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魔導兇犬録:HOLDING OUT FOR A HERO  作者: HasumiChouji
第一四章:悲しみに振り向けば明日が見えないよ
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(9)

 軍や警察の機能が完全に麻痺していた「大阪」内から抜け出すのは、簡単だった。

 優那ちゃんは熊本の阿蘇に有る魔法・心霊関係が原因で起きた病気なんかが専門の病院に入院中。正気に戻ったように見えても、精神操作をされた後遺症は残ってるらしい。

 あたし達は、久留米に戻り……そして、八月一六日。

 富士山の噴火で、本当の関東が壊滅してから一一年目のその日……あたしは、壱岐と対馬の間の海に浮かぶ、偽物の東京の1つに来ていた。

 通称「台東区」。

 海の上からも見える、今は火山灰塗れになったまま放置されてる本物の何倍も大きい偽物の「雷門」。けど、外国からの観光客には好評なようだ。

 師匠達もクソ女も、ここで、以前に騒ぎを起こした事が有るらしく、一緒に来たのはクソ女の親類。

 噴火の起きた時刻になると……サイレンが鳴り出し、空を飛んでいる無数のドローンから、黙祷を促す声がする。

 そして着いたのは、この人工島(しま)の4つの地区の1つ「入谷」地区に有る、人工島の筈なのに木造の建物。

 やたらと昔風の外見……神社と言われれば神社に、お寺と言われればお寺に見える。そんな感じのほぼ同じ大きさ・外見の建物が3つ並んでいる。

 そして、1人の和服姿の女の人が居た。

 髪は真っ白。でも、背筋はピンとなっていて……妙に姿勢がいい。肌は……判らない……三〇か四〇の人の肌にも、六〇過ぎの人の肌にも見える。

「ようこそ……弁天院へ。以前に『大黒』の弟子だった関口から話は聞いています」

「え……えっと……貴方は……?」

「この入谷地区の自警団『入谷七福神』の7つのチームの1つ『弁財天班』の(かしら)である通称『弁天』」

 その人は……続いて、変な事を言い出した。

「……の1人です」

「えっ?」

「関口から、とりあえず行けって言われた以外は、何も聞いてないんですが……ひょっとして『弁天院』って呼ばれてるここに、そっくりな建物が3つ有るって事は、3人居るんですか? その『弁天』の名を名乗る人が?」

 クソ女の親類は、そう言った。

「日本で『弁財天』と呼ばれている神には3つの姿が有ります。1つは左右一対の腕に琵琶を持つ『福の神』としての姿。2つ目は8本の腕に様々な武器を持つ戦神(いくさがみ)としての姿。最後は、戦神としての姿と宇賀神と呼ばれる正体不明の蛇神(へびのかみ)が習合した宇賀弁財天と呼ばれる姿」

「じゃあ、この3つの建物は……」

「それぞれに、弁財天の3つの姿の内の1つが祀られ、そして、私を含めて、弁財天の3つの姿に対応した術を得意とする3人の術者が居ます」

「なるほどね……」

「例えば、西洋魔術や、道教や陰陽道などでは、他のやり方が有るようですが、私達、密教系の術者は、持って生まれた霊力の種類や、使える術の向き不向きなどを、仏教の仏菩薩や諸天善神の名で呼び……それを『守護尊』と称します。そして、ナニナニ如来と呼ばれる仏とナニナニ天と呼ばれる諸天善神には、仏教の教義では、たしかに位の違いは有りますが、術者の守護尊としては位の高い仏が守護尊でも位の低い諸天善神が守護尊でも、術者の力には余り関係が有りません。もって生まれた才能や、どれだけ正しい努力をしたか……才能を延ばすような経験を積む事が出来たか……そして、マトモな師匠に巡り会えたか……そんな事の方が単純な力の大きさに関しては重要な要素になります」

「えっ……?」

「ああ、言われてみりゃ……」

 あまりに意外な説明だったけど……クソ女の親類は、心当りが有るようだった。

「ただ、仏や菩薩・明王などの仏に近い存在が守護尊だった場合は、術者がある程度修行を積んだ後に、真の力を得る場合が多いのに対し、位の低い諸天善神が守護尊だった場合には、まだ、修行の途中か、ちゃんとした修行を始める前に力が目覚めてしまう()()()は、かなり大きくなります。特に『荒振る神』としての一面が有る神の場合は更に、その確率が増します。位の低い神が守護尊だからと言って力が劣る訳ではありません。ただ、修行の過程で自分の身を滅ぼすような危険性は位の高い仏菩薩が守護尊だった場合に比べて大きくなります」

 段々と……嫌な予感がしてくる説明だった。

「貴方の守護尊は、私達と同じ弁財天。福徳の神としての姿と荒振る神としての姿の両方の姿を持つ神。貴方には、力を制御する為の技術や心を身に付ける前に……強力な力を得てしまう可能性が有る。これは……」

「目覚めかけました……ひょっとしたら、もう……」

「その事も関口から聞いています。貴方は、今、自分で思っているよりも遥かに危険な状態にあります。自分の力で、自分の身を滅ぼし、貴方の大事な誰かに危害を及ぼしかねないような……。けれど、幸運にも、貴方は縁が有った。貴方と同じ力を持って生まれた私達に……まずは、学校の夏休みが終るまで、私達が貴方に修行を付けましょう。その先は、貴方と貴方の身近に居て貴方を導いてくれる者達次第です」

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