46【恋人たちの帰宅】
「もう帰っちゃうの。
沙月ちゃん、また遊びに来てね。
別に優陽と一緒じゃなくて良いから」
五日目の昼過ぎ、帰宅する事を告げた母さんの口からは、自分よりも沙月へとまず声を掛けられた。
その扱いはとても差があり沙月へは名残惜しそうだが、自分はまるで荷物扱いだ。
「こちらこそまた一緒に伺わせて下さい。
優陽くんの胃袋は握っておきますのでっ!」
「確かにそれなら安心ね」
何がどう安心なんだ。
「優陽は、風邪引かないようにね」
「それ今言う?」
年末に迷惑を掛けたのは記憶に新しく、強くは反論できない。
「沙月さん、優陽をよろしく頼むよ」
「はい、お任せください」
父さんが沙月に言えば、沙月もはっきりと答えている。
「俺ってどういう扱いなの……」
「だって、優陽は沙月さんがいれば大丈夫だろう?」
「……そうだけど」
「ならおかしくないね」
ここまで分かられているのもどうかと思う。
恥ずかしいったらありゃしない。
「私、最後に荷物の確認してきますね」
そう言うと沙月は席を立ち、二階へ上がっていった。
自分にとってはあくまで実家なので忘れ物などをしてもどうと言う事はない。
しかし沙月にとってはやはり心配なのだろう。
父さんも母さんも、そう言って動いた沙月への視線は柔らかく優しい。
やがて沙月が二階へ上がったのを確認し、母さんはこちらを向いて言った。
「優陽、節度を持って付き合いなさい。
するなとは言わないけど、望まれない事をしてはいけないわよ。
困るのは沙月ちゃんなんだから」
「止めないんだな……」
「親だから言わなきゃいけない事は言うわよ。
でも二人の気持ちまで押さえつけるつもりもないわよ」
付き合う前にも言われた事を思い出す。
悩んで良く考えろと言われたことを。
「僕も亜希も、信頼してるからこそだと思ってくれれば良いよ。
そこに二人の意思があるのなら止めない。
その上で結果として間違ってしまったのなら、そこは親である僕達の範疇だ。
遠慮なく頼りなさい」
「……ありがとう」
この二人が両親で良かったと、そう思えた。
今すぐどうのと決めているわけではないが、考え続けて衝動的にだけはならないようにしよう。
「沙月を見てくる」
そう言って中座し、二階へ向かった。
部屋に入ると沙月は、掃除をしていた。
泊っている間も沙月は掃除を欠かさず、綺麗になっていたが。
「沙月?」
「あ、優陽くん。
あと少しだけ待ってください」
「それは大丈夫だけど、十分綺麗じゃない?」
「そうですね……。
お礼……ですかね……」
そう言った沙月の表情からは、何を思っているのか伺い知る事は出来なかった。
ただ凛と立つその姿を美しいと感じた。
「優陽くん、行きましょうか」
「そうだな」
荷物を持つ空いた手でどちらからともなく手を取り合い、歩いて行った。
その手はいつもの家へ帰るまで離れては幾度となく繋がれた。




