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45【恋人の誕生日】

 昨日は結局一日中、クライミングジムに居た。


 休みを挟みつつも登り通していたので、今日は体のあちこちが痛い。

 そんな体の不調を抱えながら、今どうしているかというと、暇だった。


 それはもう凄く暇だった。


 なぜかと言えば、今日は自分の誕生日。

 忘れていないし、彼女である沙月と一緒にいたいと思い予定を空けておいた。


 じゃぁ、その沙月は何をしているかと言えば。


「これ何が起きてるんだ?」


 一階の台所では、沙月が料理をしていた。

 台所に納まりきらない食材が所せましとテーブルの上にまで置かれている。


「今朝、亜希と沙月さんとで買ってきたみたいだよ」


 そういう父さんも少し驚いている様子だった。


「それもそうだけど、なんか沙月の様子がいつもと違う気がする」


 沙月は、長い髪の毛を邪魔にならないようにお団子のようにまとめている。

 普段なら、それは可愛らしく魅力的に映るのだろう。


 しかしその表情は真剣で、それはそれで魅力的なのだが、まっすぐな視線にただただ驚きを隠せなかった。

 

「どうやら今日の料理を一任する事で、これまでの食事は手伝い以上の事をしないって説得したみたいなんだけど、その反動かな?」


「いやー、兄さん愛されてるね」

「…………でもそれだけで説明できないだろ」


 何かは感じるがそれが何かは判らない。


「実生も冷やかしてる暇があったら、少しは料理出来るように練習しなさい。

 来月には一人暮らしするんだから、自炊しなさいよ」

 

 実生はやばいという表情をして、二階へ逃げてしまった。


「優陽も自分の部屋行ってて良いわよ。

 というか行ってなさい」

「なんで?」


 いつも手伝っているのだから、いつも通り手伝おうと思った。

 別に自分にとってはそれが誕生日だからとか関係はない。


 だがそれは他の人には関係があったようだ。


 そんなやり取りを聞いていた沙月がわざわざ目の前まで来て言った。


「優陽くんに凄いって驚かせたいので出来るまで楽しみにしてて下さい」


 沙月は目の前に両の手でこぶしを作り言ってきた。


 つまりはそういう事らしい。

 そうお願いされては、そうするしかない。


「分かった、部屋にいるから出来たら呼んで」


 沙月の様子に胸から溢れてくるものが止められず、手を頭にやり、二度三度と優しく撫でた。


 ただそれだけで沙月は、うっとりと相好を崩す。


 もちろん、そこには父さんも母さんもいる。

 母さんには散々呆れられているのだから、もう今更だ。

 

 (わず)かな名残惜しさとともに二階にある自室へと戻って行った。


 自室に戻ってまず実感したのは、やっぱり暇だという事。

 久しぶりにゲームでもやるかと起動しはするものの、何かが違う。


 他のいくつかのゲームを起動しては、手を止め、やめてしまう。

 とうとうゲーム機を手放し、軽く伸びをしながらベッドに横になった。


 何をしてもしっくり来ない理由はすぐに分かった。


 沙月が隣にいない。まさかそれだけで何もする気がなくなるなんて。

 ここ数日はずっと一緒にいれたから、余計かもな。


 目をつむり、一緒に居た事への幸福感を噛みしめた。

 


 今ではないどこかを走っている。

 俺は必死に走っていた。


 雨がひどく降っていて、激しく体を叩いてくる。

 全力に近い速度で走っているが、息は切れていない。


 次第に、雨は少しずつ止んでいった。

 周りの景色は流れていくだけで、ぼやけてよく分からない。


 どこに向かっているのかも判らない、それでも必死に走った。

 やがて小さな人影が見えてきた。


 その少女は泣きじゃくり、体を抱くようにしていた。

 俺はその少女に駆け寄り、その上から守るように抱きしめた。


 そこにある感情は、激しい怒りだった。

 その怒りをむき出しにして吠えるように、声を上げた。



 ガバッと音がする程に起き上がる。

 どうやら寝ていたようだ。


「……なんだったんだ今の」


 前後関係の分からない夢に、じっとりと汗をかき、嫌な感覚だけが体に残っていた。

 時間を見れば、夕飯には少し早いぐらいの時間になっている。


 汗をかいたからか、少し喉が渇き、果たして下に降りても大丈夫なものか。

 結果的には杞憂(きゆう)だった。


 すぐにドアがノックされ、返事をすると沙月が顔を覗かせてくれたから。


「ちょっと早いですけど、ご飯の準備ができました……けど……。

 どうかしましたか?」

 

 沙月は自分の様子が少し違う事に気づき、心配そうな顔をしている。

 自分は、夢の一部を思い出していた。


 走り続けて見つけた先にいたのは沙月だった。


 今では影を潜めているがそれは過去に見た泣きじゃくった顔をしていた。


 その様子が強く思い出され、胸が締め付けられ、腕をさ迷うように動かしてしまった。


 そんな自分の行動に動揺し、とても自分一人で気持ちの整理を付ける事はできそうになかった。


「沙月、ちょっと来て」


 そう言って呼び寄せた沙月を、ゆっくりと静かに胸に抱き寄せる。

 頭を撫で、包み込むように抱きしめた。


 沙月も少し驚きはしたものの、手を後ろに回し背中をポンポンと軽く撫でてくれると、次第に自分の腕の中の感触に心が落ち着きを取り戻せていくのを実感していった。


「怖い夢でも見ちゃったんですか?」

「……そうかもな」


 てっきり変に誤魔化されると思ったのだろう。

 少し楽し気な言葉を、否定はしなかった。


 沙月の柔らかな空気に包まれるのは心地よかった。


「落ち着きましたか?」

「うん、ありがとう」


 だからと言って揶揄(からか)うわけでもなく、気遣ってくれる。

 だからこそ、見栄も何も要らなかった。


 静かに抱擁(ほうよう)を解き、沙月を解放する。


「下、行こうか。

 張り切ってたけど、期待しても平気?」


「うんっ、腕によりをかけて作りました!」


 沙月がにっこりと微笑み、そう返してしてくれる。

 その笑顔と共に一階に降りて行った。


「これはまた凄いな……」


 一階に降りてテーブルを見た感想はその一言に尽きた。


 ローストビーフにカルパッチョ。

 容器に所せましと詰め込まれたグリル野菜。


 恐らくあれはアヒージョなのだろう、オイルにエビとマッシュルームが浸かっている。

 ミモザサラダにグラタン、そしてパンにオニオンスープとあった。


「途中でパスタを茹でますね。

 前作った事のあるトマトのパスタです」


「あれ美味しかったな」

「うん、好評だったのでまたメニューに加えました」


 いまだに驚きが抜けきらないでいると、父さんと実生も呼ばれてきていた。


「これはまた凄い豪勢だね、沙月さんありがとう」

「うわ!凄い!美味しそう~!」


「沙月ちゃんありがとうね。

 冷めないうちに頂いちゃいましょう」


 各々が席に付き「いただきます」と言えば、沙月も「どうぞ召し上がって下さい」と返す。


 これだけの量があると何から手を付けて良いかさすがに迷うな。


「優陽くん、取りますよ」

「……それじゃぁ、適当にお願い」


 甲斐甲斐しく、お皿にサラダとグリル野菜、ローストビーフを数切れを取り分けてくれた。


 非常にありがたい、ありがたいが。

 さすがに家族の前でこれは恥ずかしいぞ、沙月。


 恥ずかしさを胸に心の中だけで彼女の名前を呼んだ。


 そんな思いが通じたわけじゃないだろうが、沙月は宣言する様に言った。


「今日だけは私、我儘になります」

「それって普通、逆じゃないの……」


 一応、自分の誕生日だったはずだと、突っ込まずにはいられなかった。

 周りの目を気にしてはいけない。


 料理は非常に美味しいが恥ずかしさから、いつものようにがっついて食べるようにはせず味わって食べた。


 ほっぺたが落ちるとはこういうのを言うのだろう。

 自然と笑顔が零れそうになる。


 そんな様子に堪え切れないという風に口を開いたのは父さんだった。


「ぶっ……、あははは。

 沙月さんは強いね、優陽もこれなら安心だ」


「そうね、私も沙月ちゃんが優陽の隣に居てくれて本当に安心できるわ」


 なぜだろう、沙月が褒められて喜ばしいはずが、喜び切れないこの感じは。


「ひょっとしてこのパンって、低糖質のパンですか?」


 周囲の空気よりも食い気の勝った実生が食べながら、聞いてくる。


「はい、そうですよ。

 物足りなさとか気になったら、アヒージョの油を付けてみてください」


 そうしてさっそくと実生はパンに油を付け食べた。


「ん~~~、美味しい!」


 そういう実生は本当に美味しそうで、自分も真似をして油を付けて食べてみる。


「うん、これ美味しいな」


「それだけじゃないわよ、ローストビーフも美味しいわ。

 結構手軽に作っててびっくりしちゃった」


「鯛とホタテのカルパッチョも美味しいね。

 亜希、ちょっとだけワインを開けようか」


「あら、珍しいわね。でも本当に美味しいから気持ちは解るわ。

 私も頂こうかしら」


「今日くらいは一緒に飲もうか」


 そう言ってワインを用意し、二人は飲み始めた。


 ただでさえ父さんが夕飯、しかも食べながら飲むことは決して多くない。


 そこに母さんも一緒に飲んでるとなると。

 過去に家で二人が一緒に飲んでる姿を簡単には思い出せないほどだった。


「沙月さん、グラタンも凄い美味しいんですけど、何なんですかこれ」

「言葉が幼稚園児になってるぞ」


「それ、ホワイトソースから作ってるからよ」

「お母さん、我が家もこれでいこう!」

「…………気が向いたらね」


 言うは易し。


 どれもこれも美味しく、会話も弾み家族として楽しいひと時と共に食事は進んでいった。


「パスタの準備しますね」


 終始にこにこしていたがある程度、手が進んだのを見計らってパスタを茹でに行った。


「兄さん、こんな美味しい物食べてたら胃袋は掴まれたも同然だね!」

「それな……、逆らえない自覚はある」


 食べない日が続くと、ふと食べたいなと思い出されるくらいには欠かせないものになっている。


「おまけにローストビーフもそうだし、魚介があって、野菜もこれオーブンでしょ?


 低糖質のパンでも美味しいようにしてあって、グラタンもブロッコリーと鶏肉とか。


 体への配慮がされてるなんて最高じゃないの!」


「気にしなくていいって言ったんだけどな」

「でも嬉しいんでしょー」

「そりゃ、まぁな」


 実生は肘をこちらに向けてコノコノとつつく仕草をしている。


 届いてないし、オヤジかよ。


 父さんも母さんも何も言ってこないと思ったら、二人で楽しそうに話をしていた。

 それはまるで二人の世界に入っているようで。


 ひょっとして俺と沙月もこんな感じだったのか。

 自重しよう。


 まさか両親の空気感を見てしまうとは思わず、わが身を振り返る事になった。


「お待たせしました」


 そう言って沙月はパスタを持ってきてくれた。

 お皿くらいは持ってこようとするが、すぐに制止されてしまう。


 どうやら沙月の我儘宣言は続いていたようだ。

 てきぱきと5人分を持ってきてくれた。


「これが優陽のお気に入りのパスタね」

「そうだけど、そうだけどな……」


 一体何を言いたいのかと。


 母さんは言うだけ言って取り合わず、パスタを口にする。


「あら、本当に美味しいわね、これ。

 作りかた聞いた時はびっくりしたのよね」


「お母さん、これも我が家に取り入れよう!」

「これは作ってもいいわよ」


 思わず実生と顔を見合わせた。

 本当に作っても良いと思う位手軽なのか。


「割と俺の好物なんだけど、そんなに簡単なの?」

「そうですね、手間はそれほど掛かりませんよ。

 トマト自体の妥協が出来ないくらいですね」


 それなら今度おねだりしても良いかもしれない。


 父さんは上機嫌に口を開いた。


「今日の料理はまるで沙月さんを表しているようだね。

 どれも気遣いがされていて、とても優しくて心の(こも)った味だった。


 温かい料理をありがとう」


 そうして、和やかに食事は進んでいった。

 あれだけあった品々も運動する二人がいれば、残らず食べお皿は綺麗に空けられていた。


「優陽くん、最後にケーキを用意してあるんですけど、まだ入りますか?」


 たくさん作りすぎたかもしれないという自覚はあったみたいだ。


「うん、大丈夫」


 そうして持ってきてくれたのは、見事なホールケーキだった。


 シンプルにケーキの上にはイチゴが沢山乗っていて、プレートが置かれ『HappyBirthday』の文字。

 さすがに蝋燭は恥ずかしいので遠慮して貰った。


「おめでとうございます、優陽くん」

「「「おめでとう」」」

「ありがとう」


 本当に沙月を家に誘って、来てくれてよかったと実感する。


「切り分けますね」

「一緒に切らなくて良いんですか~?」


 散々な冷やかしに反応せずに居れた沙月だが、これは予想外だったようだ。

 沙月の顔がみるみると赤く紅潮していく。


「実生、さすがにそれ以上は力づくで黙らせるぞ……」


 そして恥ずかしかったのは沙月だけではなく、自分もだ。

 タイミングがタイミングなだけに強く刺激される。


「実生、包丁持ってる時はやめなさい」

「は~い」


 まるでそれ以外でなら良いという言い方に異議を唱えたくなる。


 だがそれも沙月が惑わされずにケーキを分け、それぞれに渡せば言うタイミングを失ってしまった。


「低糖質、低脂質のケーキを作ったので、存分に食べてください」

「「えっ」」


 思わずびっくりして、実生と驚きの声がハモってしまった。


「これも作ったの?」

「うんっ!」


「むしろこれが一番大変だったわよね。

 食べてみなさい、驚くから」

 

 そう勧められ、一口食べると本当に驚いた。

 本当にこれが低糖質・低脂質なのか。


 生クリームは脂質を抑えた代わりにイチゴが混ぜられているのか少し赤みがかっていて風味良く舌の上においてもしっかりとした味わい。


 土台のスポンジはと言えば、しっとりと美味しく軽い舌触り。

 間にはイチゴのコンポートが挟まっていて、良くありがちな物足りなさは無く本当に美味しい。


 お腹が一杯で、一切れで十分だと思っていたが、ついついもう一切れ貰ってしまった。


「ごちそうさまでした、美味しかった」

「おそまつさまでした」


 三人も口々に「ごちそうさま」と言えば、沙月も丁寧に「お口に合って良かったです」と応えている。


 お腹も心も満たされ、余韻を楽しんでいた。

 しかしこの後の事を考えると、頬が紅潮しそうになる。


 自分で宣言した事だし、したいと思ったから言った。

 沙月も受け入れてくれている。


 それでも考えれば考える程に、恥ずかしかった。


「部屋、戻ってる」


 このまま下にいては顔が赤くなっていくのを見られてしまうかもしれないと。

 そんな心配を抱え、自室へ戻った。


 コンコン


 扉が叩かれた。


 返事をすれば、そこから見えるのは今、愛おしくて愛おしくて堪らない人がやってきてくれた。


 その表情を見れば、ちょっと怒ったような。

 ちょっと困ったような顔をしていた。


「優陽くん、あれだと何かあると言ってるような物ですよ……」

「ぅ……、ごめん」


「おかげで実生ちゃんに揶揄(からか)われちゃいました」


 まさか正直に言ってるわけではないと思うが。


「プレゼントを渡してくるだけ、とは言いましたよ。

 プレゼントが何か聞いてきたので、答える前にあがってきちゃいましたけど……」


「それもやっぱり言ってるのと同じなのでは」

「優陽くんのせいですけどね……」


「すみませんでした……」

「でも、私も余り考えないようにしてたので、お互い様ですね」


 仕方ないと言わんばかりだ。


「優陽くん、改めて誕生日おめでとうございます」


 言葉と共に綺麗にラッピングされた袋をくれた。


「ありがとう、開けても良い?」

「うん、着てみてください」


 ラッピングを解くと出てきたのは、シックな感じがしておしゃれなアウターだった。


 ちょうどこれからの時期に、羽織るのに良い物をと探していたのを覚えててくれたみたいだ。


 さっそく腕を通すとサイズもちょうど良く動き易そうだった。


「どうかな?」

「似合ってて格好いいですよ」


 こっちをまっすぐに見て言ってきてくれる。

 そんな沙月を前に、嬉しさと恥ずかしさでいっぱいだ。


 見つめられる視線に想いが溢れてくるのが止められそうになく、沙月の視線から逃げるように抱き寄せた。

 

「もっと良く見せてください」

「ダメ」


 お詫びとばかりに沙月の頭を撫でる。


「ごまそうとしてませんか?」

「してる」


 それでも頭を撫でられるのは嫌ではないみたいだ。

 腕の中で沙月は嬉しそうにしながらも、口元は笑っていた。


 そんな様子をどこかで見た気がした。

 そう、それはネックレスを上げた時だったか。


「沙月さん」

「なんですか」


「ひょっとして、このアウターにも何か意味がある?」


「なんだと思いますか?」

「なんだろうな……」 


 元々ネックレスだって分からなかった位だ、その辺りの知識には乏しかった。


「私はいつでもそばにいますよ」


 嬉しさで心が満たされていく。

 髪を撫でる手を頬に添える。


 添えた手から、沙月の体温が伝わってくる。

 その手は熱を帯び、触っているという実感を与えてくれる。


 そして滑らかな肌の感触が気持ちよく、ずっと触っていたくなる。

 抗い難い誘惑に引き寄せられるように、顔を沙月に近づけていく。


 沙月も目を閉じ、ゆっくりと唇にキスをした。


 さっきまで満たされていた心がさらに満たされた気がした。

 その幸福感に心が踊りそうになる。


 瞬きほどの時間だが、確かに唇と唇が触れあわせ、ゆっくりと顔を離すと目を開けた沙月と視線が絡み合った。


「私の初めてです」

「俺も初めてだよ」


 それを聞いて嬉しそうに言った。


「はじめてのはじめてですか?」

「そんな事はないと思うけど……」


 むむむ。と少し不満そうだ。

 それでも、と言い。


「どれが初めてかわからないので、これをはじめてにしましょう」

「そうしようか」

 

 実際がどうかは関係がなかった。


 沙月にとってはきっとお互いが初めてだったと判っているのが重要なのだろう。

 沙月が笑顔になれば、自分も笑顔になれた。


「沙月が御馳走を作ってくれて、プレゼントも貰えて最高の誕生日だよ。

 とても幸せだ。

 ありがとう」


「ちょっと張り切っちゃいました」


「料理作ってる時、凄い真剣だった気がするけど、何か気になる事でもあったの?」


「あはは、それは悠絆さん。

 優陽くんのお父さんに振る舞うのにちょっと緊張していました」


 何が反動だ、父さんのせいじゃないか。


 心の中で苦笑する。


「珍しく上機嫌だったよ」

「それなら嬉しいですね」


「あーして二人で飲んでるのなんて、初めてみた気がする」

「お二人、仲が良くて羨ましいです」


 言われてみれば、二人が喧嘩している所は見た記憶はないな。


「優陽くんのおうちは、私の憧れです。

 私も同じものを求めてしまう位には温かいご家庭です」


 言ってる事の内容に、まじまじと沙月を見てしまう。


 きっと判って言っているのだろう、少し頬が赤い。

 じっと見ているとやがてその赤さは耳までも赤くしていった。


「……何か言ってくださいよ」


「ごめんごめん、沙月がまさかそこまで言ってくれるとは思わなかったから。

 俺もその気持ちは嬉しいし、そうなったら良いと思う。


 そうしたいとも思ってる。


 でもつい先日母さんが言った通りだとも思ってるんだ。

 まだ早い。


 周りがなんて言って冷やかしても、関係ない。

 早さも周りがなんて言おうと関係ない。


 二人のペースで二人で一緒に歩んで行こう」

 

 沙月は、目を潤ませ一粒の涙が頬を伝った。


「とても……とても嬉しいです。

 やっぱり私ばかりが貰ってばっかりですね。


 良いんですか?

 早いと言ってても、期待してしまいますよ」


 涙を拭いてあげる。


「気持ちに嘘はないし、言ったよ?

 離さないって」


 言い終わると、沙月が顔を寄せてそのまま、口を塞ぐように唇が重ねられた。


 さっきまでよりも長く、お互いの気持ちを確かめるようにキスをした。

 甘く(しび)れるような口づけは癖になりそうな程に気持ちよかった。


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