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58【それぞれのプール】

 プールの日、当日は見事なまでに雲一つない快晴。

 照りつけてくる日差しがじりじりと暑く、絶好のプール日和と言えた。

 

 海が誘いたいと言う相手と先日、女性陣で買い物に行ってきたらしい。

 結局、顔合わせが済んでいないのは自分と和雲だけ。

 いきなりプールに行くというのもどうかと思ったがそれでも問題ないとは美和の言葉。


 問題ない、のか??


 今は、プール前で沙月と二人で待っていた。


「実生ちゃん、一緒に来なくて本当に良かったんですか?」

「さすがにそこまで面倒はみないよ」

「本当にもう……」


 幾度となくしたやりとりに何か言うのは諦めたらしい。


「そうですよ、兄さんだけが沙月さんを独り占めはずるい!」


 いつの間にか実生も来ていたようで。

 いきなり突っかかってきた。


「実生のものでもないけどな」

「実生ちゃん、おはようございます」


「沙月さん、おはようございます。

 本当に兄さんには勿体ない……」

「常々思ってるから改めて言わなくても良いぞ」


 一体何に文句を言いたいのか。

 取り合えず文句を言いたいだけなのか。

 特に意味はないのだろう。


「ところで他のかた達は?」


 すぐに別の事へと気が向いていて、相変わらず忙しない。


「あれがそうじゃないか?」


 そう言った視線の先には和雲と美和、海が歩いて来ていた。

 もう一人隣に見えるのが件の先輩だろう。

 海の隣を静かに歩いている。

 その雰囲気は聞いていた通り大人びた人に見えた。


「朝比奈、おまたせ」

「沙月ちゃん達も待った?」

「今き――――――」

「兄さんが沙月さんとイチャイチャしてしょうがなかったんです」


 挨拶もなく、いきなり何を言い出すんだこの妹は。 


「イチャイチャなんてしてないだろ」


 いつも通り沙月と二人で待ってただけ。

 なんでもかんでも好きに言ってくれる。と思って面々の顔を見渡せば、実生の言葉を否定してくれそうな味方はいなさそうだった。

 なぜだ。


「ただでさえも暑いのに、それだけ近いとなおさら暑いわよね……」

「そっちには言われたくない……」

 

 和雲と美和も同じ様に手を繋いでいるのだから。

 そうして、美和と牽制しあっていると沙月がこれでは進まないと思ったのか先輩に声を掛けた。


「彩晴先輩、今日はよろしくお願いします」

「え、えぇ、沙月さん、よろしくね」


 呆気に取られていた所に声を掛けられた様子。

 改めて、自己紹介をしていない事を思い出した。


「すいません、遅れました。朝比奈優陽です」

篠原(しのはら)彩晴(あやは)です。今日は参加させてくれてありがとう」

「こちらこそ。ってそうか、俺が最後か?」

「僕もさっき挨拶したばかりだけどね。他に、特に無ければ入りましょうか」


 そう言って受付に進んで行く和雲を先頭に女性陣も後をついて行く。

 すかさず妙に大人しい海を捕まえた。


「おい、海が一番親しいんだからいつもの調子はどうした」

「いやー、私服姿の彩晴先輩が眩しい」


 たははー、と鼻の下を伸ばしている。

 海の感想も分からなくはないが、ここでポンコツになってどうするんだと。


「いくらなんでも話さないままって言うわけにもいかないだろ」

「それはそうなんだけどなー」


 どうにも煮え切らない。

 それでも一度は海本人が誘っているのだから、見守るしかないのだろう。

 折を見て協力するのは(やぶさ)かではないのだが。


 そうこうしているうちに女性陣と別れる事となり、更衣室で手早く着替えた男三人で、案内板を見ていた。


「どこから回ろうか」


 訪ねてきたのは和雲だ。

 海は相変わらず役に立たない。


「俺らは適当で良いと思うけど、肝心の海がこれだとな」

「本当にね」

「うるさいなー、どうせ彼女持ちとは違うし!」


 特別どうのこうのと言う気はないが、応援したい気持ちもある。

 こうして一緒に遊びに来たのだから、楽しいものとして過ごしたさもある。

 要するに頑張れと言いたい。


 案内板から目を離すとこっちに向かってくる女性が四人。

 陸上をやっているからか、スラリとした篠原先輩はワンピースタイプで露出は少ないがその分、スタイルの良さが際立っている。

 美和と実生はビキニだが、首元まで覆われていてとても健康的な印象を与えた。


 そして沙月はと言えば、セパレートの水着を選んでいた。

 上下に花の絵が掛かれていて、その花模様が沙月によく似合い可愛さを引き立てている。

 大きなリボンとフリルがついた可愛らしい装飾がおしゃれで、際どい部分はケープで隠されている。

 スラリと伸びた綺麗な足は隠せず、眩しく激しいのはやめて欲しいという要望を叶えてくれていた。

 

 自分にとってはバカだなんだと言われようが、沙月が一番だ。


「美和、綺麗でとても似合ってるよ」

「和雲くん、ありがとう」


 そう言ってスマートに褒めているのは勿論、和雲だ。

 美和も嬉しそうに近寄って行った。


 その隣では、期待に満ちた眼差しで近寄ってくる大切な少女が歩いてきた。


「あー……」


 どんどんと近づかれついには目の前に来られ、ドキドキが止まらず目が離せない。

 

「優陽くん」

「とても似合っていて一番可愛いと思うし、独り占めしたくなる」

「うん、ありがとう。大丈夫ですよ」


 そう言って、手を取ってくれる。

 つい沙月にだけ目を奪われた。

 このまま二人だけでどこかに行きたい。

 他の誰にも見せたくない。

 そんな欲望が首をもたげてくる。


 高鳴る胸を(なだ)めそれではダメだと、海達の方を見てみると。


 案の定固まっていた。

 私服姿であの様子だったのだから、こうなるのは理解はできた。

 かといってそのまま固まって良いはずもない。

 篠原先輩も居心地悪そうにしているし。

 ヤキモキするっ。

 

 そんな中、いい意味でも悪い意味でも空気を読まないのが一人。


「全場先輩、何をぼーっとしてるんですか!?

 篠原先輩、凄い綺麗じゃないですか!」 


「う、うん! 眩しくて見惚れてました。綺麗です!」

「そ、そう。ありがとう……」


 後押しがあったとは言え、海も頑張ったんじゃないだろうか。


「実生ちゃんも可愛らしいですよ」

「そうね、さすが運動してるから実生ちゃんスレンダーよね」


「あたしは、ちょっと筋肉がつき過ぎてる感がありますけどね……。

 それよりもお二人の方が羨ましいです!」


「スレンダーと言えば、篠原先輩もスタイル良くて羨ましいです」

「琴葉さん、ありがとう。あなた達も綺麗よ」


 女性陣で各々の感想を口にしてはしゃいでいる。

 それぞれが個性的で綺麗で可愛らしく、その光景はとても尊かった。

 そうしてあぶれた男三人。


「和雲と優陽の偉大さを、おれは知ったよー」

「俺もいっぱいいっぱいだから、和雲が凄いんだぞ」


「なんでそんなに余裕あるように見えてるのさ、僕だっていっぱいいっぱいだよ」

「一番最初に言いだしてたし、さすがだなって思って見てた」


「それは朝比奈には前にも言ったけど、ちゃんと口に出さないとね」

「喜んでくれるから良いけど、この気恥ずかしさには慣れないな」


「えー、二人はいつもこんな事やってるの」

「海、僕は話さなくても通じると思ってないだけだよ」

「それは俺も痛感してる事だから」


 海が驚いた表情をしている。


「二人でもそうかー」

「せっかくなんだし、思う存分に話してきなよ」


 和雲が最後にはっぱを掛けて話は終わった。

 そろそろ移動しても良いだろう、いつまでも同じところにいても視線がうるさい。


 どこかに移動しようかと問えば、まっさきに口を開いたのは実生だ。

 ウォータースライダーをやりたいらしい。


 特に反対の声も上がらず、移動していく。

 こういう時に空気が悪くならず、最初からアクセル全開な事に安堵すらする。

 

 移動している間は、海と篠原先輩との間を実生が取り持つ形で楽し気にしていた。

 引っ掻き回してる気がしないでもないが、楽しそうにしているので別にいいのだろう。


 その分、自分は沙月と一緒に居れて満足だったのは言うまでもない。


「そういえば沙月は、篠原先輩が来ることになった理由って知ってるの?」

「何か聞きたい事があるとは言ってましたけど……」


「聞きたい事ってなんだろうな」

「そういえば、買い物に夢中でその話は結局しませんでしたね」


 実生も一緒だったらしいので、それは仕方のない事だろう。

 物怖じしないと言えば聞こえは良いが、真面目な話はどうしてもしにくくなる。

 今みたいな時に良い性格をしていると思う事があるのも事実だが。


 ペタペタと足音をさせながら歩いていく。

 会話が無ければどうしても隣に意識を持って行かれそうになる。

 特に今日の沙月はダメだ。とても良いとも言えるけども。

 どうしても水着以外にも目がいってしまう。


 そのシミ一つない肌は柔らかそうで手を握っているその感触はとても気持ちいい。

 またその豊かな双丘から下はケープで隠されていて想像を掻き立てさせられる。


 まったく知らないわけじゃないから余計に。

 腰から脚まですらりと伸びた綺麗な脚はまったく隠されておらず目の毒だ。


 気を抜くと色々危ない。

 

 そんな自制心を使っていたら、ウォータースライダーの所に着いたようだ。


「でかいな」

「そうですね」


 前を歩く海はいつの間にか篠原先輩と手を繋いでいた。

 心の中で海を応援しておく。


 篠原先輩の逆には実生が引っ付いている。

 上手くいってるような、邪魔してるような、微妙な所だな。

 海も篠原先輩も笑ってるから良いか。


「楽しそうですね」

「そうだな」


「何回乗りましょうか」

「え」


「え?」

「あはは、ごめんごめん。海達も楽しそうだなって思ってて」


「そうですね、楽しそうで上手くいくと良いですね」

「それはそれとして、楽しもう」

「うんっ」


 そして思い出したことがあった。

 沙月はこういう場所だと意外なほどのバイタリティを発揮した事を。


 以前行った遊園地では見事に振り回された。

 それでも、わくわくしている自分がいるのも確かだけども。

 

 ウォータースライダーの順番が来た。

 どうやらウォータースライダーを二人で滑るにはきちんと密着していないといけないらしい。

 これは危険なのでは、何とは言えないが。


「沙月、どっちが良い?」


 どっちも危ないのは確かだ。


「えっとそれじゃ、最初は私、後ろで」


 最初と言う事は、このあとも乗るのはやっぱり決定のようで。


 係の人に(うなが)され、背中に柔らかい物が押し付けられる。

 お腹にしっかりと手が回されるとその感触に翻弄(ほんろう)される間もなく、水流によって体が翻弄された。


 右へ左と流され、視界が開けると。

 ドボーン。


 水の中へ勢い良く突っこみ、ほてり掛けた体にも気持ちが良く、沙月もすぐに頭を出した。

 頭を振り、水を撒き散らす仕草は、長い髪の毛を大きく揺らしとても綺麗だった。

 陽の光に照らされた髪の毛がひどく幻想的で夢心地な気分にさせるも笑顔と共に近づいてくれば現実に戻され、水から一緒に上がった。


「もう一回いきましょう!」


 お気に召したようで。


「もう一回行って来る」


 ぐいぐいと沙月に引っ張られながら和雲達に断った。

 和雲が手を上げて応えてくれる。しかしその様子がおかしいのか自分達を見て美和は笑っている。

 和雲は自分の気持ちを察しているのだろう、困った顔を見せていた。


「今度は彼氏さん後ろですか?

 楽しんでいってらっしゃーい」


 すぐに戻ってきたので覚えていたみたいで。

 

 やっぱり後ろは後ろで大変だった。

 まず自分から抱きつきに行くという行為自体が恥ずかしい。

 そしていつも触れてない部分に自ら触りにいく。

 

「彼氏さん恥ずかしがらずにちゃんと手回してくださいねー」


 意を決して、お腹に手を回す。

 腕に当たる柔らかい感触が心地いいが、理性が危険ではあるものの色々な危険を意識する間もなくすぐに水流に流され、勢いよく水面に突っ込む。


 二人で水から上がろうとすると、微かな引っ張られる感じがした。

 引っ張られた方に顔を向ければ、沙月の期待に満ちた表情があった。


 自分の心臓、持つかな……。


 手を引かれるままに歩いて行く。

 美和が(こら)え切れないという風に笑っていたので、状況は悔しいながらも理解されているようだった。


 それから満足いくまで、沙月と滑りその柔肌にドキドキしっぱなしだった。


「我儘を聞いてくれてありがとうございます」

「……うん、皆と合流しよう」

「うんっ!」


 陽の光を浴びた沙月の笑顔は、眩しかった。


 周りを少し歩けば、すぐに皆は見つかった。

 波のプールで海と篠原先輩、実生が遊んでいて、和雲と美和は遊んだ後なのか休んでいる。


「あ、やっと来た」

「朝比奈達は、随分滑ったんだね」

「はい、楽しかったです!」


 沙月はむしろもっと乗りたいと言わんばかりの返事。

 

「その割に朝比奈君はずいぶん疲れてそうだけど……」

「放って置いてくれ、頼む」

「え、無理させてましたか?」


 怪訝(けげん)そうな美和に心配そうな沙月。

 特に沙月には覗き込むように見上げられるので、尚さら危険で。

 視線を動かすともっと危険で慌てて返事をする。


「いやいや、無理とかじゃないから」

「美和も琴葉さんも、本当に放って置いた方が良いと思うから海達に混ざってきたら」


 和雲は心の友だった。

 そんな心の声が聞こえたのかどうなのか、沙月と美和が離れていく気配がした。


「和雲、助かった……」

「気持ちは解るからね」


「心臓がうるさくて(かな)わない」

「正直に言うわけにもいかないしね……」


「和雲にそんな様子は見えないけど、美和のあの笑いは理解されてないだろ」

「複雑だけど平気だと思ってるみたいだね。そんなわけないのにね。

 必死だよ、彼女が水着を着ていてあれだけ密着されて平静で居続けられる人なんていないでしょ」


「今、凄い親近感覚えた」

「買いかぶりすぎでしょ」


「なんにせよ一息つけるだけでもありがたい」

「嬉しいは嬉しいんだけどね」


「そうなんだけどな」

「ずっと続くとね」

「それな」


 和雲と友情を確かめていると沙月と美和がこっちに向かって歩いてきている。


「和雲、また頑張るか」

「そうだね」


 二人で立ち、近づいて来たそれぞれの彼女の手を取り、合流し遊んだ。

 少し冷却したかっただけで、一緒に遊ぶのが楽しい事に変わりはないのだから。


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