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69【それぞれの甘えられかた】

「それじゃ、練習がてら合流するか」

「えー?」

「良いんじゃないのかな」


 自分の言葉に海は不思議そうにし、和雲は同意した。

 どうやら海はそれぞれの恋人がどこで何をしているか知らないようだ。


「篠原先輩、沙月の家にいるぞ」

「美和もだね」

「えーっと、なんで?」


 海が悩んでいる通り、篠原先輩も悩んでいるという発想には至らないみたいだ。

 当人にしたら、そういうものだろう。


「理由までは聞いてないけど、大方同じ感じなんじゃないか?」

「だろうね、この前遊んだ感じだと海の事を想ってると思うし、どうでも良いと思ってるわけでもなさそうだしね」


 プールであんな言葉をくれる人だ、きっとその通りだろう。


「待って心の準備が――――――」

「もう呼んだ」

「優陽ぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 絶叫する海の肩に手を置き、突き放した。


「腹を括れ」

「括らされるのは違うだろ!」

「いつ腹くくるんだ?」

「・・・いつか」

「「今」」


 二人からの指摘に、海が閉口しているとチャイムが鳴った。

 そうして扉が開いた音がしたものの、なかなか入ってこないのを不思議に思い玄関まで見に行くと。


「・・・何してんの?」

「あ、優陽くん」


 沙月が気づいて声を掛けてくれるが、見てる光景が面白過ぎて目が離せなかった。

 沙月は困った顔をし、美和は必死の形相で篠原先輩の腕を掴み逃がすまいとしているのに対して篠原先輩は、子供の様だった。


 篠原先輩の方が年上のはずなのに、逆転してるとかどうしたらこうなるんだ。


「合流しようという事で、玄関前まで来たは良いんですけどいざ入ろうとなったら彩晴さんが逃げ出そうとしてしまって」


 どうやらその逃走劇を美和が必死に止めているようだ。


「むりむりむりむりむり」


 美和に腕を摑まれている篠原先輩が首を振っている。

 駄々っ子か。


「何を今更言ってるんですか、そのためにわたし達も一緒なんですからね!」


 美和が必死に説得している。

 海は海で大変そうだが、こっちはこっちで大変そうだ。


「篠原先輩、このままにしておきたくもないので取り合えず中に入って頂けるとありがたいんですが・・・」

「・・・・・・・・・はい」


 玄関を開けっ放しにしておきたくないという要求をたてに家の中に入れさせる。

 その要求も当然の事と理解しているのだろう、渋々ながらも玄関に入ってくれた。


 中に入ったはいいものの踏ん切りが付かないのか、篠原先輩はモジモジしている。

 知っている姿とのギャップにどう反応して良いか分からないが、篠原先輩がこれで海もあれなら確かに言葉少なになってしまうのも仕方ないのかもしれない。

 そんな様子に沙月も同じ事を思ったのか、同時に溜息をついてしまった。


「全場君、玄関まで迎えに行く!」

「はい!」


 美和が中に入り飛んで行ったかと思えば、海の尻を叩いている。

 実際に叩いているわけではないだろうが、声の勢いは蹴り飛ばしていそうなほど強かった。


 自分達がいるのも野暮というものだろう、沙月を促し居間に移動した。


 居間に四人集まり美和が開口一番に言った。


「ねぇ、あの二人大変なんだけど」

「まさかの展開だったな」

「それでも海なら心配いらないと思うけどね」

「彩晴さんも本当に嫌なわけではないでしょうしね」


 それはそうだ、もし本当に嫌だったら美和の制止を振り切るなんて用意に出来ただろう。

 引退したとはいえ、直前まで運動部だったのだから。


「それよりこれからどうするのよ?」

「そうですね、ただお喋りするだけというのも」


 溜息が出そうな感じで美和が言うと、沙月も同意している。

 三人で話していたことと関係がありそうだった。


「沙月達の方では何か言ってたの?」

「何という事はありませんけど、二人きりだと緊張や気恥ずかしさが出てしまうという事でしたね。つまるところもっと仲良くなりたいという所ですね」


 やっぱり篠原先輩も悩んでいたみたいだ。


「またこの二人の時みたいにやるしかないわね」

「「え」」


 思わず和雲と共に声を上げてしまった。


 この二人とはきっと自分と沙月を指しているのだろう。

 そして二人の時と言うと、思い当たる事があった。

 きっと去年のイヴと同じ様に真似させる。

 おそらくこれが合流前、篠原先輩に話された内容なのだろう。


「朝比奈君はともかく和雲くんは嫌じゃないでしょ?」

「優陽くんも嫌じゃないですよね?」


 それぞれがそれぞれにまっすぐな視線を向けられる。

 残念ながら和雲も自分も否と言う選択肢は残されてなく、そうそうに白旗をあげた。


「「はい」」


 それだけ言うと、沙月も美和も満足気ににっこりと微笑んだ。


 海達も一緒にこちらへ静かに歩いてきた。

 二人とも照れてはいるものの気まずさはなかった。

 そうしてわざと空けておいたスペースに二人は共に座ると恥ずかしそうにはしつつも仲睦まじげだ。


 そんな二人をちらりと一瞥(いちべつ)し美和が口を開いた。


「単に話するだけなのも間が空いちゃうし少し遊びましょうか」


 一体何をするまでの間なのだろうか。


「何をして?」

「無難にトランプで良いんじゃない。

 せっかくだからペア組んで神経衰弱。ただし会話禁止」


 どうみても海達が不利な気がする。

 特に会話禁止という部分。


「もちろん罰ゲームありね」

「罰ゲームって何するんだよー」


 海が疑問の声を上げる。

 その疑問はもっともだ。


「単純に一位のペアが三位のペアに何かさせるんで良いんじゃない。

 もちろん過激じゃなくて常識的なものね」


 常識的なものねぇ。

 どう転ぼうがどういった展開になるか解っているだけに心情としては複雑なものになってしまう。


「わたしは良いわよ」


 すんなりと篠原先輩が同意した。

 これはやっぱり沙月の家で言い含まれている気がする。


「彩晴さんがそう言うなら良いけどさー」


 彼女が同意したら、そうなるよな。

 同じ(てつ)を踏んだ身としては、この後の展開にひっそりとエールを送った。


 そうしてトランプが乱雑にばら撒かれた。

 順番は男性陣が代表してじゃんけん。

 結果は、和雲ペア・海ペア・自分達という順番になった。


「それじゃ今から会話禁止ね」


 そう言うと見せつけるように美和は和雲と手を繋いだ。

 もちろん、自分も沙月と手を繋ぐ。

 それを海はギョッとするように目を見開き、篠原先輩もじっと見つめていた。


 それはそうだ、会話が禁止されている以上、ボディランゲージで意志を伝えるしかないのだから。


 まずはと和雲が二枚を(めく)り、外れる。最初なのだから当然だ。

 次に海と篠原先輩だが、どちらが動こうか互いに伺ってしまい動かない。

 海は少し迷ったあと、しっかりと篠原先輩を見据え自身が引く事を示した。篠原先輩も首肯している。

 二枚捲ると特に合わせられるカードはなく、終了した。

 自分達の番となり、特に打ち合わせる事もなく自分がカードを捲った。すると一枚目で和雲の一枚目と同じ数字を引いた。

 ペアを完成させ次へ進む。

 沙月が一枚、二枚と捲り自分達の番は終わった。

 美和が続き篠原先輩もカードを捲りゲームは進行していった。

 差が出るとしたらそろそろだろうか。

 自分達はあくまでも順々に交互に捲っていった。アイコンタクトを交え判らない場合は相手に譲るなど滞りはない。

 和雲達も基本的には美和が捲り、判らないと和雲がフォローするという形でそれぞれの形が出来ていた。

 海達はと言えば、順番の度に互いを見つめ恥ずかしそうにしていてカードを覚えるどころではなさそうだ。

 実際、直前に出ていたカードも取りこぼしてしまった。


 終わって見れば和雲達と自分達が同数で、海達がドベだった。


「ちょっとフェアじゃない気がするんだけどなー」


 海がちょっと不満そうに呟いた。


「気づくのが遅い」

「最初から分かってたのかよ、罰ゲームはノーカンで!」


 自分の言葉に驚き文句を言うが、自分も和雲も生暖かい目でそれを見てしまう。


「海、僕達も似たようなものだから諦めなよ」

「どういうこと?」


 その言葉が意外だったのだろう、海が首を傾げた。

 美和は待ってましたとばかりに宣言した。


「罰ゲームは、海が彩晴さんに膝枕をしてあげること」

「「え」」


 海と篠原先輩の声がハモった。

 てっきり篠原先輩には話してあるのかと思ったけど内容までは聞いてなかったのか。

 すかさず沙月が動き出した。


「優陽くん、少し疲れたので膝を借りてもいいですか」

「はい」

「沙月ちゃんずるい、和雲くん!」

「はい、いいよ」


 海と篠原先輩は呆気に取られるようにして見ていた。


 そう、罰ゲームなんて茶番で結局皆が同じ体制になる。

 二人には単純に罰ゲームだからと理由付けをして、なおかつ二人だけじゃないという状況を作り出しただけ。こっちに有利だがどっちにしてもこうなるのは目に見えていた。

 皆でやれば怖くない、ならぬ恥ずかしくない。

 そんなわけはないけどな。

 それでも甘えられて嬉しくないわけがなく、いつもと同じく頭を優しく撫でた。

 傷みも枝毛もなく、艶やかな髪の毛を手で梳くようにゆっくりと。

 沙月もうっとりと嬉しそうにし、顔は緩んでいる。


 海と篠原先輩はこっちを見ては、互いに見やりどうするかと葛藤しているようだった。


「罰ゲームの権利って、俺らにもあるんだよな?」

「同数だし良いんじゃない?」

「良くないだろー」


 海が抗議の声をあげるがその声に力は無い。


「別の罰ゲーム追加して欲しくなかったら、さっさと実行しろ」


 こっちだって恥ずかしいんだ。

 このまま海達がやらないというのは許されない。

 その言葉が効いたのか、海が決心したように膝を作った。


「彩晴さん、どうぞ!」

「・・・それじゃ失礼するわね」


 そうしておずおずと篠原先輩は、海の膝の上に頭を乗せた。

 

 なんだこの空間。


 そう思い和雲を見れば、和雲と目が合った。

 思ってる事は同じのようで、苦笑している。

 海はと言えば、膝の上に乗せたは良いものの頭を撫でるのはまだ決心出来ていないみたいだ。


「沙月、髪の毛触られるのってどんな感じ?」

「優陽くんに触られるのは大好きですよ。

 気持ちよくて安らぎを覚えます。

 つい力が入りそうになってしまっても、解きほぐしてくれるような感じです。

 私の居場所だと実感できる時の一つですね」


 そこまで言って欲しいなんて言ってない。

 

 どれほどの想いかを言われ、顔が赤くなってしまい見事に自爆してしまったが、ここで終わってはわざわざ聞いた意味がない。

 次はそっちの番だと和雲を見た。

 勝手にやった事だろうと言いたそうだが、それでも目を逸らさない自分に観念したのか和雲は口を開いた。


「美和は、どうだい?」

「幸せ」


 それだけ言うと美和は細めていた目を開け、こっちを見てニヤリとしている。


 ・・・なんか一人負けた気分だ。


 取り合えず嫌がられることはないと示せただろう。

 海を見るとそれでも決心が付かないのか、手が泳いでいる。


「海、撫でてくれていいわよ」

「はい」

 

 篠原先輩からの許可が出た海はゆっくりと丁寧に頭を撫でた。

 ぎこちないながらも、一生懸命なことが嬉しいのだろう、篠原先輩も満更でもなさそうだ。


 それにしても、言い方といいツンデレなのだろうか。

 

 そしてさっき間と言ってたこともあるから、次の段階があるんだろうけどいつまで続けるんだろう。

 次第に窓から日差しが差し込み、陽が隠れようとした頃、沙月が動き出した。

読んで頂きありがとうございます。

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