60【それぞれの理解者】
夏休み、自分と両親との約束で地元に帰ってきたはずだった。
そんな母さんの第一声がこれ。
「沙月ちゃん、久しぶりね。
来てくれてありがとう。
二人はお疲れ様」
「亜希さん、お久しぶりです。
車まで出してもらってありがとうございます」
「やっぱり俺はついでなんだよな」
「あたしもついで」
そう感想をもらしたのは、母さんに車で迎えに来てもらった時だった。
前回の経験を活かして予め迎えに来てもらったのだ。
助手席に沙月が座り、後部座席に実生と自分が座っている。
仲が良いのは良いこと、のはず。
それでもなんだかな。
「優陽、後でいくらでもイチャイチャして良いから不貞腐れないの」
「不貞腐れてない……」
「でも兄さん、凄い面白くなさそうにしてるよ」
「車移動で面白いもないだろ」
「後でお部屋伺いますね」
「……ん」
結局、その一言で体の強張りが解けたのが自分でも分かった。
実生が驚きを隠さずに言って来る。
「あたし、てっきり沙月さんが兄さんにべったりだと思ってたんだよね。でも兄さんも相当だよね」
「そりゃーそうでしょ」
「……どういうこと?」
「だって、そうじゃなかったら優陽から告白なんてしないでしょ」
「沙月さん……?」
プールで実生が知らなかった様子から、出所は一つしかない。
「あはは……、優陽くん気にしてはだめですよ」
「そうです! 兄さん、気にしてはダメ!」
こっちにはそう言って食い気味に沙月へ前のめりになる実生。
「お母さんに言ったのなら今更で良いですよね。
沙月さん、詳しくお願いします」
「良いわけないだろ!」
「嬉しそうに言ってくれる姿は恥じらう乙女って感じで可愛かったわよ」
「言われなくてもいつも思ってるけど……」
「今は惚気なくて良いので。部屋で二人っきりの時、存分にどうぞ」
実生が呆れたように言うが、さっきまで聞きたがってたのはなんだったのかと。
そうこうしていると家に着いた。
「今日の夕飯は、簡単に済ませちゃうから部屋でゆっくりしてていいわよ」
「わかった」
「はーい!」
「はい、何かお手伝いできることがあったら手伝いますから」
ドタドタと足音をさせながら、実生は自分の部屋へと戻って行った。
その様子を見ながら母さんはぽつりと呟いた。
「優陽と同じマンションにしたの、間違いだったかしら」
「俺らはそこまで世話焼いてないぞ」
「実生ちゃんは頑張ってますよ」
母さんが意味深な視線を向けてきた。
思わず身構えると。
「恋人が出来れば変わるのかしらね」
暗にそっちが理由だと言われ、そのまま揶揄われては敵わないと逃げるようにして自室へと戻った。
コンコン。
返事をすれば沙月が入ってきた。
「寂しがり屋のお兄さんはここですか」
「恥じらう乙女はそんな寂しがりに内緒話を教えてくれますか」
「あはは、怒ってますか?」
「いや、怒っては無いよ。
でも、母さんにはどうして言ったのかな。とは思ったかな」
そういうと沙月は困ったような表情を浮かべた。
「言ったというか、言い当てられてしまったというか。
本当に優陽くんの事なら、なんでも解ってるんじゃないかって気がしますね」
それを聞いてしまっては、特に何も言えず苦い顔をするしかない。
「嬉々として話すとも思ってないから、どうしたのかと思ったけど。
そんなところだよな」
「ごめんなさい、大切な思い出って言ったのは嘘じゃないですよ」
揺れる想いがあるわけではないのだろう。
それでも申し訳なさそうな顔をする沙月を優しく包んだ。
「そう思ってくれてるだけで嬉しいよ。
それにもし俺も聞かれたら、隠しきれる自信ないし。
それこそ事故みたいなものって思っておこう」
「うん。離さずに一緒に居てください」
「離したくないし一緒に居るよ」
これから先の事はまだ分からない。
先々で考えなければならない事が出てくるのは判っている。
それでも今どうにかしなければならないという事でもないはずだ。
心の準備だけはしておこう。
この腕の中に収まるほどの幸福を手放さないためにも。




