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71【それぞれの花火】

「この後ももう少し遊びましょうって話してたんだけど、三人は時間大丈夫よね?」


 食後でのんびり寛いでると美和が確認するように言ってきた。

 大丈夫という前提で話をしているのが美和らしいと思いながらも。


「俺は大丈夫だけど」

「僕も」

「おれもー」


 何をするのだろうか。

 さすがに宵のうちも終わるからそう長くはまずいだろうけども。

 割と自由にさせて貰っているとはいえ、夜遅くなってしまうのは問題だ。


「優陽くん、少しだけですので大丈夫ですよ」


 内心を(おもんばか)る様に伝えてくれた。

 誰よりも保護者に連絡がいく事態は避けたい沙月が言っているのだ。

 了承の意味を込めて、首肯した。


 と言うかだ。


「何をするんだ?」

「花火よ」


 美和が手持ちでやる花火を見せつけるようにして言ってきた。


「そういえば、僕達は今年花火行かなかったね」

「和雲くん、この二人は逢引(あいび)きするように行ったみたいよ」

「言い方・・・、別に良いだろ行っても」


 どこか責められているような気がして憮然(ぶぜん)となってしまう。


「別に良いわよ。でもそれを聞いたらやりたくなったってだけよ」


 あっけらかんと美和は言った。

 どうやら単に揶揄(からか)われただけみたいだ。


「そりゃー、浴衣姿を独占したいとか二人でイチャイチャしたいとか花火に照らされた顔に見惚れてたとか、思ってたんでしょ」


 ニヤニヤとした表情で言って来る美和。

 まるで見ていたかのような物言いに言葉を(つくろ)う事が出来ず。


「・・・なんでそこまで具体的なんだよ」

「否定しないのね」


 篠原先輩にまで言われてしまった。 

 否定するも何も。


「・・・その通りだけど」

「だって、良かったね沙月ちゃん」


 自分の話だったのに、なんで沙月なんだ?


 そう思い見てみれば、これまでの凛とした姿はなりを潜め、嬉しそうに恥ずかしそうにしている。


「なんであそこまで具体的だったと思う?」

「美和さん!」

「琴葉さんがそう言ってたからよ」

「彩晴さん!!」


 一人で二人の口を止める事は出来なかった。

 ようするに自分と沙月は二人して同じ事を思っていたわけで。

 それをわざわざ指摘されるのはさすがに恥ずかしかった。


 そんな二人を見て、満足したのか美和は外に行こうと皆を促した。

 二人で戸締りをしていると。


「二人にやり返されちゃいましたね」

「やっぱりそういう事なの」

「多分」

「でも同じ事を思ってたのは、嬉しかったかな」

「私もですよ」


 思いが同じだったことは望外に嬉しく気持ちが溢れ確かめ合いたくなった。

 四人が玄関の外で待ってるのを確認し、そっと顔を寄せる。

 沙月も同じ気持ちなのか、目を閉じ受け入れてくれる。

 優しく柔らかく唇を合わせた。

 瞬きの間にも関わらず、顔を離し目を合わせれば、こそばゆさと楽しさに笑い合ってしまい、どちらからともなく手に手を取り、外へと出た。


 近くの公園へ向かい用意したバケツに水を入れ思い思いに花火を手に持った。

 美和は和雲を呼び、ススキの穂のような花火を持ちながら、楽しそうに踊っている。

 それを見て和雲も楽しそうにしている。

 海は明るく噴き出ている花火を幾本も一度に持っては、宙に絵を描くようにして遊んでいた。

 上手く話せないと悩むよりも、こうして篠原先輩と一緒に笑っているのを見ると、今日一日で随分ましになったのだろう。篠原先輩も海を愛おしそうに見つめ、楽しそうだ。


「こういうのも良いかもな」


 花火に火を点け沙月と一緒に肩を寄せあい、呟いた。


「花火ですか、皆さんですか」


 沙月も同じ様に花火に火をつけ、眺めながら聞いてきた。

 移り変わる花火を見つめながら返した。


「両方かな」

「そうですね」


 そこからは手持ちが無くなるまで、はしゃぎ笑いつかれる程に遊んだ。

 手持ちの花火が無くなれば当然のように、線香花火を皆で囲んだ。


「今日はみんなありがとうね」


 そう(かしこ)まって言ったのは篠原先輩だった。


「おれからもありがとうー」


 海もいつもよりちょっと真面目に言ってきた。


「朝比奈の時もそうだったけど。

 僕も美和も、海がこうして喜んでるのが嬉しいだけなので、またこうして遊んでください。

 海ももう大丈夫だね」


 和雲がいつものように、なんでもない事だと言った。

 篠原先輩もその言葉を受け止め、微笑んでいる。


「海は、沙月と一緒になった時真っ先に喜んでくれました。

 そんな海が篠原先輩と上手くいって、自分も嬉しかったんです。

 だから手助けが出来るなら、こんなに嬉しい事はないですよ。

 それに俺はこの二人がしてくれた事をしただけです。

 少し激しいですが、この通り壁を壊すのには効果的みたいです。

 あとは、海の頑張りだけだな」


 海は言葉を受けて、まじまじと答えた。


「本当になー、さっきまでの色んなのを体験したら、これまでのがバカみたいに思えた・・・」

「そうね・・・、そこまで明け透けには出来ないけど、悩んでるのはバカらしくなったわね」


 そう言ってるけど、ちゃっかり手握ってるのは見えてますけどね。


 気づかれてる事にも、気づいているのだろう。

 篠原先輩の視線は花火を見つめ、周りを見ようとはしなかった。


「ね、だから彩晴さん言ったじゃないですか。やって良かったでしょ」

「・・・一応感謝しておくわ」


 そう答える篠原先輩の表情がすっきりしているようには見えない。


「無理強いじゃなかったのか?」

「一応、彩晴さんも納得はしてたと思いますよ」

 

 沙月が苦笑いをしながら答えてくれる。

 納得はしたものの、素直に感謝するには複雑と言った所だろうか。

 同じ体験をしている身としては凄く良く解った。

 

 そうして線香花火も無くなり、これでお開きかと思うと。


「最後にこれやって終わりますか」


 そう言って美和が取り出したのは、地面に設置するタイプの花火。

 確かに最後の締めとしては最適だろう。

 良い物を残しておいたと感心できただろう。

 花火を置いた後、そっと遠くの闇に溶け込むように離れていかなければな。

 誰が点けるんだか。


 海達をみれば、二人の世界に入ってしまい、和雲達の行動まで気が払えていない。

 こうなってしまっては仕方ない。 


「海、もっと向こう」


 距離を取るように手を振った。

 沙月も分かっていて、それぞれからそれなりに離れた位置になるように立っていた。


 火を点け沙月の元へと歩く。

 短い距離だが、沙月が手を差し伸べて迎えてくれる。

 そんな何でもない事だけで、愛おしさが溢れてきた。

 残念ながら今は外。

 気持ちを爆発させる事は出来ず、沙月を抱き寄せ静かに花火を見た。


 離れた位置に居るそれぞれはそれぞれの世界に入り、肩を寄せあい、花火を見つめていた。

 そうして花火が最後の華を咲かせ、一瞬の暗闇が訪れた時。

 何をしていたかは、当人達のみの知るところ。


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