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57【それぞれの勉強会?】

「優陽ー、ちょっと勉強会がしたいんだけど良いかー?」


 体育祭も終わり、緑の匂いが漂ってきた頃。

 海がいつもの元気をどこかにやり、力のない声で呼び掛けてきた。


「別にいいけど……、色々と珍しいな」


 試験勉強と言うにはちょっと間が空いている。

 それに海のテンションが低い。


「和雲と京江さんにも声掛けておくー」


 海はそれだけ言うとフラフラと力の抜けた様子で、去っていった。

 力が抜けているのは、声だけではなかった。

 その珍しい様子に声を掛けるのが遅れ。


「……沙月には俺から言ってくよ」


 一応、声を掛けたが聞こえているのか聞こえていないのか。


 そうして、集まるのはいつもの通りの家。

 すでに五人とも集まっているが、勉強を始める様子はない。

 恐らく勉強会というのは名目だけというのは皆が思っているから。


「それで海は、僕達に何か頼みでもあるの?」


 和雲がまずはと口を開く。


「えー、なんでー?」

「いや、明らかにおかしいだろ」

「勉強会がしたいって言うのはおかしくないだろー!」

「そもそもその様子がおかしいんだって」


 自分がそう言うと海は、諦めたのか本題に入った。


「実はさー、一緒に遊んで欲しくて」

「……誰と?」


 わざとはぐらかしているのだろう。

 まさかこのメンツで遊んで欲しいなんて事はないだろう。


「んー、先輩」

「へぇー」


 口に出したのは自分だけだったが、きっと面々の内心も同じだろう。

 いつになく歯切れの悪い海に業を煮やしたのか美和が先を勧めた。


「まどろっこしいわね! ちゃんと話してよ!」


 海は観念したかのように説明しだした。


 相手は部活の先輩で名前を篠原(しのはら)彩晴(あやは)

 ずっと憧れている先輩。

 部内でも活躍する事ができて学年も上がり、話す機会を増やせたらしい。

 

 海にもようやく春が訪れたのかと思った。

 そういえば以前、何かの際にそういった存在がいる事を匂わされた気がする。


「それなら二人で遊べばいいじゃない」

「それがなー、誘ったは良いけどプールに行きたいって言われてなー。

 さすがにいきなり二人でプールはハードルが高い!」


 その気持ちは解る。

 と言うかそれって。


 思い至り、沙月を見ると沙月も頷いている。


「僕と美和は良いけど、朝比奈達は?」

「俺達も別に良いけど、篠原先輩は?」


「いやー、最初は渋られたけど、一緒に行くのが誰か言ったらむしろ逆に一緒したいって言われた。

 さすが――――――」


全場(ぜんば)君、二人で頑張りたいならその先を言ってもいいわよ?」

「なんでもないです!」


 海はやっぱり海だなって思わせられる。

 もっともその先を言おうものなら、自分達も協力するのは渋っただろうが。

 

「せっかくだから、実生ちゃんも誘う?」

「え、来ても面倒臭い」

「私、誘っておきますね」


 自分を無視して、美和と沙月の間で実生を呼ぶ事が決まった。

 なぜなのか。


「そうしたら、スケジュールだけ決めちゃおうか」


 和雲がそうしてまとめてくれる。

 去年は一人で過ごした夏が、今はこうして皆と一緒に遊ぶ計画を立てている。


 去年では考えられないイベント、一年前の自分に言っても信じなかっただろうと思った。



 海の呼びかけでプールに行く事が決まり、夏の到来を意識させられたある日。

 そろそろその先の予定も立てなければならなかった。


 夏休みは実家に帰らなければならないが、母さんからの連絡はまだない。

 むしろ言わなくても実行しろと言われている気がしなくもない。

 

 それに。


「沙月は夏の予定どう?」

「今の所は、美和さん達と買い物行くくらいですね。

 優陽くんはどうですか?」


「夏休み中に帰らないといけないから、その予定を除けば他は特にないかな。

 ……良かったらまた一緒に来ない?」

「良いんですか?」


 沙月にとっては意外だったのか、ちょっと驚き喜んだ。


「はっきりとは連絡ないけど、誘わなかったら怒られる気もしてる……」


 その答えが意外だったのか、返事にちょっと間があった。


「……怒られてしまうのでは、行かないわけには行きませんねっ」


 来る来ないじゃなくて、声を掛ける掛けないだとは思うけども、声を掛けたのに来なかったのなら、何故という話になって結果的には怒られる事に変わりはない。

 のかもしれない。


「ありがとう、きっと喜ぶよ」

「私も楽しみです」


 こうして改まって言うのも気恥ずかしいが。


「それに……、他にも二人で遊びたいなって思ってる」

「もちろん私もそうですよ」

「どこ行こうか」


 そっと沙月に手を伸ばす。


「優陽くんとならどこへでも」


 手と手を絡ませ、お互いの体温を確かめる。


「決めておかないとジム通いだけで終わりそうだから、何か決めたい」


 だんだん手だけで満足できず、肩も寄せあう。


「私としてはそれはそれで楽しいですけど。

 お買い物とかでも」


 沙月は頭を肩に寄せ、体重を預けてくる。

 その表情は安心しきっていて、自分にも安らぎを与えてくれた。


「買い物か、何か買いたい物ある?」


 沙月の体を包み込むように体制を変え、支える。


「買いたい物というか、買わなくてはいけない物ですね」

「必須な物?」


 なんだろう。

 わざわざ今言っているのだからこれまでのことに無関係ではなさそうだけど。


「付き合ってくれるんですか?」


 そんなまるで気づいていない様子に笑いながら問いかけてきた。

 その笑いはいつもの柔らかな笑みではなく、少し悪戯心をのぞかせて。

 

「なんか妙な感じがするけど、何買うの?」

「水着ですよ」


 通りで楽しそうなわけだ。

 と納得したと同時に言われた瞬間、色んな水着を想像してしまい……。


「えーっと…………」


 多分、自分は耳まで真っ赤になってるだろう。

 さっきまでの甘い感じが今は非常に熱い。


「大丈夫ですよ。さっき美和さんと買いに行こうと約束しました。

 せっかくなので実生ちゃんも。

 予定が合えば、篠原先輩も誘うそうです」


 表情を柔らかな物に変え、教えてくれる。

 知る限り、沙月はこういう形で買い物に行ってるのを見たことがない気がする。

 これは海にも感謝した方が良いのかな。


「楽しんできて」

「うんっ……、参考までにですね」

「ん?」

「優陽くんはどういう水着が良いですか?」


 言われた瞬間、彼女の水着姿をより鮮明に想像してしまった。

 きっとどれを着ても似合うだろう。

 綺麗でとても可愛いだろう。

 そして笑いかけてくれたらどれだけ嬉しいだろう。

 

 同時に、これまで一緒にいた時の視線を思い出す。

 もちろん自分だって興味がないわけじゃない。

 それでも思ってしまう。

 独り占めしたい。


「出来るだけ激しすぎないのでお願いしたい……です」

「安心してください。私は優陽くんの物ですから」


 言うなり体を丸め、甘えてきてくれる。

 腕で柔らかくつつみ、その想い人を大いに甘やかした。

 

 結局、他の予定を立てる事が出来ていないのに気づくのはもう少し後だった。


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