41【恋人たちの桜祭り】
「わー、凄い桜ですね」
沙月と一緒に昨日言った桜祭りにやってきた。
入口から見える限りに桜並木が続き、その下を屋台がずらっと並びその間を沢山の人が歩いている。
ザッザッザッ、と音をさせながらゆっくりと歩いている人達。
時には足を止め見上げる人達。
そこかしこで写真を撮り、楽しそうな声が聞こえていた。
「行こうか」
沙月の手を取り歩きだす。
桜の花びらがヒラヒラハラハラと舞い、風が吹き、多くの花びらが宙を舞えば視界は桜の花びらで埋め尽くされていた。
そんな中、隣に視線を向ければ愛しい彼女がいる。
髪の毛は綺麗なハーフアップにしていて、どうやら母さんが気合を入れて整えたようだ。
サイドのラインは綺麗に三つ編みにされ、編み下ろされている。
全体的にふわふわしていて、いつもより強く惹きつけられた。
普段それほどしていない化粧も今日は薄っすらと化粧が施されている。
やっぱり母さんの手が加わっていそうな気がした、年相応だけれども確実にいつもと雰囲気が違うのだから。
何がどうとは言う事は出来ないが、それは大人っぽく感じ非常に魅力的に映った。
装いはレースが施されたシンプルなブラウスにロングスカートを履いている。
髪型と相まってフェミニンさが強く、少し自慢したくなった。
俺の彼女はこんなに可愛いんだぞ、と。
実際にはしないが。
ただそこに自分がプレゼントしたネックレスがあり、それが沙月も自分の彼女だと主張しているように感じられ嬉しさがこみ上げてくる。
「沙月はこういうお祭りは初めて?」
「うん、初めてです」
きっとそうなのだろう。
物珍しそうに辺りを見回し、目をキラキラさせている。
こういう時の沙月はちょっといつもよりも心なしか幼い少女の姿が顔を出す。
もともと好奇心が旺盛だったのだろう。
幼い沙月を幻視してしまいどうしようもない庇護欲をかきたてられる。
それを言えば、沙月が膨れてしまうのは解っているので話した事は無いけれども、そこに憐れみが感じられなくなったのは喜んでいいのだろう。
ベビーカステラを買い、二人でシェアしながら食べ歩く。
いいところを見せようと射的をするが、何も取れずに終わり、それすらも楽しいのか笑顔が絶えなかった。
少しお腹に溜まる物をとたこ焼きを買って、ちょっと離れた公園のベンチに座った。
「入り口から見ても凄かったけど、歩いてみると更に凄いですね」
「毎年やってるんだ。今年はちょうど見頃みたい」
ちょうどここは休憩スポットになっているからか、周りは見事にカップルだらけだった。
周りの人達はどうみても友達と呼ぶにはそれぞれの距離感が近く、つられてなんだか変な気分になってきそうだ。
それは沙月も同じ様で、買ったたこ焼きを見つめ、こっちの口に寄せてきた。
「沙月……さん?」
「はい、あーん」
やっぱり変な気分になっていた。
口を大きく開け、たこ焼きが口の中に入ってきた。
もぐもぐもぐ。
食べさせられてしまった以上、この後やる事は一つ。
「沙月、あーん」
そういうと沙月も口を開けたので、たこ焼きのソースが零れないように気を付け口の中へ入れる。
頬に手をあて、美味しそうに食べる沙月。
行為に対しての羞恥心はあるものの共感している事に対しての喜びの方が勝り、やめられそうにもなかった。
また周りにはカップルが多いというのも手伝い、二人の世界に入ってしまった事もそこまで気になら無かった。
お気に召したのか沙月がたこ焼きを自分の口に運んでは、自分も沙月の口にたこ焼きを運ぶ。
そんなことを繰り返し全部食べてしまった。
「無くなっちゃいましたね」
行為の余韻に後を引かれるのかそれだけを言う。
たこ焼きを食べるという目的を達成したからか、沙月は動き出そうとした。
そこには行為に対する恥ずかしさもあったのかもしれない。
頬が桜色になっていた。
「あ、ちょっと待って。
もう少しで神輿が通るはずなんだけど、近くで見たい?
結構人凄いからここから見ても良いと思うけど、どお?」
「お神輿出るんですか。
……少しゆっくりしましょう」
それならばとまた腰を落ち着ける。
間を置かずに、太鼓の音が聞こえてきた。
ドンドンドンと神輿が近づいてくる音だ。
笛の音や拍子の音など様々な音が聞こえてくると、神輿が見えてきた。
掛け声に合わせて神輿を担ぐ人や、他の神輿の上に居る人。
船頭する人、周りでサポートする人など沢山の人で賑わっていた。
神輿が通り過ぎるまでそこに座り、そんな光景を二人で眺めていた。
「迫力あって凄いですね」
「そうだね、ちなみにあの神輿、担ぐとき大変なんだ」
「大変そうですよね」
「いや、多分思ってるのとはちょっと違うかな。
上下に揺らしてるのってわざとなんだけど、一歩間違えると肩ぶつけるんだ……」
「それは……、痛そうですね」
「うん、痣になってた」
今となってはそれも良い思い出と言えるだろう。
「それじゃ行こうか。
ここから先は屋台も無くなって人も少ないはず」
「折り返す人が多いんですね。
私達はどうするんですか?」
「そのまま先まで行くと駅に着くから、そこから帰ろう」
「うんっ」
二人で仲良く周りの景色を楽しみながら進んだ。
桜が色んな所に降り積もり、まるで辺り一面を覆いつくさんとばかりに振っている。
そこに風が吹いた。
風はいたずらの様に、ビュンっと一瞬強く吹くと一緒に桜の花びらと沙月の髪を舞いあげ、スカートを靡かせた。
それは写真を撮る習慣のない自分が、思わずその場面を思い出として納めておきたいと思うほど、絵になり印象に残った。
見惚れていると、その視線に気づき微笑みかけてくれるのがただただ嬉しく、ドキドキが止まらない。
屋台が途切れ人が少なくなると沙月はその好奇心を露わにし、木の幹から芽、蕾などをキラキラさせた瞳でみていた。
人がいなくなったからこそ、上を向きながら歩く事ができ、さっきまでは人にぶつかってしまいそうだった。
そんな抑えから解き放たれたかのように、思う存分に桜を見ながら歩いた。
自分はと言えば、桜もさることながら沙月を見ていた時間の方が長かったのは内緒だ。
何を思ったのか、沙月は走りだした。
すると先にあった桜の花びらの山を手に取り、バッと上にばら撒いた。
ばら撒かれた桜はヒラヒラハラハラと沙月の周りを舞い落ちていった。
その様子は、幻想的で、良くある桜舞う風景写真のようだ。
とても綺麗で少し幻視的だった。
桜に囲まれるのが楽しいのか、そんな事を二回、三回と続け、満足したのか帰ってきた。
「楽しいです!」
「あはは、それは良いけど……」
「どうしたんですか?」
「せっかく綺麗で魅力的な恰好が桜の花びらで装飾されてるよ。
それはそれでとても可愛らしいけど」
言うや否や肩とかの桜の花びらを慌てて落としだした。
あんな風にばら撒いたのだ、もちろん綺麗に着飾った髪の毛にも桜の花びらがついている。
笑いながら、花びらを取ってあげてまた歩き出した。
「不意打ちは卑怯ですよ……」
それだけ言うと桜色に染めた頬を体に寄せ、駅まで歩いた。
密着された幸福感を噛みしめながら、ゆっくりと歩く。
多少の歩きにくさなどもその時間を楽しめると思えば、苦にもならなかった。




