32【高校生の告白現場】
告白を決意してからというもの。
沙月を意識しすぎて上手く話す事ができていなかった。
元々二人とも騒ぐタイプではないのも手伝い、一緒に居てもそれぞれの事をしていたりはする。
けれども今は意識が違った。
今までと違って何をしているかと目を向ければ、沙月もこちらを見ている事があり、目があっては逸らすという事を繰り返していた。
何か言った方が良いのだろうか。
まだ言うべきではないのだろうか。
言うという決心を固め、何時というのも場の雰囲気に手伝って貰おうと踏ん切りもつけた。
それはただの先延ばしではないかと考えたが、口に出す事がどうしても出来なかった。
そうして過ごし、いよいよホワイトデーの前日、偶然にも見かけてしまった。
いつかと同じように、窓から校舎裏を見ていた時。
長身の男性が立っていた。
男性は今か今かと落ち着かなさげだ。
そこに小柄な少女が、歩いて行く。
それは以前、気にも留めていなかったが、今は気になる少女の姿。
見た瞬間、心がざわついた。
今、沙月に対して何が行われているかは火を見るよりも明らかだ。
出来る事なら、今すぐ飛び出していきたかった。
ただ、飛び出してどうする。
今の自分には、その途中に割り込んで良いと権利を主張することが出来ない。
先延ばしにしていた事を突き付けられた気分だった。
以前、手遅れになることもあると言われた事を思い出すと、まるでハンマーで頭を叩かれたかのような衝撃だ。
それは嫉妬なのか、後悔なのか、はたまた自身への怒りなのか。
ごちゃごちゃと色んな感情が混ざり頭がクラクラしてくる。
臆病でいられる時間は本当に少なかったのだと。
放課後、今すぐ沙月の元へ行きたい気持ちを抑え、早々に学校を出た。
これはあくまでも自分の勝手で、その勝手に沙月を付き合わせるのは悪いと考え、少し頭を冷やしていこうと、遠回りをして帰った。
どこへ行こうと決めていたわけではない。
それでも足が自然と向かったのは、沙月が一人寂しく座っていた公園だった。
あの時は、まさかこんな気持ちを抱くとは思いもしていなかった。
沙月の事情が何もかも自分の状況とは違いすぎて、何もできない自分は願うことしかできなかった。
もちろん、あの時の気持ちに嘘はない。
それでも、許されるならば、もう一歩踏み出したいと思ってしまった。
どうか受け入れて欲しい。
どうか隣に居て欲しい。
もしかしたら、告白する事で、関係が崩れてしまうかもしれない。
今の関係はとても居心地がよく得難いものだと理解している。
それを失ってしまう可能性を考えると、怖くて尻込みしてしまいそうだ。
思わず体を丸めてしまう。
溢れる思いと失うかもしれない恐怖で押しつぶされそうで仕方ない。
それでも……それでもどうか……隣にいる事が許されて欲しいと願ってしまった。
どれくらいそうして居ただろう。
陽が落ち掛け、そろそろ帰らないといけない。
いつも通りであれば、沙月はもう家に来ていてこれ以上遅くなると心配を掛けてしまう。
ゆっくりと静かに確かな一歩を踏み出しに、家に向かった。
「ただいま」
「おかえりなさい」
いつものように沙月に笑顔が合った。
校舎裏の出来事があっても、こうして家にいてくれた事に本当に安堵した。
「どこか寄ってたんですか?」
「ん、ちょっと散歩してた」
「散歩ですか、良いですね。
私も今度一緒に散歩したいです」
そんな何でもない約束すらあやふやな蜃気楼な気さえしてくる。
それでも許されるならば。
「……うん、行こう」
そう返事するくらいは許して欲しい。
荷物を置いて戻ってくるとすでに夕飯ができてお皿が並べられていた。
もしかしたら、このご飯を食べられるのが今日で最後かも。
そう考えるとゆっくりと味わおうと思った。
しっかりと噛みしめ、飲み込んでいく。
そんな自分の様子を沙月は、不思議そうに見ていた。
ご飯を食べ終わり、なんとかいつも通りにコーヒーを用意し、沙月にあるお願いをする。
「良かったら、日が変わるまでいないか」
「…………大丈夫ですけど、どうかしたんですか?」
ただただ純粋に、どうしたのだろう。と不思議そうに首を傾げている。
その様子が愛おしくて愛おしくて堪らなくなってくる。
笑顔が崩れる事をしようとしているのかもしれない。
そんなつもりは無かったと言われて、二度と来てくれないかもしれない。
不安で潰されそうになる。
喉がカラカラと乾いてくる。
それでも曖昧なままの未来よりも確かな未来を欲してしまった。
「まぁ、ちょっと」
「……うん、わかりました」
まずはほっとした。
日付が変わったら、なけなしの勇気を振り絞って告白をしよう。
それだけを決めて帰ってきたのだから。
手元のカップをいじりながら、あとは時間が過ぎるのを待つのみだった。




