77【文化祭一日目_弐】
太陽は真上で学校を照らし、気持ちのいい天気はさらに文化祭を楽しむのを手助けしてくれた。
「何か食べる?」
「うん」
一応定番の物は一通りある様子。
その中で好きな物と言ったら。
「焼きそばにしますか?」
さすがに好みが把握されすぎているみたいで。
「沙月が良いなら」
「嫌なわけないじゃないですか」
「それもそうか、買ってくるよ」
「うん、あそこに座ってますね」
そうして急いで焼きそばを買ってくると。
人の往来が鈍くなっていた。
沙月の前を歩いている人が、男女問わず目を奪われていた。
制服姿で座っているだけ。
それでもその雰囲気だけでも人目を惹きつけ、容姿に感嘆されていた。
入りづらい事この上ない。
一瞬たじろぐも意を決し、いそいそと沙月の手を取り、屋上へと退散した。
そんな様子さえも沙月は嬉しそうにしている。
「ここの方が落ち着けるな」
「そうですね」
「この後コンテストだっけ」
「うん」
「それでその後は?」
「良い時間ですので、クラスに戻ってパウンドケーキの量を確認しようと思ってますよ」
「そうか、またあの作業があるのか……」
「さすがに全部無くなるとは思いませんけど」
「余ったら、和雲や海と打ち上げでもするか」
「良いですねっ」
「単純に遊ぶだけで、張り合わなくていいからね?」
「それは……場合によりますね」
果たして仕掛けるのは誰からか。
嬉し恥ずかし半々といった所だった。
「打ち上げは後で誘うとして、今は文化祭楽しまないとな」
「怖いのはだめですよ?」
「どうしても?」
「だめです」
そう言う沙月は、ぷいっと顔を背けてしまう。
それでも、じーっと見つめていると。
「もう少しマイルドな物なら……」
小さな声で妥協してくれた。
「いかないよ」
込み上げる笑いを隠そうともせずに、答えると沙月は、ぷくっと頬を膨らませ、拗ねられてしまった。
揶揄ってしまった沙月を宥めていると、カップルコンテストの時間になった。
若干の緊張を覚えながら、舞台袖で待機している。
その中で見知ったカップル。
知らない顔だけではないのは、少し有難かった。
「和雲、美和」
「朝比奈もやっぱりちゃんと来たんだね」
「やっぱりにちゃんとって、そういう和雲こそ」
「申し込みを済ませた時点で、僕の心情なんて二の次なんて解ってるくせに」
「本当にそれな」
互いの境遇に親近感をにじませていると。
「この前は沙月ちゃんの得意な場所でやられちゃったからね!
リベンジよ!」
「私だって負けませんよ」
燃えるように言う美和と、凛とした姿勢を崩さず受けて立つ沙月。
なんか変な遊びになってないか?
普段は仲が良いのに、なぜかそれぞれの想い人への対応になると張り合っている気がする。
「二人ともそれ楽しいの?」
「楽しいですよ?」
「楽しいわよ?」
「何が楽しいのやら」
「そんなの朝比奈君の反応が楽しいからに決まってるじゃないの」
「え」
「美和さんだって、飛江さんの反応が楽しいんですよね?」
「……」
何気なく聞いたはずが、その真相を互いに暴露され声も出ない。
「……二人で張り合ってたんじゃ?」
「確かに張り合ってますけど、対決ではないですよ」
「そうそう、それにこうでもしないと和雲くん、デレてくれないのよ」
「僕なの」
「なんだ和雲のせいじゃないか」
「優陽くんもデレてくれていいんですよ?」
「あ、はい……」
それぞれが互いに指摘され、声も出ない。
なんでステージに上がる前から恥ずかしい思いをしなければならないかと。
そんな事を思っていると、時間になったみたいだった。
「ハロー!エブリワーン!!」
司会が会場の人に呼びかける声がした。
わぁぁぁぁぁ、と盛大な声が響く。
人多くない?
「文化祭へようこそ、ここにカップルコンテストを開催します!
さぁ、果たして何が目的で参加してくれたのか、わたし達は知りません。
バカップルとして名を馳せたいのか。
はたまたラブラブ度を見せ付けたいのか。
それとも、景品に目が眩んだ哀れな番なのか。
ここに五組のカップルが参加してくれました」
どうみても最後の指摘は余計だろう。
当たっているだけに罰が悪い。
そうして紹介され登壇していく。
ステージ上からは、盛り上がりが直に感じられ驚いた。
人、人、人。
校舎から覗き込んでる生徒も多数見えた。
どんだけ盛り上がってるんだ。
間宮に大河内、新堂の顔も見られ、ニヤニヤしている。
実生も見に来ていて、バカ笑い。
遠くから海達も見ているのがわかり、やっぱり大笑いしている。
あとで見てろよ。
そう思ったのも束の間。
「おっと、これは凄いカップルが登場だ!」
司会が思わずそう言うのも納得。
最後の五組目が、男性はきちっとしたタキシード。
女性は豪華なドレスを着て登場した。
「詳しい話は自己紹介の時に話してもらいましょう!」
そう言って簡単に出場者が紹介されていった。
初々しいカップルに始まり、次はいかにもオタクです!という瓶底眼鏡に坊ちゃん頭、三つ編みを両脇に垂らしたカップル。
そういうコンセプトのコスプレだろうか。
三番目に和雲が爽やかな笑顔と共に挨拶をした。
そうして回ってきたので。
「両隣が凄すぎて、勝てる気がしないけど、頑張ります」
早々に白旗宣言をしておいた。
早いぞー!という知った声が聞こえた。
どうやって勝てと言うのか。
「確かに最後のカップルはわたしも驚きました!
さぁ、自己紹介をどうぞ」
「社交ダンスやってます!
どうぞお見知りおきを!」
それだけ言うとピシッとした姿勢でポーズを決めた。
すでに勝てなくない?
「それでは皆さん、席について貰いましょう。
ここからお題が五問、出題されます。
それぞれパートナーと答えを一致させてください」
あくまでも相性問題って感じか。
「そして審査するのは、ここに居る皆さんです。
会場にあるQRコードを読み込んで、投票してもらいます。
得票数の一番多いカップルに景品が贈呈されます。
ルール説明も終わった事で。
早速まず第一問、今、一緒に食べるとしたら何を食べたい」
そう言われて思い出すのは今まで沙月が作ってくれた料理の数々。
ちらっと沙月を見れば、にっこりしている。
それだけで十分。
何を書くかはすぐに決まった。
「それでは見せて頂きましょう!
ぴったり合っていたのは、三番、四番、五番。
さすがですね。
解答理由を聞いてみましょうか。
四番男性、トマトパスタですね。
選んだ理由をどうぞ!」
え、うそだろ。
わざわざコメントさせるの……。
マイクを渡され、嘘ではないようで。
「彼女が作ってくれる、俺の好物だから」
思わず正直に白状してしまった。
「彼女さんが作ってくれるとか羨ましいですねぇ。
元気に爆ぜててください。
次いきます!」
この司会、なにか恨みでもあるのか。
「第二問、今、一緒に出かけるならどこに行きたい」
どこに行きたいも何も、行きたくてこれに参加しているのだから当然。
「全員がテーマパークですね、景品にもなってるので簡単すぎたでしょうか。
なんか聞いても詰まらなさそうなので次いきましょう」
この司会、自由だな。
「第三問、今、一緒に遊ぶとしたら何をして遊びたい」
ついさっきまでこの後、何をしようと話していたのだ。
迷う必要はなかった。
「これが合ってたのは、二番、三番、四番、五番。
なんか二番と五番は、コスプレに社交ダンスって、みたまんまの解答ですね。
三番、四番が打ち上げパーティと一緒の解答。
三番に理由聞いてみましょうか」
「文化祭の後と言ったら、打ち上げよ!」
美和が力強く宣言した。
その声に会場がオー!と同意している。
美和らしいとはいえ、雄々しすぎじゃないか。
「会場も一体になるのは見事でしたね。
わたしも打ち上げは楽しみです。
第四問、今、一緒に買いたい物と言ったら何」
なんと言う事もなかった。
昨日、一緒に家電が欲しいと話していたばかり。
似つかわしくないのは判るが、きっとこれだろう。
「さー、後半に入り合ってたのは。
またもや全カップルが合いました。
二番、五番は趣味全開でいっそ清々しいですね。
四番が電子レンジとか一緒に住んでるのかと聞いてみたいですが――――聞きません。
皆さんの想像にお任せしましょう。
一番のカップル、洋服と割と幅広い所が一致しましたが、なぜですか」
いちいちツッコミ入れてくる辺り、やっぱあの司会、何かあるのか。
「この前一緒に買いに行こうって話してました」
「良いですねぇ、青春してますねぇ」
あの司会が一番楽しんでそうだよな。
「さぁ、最後の五問目です。
今、一緒にやりたい事と言ったら何」
その質問に少し眉をひそめてしまった。
もしここで今までと同じように、沙月が自分の答えに合わせて書いてくれるとしたら。
きっと『クライミング』と書くだろう。
一番嫌なのは、それで沙月が自分と一緒にクライミングをしたいと思われることだった。
それはかつて麗奈が聞いた通り。
一緒にやってくれる方が良いのではないか。
本心ではそう思っているのではないか。
我慢しているのではないか。
無理をしているのではないか。
いくら言葉を重ねても、普通だったらどうだろう。
一般的に見ればどうだろう。
そう比較されれば、覆すのは容易じゃない。
だから安易に示唆する事はできなかった。
「今までスラスラと手が止まらなかった四番男性、考えてます。
何か思い出してるんですかね。
その思い出してる内容はとても気になりますね。
書き終わりましたら、オープンです」
だから、この司会は……。
「終わったようです。
それでは見ていきましょう。
二番、三番、四番、五番が合ってますね!
四番が料理で合ってるのは意外ですね。
それでもここはきっと皆さんがずっと気になっている所にいきましょう!
五番の社交ダンスについて。
最後ですので、聞いてみましょう!」
「今度大会があるので、景気づけに参加しました!
応援よろしくお願いします!!」
その言葉に、会場は拍手を送り大盛り上がりだ。
「それでは最後に、一番から順番に自由にアピールして退場してもらいましょう!」
自由にって何もしないだろ。
そう思ったのは自分だけみたいで。
手を繋ぎ帰って行く一番カップル。
こう言ってはなんだが、ちょっと気持ち悪い動きをして出ていく二番カップル。
いよいよ和雲達の番になった時。
美和が、こっちを見てニヤリとした。
「和雲くん!」
そう言って美和は和雲に飛びついた。
和雲は困った顔をしながらも、お姫様抱っこをして退場。
会場は大盛り上がり、ヒューヒュー!と囃し立てた。
そんな美和のニヤつきにちょっと、本当にちょっとだけイラッ。
「沙月、ちょっと我慢して貰える?」
「うん?」
首を傾げる沙月に構わず実行した。
よっと一息に、沙月の腰を持ち上げ、肩の上に乗せる。
軽い沙月だからこそ出来ること。
それを言ったら方々から怒られそうだ。
持ち上げられた沙月は恥ずかしそうに顔に手をあてているが我慢してもらおう。
それはまるで自分の物だと主張するように。
自分の彼女はこんなにも可愛いんだぞと。
大切で仕方ない宝物なんだと。
その宝物は今まで自分にだけしか魅せない、大きな大きな一輪の花のように。
控えめなだけじゃない、手折られることはない、まっすぐ芯のある女性だと。
これでもかと見せ付けた。
その様子に会場は「オオォォ」とどよめき、それはそのまま拍手に変わり歓声でいっぱいになった。
自分は満足気に、沙月を肩に乗せたまま会場を後にした。
会場の裏にいき、沙月を降ろすと。
「ちょっといきなり何してるんですか」とぺちぺち叩かれた。
顔を赤くした沙月はすぐには気が収まらないのか、しばらくそれは続き、気の済むまで叩かれた。
そうされている間、会場ではまた大きな歓声があがり、コンテストは閉幕したようだ。




