(2)
「あの……兄さん……」
「だから、兄さんって呼ぶな」
そう言ったのは……ボクの彼女の兄さん。
昨晩の内に、この近辺の防犯カメラの位置は、ほぼ特定している。
例の新型の地上用ドローンの御蔭だ。
その監視カメラの位置を避けて特別結成された専門部隊が問題の倉庫に侵入する予定だ。
で、ボクらは、現場で生身の人間が必要になる不測の事態の為の要員だ。
「ところで、夜だと目立ちません?」
「今時、ドラマやアニメで肌が黒いと夜に目立たない、なんてネタをやったら炎上するぞ」
「ポリティカル・コレクトネスのせいで?」
「いや、単につまらな過ぎるから」
「これ、肌じゃなくて毛ですけど……」
ボクたちが居るのは、問題の倉庫の屋根の上。
「バレたらマズいものを運送するなら、この時間って最適なのか?」
「難しいですね……」
今は、夜中の2時ごろ。
そして、問題の倉庫の付近にトラックが停車して、デカいコンテナが搬入されていた。
百万都市のド真ん中でも交通量が少ない時間帯と言うべきか……空港の近くなんで、飛行機が飛んでない時間帯は交通量が少なくなると言うべきか……。
ともかく、ここ数日の状況を見る限りでは、この倉庫に何かが搬入される時間帯は……八〇%の確率で、夜中の〇時から三時までの間のようだ。
でも、バレたらマズいモノを運搬するのは、車がほとんど通ってない時間にすべきか、交通量が多い時間に他の車に紛れてやるべきか、どっちが目立たないかは難しい問題かも知れない。
『ドローンと「使い魔」は全部、侵入に成功した』
後方支援チームからテキスト・メッセージ。
倉庫の入口が空いた隙に、魔法使い系の人の「使い魔」が憑依した猫と、同じ位の大きさの地上用ドローンが倉庫内に入ったようだ。
変身能力者それも獣化能力者であるボクらにとっては、非変身能力者用の防具……特にヘルメットは使えず、ついでに非変身能力者用の小型イヤフォンも耳に入らない。
「ハヌマン・シルバー、了解」
「ハヌマン・エボニー、了解」
腕にベルトで装着した2つ折り2画面折り畳みタイプの通信端末に、そう返答。
一方で、ボクらの変身後の指はタッチパネルが反応にしくい。
なので、通信は「向こうから送られるのはテキスト、こっちから送るのは音声」か「双方向とも音声」になる。
「使いにくい……」
ボクは、通信端末の画面を閉じながら、そう独り言。
「いいアイデア有れば出せって『工房』から言われてんだけど……そもそも、お前作った連中は、この手の事をどうするつもりだったの?」
「さあ? 昔の警官や歩兵が使ってた肩に付けるタイプのトランシーバーで何とかなるつもりだったみたいですけど……」
「今時、それで何とかなる訳……」
「ないですよね、やっぱり……」
その時、通信端末が振動える。
「えっ?」
「ボクたちが出動しなきゃいけない事態が……起きないといいですね、これ……」
『今、倉庫に居るトラックのナンバーを識別。韓国の犯罪組織「熊おじさんホールディングス」の下部組織のもの』
「でも、俺の馬鹿親父と互角とか言われてる、あそこの社長御本人が出て来る訳じゃないだろ」
「熊おじさんホールディングス」という犯罪組織とは思えない名前の犯罪組織の「本社」社長……通称「熊社長」……は、「東アジア最強の獣化能力者候補」と言われてる3人の内の1人だ。
ボクたちと同じ古代天孫族・月の支族系の獣化能力者らしく、高速治癒能力を含めた超身体能力は古代天孫族・月の支族系の獣化能力者の平均を遥かに超え、膨大な「気」を利用した気功を取り入れた戦闘術を習得しており、更には長年に渡って修羅場を潜り抜け続けた戦闘経験という化物中の化物だ。
『変だ。この倉庫の中には……何かの魔法がかかってるっぽいモノが格納されてるコンテナは、ほとんど無い』
「使い魔」を倉庫に侵入させた魔法使い系の人から連絡。
「へっ?」
『隠形系の魔法で気配を隠してる訳でもない。ここの倉庫に有るモノの大半は非魔法的なモノだ。あと……さっき搬入されたコンテナがフォークリフトに乗せられたままだ』
そして、コンテナを搬入したトラックが発車。でも、倉庫の入口は開いたまま。そして、倉庫の中からは灯りが漏れてるまま。
本当なら、この後、魔法の影響を受けない遠隔操作型のロボットが倉庫に侵入して、倉庫の中身を調べる筈だったが……。
『あと1時間ほど、そこで待機してくれ。状況に変化が無ければ、撤収してくれ』
「いいえ。状況に変化あり。別のトラックがやって来ました」




