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92【全日本高校選手権_伍】

 全員の競技が終了した。

 結果として、自分は三位。新堂は六位。

 一位は圧巻のトップホールドをきちんと掴み、クリップをし、文句なしの優勝。

 二位とは同じ高度だったものの、その場合は予選の順位も評価に加えられる為、三位となった。


 新堂は自分よりも少し手前で落ちてしまった。

 個人順位としては同高度の選手がいて、自分の場合と同じく予選順位が加味され、六位。


 それでも当初の目標であった団体としては、二位で十分な成績だと言えるだろう。

 優勝校は、もちろん個人優勝がいる学校でワンツーフィニッシュ。

 強すぎ。


 自分と新堂とは実質、実力がそれほど差があったとは言えない結果。

 実は勝負の事なんてすっかり忘れて、登っている所に「がんば!」と声を出していたのだから、単純なものだ。


 結果が出た後は、それどころでは無かったのも実際にはあり。


「どうしても出なきゃダメなのか?」

「往生際が悪い」

「俺に勝ったんだから、胸を張って行ってこい!」

「優陽くん、さすがにもう観念しましょう」


 三者三様に言ってくるがそのどれもが呆れを含ませていた。


「なんか実感湧かないし……」

「琴葉さんに胸を張るためと思って、行ってこい。団体は俺の方が行くから」 

「はい、私にその姿を見せて下さい」

「ん」


 沙月のためと言われれば、無理にでも向き合うしかなく。

 沙月に請われれば、いかんともし難い。

 万の言葉よりも効果があった。


「新堂、一発殴りたいんだけど殴って良いか?」

「奇遇だな。俺も同じこと思ってた」


 気が乗らないのは本当なんだけどな。

 それでもこれ以上、うだうだしていたら今度は本当に沙月から叩かれそうなので大河内の所へ向かおう。

 逃げるようにして大河内を見つけた。


「あ、朝比奈君。ちょうど良い所に来たね」


 そう言って直前の流れなんかを教えてくれた。


 実際の表彰式はあっさりした物で、そこまでどうのと思う事は無かった。

 ただこうして物を渡され形にされると成果が出たのだと実感する事ができ、ふつふつと心の奥底で気持ちが沸くのを感じていた。

 やっぱり単純なもので、成果が出たことが嬉しかった。


 そうして、表彰式が終わり、今は会場の外。

 沙月を横に伴い、新堂に改めて問いただした。

 

「それで、新堂は何であんな事を言いだしたのか理由くらいは話せ。約束は守ってもらうけど」

「いやー、負けたな。俺もまだまだだな」

「やけにあっさりしてるな」


「そりゃー、デート権なんて要らないからな」

「なんてとか言うな、そんな安い物じゃないぞ。もちろん買わせないけどな」

「面倒くさいな……」

「――――何を当たり前のことを言ってるんだ? 琴葉沙月という少女は可愛いんだぞ? 立ってるだけで注目を浴びるほどに。そんじょそこらのアイドルなんて目じゃないんだぞ?」

「いつになく、主張してくるな。俺が原因なのもわかってるが……。悪かったとも思ってるし、別に琴葉さんに魅力を感じないとかそう言うのじゃないからな」

「惚れるなよ」

「本当に面倒くさいぞ、お前」


「この件に関しては、絡みたくもなるだろ」

「分かった分かった」

「それで、言いだしたわけは?」

「めんど――――、睨むな。本気の朝比奈と競ってみたいと思ったからだ。今のお前は、どこか達観していて、沙月さんが横に居て土台が安定してる。でも安定しすぎているとも感じた」


 新堂はこっちをじっと見つめ、自分用の胸に拳を作り当ててきた。


「もっとどん欲になっても良いんじゃないのか。もっと奥底に(くすぶ)っているものを前面に押し出しても良いんじゃないかと思った」


 まるで新堂の中にある熱をこちらにも伝えたいかのようだ。


「そして、それがどれだけの物か見たくなった。そうしたら予想以上だったな。俺のが建前だったとは言え、勝ったのはお前だ。何か要求があれば聞くぞ」


 話し終えるとお手上げとばかりに降参された。


 自分としては本気で言ってたわけではなく、本当に安い挑発をされたもんだと。

 それに乗ってしまったのもどうかと思ってしまった手前、余り強く言おうとは思っていなかった。


 何か適当な所で手打ちにしても良いかと思った矢先。

 隣から声があがった。


「それって私が使っても良いですか?」

「新堂に何か要求したいってこと?」

「うん」

「良いけど」

「でしたら、明日一日、新堂さんを貸してください」

「「え?」」


 アホのように呆然とし、沙月を見てしまった。

 新堂も意外だったのだろう、沙月に目を瞬かせ驚いた表情を向けている。

 対する沙月はにこにこと楽しそうだ。


「それでは、優陽くん帰りましょう。

 新堂さん、明日はよろしくお願いしますね」


 そう言い終えると、手を引っ張り帰って行った。


 訳の分からない胸中は、狐につままれたかのようになりながらその日は終わっていった。


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