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88【全日本高校選手権_壱】

 クリスマス直前になり外も雪が降りそうなくらい寒くなってきた中、新堂と一緒に全日本高校選手権の会場に来ていた。

 今日は、兼ねてより約束していたスポーツクライミングの大会当日。


 受付を済ませ、準備をしていた。


「琴葉さん、こんな朝早くでも一緒に来てくれるんだな」

「あぁ、さすがに早いから大丈夫って言ったんだけど、行きたいって言われたらな」


 普段学校に行くなら、今ようやく起きて準備しても間に合うくらいの時間。

 今日起きたのは、明け方。

 早朝には家を出ていた。

 沙月はさらにお昼も作ってくれており、本当に頭が上がらない。


「折角そこまでしてくれたんだ。みっともない姿は見せられないな!」

「今日は予選なんだろ」

「だからって、手を抜くわけじゃないんだろ?」

「手を抜いて進めるわけもないだろ」


「あぁ、これまではなんとかなったけど、決勝は二十六位以内。

 まずはそれぞれここを通過しないとな。

 もし通過できたとしても、明日が決勝だからハードなもんだ」

「出来る限りやるだけだ」

「本当に怪我したって聞いた時は、どうなるかと思ったけどな!」


「心配掛けたな、もうほとんど大丈夫だから。

 テーピングすれば、登っててもほとんど違和感もない」

「むしろ感心してるぞ、ここまでこれたのも朝比奈がいてくれたおかげだからな」


 何か思うことでもあるのか、新堂はにやりと口角をあげた。


「これも琴葉さんが居たおかげか?」

「……お前ら、すぐそれで揶揄おうとするなよな」

「朝比奈の場合、仕方ないんじゃないか?」

「――否定はしない」

「どっちの対してだ?」

「両方」


 自分の答えに満足したのか新堂は破顔した。


「わかってるんじゃないかっ!」

「いちいち言わないと気が済まないのかよ。どいつもこいつも」

「それだけ、二人で居る事が自然に見えてるって事だ。良いことじゃないか」

「本当に良いのか? 俺が沙月いないと何もない出来ない人みたいに聞こえるんだけど」

「間違ってるのか?」

「……間違ってない」


 怪我をしてからというもの、いつも以上にお世話をしてくれ、その甘やかしはふとした時、学校でも自然と行動に現れ、沙月が美和に止められていたくらいだった。


「琴葉さんと一緒にいる時の朝比奈は本当に、安定して地に足がついてるからな。

 その状態で競ってみたいと思えるくらいにはな」

「味方同士で競ってどうするんだよ」

「団体順位としてはそうだが、同じルートを同じタイミングで登れる一回きりの勝負。

 これほど良い舞台ないだろ」

「――そういう意味ではそうかもな」


 状況としては納得できても、実際に競うとなると余りピンと来なかった。

 しっかりと上位に入りたい。

 いい結果を出したい。

 明日の決勝に残りたいという意志はあるものの、新堂と競うとなると燃える物は無かった。


 新堂はそんな自分をじっと見つめ、何か言いたそうだったが口を開く事はなかった。


 ステージ裏で順番を待ち、今か今かと心を落ち着ける。

 考えるのはこれまでやってきたこと。

 ケガの不安はあったものの、出来る事をするだけ。

 そうして、順番が来ると、新堂と共に登りに向かった。


 予選課題の一本目を登り終え、道具を仕舞っていると間宮が興奮したように話しかけてきた。


「おいおい、凄いじゃん。なんかもう一本の調子が良ければ決勝行けそうじゃね?」

「どうだろうな、新堂はともかく俺は団子ポイントで落ちてる気がする」

「団子ポイントってなんだ?」

「皆が落ちてる所。実質、あそこを抜けられるか抜けられないかで変わりそうな気がするから。新堂は多分大丈夫だろう」


「新堂と朝比奈が頑張った結果に変わりはねーよ」

「まぁ、そうなのかな」

「この後どうする?」

「少し胃に何か入れて、もう一本のを確認しておく」

「そうか――――、二人の時間邪魔したら悪いから後で合流するわ」

「別に俺らは気にしないが」

「……おれらが気にするんだっつの」


 そう言って手をひらひらさせながら、間宮は離れていった。


 最初の頃はともかく、今はもう見せ付けてるわけじゃないんだけどな。

 しかも親しい間宮から言われるのは少し釈然としない。


 そんな気持ちを抱えながら沙月との合流場所に向かっていると。


「あの子可愛かったな。あれって絶対誰かの付き添いだよな」

「そりゃーそうだろう。そうじゃなきゃあんなお洒落してここ来ないだろうし」

 

「付いてきてくれるとかどんだけ良い子なんだよ」

「ガンバ。って言われたらいくらでも登れそう」


「隣にいた子は、いかにも登ってそうだったけどな」

「あっちはあっちで、一緒にクライミング出来て楽しそうだよな」


「それに対しておれらは」

「それを言っちゃーおしまいよ」


 最初は沙月みたいに来てくれる人がいるなんて珍しいもんだなと思っていた。

 二人組でいるなんて、さらに珍しい。

 そう思っていると。


 なんかやけに遠巻きに見てる人が多く、その視線の先には沙月と麗奈がいた。


「お待たせ、沙月。麗奈も久しぶり」

「優陽くん、お疲れ様です」

「久しぶり、あんまり一人にするもんじゃないわよ」


「……何かあった?」

「声を掛けてきてくれた人がいたんですけど、麗奈さんが来たらどこかに行ってしまいました」

「琴葉さん、そんな丁寧な言い方しなくていいよ。

 ナンパされてたらから追い払っただけ」

「……そうか、ありがとうな」


 思わず天を仰ぎそうになるが、麗奈が来てくれて事なきを得たのは行幸だ。

 仕方のない事とは言え、穏やかな心とは無縁の胸中だった。


「それでもやっぱクライミングやってる人は、内気な人ばっかだからすんなり引き下がって行ったから、楽ね」

「なんで内気なのに、声掛けられてるんだよ」

「そうさせる何かがあるからじゃない?」


 そう言われ、思わずじっと沙月を見つめてしまった。


「何があるって言うんですか……」


 そう言って恥ずかしそうにもじもじしている。

 麗奈もじっと見つめていたようで、嘆息するように口を開いた。


「琴葉さん、それよ……」

「それって言われても私は恥ずかしいだけなんですけど。

 それに私は優陽くんを立って待ってただけですよ?」

「それがもうね、ドストライクな人達なのよ。

 優陽もそうなんでしょ?」

「……そこで振るなよ」


 あっけらかんと言い放つ麗奈と返事が気になるのか沙月は更にもじもじとしている。


 決して好み云々で沙月と一緒にいるわけではないと言いたいが、果たしてそれはどうなのか。

 カテゴリ分けしていけば、勿論、そういう分類をする事は出来るだろう。


 そうして分類してしまい、はたと考える。他のもっと、別の性格の人。

 明るく常に喋り続けるような性格が好みかと言われれば、それは首を傾げてしまう。嫌いと言うつもりもないが。

 少なくとも今、沙月に感じている心地よさとはまた別物になるだろう。


 結局は……。


 口を開かない自分をそこまで追及するつもりはなかったらしく、麗奈はさっぱりと言った。


「ま、基本的には人畜無害な気質だと思うけど、それでも気を付けなよ」

「酷い言われようだな、――――ありがとうな」


 そして自分の役割は終わったとばかりに去っていった。

 男前かよ。


「沙月、待たせてごめんな」

「別に優陽くんのせいじゃないですし、私が来たくて来てるんですよ」

「それでもな。ありがとう」

「お昼食べましょう。皆さんはどうされたんですか?」

「なんか遠慮された」

「そうですか。そうするとちょっと作りすぎてしまいましたね」


「やっぱり多めに作ってきたんだ。

 もう一本残ってるから少しだけしか食べないけど、終わったら俺食べるよ」

「無理しなくて大丈夫ですからね」

「無理したことなんて一度もないから」


「今度、どれだけ食べられるか挑戦してみます?」

「わんこそばでもするの?」

「それはそれで楽しそうですけど。

 無難に外で食べ放題とかですかね」

「外で食べるなら、それは参考にならないと思う」


「なんでですか?」


 きっと本当に分かってないのだろう。

 不思議そうな顔をしている。


「沙月の料理が特別だから――かな」

「……料理だけですか?」


 不思議そうな顔をひっこめて今度はにこにこと何かを期待した顔。

 それでもこうやられ続けては、さすがに慣れてくる。


「ん――――、全部」

「――――だんだん優陽くんもデレなくなってきましたね」

「いや、何も企まなくていいからね?」

「美和さんに相談してみます」


 心の中で、そっと和雲に謝った。

 ごめん、と。


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