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84【文化祭打ち上げ_参】

 全員が言葉少なに食事をし、食器を洗っていると一緒に片付けている沙月が自分にしか聞こえない大きさで伺ってきた。


「優陽くん。この後、優陽くんの望みを違えてしまいますけど、許してくださいね」

「沙月がそうしたいって思ったんなら良いよ」

「ありがとうございます。それと理性は保ってくださいね。絶対に。確実に。どんなことをしても」


 凄い念の入れようだな。

 いくらなんでも人がいる目の前で、気持ちのまま行動なんてしない。

 どれだけ盛りがついているのかと。

 さすがにそこは少し信用して欲しい。


「そこまで言うって、逆に何するの」

「それは見てからのお楽しみです」

「何にしても和雲達の前ではさすがに」

「言質は取りましたからね」


 そう言う沙月の視線は厳しく鋭い。

 やらかしたばかりに信用は低そうだった。

 勢いに負けてコクコクと頷く。


 話が終わると食器を洗う水の音が鳴り響いた。



「優陽くん、寝室をお借りしても良いですか?」

「良いけど、何するの?」

「覗いちゃ駄目ですよっ」


 覗くも何も。

 いやいや、そういう事じゃなくてだ。


「わたしも借りるわね」

「朝比奈君、失礼するわ」


 え?


 呆気にとられていると、美和も篠原先輩も寝室へと移動していった。


「何、俺は家探しでもされるの」

「隠し場所は大丈夫かー」

「無いから大丈夫」

「となると、データ派かー」

「黙れ」


 合ってるけど。


「もうさ、僕は心臓が持たないんだけど朝比奈どうにかしてよ」

「俺だってやばいって」

「だってどうみても琴葉さんノリノリじゃないか」

「美和だってだいぶ乗り気だろ」


「おれ達が一番の被害者なんだよなー」

「何も出来ないって泣きついてきたくせに」

「そうだよ、それが今となっては一緒にいるために実行委員に名乗りを上げるんだから変わったよね」


「あぁ、やっぱそういう事だったのか」


 海が口を尖らせているが、音は出てない。


 しばらくすると、寝室の扉が開き、沙月が出てきた。

 それは先日みた和服を着て出てきた。

 装いこそ同じものの、今回は髪型を後ろで華のよう咲かせ、髪留めがされている。

 昨日見たばかりだというのに、思わず見惚れてしまった。


 後から美和が出てくると、いそいそと和雲に迫っていった。


「全場さん、中でお待ちですよ」


 海は自身を指差し、首を傾げながら中にはいっていった。


 きっと分かってないのだろう。

 二人が着替えて、さらに一人残ってるんだからわかりそうなものだが。

 篠原先輩の分まで借りてあるのは、用意が良すぎじゃないか。


「さっきのはこういう事だったの」

「狼さんは寝られてますか」

「月の出る夜には気をつけて」

「今は昼過ぎなので大丈夫ですね」


「なんとかね」

「皆さんがいるのに、なんとかなんですか!?」

「言葉の綾だから……。

 それでも月がいつも隣にあると思うと安心するよ」

「ちゃんと追いかけてきてくださいね」

「あぁ」

「飲み込まれると困ってしまいますけどね」

「……善処します」


 つい二人の世界に入ってしまい、和雲達を見るが。

 あっちはあっちで二人の世界に入ってた。関係なかった。

 人の家だけどな。


 というかだ。


「海達遅くない?」

「遅いですけど……、どうしようもないと言うか……」

「扉を叩くとか」

「野暮すぎです」

「咳でもしてみる?」

「わざとらしすぎるでしょう」


「携帯は……、ここにあるな」

「大人しく貸してあげましょうよ……」


 はぁ、と溜息をつかれてしまった。


 確かに貸してても良いのだが、それでもまたこうして沙月が衣装を着てくれているのだ。なんというか……、もう少し浸りたかった。


「それいつ返すの?」

「いつまでも借りてるわけにもいかないので、明日には返しますよ」

「そっか……」

「そんなに気に入ったんですか?」

「そういうわけじゃ……」

「普段の私じゃ物足りませんか?」


 言葉と共に迫ってくる沙月。


「そうじゃない――――、そうじゃないからっ」

「そうしたらどういう事なんですかっ」


 膨れっ面をさせる沙月。いつもと違う一面も可愛いけどそれどころじゃない。

 慌てて言い繕うが。


「日常があって、非日常があるから良いんであって、非日常だけあっても良くなくて。日常が良いからこそであって――――――」

「時々なら良いって事ですか?」


 今ので伝わるって凄いな。

 言ってる自分が若干わけわからなかったんだけど。


「……そうとも言うかな」

「優陽くんは、こういうのも好きということですね」

「まじまじと言うの辞めてくれませんか」


 静止しようと沙月を見ればその表情はとても楽しそうに口は弧を描いていた。

 してやったりと物語っている。


 心の臓を跳ねさせるその笑顔に少しの悔しさを込めて、抱き寄せた。


「覚えててよ」

「忘れませんよ」


 そう口にはしつつも、やり返せる日が来るかは未来の自分に頑張って貰おう。

 今出来ることはこうして、沙月を腕の中で大事にする事だけ。

 

 意識を外に向ければ、和雲達も状況的には似たり寄ったりに見える。

 珍しく和雲が慌てふためき、美和が前のめりに襲い掛かるかのように迫っている。最近、和雲の完璧っぷりが壊れてきて、どこか笑えてしまう。


 海達は……、まだ出てこないけど、この際もう良いか。

 腕の中の温もりに誘われるように意識を落とし、外への意識を閉ざした。


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