74【それぞれの景品】
文化祭の当番を決めた夜。
「沙月」
「なんですか?」
上機嫌に聞き返されてしまった。
文化祭当日のフリーチケットを手に入れたからか今日は一日沙月の機嫌は良かった。
そしてそれがまさしく聞きたかった事で。
「俺も一緒に店番免除にしたけど、あれ本当に大丈夫だった?」
「大丈夫かそうじゃないかで言うと大丈夫ですけど、本当に手伝って貰いますよ」
首を傾げて聞いてくる。
いつになく機嫌がよくそんな仕草をされては、言う事も忘れてしまいそうだ。
けれどもそうじゃなくて。
「・・・手伝いは勿論するんだけど」
まだ引っかかりがあり、晴れない様子の自分。
それを見て沙月はくすりと笑いながら言った。
「多分、他の人に言ったら仕方ないって言われるくらいの量作りますから」
「そんなになの?」
「うん、一種類丸々受け持ちましたから」
去年、どのくらいの人が来てたっけな。
廊下が賑わう位には居た気がする。
「・・・頑張るか」
少し遠い目をしてしまった。
それでももう沙月はだいたいの算段を付けているのだろう。
その様子は心強い。
「私の家と行き来すれば、大丈夫ですよ。
本当に優陽くんも作れると証明しましょう」
「やっぱり疑われてたんだ」
「ふふ、店番免除の名目だけだと思われはしたでしょうね」
「普通はそう思うだろうな」
「だから目の前で当然のように出てきた、あの言葉は効いたみたいですね」
「・・・目の前で作るんだろうし、手伝わないわけないと思うんだけど」
「私からしたら、優陽くんがそう言ってくれるのは疑いようがないんですけどね」
にこにこしながら、そう言ってくれる。
信頼の高さにちょっとこそばゆさを感じながらも。
「そういう事なら、沙月先生に従って頑張りますか」
「私は厳しいですよ」
そうして沙月は無い眼鏡をくいっとあげる動作をし、二人して吹き出すように笑ってしまった。
「それと一つお願いというか相談なんですが」
「何?」
「今年はミスコンではなく、カップルコンテストが開催されるらしくてですね・・・」
言い淀んでるけど、まさか。
「ちょっと出てみませんか?」
そのまさかだった。
実行委員の人から打診はされていて、一回は断ったが余りにもしつこいため答えを保留している。もちろん最終的には断ろうとしてたのだが。
「どうしたの?」
何かよほどの事情があるのだろうか。
どちらかと言えば、沙月も出たくないだろう事は想像に硬くない。それで去年も途中辞退したのだから。
「実は景品がちょっと豪華みたいで」
物で釣られるのは更に意外だった。
「あの有名なテーマパークのペアチケットらしいんです」
「・・・なんでそんなものが」
「なんでも生徒会で必要な物を買って商店街のクジを引いて当たってしまったって聞きました。
処理に困った結果、景品になったらしいです」
「それは、確かにちょっと心惹かれるものが・・・」
「うん、なので私も行ってみたいな、と」
その気持ちは良く分かったし、出来るなら叶えてあげたいと思った。
そのテーマパークに行こうと思うと高校生にとっては懐が痛い。
ただでさえ一人暮らしをさせて貰い、ジムまで行かせて貰っているのだ。
遊ぶお金が欲しいと追加で貰うには心苦しい金額だった。
なによりも沙月が行きたいと言っているのだ。
無碍には出来ない。
「そういう事なら出るか」
「良いんですか!?」
良いと言うと思ってなかったのだろう。
沙月は驚きに目を丸くしている。
「良いよ」
「でもこういうの余り好きじゃないですよね」
「本来はね」
「無理してませんか?」
「無理なら無理ってちゃんと言うよ。それに・・・」
沙月の滅多にないお願い。
叶えてあげたいと思うのは当然だ。
「それにどうしたんですか?」
「クライミングの大会に出るんだし、衆目を集めるって意味では今までと変わらないって思う事にするよ」
口をついて出たのは、別の言葉だった。
思いは常々あるものの、それを本人に言うのはちょっと恥ずかしかった。
雰囲気の欠片も無い状態ではさすがに。
その言葉に納得したのか。
「ありがとうございます」
そう言って沙月はにっこりと微笑んでくれた。
その笑顔が見れるだけで自分にとっては何よりの景品だと思った。




