35【恋人たちのホワイトデー 続】
放課後、沙月と待ち合わせて帰ってきた。
沙月は一回家に寄ってくると言うので先に家に入り、今日一日を振り返ると、どっと疲れが押し寄せてくる。
これからしばらくは周りがうるさいだろうが、ちょうど春休みを挟みクラス替えがある。
その頃にはきっと噂も落ち着いているだろう。
というか落ち着いてて欲しい。
ソファでぐったりしていると沙月が戻ってきたようだ。
着替えてきた沙月を見れば、これまでよりも少しラフな感じがする。
ゆったりと過ごせるように、襟ぐりが気持ち広めであり、肌ざわりが良さそうだ。
今までよりも緩い雰囲気となり、そこにはこれまでと違った可愛らしさがあった。
ぐったりしている自分の横に静かに座る沙月。
その距離は今までよりも、ぐっと近く、腕を動かせば容易に触れられる位置だった。
「さすがに今日は疲れたな」
「そうですね、私も疲れました」
「そうなのか、一緒に出掛けてもよく見られてるから慣れてるのかと思った」
「あんまり見られるのは好きじゃないから慣れませんけど、今日は特にでしたしね」
それもそうかと思う。
特に関係性を主張するという話をし、明確にしたわけではないが、沙月もその意図を察して付き合ってくれたのだろう。
クラスでも普段とはまた違った目があった事は想像に難くない。
「その割には余裕があったように感じたけど」
「余裕なんて無いですよ、だけどもしそう見えたのならそれは、隣に優陽くんがいてくれたからですよ」
この彼女はまっすぐに言葉をくれる。
余りのまっすぐさに自分の顔が真っ赤なゆでだこの様になってしまっているんじゃないだろうか。
鏡を見なくても赤くなってるのが解るくらいには、顔が熱い。
解っててやってるのか、意図せずやっているのか。
きっと後者なのだろう。
何か話題を変えたく思い、今日のために用意したものを取りに行った。
昨日は夜遅かったため、渡しそびれてしまったのだ。
それでも日付としては変わってないのでセーフだろう。
「これホワイトデーのお返し」
小さな袋に小さな箱。
誕生日の時には失敗してしまった。
あの時には出来なかったことをもう一度やりたかった。
沙月は驚きの表情を浮かべていた。
「ありがとうございますっ。
今日一日が嬉しすぎて忘れてました」
本当に嬉しそうに相好を崩し受け取ってくれた。
「開けても良いですか?」
「もちろん」
綺麗にラッピングされた箱を愛おしそうに撫で、シールの部分を丁寧に剥がす。
包装を解いたあとのラッピング用紙でさえも、大切な物のように丁寧に折り畳んでいく。
ラッピングから解放された箱を開けると、花が開いたような、周りに花びらが舞い散るかのような錯覚を覚える、そんな笑顔がそこにはあった。
プレゼントには、ネックレスを選んだ。
高校生の贈り物としては重すぎるかもしれない。
それでも、このネックレスを見つけた時、とても似合いそうで他のを探してみても、どうしてもこれが良いと思ってしまった。
ネックレスには花びらが台座としてあり、その上に小さな石が付いていた。
その石は調べたら、タンザナイトらしい。
沙月は丁寧にそれを取り出し、愛おしそうに見つめている。
「これ――――――」
「似合うと思って、行き成りこういうのも嫌かなって思ったんだけど。良かったら貰って欲しい」
恥ずかしさ混じりに言い訳のように言ってしまった。
沙月はふるふると首を左右にし、言ってきた。
「とても素敵でとっても嬉しいです。
けど……、今更無かった事になんてできませんよ?」
なにやら意味深な言い方が気になったが、コクコクと頷く。
「付けて貰っても良いですか?」
そう言ってネックレスを差し出された。
軽く頷き、ネックレスを手に取る。
付けるためにと後ろへ回るが、回った事で視線のやり場に困ってしまった。
ネックレスを付けやすいようにと髪の毛を横に流してくれた為、首から鎖骨のラインが見て取れた。
それは綺麗で流麗な曲線を描き、とても艶かしく思わず顔を埋めたくなる。
またその先を見れば、豊かな膨らみが見て取れ、襟ぐりの広い物を着ているため、見えそうで見えない、なんとも言えない色香を感じた。
思わず生唾をごくりとしてしまう。
なんとか誘惑を振り払い、ネックレスを付けてしまおうと手を回せば耳が目に入ってしまい、その僅かに紅潮している様はパクリと口に含みたくなる。
視線を様々な所へ向けてしまい、果てに出てきた一番の欲望は『抱きしめたい』だった。
まさかその欲望をそのまま実行する事もできず、やっとの事でネックレスを付け、欲望を振り払うようにソファの元いた位置に戻った。
思った通り、そのネックレスはとてもよく似合っていた。
とても深くとても静かな海の中のような青さが、沙月の静かな雰囲気を引きたて落ち着いた優美な印象を与えている。
自分は言葉を無くし、見惚れてしまっていた。
「どうですか?」
「……思わず見惚れた、とても似合っていて可愛いよ」
「とても嬉しいです。ありがとうございます」
沙月は愛おしそうにペンダントを何度も確かめるように触っている。
「ところで、優陽くんは知ってるんですか?」
何をだろうか?
沙月は視線が定まらず、泳いでいる。
「なんでこれをくれたんですか?」
どういう意味だろうか……?
「探してる時、とても似合いそうだと思って、他を探してもこれ以外良いと思わなかったからだけど」
「そうですか……」
そういうとふわっと胸に飛び込んできてくれた。
不意を付かれ、ソファの背もたれに背中がくっつく。
少ししてから抱き着かれたのだと気づいた。
さっきまで抱いていた欲望が突然訪れ、どうすれば良いか迷ってしまう。
迷った両手は、意を決し、沙月を優しく抱きしめる。
沙月は、囁くように言った。
「一説にはですね、ネックレスを男性から女性を贈るのに、『ずっと一緒にいたい』という意味があるそうですよ?」
言われた瞬間、顔から湯気が出るかと思った。
確かに告白の時、ずっと一緒に居たいと言った。
その気持ちに偽りはない。
だけれども、それをさらに形にして知らず知らずのうちに贈っていた。
それを指摘されるほど、恥ずかしい事はなかった。
ちょっと頭を冷やそうと体を離そうとしても、沙月は離そうとしなかった。
腕を後ろに回し、離さないと言わんばかりに体をくっつけている。
密着度が高く、色々とくっついていて触れている個所が熱くなってきそうだ。
さっきまで見てしまった部分が思い出され、さらに落ち着かない。
更には太ももを脚で挟まれ、動こうとすればするほどその感触を感じてしまう。
「ちょ……、ちょっと――――――」
「取り消すんですか?」
覗き込むように言って来る。
表情はとても可愛いが口は笑っており、どうみても楽しんでいる。
あぁ、この表情は……卑怯だ……。
こうなったら、思う存分抱きしめてやろうと思った。
「取り消さないし、取り消したくない」
沙月の重さを心地よく感じながら、時間がゆっくりと過ぎていく。
今日に限っては、夕飯がいつもより遅くなってしまったとしても仕方のない事だった。
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