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83【文化祭打ち上げ_弐】

 近くのスーパーにやってきた三人。


「それでさー、おれ料理作った事ないけど、どうしたら良いー?」

「何か簡単な物で良いんじゃないか。野菜切るくらいは出来るだろ」

「それぐらいなら!」


「和雲は何作るんだ?」

「まだはっきりとは決めてないけど、どういう形で用意するの?」

「それぞれに作ってたら大変だし、一品ずつ全員分用意するので良いんじゃないか」

「わかったよ。主菜は任せて良いかな?」


 すでに何かあたりをつけているのだろう。

 何かを探すように辺りを見回している。


「良いぞ。海も一緒に考えてやるからついてこい」

「男らしくて惚れそう」

「お前が惚れさせるんだろ」


「もう惚れさせた!」

「慢心して呆れられても知らないぞ」

「ぅ……」

「呆れるというか、そこも見越して誘導されてたし、大丈夫じゃない?」

「時すでに遅かったか」

「あれは優陽のせいだろ!」

 

 海の責めるような言葉を背に、材料をカゴの中へ放り込み買い物を終わらせた。


 買い物途中、ふと見かけた調理器具。

 中に流し込み丸く形を整える為だけの物。

 一手間加えるだけだからと、それを見た時の思いつきを行動に移すべく買い物かごへと入れた。

 その時、和雲から「今は使わない方が良いよ」って言われたが、何の事やらと気にしなかった。


「ただいま」

「おかえりなさい」


 気づいた沙月が廊下を歩きながら声を掛けてくれる。


「結構、買ったんですね」

「うん、なんか和雲と海が気合入ってる」

「一旦仕舞います?」

「いや、このまますぐ作っちゃうかな」

「何かしましょうか?」

「それぞれ出来る事しかしないから、大丈夫」

「期待して待ってても?」

「沙月ほどじゃないけど、精一杯作るよ」

「楽しみにしてますね」


 そう言って、沙月は元の場所に戻って行った。


「優陽ー、式には呼んでくれよな?」

「そっくりそのまま返すぞ」

「そこまで進んでないし!」

「その気はないって?」

「……」

「篠原先輩、海はどうやら――――」

「やめろー!!」


 告げ口しようとしたのを海が慌てて止めてきた。

 和雲が呆れ顔で言ってきた。


「目の前でやる方もやる方だけど、突いたらそうなるに決まってるのに。

 海らしいよね」


 暗にどっちもどっちだと。

 ごもっとも。


 海は頑張って野菜を切り、容器に敷き詰めている。

 和雲は、出汁を作り、すり身を作っている。

 自分は、ハンバーグのタネを作り、焼く準備をしている。


 そうして各々が作り終わりテーブルに運ばれていった。


「えーっと、なんだっけ。野菜のグリル? です!」

「海、頑張ったじゃない」


「僕はエビの真薯(しんじょ)を作ったよ」

「開けて良いの?」

「美和のはもう少し後が良いかな」


「俺はハンバーグ丼だな」

「……」

「あれ、何かおかしかった?」


 沙月がどんぶりの中身を見つめて、何も言わずに固まっている。

 その視線の先には、ハンバーグの上に乗せられたまんまるい目玉焼き。

 それはさながら月を思わせる出来栄えだった。


 無言なのに気づいた美和と篠原先輩も沙月の丼に視線が注がれていた。

 確かに沙月だけ、気合を入れて目玉焼きを作ったけど、そんなじっと見つめるほどなのか。

 和雲だけは理由が判るのか、苦笑いをしていた。


「このハンバーグの上に卵が乗ってるのって、優陽くんが考えたんですか?」

「そうだけど……」


 改めて確認するようなことなのだろうか。


「ねぇ、これ分かっててやってるの?」

「どうなんでしょう、私もちょっと勘ぐり過ぎじゃないかと思ったんですけど」

「わざとだったら、凄いわよね」


 内緒話のつもりなのか、こそこそ話している。

 全部聞こえてるあたり隠れてないが。

 隠す必要がないのか。


「なんか、変だったかな?」

「朝比奈、僕は止めたからね」

「和雲は判るのか」

「優陽が何かやったのかー?」


 どうやら分かってないのは、自分と海だけのようで。


 月のような目玉焼きから目を離さず「んー」と顎に手をあて考える沙月。

 やがて何かを決心したように顔を上げた。

 どうやら沙月から問答があるようだ。


「なんで卵乗せようと思ったんですか?」

「乗せたら美味しいし、見栄えも良いかと思って」

「その割には丁寧に作ってある気がします」

「少し過ぎちゃったけど、中秋にも良いかと思って」

「つまりはこれ月ですか?」

「綺麗に出来てない?」

「…………」


 沙月の通り名前が入っているし、ちょっと洒落こませてて面白いと思ったのも束の間。

 それを聞いた沙月は、みるみるうちに顔が赤くなっていった。

 その様は、まるで触れたら火傷しそうな程に真っ赤だった。


「あれ、どうしたの」

「……陽がいつも照らしてくれるからですよ」


 どういう意味だろう。

 言った沙月は、顔をこれでもかと赤くしているし、なぜか美和も篠原先輩も凄い物を見たというような顔をしている。

 和雲も珍しく動揺してる。

 海は……、よし、いつも通り。


「朝比奈、海も。

 少し時間あげるから、調べて来なよ。

 誰もこれ口にできる雰囲気じゃないし」

「なんて調べるんだ?」

「『月が綺麗ですね』って調べれば、わかるよ。

 すぐ……。これ以上言わせないでよ……」


 女性陣からも、複雑な眼差しを向けられた。


 なんだろう。

 えっと、有名な文豪が告白の言葉を、日本語訳しました。

 その言葉が『月が綺麗ですね』。


 さっきのやり取りで思い出したのは、沙月からの確認。

 卵で作ったものが、月だと確認されて自分はなんと言った。

 『綺麗にできた』と。

 すなわち、全員の前で愛の告白を言ったのと一緒ってことなのでは。


 えーっと……、あーーーー……、うわっ。

 恥ずかしいな!!!


 しかも沙月はそれに対して、なんて言った。

 『陽がいつも照らしてる』って、陽って自分の事かっ。

 返事をくれたってことだよな。

 良い意味で。


 自分がいるからという意味か。

 自分と一緒にいてくれるという意味か。

 いずれにしても、意図しない公開告白は凄く恥ずかしいな!


「優陽ー、おれ尊敬するわー」

「海だって、わかってなかっただろ!」

「でもやったわけじゃないしー」


「このやろ。材料選ぶ時に、彩よくしたいって言ってたのだって、そういう意味だろ!」

「ばらすなー!!」

「海、その気持ちは嬉しいけど……」


 一人すまし顔をしてる和雲も逃がしてなるものか。


「美和、椀を開けてみろ」

「朝比奈、ちょっとこっちに飛び火させないでよ」

「作ってる時点で、いまさらだろ。エビの真薯だなんて、手の込んだもの。

 飾り付けの拘りなんて、そういう意味だろ!!」


「ほら、僕は小器用だから」

「一つだけ手が込みすぎてるから!」


「美和さん、顔がひどいことになってますよ」

「沙月ちゃんほどじゃないわよ」


 全員が全員、顔を真っ赤に染めていた。

 それは決して秋口に差し込む陽気な天気のせいでもなく、澄み切った空気から漏れ出る陽の光や、目の前の湯気をあげる料理のせいではなかった。


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