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64【それぞれの関係】

 自室に戻った自分は、ここ数日で貯まっている動画を見る事にした。

 実家に帰ってきてからという物、麗奈の件で落ち着いて見る事も出来ず手が付かなかったのだが、それもこうしてなぜか(いさか)いがなくなった様子を見られれば、安心する事ができた。


 クライミングの動画を見ては、色んな人の動きを観察し、ゲームの動画を見ればそのプレイに思わず賞賛したり、なんでもないミスに実況者が声を上げて笑うのに釣られて笑ったりしていた。

 そんないつもの行為に少し違和感を覚えている自分に少し驚いた。


 今までだって、別にずっと一緒に居たわけじゃないのに。

 寂しいのともちょっと違う。

 隣にいないだけなのになぜか落ち着かない……。


 その理由が分らず、首を傾げていると扉がノックされた。


「どうぞ」


 そう言って入ってきてくれたのは、沙月だった。

 ある程度予想はしていたが。


 パタパタと静かな音で近づいてくるのは彼女だけ、実生はもっと足音がうるさく、母さんはうるさいわけではないがもっとしっかりとした足取りだ。


「麗奈さんが帰るみたいですよ」

「ん、下行く」


 でもその前に。

 そっと後ろから沙月を抱きしめた。


「どうしたんですか」


 ころころと笑いながら言われてしまう。

 その声音は優しく、それだけで癒されていく。


「少しだけ充電」


 戻りが遅いと何を言われるか分からない。

 時間にしたら一分にも満たない時間だっただろう。

 このままでいたい気持ちを振り払い、そっと腕を解いた。


「行こう」

「うんっ」


 下に行くとちょうど麗奈は玄関に居た。

 母さんと実生と三人で話している姿は、いつもの麗奈のように見えた。

 様々な思いはあれど、麗奈には本心からの言葉を口にした。


「今日はありがとうな」

「お礼言われるような事してないと思うけど」

「まぁ色々な」


 昨日の事は置いておくにしても、こうして沙月と時間を共にして楽しい時間を過ごしてくれた事は素直に嬉しく思っていた。

 もっともなぜと聞かれれば答えられないからはぐらかすしかないのだが。


「飾音さん、良かったらまた遊んでください」

「こちらこそ琴葉さん、またね。

 優陽もまた一緒に登ってくれる?」

「麗奈さえ良ければ」


 それだけ返すと麗奈は満足そうに頷いた。


「それじゃ、お邪魔しました」

「また遊びに来てね。

 優陽抜きでまたお喋りしましょう」


 なんだろう、きっと一人の人として歓迎していると伝えたいのだろう。

 間違いなく良い事だ。

 だけどなぁ。

 何も本人の目の前で言わなくても良いんじゃないかな。


 そうして麗奈は玄関を開け、帰って行った。


 なんとなく前と同じように一緒に登り、そこに沙月が加わりまた新たな関係を築ける。

 そんな気がした。


 さっきまで抱いていた気持ちが今はなかった。

 そのはっきりしない感覚に気持ち悪さを感じながら、部屋へと戻っていった。


 すると、すぐにドアがノックされ、沙月が入ってきた。


「どうかしたんですか?」

「ん~、どうかした?」

「いえ、すぐ戻ってしまったので」

「うーん」


 今はさっきまでの感覚はない。

 特に意味はないが、なんとなく隣に座ろうとしてた沙月を膝の上に乗せ抱えるように優しく抱きしめた。

 抵抗はされないが不思議そうに、可笑しそうに言われてしまう。


「甘えん坊ですか」


 そう言われても仕方ない。


「沙月は、なんですぐ来てくれたんだ?」


 その言葉にますます不思議そうな顔をされてしまう。


「一緒に居たかったからですよ」


 何をいまさらみたいな表情だ。

 もちろん自分も一緒に居たいと思ってて、来てくれたのが嬉しい。

 そう、一緒に居たかった。


「あぁ、なんだ……」

「一人で納得しないで教えてくれますか?」


 いつになく会話の成立のしなさに頬を突かれてしまう。

 

 そんな仕草すらも可愛く、にやけてしまいそうになる。

 気づいてしまえば単純な事だった。


「さっき一人で上に居た時、やけに落ち着かなかったんだけど。

 それがなんでか解らなくて、気持ち悪かったんだけど。

 今わかった」

「どうしてだったんですか」


 わかってしまうと少し恥ずかしく、頬をかいてしまう。


「さっき上に来た時、本当は一緒に居たかったけど居づらくて一緒に居られなかったから。

 別に俺も下に居ても良いにも関わらず、別の所にいるのが嫌だったみたい」


 それだけ。

 なんでもない事だと言う風に言ったつもりだった。


「あの、ごめんなさい。居づらくさせてしまって」


 少ししょんぼりとした声音を出させてしまった。


「いや、そういう意味じゃなくて。

 別に本気で嫌だったわけじゃないから。

 もし本当に嫌だったら沙月はやめてくれてたでしょ?」


「うん、それでもちょっとはしゃぎすぎたかな、と」


「あれくらい構わないし気にしてないよ。

 それに楽しかったんでしょ?」

「それは……そうですね、楽しかったです」

「それなら良いよ」


 それでもまだ表情に曇りが見え、それならばと今の内に聞いておこうと思った。


「もしまだ気になっているなら、一つ聞いて良い?」

「なんですか?」

「何か直して欲しい事とかある?」


 その質問が意外だったのか、きょとんとし、目を丸くしている。

 それでもすぐに何に対して聞いているのか解ったようだ。


「優陽くんこそ気にしてるんですか?」

「気にするというか、今までそういった事を言われてないなって思って」


「特に無いですよ?」

「本当に?」

「本当ですよ」


 何度も聞くのは(はばか)られ、口を閉ざした。

 それでもそこまで自分は出来た人間だとは思っていない。

 そんな様子を察したのか、沙月は尚も言葉を重ねた。


「あの話は私にとっては大切な笑い話です。

 それに他の人に聞いて行動してくれようとしてくれるなんて、素晴らしい事ですし嬉しい事ですよ。あの場ではそこまで言う事はできませんでしたけど。

 きっと伝わってますよ」


「そこまで良い話というわけでもない気がするけど」

「私の事を考えてしてくれた事だから嬉しいんですよ」

 

 すると首に抱き着き、顔を寄せて言ってきた。

 まるで聞き逃さないようにと。


「昨日も言いましたけど、私はそんな優陽くんがまるごと大好きですよ。

 それこそ、私は一緒にいれればそれだけで幸せで満たされてます」

「うん、ありがとう。

 俺も丸ごと沙月が大好きだ」


 思いを思いで返し返される。

 それはとても心地よかった。


「ふふ、ちなみに優陽くんは私に直して欲しい事はありますか?」

「……ないな」


「昼間に言ってましたよね、言うようにしてくれていると。

 それこそ日々の何でもない事でも言うようにしてくれているのも嬉しいんですよ。

 だから同じ答えをくれると思ってました。

 私もあったらちゃんと言いますよ」


 こうしてお互いの気持ちを素直に言い合える。

 そんななんでもない事が心地よくて仕方なかった。


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