢するしかない。まだ通い始めて1ヶ月しか経っていないのにいまだにクラス全員の名前すらわからないのは本当にやばいと思う。
「はいベルなったぞーみんな席に着けっていう前に座ってる化学クラスは楽で良いなぁ……みんな座って授業聞いてくれるし」
去年体育学科で担任していて胃に穴をあけ休職していた先生がそんなどうでも良いことを言ってからホームルームが始まる。
「今日の4時限目の体育はM組と合同だから、うん、全員死にそうになったら遠慮なく倒れて良いぞ」
先生、今なんて言いました?
クラス中顔引き攣ってるじゃないか
え?なに?学科が多いから合同授業があることには納得しますがまさかのM組?
誰が考えた!
すまないエリック、お昼ご飯一緒に食べられるかわからなくなった。
生きて帰れるよう祈っててくれ……
◇ ◇ ◇
僕エリック、美術学科の学生なんだけどここの学科は女子が多くて自分が納得するまで芸術作品を作り続けるタイプの人間の集まりさ。
たまに魔術学科の生徒の力を借りたりしてる子もいるし、中には魔法を使える子もいるよ。
魔法って便利そうだよね。
女の子の2人に1人くらいは神から授かるって聞くけど男は一生魔法なんて使えないから、過去歴史上で何度も魔法と化学が戦争したり宗教が絡んだりするのを見てるとさ
未知なるものを怖がってかあるいは羨ましいから争いが起きているように見えるんだよね。
そんな戦争してた分野がギュッと1箇所に集まったような学校だけど大丈夫なのかな………
少なからず事件は起きているらしいけれど、僕はもし学校内で化学、魔法、宗教がぶつかり合うなら迷わず科学を取るよ。
トロア君が心配だからね。
トロア君のためなら鬼になれる自信しかない。
あの赤い目が綺麗なんだよなぁ……
「化学学科の今日の体育M組とですって!」
「あんなヒョロヒョロの集まりとやるの?!先生何考えてんの?!」
えむ組?Mって言った?
NでもLでもなくて?
………
もしトロア君に傷一つでもついてたら……
傷つけたやつに絵の具で汚れた水頭からぶっかけてやろう
「君その汚れた水ちょうだい?」
「いいけど………エリックあんたなんでそんな怖い顔してんの?」
◇ ◇ ◇
普通に教室で他の男子に混じって着替えたが何も言われなかったな。それはそうか。
こんな胸ではわからないのだろう
あーなんて都合の良い体!
そして現実はクソ!
「全員整列!!!点呼確認!!!」
あぁうるさい……
軍隊学科、militaryのM組らしい点呼だがそれと同じ点呼を私たち化学学科に求めるのだから本当にクソだ。
教師も退役軍人だから目にでかい傷跡があるし厳ついしなんたって怖い。
神なんて信じてないがそれでも現実はクソだ。
あーそろそろ入る部活動を決めないといけないのか、部活何に入ろうかな。
「貴様!!それでもアレイスター帝国の男か!!!」
信じられるかい?まだ体育始まって10分経ってるのにいまだに1人1人声出しさせられてるんだ。非効率的だよ全く。
そんでさっきからうるさいの、先生じゃなくて生徒なんだ。私と同じ一年の学級委員長。
先生は座って見てるだけ。
体格は大人顔向けだが、何食べたらこんな体格になるんだ……肉か、やっぱり肉なのか?
私は肉食べると胃が重たくなるからあんまり食べられないからこの差はでかいだろう。
そうじゃなくても私は背の順万年1番前の149センチだ。
あと1センチは絶対に伸ばしてやる……
この低身長は一体誰に似たんだ?お兄様も兄様も170あるかないかなのに。
「貴様聞いているのか!!!」
「やかましいのは貴様だ!いちいち怒鳴らなくても聞こえている!!」
あぁ、イライラする……
つい言い返してしまったが後悔はない。
この程度で怯んでいてはアレイスター帝国の外交官を務める一族、6代目グリアノール家の息子としてふさわしくはないだろう
「貴様良い度胸だな、上官に楯突くか!!!」
「貴様こそ軍人になる人間が一般市民を怒鳴り倒して何が楽しい!」
「ちょっ、トロア落ち着けって……」
クラスで下から2番目に背の高い男が話しかけてきた。
誰だこいつ、こんな奴いたっけ……
「統率力無くして作戦の成功は無し!我々が貴様らのレベルに合わせろというのか!!!」
「合わせなくて良い!ゲホッ……実戦の時に女子供にも同じことを強いるのか?」
叫びすぎた、喉が痛い、というか、酸欠だ。午後の授業は起きていられるだろうか……
よし!授業時間ちょっと削ったぞ!あとはこの言い合いでこの時間を終わら……あれ、飛んだ。
意識がとかじゃなくて私の体が飛んだ。
浮いた。
すごい。
いや全くすごくない。
どこ殴られた?腹?みぞおち?痛いのはわかるがそれがどこかわからない。
周りの声が謎に引き伸ばされて面白い。
なんか軍隊学科の先生がさっきの生徒を殴り飛ばしてるのがぼやけた視界の中で見える……
気持ち悪い
◇ ◇ ◇
「目が覚めたら知らない天井とか物語の始まりにあるけどそれを実体験することになるとは思わなかったよ」
「僕も隣で手を握って目が覚めるのを待つ人になるとも思わなかったよ!」
「おやエリック、朝ぶりだね、元気かい?」
「今はもう放課後だよ、君が起きてくれたからちょっとは元気さ」
あれから何が起こったのか彼が説明してくれた。
気絶したトロアを保健室に運んだのはクラスのみんなで、今回殴ったあの男は謹慎処分、そもそも軍隊学科には他の生徒を殴ってはいけないという規則がありそれを破ったため学級委員長も辞めさせられたとか。
今はあの男の親とうちの親が話し合っている状態らしい
「お腹痛くて起きられない……」
「そりゃあんなでっかい痣ができてたら痛いよ、真っ黒だったもん」
「え?見たのか?エリックのエッチ」
「エッ?!お、おへそのあたりがはだけてたから直しただけだよ!それより部活どこ入る?なんか君に良さそうな部活見つけてきたんだけど一緒に入らない?」
そう言えば部活どこに入るか決めかねてたんだった、運動は嫌だが国体に出るために猛練習もごめんだからな。
「なんて部活?」
「フリーダム部!」
「へ?」
耳がおかしくなったかと思った……
フリーダム?え?自由?どんな意味で?
「活動内容は?」
「好きなことをして好きに過ごす、以上!」
「それ100人規模の部活では?」
「部長1人、副部長1人、あと2人の小規模な部活だよ」
「怪しいな、そんな好き勝手できる部活に人がいない理由があるはずだ」
「生徒会が許可出してない部活だからじゃない?ほら、部活名簿にも載ってないでしょ?」
どうやってそんな部活を見つけてきたのかはまぁ良い、良い、のか?
そもそも部活動なのか?
とにかくこの忌々しい腹痛が治り次第行ってみるか……
…
カーテンをあけると大切な親友は眠っていて瞼を開いてはくれなかった。トロア君と名を呼んでみたがなんの反応はない……布団から少しはみ出た手を握り、怪我の具合を確認するためそーっと布団を捲り上げてボタンを外し、お腹を見るとそこには黒っぽくてインクのシミみたいなはっきりとした痣があった。
白い彼の肌との境界線をそっと撫でる。
「誰、だよ、トロア君を傷つけたのは……」
怒りを含んだ声でそう呟いて、そのまま服を戻そうとしたが怒りがスッと抜けた。
怒りよりも目の前の光景を冷静に考えてみると、寝ている親友の服を脱がしていることには間違いないのだ。
しかもあと一つボタンを外すと確実に乳首は見えてしまう位置。
変に喉がなった。
(今、踏み外したら罪悪感でニ度と会話もできなくなる!)
グッと堪えてボタンを全て止めてまた布団を被せたあとに残ったのはバクバクうるさい心臓と熱い体。親友の彼にそんな感情を抱いた自分が恥ずかしくて特に顔が熱い。
思いついたように手を握り、彼の冷たい手を温めるためまた手を握る。その細くしなやかな指や柔らかな感触を今度粘土で再現する名目で観察し続けた。